ポケモン現代入り 作:ささみ
午前の訓練を終えて家へ戻ると、リザードたちはそのまま庭へ散っていった。今日はリングマもずいぶん指示を聞いてくれた。まだ気に入らないことがあれば勝手に動こうとするし、ニョロボンと張り合い始めれば止めるのも一苦労だが、それでも呼べば戻ってくる。最初の頃に比べれば十分すぎる進歩だった。
だからこそ、最近は別の問題が目につくようになっている。
「……やっぱ狭いな」
『ポリ?』
肩の横を飛んでいたポリゴンがこちらを見る。
「庭。住むだけなら全然いいんだけど、訓練する場所としてはそろそろな」
窓の外ではオタチとコラッタが追いかけっこをしていて、その近くをニドラン♀が気ままに歩いている。木陰にはパラスが陣取り、少し離れた場所にはリングマとニョロボンがいる。頭上ではモルフォンが飛び回り、リザードも油断すると何かに火を吐こうとするので、今でも決して余裕があるわけではない。
それでも、普通に暮らすだけならまだ困らない。技の威力を抑えさせれば多少の訓練もできるし、少し離れた場所まで連れていけば身体を動かす程度ならどうにでもなる。ただ、俺は今いる子たちをきちんと育てると決めたのだから、この先も今と同じというわけにはいかない。
「このままレベル上がったら、家の近くで技使わせるの怖いよなぁ。リングマなんて今でも十分危ないし」
『ポリ』
苦笑しながら部屋へ入り、机の上に置いていたボールケースへ目を向ける。その中には、問題を先送りしたまま眠っている1匹がいた。
バンギラス、レベル58。捕まえた時点で俺たちより遥かに強く、しかもこちらを素直に主人として認めているとは到底思えない。今外へ出せば、まず揉めるだろうし、その結果として暴れ始めれば止められない可能性も高い。
「こいつのこともあるし、そろそろ本気で山探すか」
『ポリ!』
「いや、今すぐ出さないよ。そこは変わらんって」
手持ちがもっと育って、最低でも暴れたバンギラスを全員で押さえ込めるくらいになってから外へ出すつもりだ。ただ、その時になってから土地を探し始める必要まではない。
前にも山そのものは調べている。その時は欲しいとは思ったものの、金額を見てまだ先だと判断した。それからしばらく経っているし、ポリゴンに任せている資産運用も続いている。
「そういや今、いくらになってる?」
『ポリ?』
「金。前に見てから結構経っただろ」
『ポリ!』
ポリゴンが嬉しそうにパソコンへ飛び込むと、少しして資産管理用の画面が開かれた。残高や運用中の資産、これまで確定した利益などが並んでいるのだが、数字を上から眺めていったところで、俺の視線は止まった。
「…………は?」
もう1回見る。見間違いだと思って桁を数え直し、それでも数字が変わらないので、今度は指で追いながら慎重に確認する。
「……ポリゴン。これ、合ってる?」
『ポリ!』
「いや、待って。ほんとに合ってる? これ、億ある?」
『ポリ!』
「マジで?」
思わず椅子から身体を起こして、画面へ顔を近づける。当然ながら、それで数字が変わるわけもない。
「おかしいだろ。前に見た時、こんなになかったじゃん。なんでこんな増えたの?」
『ポリポリ!』
「疑ってるわけじゃないって。ただ俺の理解が追いついてないんだよ」
ポリゴンが一度画面の中へ消えたかと思うと、今度はいくつかの資料を表示した。株価のグラフらしきものが何本も並んでいるが、俺には細かい意味までは分からない。ただ、線が大きく上がったり落ちたりしていることだけは見れば分かった。
「これ何?」
『ポリ』
「株?」
『ポリ!』
「いや、それくらいは見れば分かるけど……」
続けてポリゴンがニュースの見出しをいくつか並べる。最初にポケモンが現れた頃、各地で被害が増えた頃、新しい地方でポケモンが現れた頃、政府が何かを発表した頃。見覚えのある出来事と重なるように、株価も激しく上下していたらしい。
「……ああ。ポケモン出てから株価がめちゃくちゃ動いてたってこと?」
『ポリ!』
「それで、動きが大きかったから増やしやすかった?」
『ポリ!』
「そういうもんなのか……」
分かったような、分かっていないような話だった。俺に株の知識なんてほとんどないし、安い時に買って高い時に売れば儲かるという程度しか知らない。ポリゴンの説明を見る限り、ポケモンが現れてから日本の株価はかなり不安定で、その大きな値動きを利用しながら資金を増やしていたらしい。
「まあ、お前がちゃんとやってるならいいか。詳しく説明されても多分分かんないし」
『ポリ!』
「でも、さすがに増やしすぎじゃない? 元は数百万だぞ。途中で工場の設備とかも普通に払ってるよな?」
『ポリ!』
「払ってこれ?」
『ポリ!』
「……人生変わってんじゃん」
思わずそんな言葉が漏れた。
社会人になってから貯金はしていた。浪費家でもなかったから、それなりには貯まっていたと思う。ただ、それでも普通の会社員が数年働いて貯められる範囲でしかなく、せいぜい数百万円だったはずだ。
それが今では桁そのものが変わっている。会社へ戻らなくても当面困らないどころか、かなり大きな買い物をしてもすぐには生活が揺らがないところまで来ていた。
「なんか、もうちょい段階踏むもんじゃないの? 1000万超えた時に驚くとか、3000万になって家買えるなとかさ。なんで俺、久しぶりに見たらいきなり億なんだよ」
『ポリ』
「お前がやったんだけどさぁ……」
嬉しくないわけではない。むしろ滅茶苦茶嬉しい。ただ、数字が大きくなりすぎると実感が追いつかない。今日の昼飯だって普通だったし、着ている服も会社員の頃に買ったものだ。昨日まで自分が金持ちになったつもりなど全くなかったのに、口座を開いたら人生が変わっていた。
しばらく画面を眺めているうちに、別の不安が頭をよぎった。
「……待て。税金どうなってる?」
『ポリ』
「これだけ利益出てたら、そっちもかなり凄いんじゃない? 俺、前に税理士探さないとなって思って、そのままだぞ」
ジョウトへ行ったり、ポケモンを捕まえたり、帰ってきてからも何だかんだと色々あったせいで、完全に後回しにしていた。
「知らないうちに脱税とかしてないよな?」
『ポリ!?』
「だから俺を怒るなって。何もしてないから怖いんだよ!」
ポリゴンが勢いよく画面へ潜り、すぐに表示が切り替わる。そこには運用中の資金や普段の支払いに使う分、予備として確保している分と並んで、納税予定分として別に確保された金額が表示されていた。
「……お前、税金の分もう取ってあるの?」
『ポリ!』
「いつから?」
『ポリ』
「前に俺が気にしてから?」
『ポリ!』
さらに取引記録まで並べられる。俺には細かいところまでは分からないが、いつ何をいくらで動かし、どれだけ利益が出たのか、後から確認できる形で整理しているらしい。
「お前、俺よりちゃんとしてんな」
『ポリ!』
「そこは否定してくれてもいいんだぞ」
無理だった。俺なら申告時期が近づいてから慌てていた自信がある。
「じゃあ、納税分は触っちゃ駄目で、予備もそのまま残す。生活費とか町工場に使う分も余裕持って確保するとして、それでも自由に使えるのはどれくらい?」
ポリゴンが数字を切り替える。それを見て、またしばらく黙った。
「……山、余裕じゃん」
以前は山を買えるかどうかから考えていたが、今は違う。安い山なら土地そのものを買った上で、整備へ回す金まで十分残せる。
「いや、数百万見て安いとか思い始めるの怖いな。金銭感覚は壊したくないんだよ」
『ポリ?』
「俺、数か月前まで普通の会社員だったからね?」
そう言いながら十勝周辺の山林を検索する。以前にも見た一覧だったが、今では値段より先に条件を見る余裕があった。
「これ、広さの割に安いな。……ああ、道路なしか」
次の候補も似たような条件で、その次も車で入れるまともな道がない。どうやら安い山ほど、そういう不便さを抱えているものが多いらしい。
「普通は困るよな。車入れないし、重機も入れにくいし、資材運ぶのも面倒だし」
『ポリ』
そこまで口にしてから、少し考えた。
「……でも俺、そんなに困るか?」
『ポリ?』
「公道の近くから自分の土地まで道を通せるなら、後から作ればいいだろ」
最初から立派な舗装道路が必要なわけではない。最低限入れるようにしておいて、必要になった時に少しずつ整備すればいい。
「それに、こいつをちゃんと従わせられたらさ」
机の上にあるバンギラスのボールを軽く持ち上げる。
「岩砕いたり地面削ったりするの、人間より得意だろ。他にもそういうポケモン増えるだろうし、大雑把な造成くらいなら自分たちでできるんじゃない?」
『ポリ』
「細かい工事とか安全に関わるところは業者に頼むとしても、邪魔な岩どかしたり木運んだり、土地の形をある程度作っとくだけでも費用はかなり変わりそうだよな」
ポケモンがいる以上、人間だけで山を整備する必要はない。今後地面を掘れるポケモンや岩を砕けるポケモン、大きな物を運べるポケモンが増えれば、取れる手段もさらに増えていく。
「それに、そのうち車で山の奥まで入る必要すらなくなるかもしれないし」
『ポリ?』
「ポケモンに乗ればいいじゃん。ポッポだって最終的にはピジョットになるし、これから他にも飛べる大型ポケモン捕まえるかもしれない。別に空飛ばなくても、山道走れるやつに乗ればいいし」
『ポリ!』
「最初だけ最低限どうにかすれば、その後はこっちの手段がどんどん増えるんだよな」
そう考えると、最初から便利な土地を高く買う必要はなかった。
「条件変えよう。道路なしでも除外しなくていい。優先は広さと安さ、それから周りに人が少ないこと。ただし、他人の土地を通らないと絶対に入れない場所とか、買った後に自由に弄れないところは無しで」
『ポリ!』
検索結果が一気に増え、ポリゴンが条件に合わないものを次々と弾いていく。水道がないことや電気が来ていないこと、未整地の山林そのままであることは、俺の用途ではそこまで大きな欠点ではない。
「普通の人が嫌がる条件ほど、俺には都合いいな。人がいなくて広くて安いなら、ポケモン飼う場所としてはむしろ当たりだろ」
しばらく眺めているうちに、目につく土地がいくつか出てきた。どれも便利とは言い難いが、その分かなり広く、値段も抑えられている。
「これとか良さそうじゃん。こんだけ広ければ訓練場作っても余るし、バンギラスが多少暴れても……いや、暴れさせるつもりはないけど、住宅地の隣よりは遥かに安心だな」
『ポリ』
数件を保存していく。以前はいつか買えたらいいと眺めるだけだったが、今は場所を確認し、条件を比べ、どこから見に行くかまで考えている。
「……本当に山買うんだな、俺」
『ポリ?』
「会社辞めて、ポケモン飼って、気づいたら億持ってて、その金で山買うんだぞ。数か月前まで想像したこともなかったわ」
自分で言っているうちに、じわじわと可笑しくなってきた。それでも嫌な気分はまるでなく、むしろ自分の山でポケモンたちを好きなだけ走らせたり、技を使わせたりする光景を想像すると自然と気分が上がってくる。
「……めっちゃ楽しそうだな」
『ポリ!』
「だよな。よし、この辺もう少し詳しく調べといて。問題なさそうなら見に行こう」
『ポリ!』
「あと税金関係も、そのまま頼む。もう金については完全にお前の方が信用できるわ」
ポリゴンは当然だと言わんばかりに胸を張った。
億という数字には、まだ実感がない。それでも、その金を使って自分たちのための山を買おうとしていることだけは、不思議なくらい現実味を持ち始めていた。
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ