ポケモン現代入り 作:ささみ
ネタバレになるから正体云々に関して感想で返信できないのよね
山の購入がほぼまとまりそうだと分かってから、頭の中では暇さえあればあの土地のことを考えるようになっていた。
入口近くには倉庫を置いて、その隣に作業できる場所が欲しい。車で奥まで入れる道も必要だし、せっかくなら資材を置いておける広場もあった方がいい。
そうやって思いついたものを増やしていたところで、ふと気づいた。
「……これ、全部でいくら掛かるんだ?」
『ポリ?』
居間のテーブルに置いていたスマートフォンから顔を上げると、近くにいたポリゴンがこちらを向いた。
「いや、土地代だけ見て安心してたけどさ。買ったところで道も建物もないじゃん」
『ポリ』
「ちょっと計算してみよう。最低限使えるようにするまで」
『ポリ!』
頼むとすぐにテレビの画面が切り替わり、先日から何度も見ている山林の地図が映し出された。
取得予定地は最初に見つけた広い山林を中心に、その周囲を複数の所有者から買い取る形で繋がっている。まだ細かな境界確認や正式な契約が残っている土地もあるが、大きく形が変わる可能性はもう低いらしい。
「土地の方はいくらだっけ」
画面の端に数字が出る。
「……やっぱ広さ考えると安いな」
複数の所有者から購入する土地を合わせた現時点での見込み額は、およそ1億2000万円。それに仲介や登記、測量など、購入に伴って必要になる諸費用を多めに見積もっても、1億5000万円には届かないくらいだった。
もちろん1億を軽く超えている時点で、少し前の俺なら金額を見ただけで固まっていただろう。
ただ、地図をかなり縮小しないと全体が画面へ収まらないほどの土地だと思うと、逆に妙な感覚になる。
「東京都内なら家何軒分なんだろうな、これ」
『ポリ』
「いや調べなくていい。悲しくなりそうだから」
ポリゴンが何か検索しようとしたので止めた。
「問題はこっちだよ。まず公道から入る道だろ?」
地図の入口付近を指差す。
現状でも途中までは車で近づけるが、そこから取得予定地へ入るには新しく進入路を作った方がいいという話になっている。
『ポリポリ』
「そうそう。そこから、この前車止めた辺りまでちゃんと入れるようにして……奥にも道欲しいよな」
言いながら線を引いていく。
入口だけなら短い。
しかし、最終的にポケモンたちを使いたいのはそこではない。外周の山林を緩衝地帯として残す以上、実際の活動区域は何本か尾根を越えた先になる。
「とりあえず、この辺くらいまで車で行けたら楽か」
『ポリ』
ポリゴンが地形データを重ねる。
俺が適当に引いた線はすぐに消され、その代わりに勾配や沢を避けた経路が何本か表示された。
「そんな真っ直ぐ無理なんだ」
『ポリ』
「まあ山だもんな」
一番安く済みそうな経路を選んでも、思っていたより長い。
俺の感覚では木を切って地面を均して砂利でも敷けばいいと思っていたが、画面にはそれ以外にも色々と項目が増えていった。
排水。
路肩。
斜面の補強。
沢を横切る場所には暗渠か橋。
雪の時期まで考えるなら、除雪できるだけの幅も必要になる。
「……道路ってそんな面倒なの?」
『ポリ』
「ただ地面固めるだけじゃ駄目?」
『ポリポリ』
「駄目か」
少し考えてから、俺が最初に引いた奥までの線を消した。
「じゃあ今はここまででいいわ。本格的に奥を使うの、まだ先だし」
『ポリ?』
「北海道にポケモン出てからなら、地面とか岩とか得意なやつも増えるだろ。全部業者にやってもらうより、荒いところはポケモンに手伝ってもらって、安全に関わるところだけ人に仕上げてもらった方がいい」
バンギラスをまともに出せるようになっていれば、岩を砕いたり大きな石を動かしたりするだけでも相当違う。他にもシンオウまで進めば、そういう作業に向いたポケモンはいくらでも候補が出てくる。
今の段階で何kmも先まで完成した道路を作る必要はなかった。
「入口から1km……いや、もうちょい欲しいかな。業者が資材持って入れるところまで」
『ポリ』
「舗装はいらない。普通に車とトラック通れればいい」
条件を変えると試算も下がった。
それでも地形次第で数千万円。
「高っ」
『ポリ』
「山、安いと思ったら道が高いじゃん」
土地そのものは何百haあっても場所によっては驚くほど安いのに、そこへ人間が便利に入ろうとした瞬間、金額が跳ね上がる。
「じゃあ次。建物」
入口側の比較的平坦だった場所を拡大する。
「管理用のプレハブ。これはそんな大きくなくていい。休憩できて、トイレあって、書類とか置ければ十分」
『ポリ』
「倉庫はちょっと大きめ欲しいな。資材とか道具とか置くだろうし」
候補として簡易なプレハブや鉄骨倉庫が並び、それぞれ概算が表示される。
ここまではまだ想像していた範囲だった。
「あと作業所」
『ポリ?』
「欲しいじゃん」
『ポリポリ』
「いや、絶対そのうち使うって。ポケモン用のもの直したり、山で使う道具弄ったりするだろうし」
ポリゴンが、今必要なのかと言いたげに身体を傾けている。
「……そんな顔する?」
『ポリ』
「分かったよ。最初は簡単なのでいいよ」
完全な工場みたいなものを作る必要はない。屋根と壁があって、多少大きな物を置いたまま作業できる空間があれば十分だ。
それでも倉庫と合わせれば当然安くはない。
「駐車場というか、車回せる広場もいるな」
『ポリ』
「砕石でいい。見栄えとかどうでもいいし」
また数字が追加される。
「次、電気」
これについては少し考えた。
将来的には電気タイプのポケモンに発電を手伝ってもらうつもりでいる。大容量の蓄電設備さえ用意できれば、山で使う電力のかなりの部分を賄えるようになるかもしれない。
ただ、それはまだ先の話だ。
「最初は普通に引くしかないよな」
『ポリ』
「でも奥まではいらない。入口の管理区画だけ」
電気を何kmも山奥まで引き回す必要はない。
管理小屋、倉庫、作業所、それから将来設置する蓄電設備。その辺りへ普通に電力が来ていれば、とりあえず困ることは少ない。
奥へ行く時は必要に応じて発電機や蓄電池を持っていけばいい。
「そのうち電気ポケモン来たら、ここの電気代どこまで減らせるか試そう」
『ポリ!』
「発電訓練とか普通にできそうだしね」
電気を技として撃たせるだけではなく、一定の出力を維持させる訓練にもなる。それを蓄電設備で回収できるようになれば、わざわざ捨てる必要もない。
「水は?」
『ポリポリ』
「水道引くより井戸?」
周囲には沢もあるが、人間が飲む水をそのまま沢へ頼る気はない。井戸を掘って、必要なら浄水設備を入れた方が管理しやすそうだった。
それも追加。
「通信は絶対いる。山の中で連絡取れないの嫌だし」
『ポリ』
「でも入口に回線来てれば、奥はこっちで何とかできるか」
ポリゴンがいる時点で普通の環境とはだいぶ違うが、業者や家族が使うことも考えれば一般的な通信手段は必要になる。
さらに監視カメラや簡単な防犯設備まで加えたところで、一度全部を止めた。
「……これで最低限?」
『ポリ』
「最低限って言葉の意味、合ってるか?」
テレビに並んだ数字を見ながら思わず聞いた。
土地を購入するための費用。
入口側の造成。
進入路と林道。
プレハブ。
倉庫。
簡易作業所。
電気、水、通信。
その他にも測量や工事のための調査、予備費まで含めれば、土地取得とは別に1億近くを見ておいた方が安全という試算になっている。
「小屋と道作るだけでこんなにいく?」
『ポリポリ』
「分かってるよ。山だからだろ」
安くしようと思えば、もっと削れる。
道を短くして、倉庫を小さくして、作業所を後回しにすればいい。
ただ、後で確実に必要になるものまで削って、結局作り直すのも馬鹿らしい。
「……一回、段階分けるか」
俺が言うより先に、ポリゴンが画面を整理した。
「早いな」
『ポリ!』
第1段階。
土地の取得が終わった後、すぐに必要になるもの。
入口の進入路と広場、管理用プレハブ、倉庫、電気、水、通信。それから業者の車がある程度奥まで入れる最低限の道。
第2段階。
本格運用までの準備として、作業所や蓄電設備を整え、必要に応じて私道を少しずつ延ばす。
第3段階は北海道にも野生のポケモンが現れてから。
そこから先は、ポケモンたちの力も使って山そのものを弄っていく。
「これだな。今全部やろうとするから高いんだ」
『ポリ』
「第1段階だけなら……」
金額が再計算される。
「……まあ、それでも結構するけど」
土地代まで合わせれば、今までの人生で見たこともない額が一気に出ていく。
普通なら家を買うだけでも人生最大級の買い物になるはずなのに、俺は今、山を何個もまとめて買った上で道路や倉庫まで作ろうとしている。
「改めて考えると頭おかしいな、これ」
『ポリ』
「お前もそう思う?」
『ポリ』
「即答すんなよ」
そんな話をしていると、後ろから足音が近づいてきた。
「何をそんな真剣に見てるんだ?」
父さんだった。
「山の設備費」
「もうそんな話してるのか」
「買うなら先に考えとかないと困るからね」
父さんがテレビを見る。
最初は地図を見ていた視線が、その横に並んだ数字へ移り、しばらく止まった。
「……お前、山に何作るんだ?」
「小屋と倉庫と道」
「小屋と倉庫と道の金額?それだけって感じでもないが」
「俺もさっき同じこと思った」
「これ全部やるのか?」
「いや、分ける。最初はこっちだけ」
第1段階の欄を指差す。
父さんはそれを見ても、あまり安心した顔にはならなかった。
「これでも十分高いぞ」
「山だと道が高いんだって」
「そもそも何でそんな奥まで道作るんだ」
「最終的に使うの奥だから」
「入口じゃ駄目なのか?」
「外から離すために周りの山まで買ってんだから、入口でポケモン暴れさせたら意味ないでしょ」
「ああ……そうだったな」
バンギラスのことを思い出したのか、父さんは納得したように頷いた。
それからもう一度数字を見る。
「払えるのか?」
「俺も今それ確認しようと思ってた」
『ポリ!』
ポリゴンが待っていましたとばかりに画面を切り替えた。
「お、おう」
父さんが一歩引く。
そこには資産全体ではなく、今後使う予定ごとに分けられた数字が表示されていた。
税金として確保している分。
生活費。
ポケモンたちに使う費用。
工場関係。
緊急時の予備。
それとは別に、今回の土地購入と第1段階の設備投資に回しても問題ない金額。
細かい数字を追っていた父さんが黙った。
俺も黙った。
「……払える?」
『ポリ!』
「払えるんだ……」
土地を買い、最低限の設備を作り、その上で別に確保してある金へ手をつけずに済むらしい。
ポリゴンが資産を管理するようになってから、何度目になるか分からないが、また自分の金なのに自分の金ではないような感覚に襲われた。
「お前、俺より金持つの向いてるよね」
『ポリ!』
「嬉しそうだな」
父さんが呆れたように笑う。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「ポリゴンが大丈夫って言ってるなら、俺が計算するよりよっぽど信用できる」
「それでいいのか、お前は」
「俺も最近それ考えないようにしてる」
「駄目だろ」
正論だった。
とはいえ、資産運用どころか税金の計算までポリゴンの方が圧倒的に上手いのだから仕方がない。
父さんが去ったあと、もう一度地図へ戻す。
「じゃあ、第1段階はこれで見積もり取ってみようか」
『ポリ』
「道路は実際に業者に見てもらわないと分からないだろうから、今の数字は多めに見といて。あと倉庫も、安いからって小さすぎるのはやめよう。絶対あとで足りなくなる」
『ポリポリ』
「作業所は……」
ポリゴンがこちらを見る。
「……第2段階でいいです」
『ポリ!』
「なんでそんな勝ち誇ってんだよ」
とりあえず、今やることは決まった。
土地が正式に自分のものになったら、まず人間が最低限使えるところまで入口側を整える。それより奥は焦らず、必要になった時に少しずつ伸ばしていく。
北海道にポケモンが現れる頃には、今とは使える手段そのものが変わっているかもしれない。今なら重機と人手が必要な仕事でも、その頃にはポケモン数匹で済む可能性だってある。
だったら、今の常識だけで山全部を完成させようとする必要はない。
「しかし……」
画面を縮小する。
道路や建物の予定を消せば、また広大な山林だけが表示された。
これだけの土地を買う。
何本も尾根があり、森があり、沢があり、その全部がひと続きになる。
まだ契約は終わっていないのに、考えれば考えるほど実感がおかしくなってくる。
「山持ちになるのか、俺」
『ポリ』
「しかも1個じゃないしな、これ」
『ポリ』
「人生って何があるか分からんなぁ……」
数か月前まで、会社を辞めて実家へ戻り、ポケモンと好きに暮らせればそれでいいと思っていた。
それが今では、ポリゴンが増やした金で広大な山林を買い、そこへ私道を通して倉庫まで建てようとしている。
普通の人生からどの辺で外れたのか考えかけたが、そもそもアルセウスにポケモンの知識を頭へ突っ込まれた時点で手遅れだった。
「まあ、楽しそうだからいいか」
『ポリ!』
「お前もそう思う?」
『ポリ!』
「じゃあいいや」
細かい見積もりは、実際に現地を見てもらってから決めればいい。
今はまだ土地を買う途中で、山の奥にはまともな道すらない。
それでも、少しずつではあるが、ポケモンたちと好きに暮らせる場所が形になり始めていた。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい