ポケモン現代入り   作:ささみ

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第42話

 

 

 

 

 山を見に行ってから、さらに何日かが経った。

 

 その間にも仲介業者との話は進み、中心になる山林についてはほぼまとまったらしい。周囲の土地もいくつかは所有者から前向きな返事があり、境界や接道を確認しながら、他人の土地が途中に挟まらないよう調整を続けてもらっている。

 

 何人もの所有者が絡む以上、全部を一度にとはいかない。それでも、もう買うかどうかを考える段階ではなく、どこまでまとめて取得できるかを待つ段階に入っていた。

 

「……本当に買うんだな、お前」

 

 居間で仲介業者から届いた連絡を確認していると、向かいに座っていた父さんがしみじみと呟いた。

 

「今さらそこ?」

 

「金額聞いてから何度か思ってる」

 

「俺も何度か思ってるよ」

 

 億単位の金が動く話なのだから、実感が追いつかないのはこちらも同じだった。それでも、今さらやめようとは思わない。

 

 これから手持ちが増えて強くなっていけば、実家の周囲だけではいずれ限界が来る。何より、ボールの中には今の俺たちではまだ外へ出せないバンギラスまでいる。

 

「山の方は、まだ本格的には使わないんでしょ?」

 

 母さんが湯呑みを置きながら聞いてくる。

 

「しばらくはね。土地が正式にこっちへ移ったら、まず入口とか道とか、その辺から」

 

「バンギラスもまだ?」

 

「まだ無理だなあ」

 

 そこだけは変わらない。

 

 捕まえられたことと、従ってくれることは別だ。あいつからすれば、戦って弱ったところをボールへ押し込まれただけと思っている可能性もある。外へ出した瞬間にもう一度戦うことになってもおかしくない以上、少なくとも今の手持ちで確実に止められるようになるまでは出す気はなかった。

 

「もう少し全体的に強くなってからだな」

 

「今でも十分騒がしいけどな」

 

「それは否定しない」

 

 窓の外へ目を向けると、未利用地の向こうをポッポが横切っていった。

 

 最近は、単純に戦わせるだけではなく、それぞれに任せる役割を意識した訓練も増やしている。昼間の上空はポッポ、バタフリー、スピアー。夜はゲンガーとモルフォン、水場はニョロボンとニョロゾ。リングマには何より先に、呼べば戻ってくることを覚えてもらっている。

 

 シンオウのポケモンが北海道にも現れるようになれば、今まで以上に家の周囲へ野生が入り込む可能性は高い。強さだけではなく、勝手に追いかけない、必要以上に攻撃しない、呼べば戻るといったことの方が、今は重要だった。

 

 そうして少しずつ準備を進めながら、山の話がまとまるのを待つ。

 

 急ぐ必要はない。

 

 少なくとも、その時はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 自分の部屋へ戻り、ポリゴンに山関係の資料を整理してもらっていると、町工場から届いていた連絡にも気づいた。

 

「わざマシンマシンの方は?」

 

『ポリ』

 

 画面に簡単な進捗が表示される。

 

 今のところ、ポケモン由来の素材を読み取った時だけ通常とは違う反応が出ることまでは確認できているらしい。ただ、それが何を意味しているのか、どうやって技の情報として取り出すのかまではまだ分かっていない。

 

「まあ、最初はそんなもんか」

 

 ボールの時だって、設計図を渡したからといって最初から何もかも上手くいったわけではない。今回は完成品そのものではなく、その仕組みを現代の設備で再現するところから始めている。

 

 急かす理由もなかった。

 

「好きに続けてもらっといて」

 

『ポリ』

 

 そう答えてスマートフォンへ視線を落としたところで、新しいニュース通知が表示された。

 

『九州南部で相次ぐ小規模地震 気象庁が状況を調査』

 

「……またか」

 

 ここ数日、九州周辺では妙なニュースが増えている。

 

 ホウエンのポケモンが現れ始めたばかりなのだから、多少の異変があっても新しい生態系の影響として片づけられてしまう。俺自身、最初はいちいち気にしていなかった。

 

 だが、通知の下に並んでいた関連記事を見て指が止まった。

 

『九州南方海域で海面水温に異常』

 

『一部地域で地下水位が低下』

 

『南方海上で局地的な大雨 船舶へ注意呼びかけ』

 

 海だけではない。

 

 最近見たニュースを思い返せば、内陸側では地温の変化や小規模な地震も増えていたはずだ。

 

「……ポリゴン」

 

『ポリ?』

 

「九州周辺。ここ1週間の気象、海流、地震、地温、地下水関係の公開情報まとめて」

 

『ポリ』

 

 机のモニターへ次々と情報が並び始めた。

 

 九州南方では海況の異常と荒天が増えている。海面水温の変化だけではなく、一部では潮流にも普段とは違う傾向が出ていて、沿岸では沖にいるはずの水ポケモンが目撃されたという投稿まで見つかった。

 

 その一方で、陸側では小規模な地震、地下水位の低下、地温の上昇。乾燥が進んでいる地域についての報告もある。

 

 海では雨が増え、陸では乾いている。

 

 それだけなら偶然で済ませられたかもしれない。

 

 だが、俺は既に知っている。

 

 カイオーガは深海にいる。

 

 グラードンは地下深部にいる。

 

 少し前にアルセウス本人から聞いた。

 

「……動き始めた?」

 

『ポリ?』

 

「期間を2週間まで広げて。野生ポケモンの妙な移動報告も拾って」

 

『ポリ』

 

 追加された情報を追っていく。

 

 海側では水ポケモンが沿岸へ寄ってきているという報告がいくつも見つかった。内陸でも、野生ポケモンの群れが移動した、妙に落ち着きがないといった投稿が散発している。

 

 まだ生態そのものが分かっていないポケモンばかりなのだから、普通の人が見ても異常行動なのかどうか判断できない。

 

 けれど、これだけ重なると嫌でも考えてしまう。

 

「……グラードンとカイオーガか」

 

 アルセウスは、互いがすぐに接触する場所には置いていないと言っていた。

 

 その言葉自体は嘘ではないのだろう。

 

 ただ、そこから動かないとは一言も言っていない。

 

「最初から近くには置いてない。でも、本人たちが動く分には知らんってことか?」

 

『ポリ』

 

「いや、あいつなら普通にそういうこと言いそうなのが腹立つな」

 

 今の異常が本当に2匹によるものなら、まだ直接ぶつかってはいない。

 

 それでも既に周囲へ影響が出始めている。

 

 問題は、この先だった。

 

 グラードンとカイオーガは、ただ強いだけのポケモンではない。大地と海そのものへ影響を及ぼす存在で、しかも互いに争う。

 

 ゲームの中なら、異常気象が起きても主人公がそこへ向かえば話は進む。

 

 現実ではそうはいかない。

 

「ポリゴン、政府に送る」

 

『ポリ』

 

「九州南部と南方海域で確認されてる異常について、グラードンとカイオーガが活動を始めてる可能性がある。断定はできないけど、警戒対象に入れた方がいい」

 

 少し考える。

 

「見つけても刺激しない。攻撃しない。追い払おうともしない。特に片方を移動させた結果、もう片方へ近づけるようなことだけは絶対に避けるように」

 

『ポリ』

 

「避難準備も早めにした方がいいって付けといて。どこまで影響が出るかは俺にも分からない」

 

 ポリゴンが内容を整理し、いつもの経路から政府へ送る。

 

 これでいい。

 

 場所すら分からない状態で、北海道から俺が九州へ行ったところで何ができるわけでもない。そもそも今の手持ちで、グラードンやカイオーガを相手にできるなどとは思っていなかった。

 

 知っていることは伝えた。

 

 あとは向こうの仕事だ。

 

「送って」

 

『ポリ』

 

 送信完了の表示を確認してから、俺は椅子の背もたれへ身体を預けた。

 

 できれば外れていてほしい。

 

 ただ、このところアルセウスから聞かされた話を思えば、そんな都合のいい期待はできそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 しばらくして居間へ戻ると、父さんと母さんはまだテレビを見ていた。

 

 九州のニュースが続いている。

 

「さっきの地震、またあったみたいよ」

 

「増えてるね」

 

 それだけ答えてソファへ腰を下ろした。

 

 画面では専門家が過去の地震活動と比較しながら説明している。今のところ大規模な被害は確認されておらず、自治体も情報収集を続けているらしい。

 

 少なくとも、まだ普通の災害として扱われている。

 

 その時だった。

 

 短い警告音と同時にテレビの表示が切り替わった。

 

『九州南部で強い揺れ』

 

「またか」

 

 父さんが眉を寄せる。

 

 今度は、さっきまで続いていた小規模な地震とは明らかに扱いが違った。

 

 詳しい震源や震度が表示されるより先に、画面下へもう1つ速報が重なる。

 

『九州南方海上で雨雲が急速に発達 周辺海域の船舶に警戒呼びかけ』

 

「同時?」

 

 母さんがテレビを見る。

 

 気象衛星の映像へ切り替わり、九州南方の海上で厚い雲が広がっている様子が映し出された。

 

 その一方で、九州南部の一部には妙に雲の薄い場所が残っている。

 

 さっきまで見ていた情報と、あまりにも綺麗に噛み合っていた。

 

 俺は何も言わず、画面を見つめる。

 

 地下深くにいるグラードン。

 

 深海にいるカイオーガ。

 

 アルセウスから聞いた時には、すぐにどうこうなる話ではないと思っていた。

 

 どうやら、そうでもなかったらしい。

 

『ポリ……』

 

 ポケットの中から小さく声が聞こえる。

 

 俺は家族に聞こえない程度の声で返した。

 

「……分かってる」

 

 まだ、どちらの姿も確認されていない。

 

 けれど少なくとも、深海と地下深部で大人しくしているだけの状態ではなくなっていた。

 

 

今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜

  • 図鑑通りのサイズ
  • 図鑑よりかなりデカくしてもいい
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