ポケモン現代入り 作:ささみ
夕方を過ぎても、九州のニュースは途切れなかった。
『現在、グラードンは九州南部を移動しているとみられています。一方、カイオーガについても最初に確認された海域から北上している可能性が高く――』
居間のテレビには、九州南部とその南方海域を映した地図が表示されていた。
赤と青、それぞれで示された範囲は正確な現在地ではなく、目撃情報や観測結果から推定されたものらしい。それでも時間ごとの位置を並べれば、2体が少しずつ近づいていることくらいは分かる。
「これ、そのうち海と陸でぶつかるんじゃないか?」
父さんがテレビを見ながら言った。
「どうだろうな」
俺は曖昧に返した。
実際には、同じことを考えている。
むしろ、そうならないでくれと思っていた。
政府は避難対象地域をさらに広げ、沿岸部では住民の移動も始まっている。グラードンとカイオーガには近づかず、撮影や捕獲を目的として規制区域へ入らないよう、何度目か分からない注意喚起も繰り返されていた。
「捕まえようとする人、本当にいるのかしら」
「いるから言ってるんじゃない?」
「まあ、いるんだろうな」
あれだけの映像が出回ったあとでも、SNSを見れば捕まえたらどうなるだの、いくらになるだのと言っている人間はいる。
実際に現地へ向かう奴がどれだけいるかは知らないが、政府としても念を押すしかないのだろう。
『両個体の周辺では依然として急激な気象変化や地震が確認されており、今後さらに広い地域へ影響が及ぶ可能性も――』
映像が切り替わる。
南方海上には厚い雨雲が広がり、その北側では逆に雲の少ない区域が拡大していた。
まだ直接ぶつかってすらいないのに、既にこれだけ周囲へ影響が出ている。
「……ちょっと部屋戻るわ」
「ああ」
父さんはテレビから目を離さないまま返した。
俺はポリゴンを連れて自分の部屋へ戻り、扉を閉める。
「今出てる情報、まとめてくれる?」
『ポリ』
パソコンの画面に九州周辺の地図が表示された。
政府や自治体が公開している情報、道路規制、地震の発生地点、海上の観測値。それにSNSへ上がっている目撃情報のうち、ある程度信用できそうなものだけを拾って重ねていく。
やはり傾向は変わらない。
カイオーガは北へ。
グラードンは海側へ。
「……向かってるよなあ、これ」
『ポリ』
昨日より確実に距離が縮まっている。
アルセウスは最初から2体を接触するような場所へ置いたわけではない。それは間違いないのだろう。
問題は、グラードンとカイオーガ自身が移動していることだった。
そして接触したあと、何が起きるかも知っている。
「本来ならレックウザなんだけど……」
グラードンとカイオーガの争いを鎮める存在。
けれど、そのレックウザは今、デオキシスと交戦している。
どこでどんな状況になっているのかまでは分からない。ただ、少なくとも気軽に九州へ飛んできてグラードンとカイオーガを止めてくれる、と期待できる状態ではない。
「タイミング悪すぎるだろ」
『ポリ……』
「しかも、俺が代わりに行ったところでどうにもならんしなぁ」
そこについて迷いはなかった。
今の俺たちでは止められない。
手持ちは以前より強くなっているし、バンギラスだって捕まえている。それでも、そのバンギラスすら今はまだ自由に外へ出せない。
仮に全員が完全に言うことを聞いたとしても、グラードンとカイオーガの間へ割って入り、両方を止められるとは思えなかった。
戦闘力だけの話でもない。
姿を現しただけで天候や地面へ影響を出している時点で、相手にしている規模が違いすぎる。
「片方だけでも無理だな。両方なんてもっと無理だ」
『ポリ』
悔しいとか、怖いとか、それ以前の問題だった。
できないものはできない。
役にも立たないまま九州まで出向き、自分や手持ちまで巻き込まれる方がよほど馬鹿げている。
「なら、できることだけやるか」
『ポリ』
「政府に追加で送るぞ」
ポリゴンが入力画面を開く。
「グラードンとカイオーガは互いに争う関係にある。今の移動が相手を目指したものなら、接触後は現在より周辺への影響が強まる可能性が高い」
『ポリ』
「それと、本来なら両者の争いを鎮める側にレックウザって伝説がいる。ただ、現在はデオキシスと交戦していることを確認してる。今回の件へ介入できる前提では考えない方がいい」
ポリゴンが文章へまとめていく。
「あと、俺にも止められないって入れといて」
『ポリ?』
「今まで色々知ってるからって、何でも解決できるわけじゃない。現地に来てくれって話になっても困るし」
政府からこちらへ連絡する手段はない。
それでも、向こうが有識者なら何とかできるのではないかと判断して、俺が現れることを前提に動き始める可能性くらいは潰しておいた方がいい。
「『情報提供者本人にも両個体を制止できる戦力はなく、現地へ向かう予定もない』。それで」
『ポリ』
「人間側は避難優先。攻撃、捕獲、進路変更を狙った誘導は引き続き避ける。接触を防ごうとして余計に刺激するくらいなら、手を出さない方がいい」
画面に整えられた文章が表示される。
一度読み返し、頷いた。
「送って」
『ポリ』
表示が切り替わる。
これで終わり。
当然、返事が返ってくることはない。向こうがどう受け取ったかも分からないし、どこまで対応へ反映するかも政府次第だ。
ただ、今の俺に伝えられることは伝えた。
「……避難、間に合えばいいんだが」
画面に残った2つの推定範囲を眺めながら呟く。
知識があるからといって、何でもできるわけではない。
今回は特にそれがはっきりしていた。
◇
それから数時間で、九州南部の状況はさらに悪化した。
グラードンの移動に合わせるように晴天域が広がり、カイオーガがいると推定される海域では雨脚が強くなっている。
まだ本人同士には距離があるにもかかわらず、その間では風が強まり、短時間のうちに雨と晴れが入れ替わる地域まで出ていた。
2体より先に、それぞれが引き起こしている環境の変化がぶつかり始めている。
夜になってから居間へ戻ると、父さんと母さんはまだニュースを見ていた。
『グラードンが確認された地域では現在も晴天が続いており、一部では急速な乾燥が確認されています。一方、南方海域から沿岸部にかけては非常に激しい雨が――』
「同じ地方でこれだけ違うもんなのか」
父さんが呆れたように言う。
「変よねえ」
「ポケモンが関係してるって話だけど、1匹でここまでなるのか?」
「どうだろうな」
それだけ答えてテレビを見る。
政府は2体と周辺の異常気象との関連を調査していると発表している。俺から余計な情報を出す必要はない。
画面には規制区域の外から望遠で撮影されたグラードンの映像が流れていた。
ゆっくりと移動する赤い巨体。
周囲に人影はない。
続いて荒れた海へ映像が切り替わり、波の間を巨大な青い影が通り過ぎていく。
その時、画面上部へ新しい速報が入った。
『グラードン 九州南部の沿岸地域付近で確認』
「海まで来たのか」
父さんが少し身を乗り出した。
俺も黙って画面を見る。
詳しい映像はまだ届いていないらしい。
ただ、表示された位置を見れば十分だった。
かなり近い。
ポケットの中でスマートフォンが短く震える。
ポリゴンが表示した画面には、公開情報から更新されたカイオーガの推定位置が出ていた。
こちらも沿岸へ近づいている。
「……マジかよ」
「どうした?」
「いや、通知」
画面を伏せる。
その直後、テレビが新しい映像へ切り替わった。
『こちらは規制区域から十分に距離を取った地点より、望遠で撮影された映像です』
薄暗くなった海岸。
その奥に、赤い巨体が見える。
グラードンだった。
まだ海岸線までは距離があるものの、既に海そのものが見える場所まで来ている。
そして、その向こう。
荒れた海面が大きく持ち上がった。
青い背中が一瞬だけ姿を現し、すぐに波の中へ消える。
グラードンが足を止めた。
ゆっくりと頭が動き、海へ向く。
少し遅れて、沖合で再び青い巨体が浮上した。
今度は先ほどより長い。
まだ攻撃はしていない。
互いへ近づいてもいない。
それでも、2体が相手の存在を認識したことだけは映像越しにも分かった。
「……会ったか」
思わず漏れた声を飲み込み、そのままテレビを見る。
海側では雨がさらに激しくなっていく。
その雨雲を押し返すように、グラードンの上空には晴れ間が広がっていた。
レックウザは今、別の相手と戦っている。
俺にも止められない。
人間が正面からどうにかできるとも思えない。
それなのに、海と大地の化身はとうとう互いを見つけてしまった。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい