ポケモン現代入り 作:ささみ
地上では、海と大地が互いを喰らっている。
その遥か上。青い地球の輪郭すら丸く見える高度で、もう1つの争いが続いていた。
漆黒の宇宙を、紫色の影が駆け抜ける。
デオキシス。
細長く変化した身体が流星のような速度で進路を変え、その背後を緑の巨体が追う。レックウザは長い身体を大きくうねらせながら、それでも紫の影から一向に離れない。
逃がすつもりなどないらしい。
使命があるわけでも、地上の危機を救おうとしているわけでもない。ただ自らの空へ入り込んだ異物が気に入らない。縄張りへ入った。それだけで、緑の龍がどこまでも追い続けるには十分だった。
デオキシスが急激に軌道を曲げる。
ほぼ同時にレックウザも巨体を捻り、長大な身体からは想像もできないほど鋭く進路を変えた。距離が詰まり、追いつかれる直前、デオキシスの身体が細身の姿から腕を太く広げた異形へと変わる。
サイコブースト。
眩い光が宇宙を走った。
真正面から浴びたレックウザの巨体が押し流される。それでも吹き飛ばされた身体を半ば強引に捻り、尾を振って姿勢を戻すと、そのまま再び加速した。
そこで、横合いから別の光が飛んでくる。
レックウザが首を振り、寸前で躱した光が緑の鱗を掠めて宇宙の彼方へ消えていった。
光の飛んできた先。
もう1つ、紫色の異形が浮かんでいる。
デオキシス。
先ほどまで追われていたものとは、別の1体。
レックウザの動きが一瞬だけ止まる。
2体のデオキシスを見る。
片方を見る。
もう片方を見る。
そして大きく口を開いた。
怒りが増えた。
たぶん、それだけだった。
光が集まり、次の瞬間にはかいこうせんが漆黒を薙ぎ払う。2体のデオキシスが左右へ散り、一方は細身の姿へ変じて地球側へ急降下、もう一方は大きく距離を取りながら光弾を撃ち返した。
レックウザは迷うことなく近い方へ食らいつく。逃げれば追う。別の1体が割り込めばそちらへ牙を向け、また逃げれば追いかける。
1体を追い回していたところへ、もう1体増えた。
ただ、それだけ。
青い星の遥か上で、緑の龍は自らの縄張りへ入り込んだ2つの異物を追い回していた。
九州の夜は、もう夜の色をしていない。
片側では大地そのものが赤く燃えている。幾筋もの溶岩が山と谷を縫って流れ、燃え残った森林を呑み込み、赤熱した山肌とともに夜空を下から照らしていた。
もう片側では、夜より深い黒雲が海も空も覆い隠している。雷光が絶え間なくその腹を走り、暴風は海面を削り飛ばす。雨は粒ではなく白い幕となり、見上げるほど巨大な波が、何度も形を変えた海岸線へなお襲いかかっていた。
その境界で、グラードンとカイオーガはまだ戦っている。
大地が割れる。
グラードンの一歩に応えるように幾筋もの亀裂が海へ走り、そこから巨大な岩盤が突き上がった。岩峰は海岸を砕き、そのまま海底まで持ち上げながらカイオーガへ迫る。
青い巨体が海を割って身を翻す。避けきれなかった岩盤が身体を掠め、巨体が大きく傾いた。
それでも沈まない。
次の瞬間には海中へ姿を消し、離れた場所から浮上する。
海が膨れた。
「また来るぞ!」
「沿岸班、下がれ! 機材は捨てろ!」
「まだ観測が――」
「いいから人を下げろ!」
対策本部の画面にも、ほとんど同時に警告が重なっていく。
「南側3河川、また水位上昇!」
「避難所Bは!?」
「浸水予測範囲に入りました!」
「またかよ……移送は!」
「始めてます! ただ県道が地割れで――」
「迂回させろ!」
「そっちもさっき土砂で埋まりました!」
「じゃあどこ通すんだ!」
「今探してます!」
「その間にも水来てんだぞ!」
「分かってますよ!」
怒鳴り声へ、別の警報が割り込んだ。
「西側、強い揺れ!」
「震源!」
「取れません!」
「何でだ!」
「地面が動き続けてるんです! 揺れてる最中にも別の場所が隆起して――こんなの震源なんて出せません!」
一瞬だけ荒い息遣いが響き、すぐに全員が画面へ戻る。
揉めている時間すら惜しい。
ようやく1つ状況を把握した頃には、もうその前提が消えている。道路が途切れ、川が向きを変え、安全圏だった高台が崩れる。避難先として確保した場所へ水が迫り、その避難先をさらに避難させる指示まで飛び交っていた。
その間にもカイオーガが海を持ち上げている。
こんげんのはどう。
山よりも高くせり上がった水壁が、グラードンへ向かって倒れ込む。
「また正面から受ける気か!?」
誰かの叫びが、水と大地の衝突に消えた。
海が陸を呑み込む。
グラードンの姿が消え、赤く燃えていた溶岩原を膨大な海水が駆け抜ける。水と熱が触れた場所から白い蒸気が爆発し、空と地面の境界さえ覆い隠した。
「3系統ロスト!」
「残り!」
「南東の1台だけ!」
「出せ!」
映像が切り替わる。
白い世界。
その奥で、何かが動く。
赤。
グラードンが蒸気を押し退けながら歩いてくる。
全身の傷はもう遠目にも分かるほど増えていた。装甲は各所で欠け、肩から脇腹にかけて深い裂傷が走っている。それでも足は止まらず、海だけを見据えて前へ進む。
カイオーガも同じだった。
青い身体には岩盤に裂かれた傷が残り、幾度も攻撃を受けた巨体は既に無傷だった頃の面影を失っている。
それでも海を泳ぐ力は衰えない。
確かに傷ついている。
確かに互いを削っている。
なのに、終わらない。
「どっちでもいい……」
対策本部の片隅で、掠れた声が漏れた。
「もう、どっちでもいいから倒れてくれよ……!」
誰も何も言わなかった。
言える者などいなかった。
グラードンが海へ向かって歩く。一歩ごとに足元が沈み、その周囲から赤い亀裂が伸びていく。
カイオーガも退かない。
海面へ巨体を晒し、その周囲から水が引いていった。
また来る。
誰もが理解する。
「両方、何かやるぞ!」
「全班もっと下げろ!」
「もう下がってます!」
「足りない! もっと離せ!」
「どこまでですか!」
「知らん! 分かるわけないだろ! とにかく下げろ!」
グラードンが脚を持ち上げる。
大地が赤く染まる。
カイオーガの前では海が沈み、暴風が一段強く唸った。
そして。
何もない空間に、ひびが入った。
「……何だ、あれ」
グラードンの斜め後方。
炎と蒸気に揺らぐ景色の中に、細い黒線が浮かんでいる。
「映像障害か?」
「違う、別カメラにも映ってます!」
「拡大!」
映像が寄る。
線ではない。
亀裂。
そこにあるはずのない透明な何かが割れたように、空間そのものへ細いひびが走っている。
ぴしり。
1本だった亀裂が枝分かれする。
また1本。
さらに。
黒い亀裂の向こうには、夜空すら見えない。
ただ暗い。
「何なんだよ……」
「新しいポケモンか?」
「まだ何も――」
亀裂の奥で、何かが動いた。
黒。
緑。
巨大な指。
「……腕?」
それだけが、先に飛び出した。
本体は見えない。
どこへ繋がっているのかさえ分からない裂け目から、巨大な腕だけが一気に伸びる。
グラードンが気付く。
顔を向ける。
間に合わない。
黒と緑の巨大な手が、その首根っこを鷲掴みにした。
グラードンの巨体が強張る。
脚が大地を踏み抜き、首を掴む腕へ両手を伸ばそうとした――その瞬間。
振り上げる間すら与えられなかった。
腕が動く。
それだけで、グラードンの脚が大地から離れた。
「は……?」
赤い巨体が宙を舞う。
そして。
叩きつけられた。
大地が、沈む。
グラードンを中心に岩盤が円形に陥没し、巨大な亀裂が地平へ向かって一斉に走る。地中を満たしていた溶岩が圧力に押されて噴き上がり、何本もの赤い柱となって夜を照らした。
遅れて衝撃が広がる。
空気が吹き飛ぶ。
溶岩が撥ねる。
岩山が崩れる。
離れたカメラまで激しく揺れ、画面が一瞬ノイズで埋まった。
「何だ今の!?」
「地震――」
「違う! 叩きつけたんだよ!」
「グラードンは!?」
「待ってください、映像戻します!」
ノイズが消える。
誰も言葉を発しなかった。
さっきまでカイオーガの大波を真正面から受けても歩いていたグラードンが、新しく生まれた巨大な窪地の底へ伏せている。
その首を、腕がまだ掴んでいた。
本体の姿すら見せていない。
腕。
たった1本。
それだけで、あのグラードンを地面へ叩き伏せた。
海が荒れている。
暴風も止まらない。
雷は絶えず空を焼いている。
なのに、戦場そのものが静まり返ったように見えた。
カイオーガが動きを止めている。
グラードンが低く唸る。
首を押さえる手へ爪をかけ、地面を砕きながら身体を起こそうとする。
その時。
亀裂が、さらに割れた。
ひびが大きく走り、黒い裂け目が左右へ押し広げられていく。
もう片方の腕。
肩。
巨大な胴体。
暗闇を割って、黒と緑の身体が少しずつこちら側へ現れる。
大きい。
その一言だけでは足りない。
グラードンを掴んだ腕が身体の一部でしかなかったことを、全身が現れるにつれて否応なく理解させられる。
背から左右へ広がる巨大な構造が、割れた空間の縁をさらに押し退ける。
赤。
青。
黒。
緑。
人の姿にも似た異形が、亀裂の向こうから身体をねじ込んでくる。
「まだ出てくる……!」
「照合急げ!」
「やってます!」
「何なんだ、あれ!」
巨大な脚がこちら側へ抜ける。
次いで、もう片方。
最後に裂け目から完全に身体を引き抜くと、異形は壊れた大地へ降り立った。
空間の亀裂が、その背後でゆっくり閉じていく。
「照合、一致!」
「名前!」
「ジガルデ!」
「ジガルデ……?」
「パーフェクトフォルムです!」
その名を呼ばれても、誰も安堵しない。
3体目。
それもグラードンを片腕だけで地面へ叩き伏せるようなものが、新しく現れた。
安心できる要素などどこにもなかった。
ジガルデが腕を離す。
グラードンが跳ねるように起き上がった。
咆哮。
怒りをそのまま叩きつけるような声に大地が揺れ、足元から溶岩が噴き上がる。
対するジガルデは動かない。
真正面からグラードンを見る。
それだけ。
やがて、その顔がゆっくりと横へ向いた。
海。
カイオーガ。
黒雲の下で、青い巨体がこちらへ身体を向けている。
波が高くなる。
雷鳴が響く。
ジガルデはグラードンの側へも、カイオーガの側へも行かない。
ただ2体の真ん中に立っている。
大地を焼き、海を膨れ上がらせ、気候も地形も滅茶苦茶にしながら争い続ける2体を。
順番に、見た。
「……あいつ」
誰かが小さく息を呑む。
「両方とも、止める気か……?」
答えはない。
けれどグラードンには伝わったらしい。
低い唸りが響き、その足元から赤い亀裂が広がっていく。
カイオーガも海を揺らす。
水が引く。
さっきまで互いしか見ていなかった海と大地が、今度は同じ方向を見ていた。
ジガルデ。
「待て待て……」
「両方、あいつ狙ってないか?」
「嘘だろ」
「また来るぞ!」
「観測班全部下げろ!」
「もう限界まで離してます!」
「限界とか言ってる場合か! もっとだ!」
グラードンが脚を踏み込む。
大地が鳴る。
カイオーガの周囲から海がせり上がり、黒雲の奥を幾重もの雷光が走った。
その中心。
ジガルデだけは、動かない。
海と大地が。
初めて、同じ敵へ向かって動き出した。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい