ポケモン現代入り 作:ささみ
海と大地が、初めて同じ敵へ向かって動いた。
グラードンが踏み込む。その一歩から赤熱した亀裂が走り、幾重もの岩盤がジガルデへ向かってせり上がる。既に原形を失った大地をもう一度引き裂きながら、山のような刃が夜空を埋めていった。
同時に、海が立つ。
カイオーガの前から水が引き、水平線そのものが高くなる。雷を孕んだ黒雲が深く渦を巻き、暴風に千切られた海水が白く空を舞う中、山々を呑み込むほどの水壁が陸へ迫った。
「両方来た!」
「全員下げろ! カメラは捨てろ!」
「もう退避させてます!」
「まだ近い! もっとだ!」
岩盤と海。左右から押し潰すように迫るその中心で、ジガルデが腕を広げる。
逃げない。
岩峰へ拳が落ちる。
山が砕けた。
大小も分からない岩塊が夜空へ吹き上がり、その下を緑の光が駆け抜ける。光は地面へ染み込むように広がり、次の瞬間にはグラードンの足元から一斉に噴き上がった。
サウザンウェーブ。
赤い巨体が揺れる。踏ん張った両脚の周囲から大地がめくれ上がり、グラードンは地面ごと押し流されていった。
反対から落ちてきた水壁がジガルデを呑み込む。
「直撃!」
「映像落ちるぞ!」
白い奔流が大地を削り、見る間に巨大な窪地を穿っていく。それでも水の中から腕が伸び、横へ払われた。
ただそれだけで、ジガルデへ集中していた奔流が割れる。左右へ裂かれた海水が陸を外れ、轟音とともに元の海へ雪崩れ込んでいった。
水煙の向こうで、緑の光が瞬く。
空へ浮かんだ光は1つ、10、100と瞬く間に増え、数える意味すら失うほど夜空を埋め尽くす。やがて細長く形を変えたそれらが、一斉に地上へ向いた。
矢。
サウザンアロー。
カイオーガを中心に海が爆ぜた。降り注ぐ緑光が青い巨体を次々と打ち据え、浮かんでいた身体を海中へ叩き込む。水面が深く沈み、遅れて巨大な波紋が幾重にも広がっていった。
「カイオーガ沈んだ!」
「グラードンは!?」
「まだ動いてます!」
咆哮とともにグラードンが大地を蹴る。巨体が一気に距離を潰し、振り下ろされた爪がジガルデの肩へ叩き込まれた。重い衝撃に足元の岩盤が割れ、黒と緑の身体が僅かに沈む。
それ以上は動かなかった。
ジガルデの手がグラードンの腕を掴み、引く。赤い身体が前へ泳いだところへ、もう片方の拳が腹へ入った。
鈍い音。
グラードンが浮く。
そのまま大地を離れ、遥か後方へ吹き飛んでいく。赤熱した岩盤を何度も跳ね、溶岩を左右へ撒き散らし、最後には岩山へ激突してその半分をまとめて崩した。
間髪入れず、背後で海が爆ぜる。カイオーガが巨大な身体に波を引き連れ、そのままジガルデへ突っ込んでくる。
振り向いたジガルデが両腕を出す。
激突。
足元を海水が駆け抜け、大地を抉っていく。
だが、青い巨体だけが止まった。
次の瞬間には向きが変わる。掴まれたカイオーガが横へ振り抜かれ、そのまま沖へ投げ飛ばされた。海面を何度も叩き、大量の海水を天へ撒き散らしながら遠ざかっていく。
グラードンが瓦礫を押し退け、カイオーガも波間から浮かび上がる。けれど、どちらも少し遅い。
グラードンの肩は大きく上下している。カイオーガも水面まで身体を戻すと、しばらく荒れる波の中で浮かんだまま動かなかった。
「また立った……!」
「何なんだよこいつら!」
「次来ます!」
グラードンが吠え、大地を踏み砕く。
その前に、ジガルデが踏み込んだ。
足元が緑に染まる。
グランドフォース。
大地を貫いて巨大な光が噴き上がり、グラードンの巨体を呑み込む。何度も地面へ打ち据えられる赤い身体へ、今度は海側から放たれた水流が交差し、そのままジガルデの背中へ突き刺さった。
巨体が初めて前へよろめく。
「効いた!」
思わず声が上がった。
けれど、ジガルデは倒れない。ゆっくりと振り返ると、その先でカイオーガが僅かに身体を沈めた。
グラードンが膝をついた。
ほんの僅かな間。それでも、海と大地が争い始めてから初めて見る姿だった。
カイオーガも海面近くへ巨体を沈め、荒れる波の中でじっとしている。その中央にはジガルデが立ち、肩にはグラードンの爪痕、背にはカイオーガの一撃を受けた傷が残っていた。
それでも呼吸を乱した様子はない。
「……終わるのか?」
願うような声が漏れる。
グラードンが顔を上げ、カイオーガも頭を持ち上げる。2つの眼は、まだジガルデを睨んでいた。
次に。
グラードンの身体へ、赤い光が走った。
「何だ?」
「また発光……?」
傷だらけの装甲、その亀裂の奥から溶岩よりも眩しい橙色が滲み出す。全身が軋み、輪郭が膨れ、背に伸びた突起が形を変えながら赤い身体の隙間から燃え盛るような光が溢れ出していった。
「待て、また何か――」
「カイオーガも!」
海が青白く染まる。
カイオーガの身体を走る模様が眩く輝き、その光の奥で巨体が変わっていく。
「資料! この姿――」
「そんなの後だ! 数字見ろ!」
「気温が上がってます!」
「こっちは気圧が――」
「またか!?」
「違う、これ……!」
続きは出なかった。
グラードンの変貌が終わる。
その姿を見た誰かが、開かれた資料へ視線を落とした。
「……ゲンシ、グラードン」
海でも巨大な影が光の中から浮かび上がる。
「カイオーガも……ゲンシカイオーガに……!?」
次の瞬間。
雨が消えた。
音を立てて止んだわけではない。
そこにあったはずの雨が、なくなった。
カイオーガが空へ積み上げた巨大な黒雲。その縁が白く薄れ、ぼろぼろと形を失っていく。雲の裂け目から覗く太陽は白く、目を逸らしたくなるほど眩しく、熱い。
地面が乾いていく。泥がひび割れ、岩肌から水分が消え、川から白い蒸気が立ち上る。つい先ほどまで豪雨に打たれていた木々が萎れ、葉を垂らし、見る間に色を失った。
「雨が……」
「湿度、落ちてます!」
「どこまで!?」
「分からない、広がってる!」
海が吠えた。
ゲンシカイオーガの周囲から黒雲が溢れ、消えていく雲を押し返すように、さらに黒く、さらに厚く空を覆っていく。
雨が落ちる。
いや。
海が落ちてくる。
空一面から叩きつける水で遠景が消え、山も大地も白い幕の向こうへ失われる。沖合では水平線が揺れ、膨らみ、高くなっていった。
そこにある海全てが、こちら側へ寄ってきているように。
「潮位上昇!」
「どこだ!」
「太平洋側! 複数地点!」
「複数ってどこまで!」
「まだ増えてます!」
「気温も止まらない!」
「海外からも問い合わせが!」
「こっちだって何が起きてるか分からねえよ!」
電話が鳴り続け、警報が重なる。
叫び声の向こうで、晴天と黒雲が互いを押し潰そうとしていた。片方では川が消え、片方では陸が水へ沈む。海流が乱れ、遠い海の潮位まで揺れ始め、大地の奥から長く低い音が響く。
そして2体が、同時に咆哮した。
空が震える。
海が持ち上がる。
大地の亀裂が、見える限りの先まで赤く染まる。
「止めろ……」
誰かが呟いた。何に向けた言葉かも分からない。
「もういいから……止めてくれ……!」
その時。
ジガルデが、動きを止めた。
「……おい」
「何で止まった?」
ジガルデは2体の間に立っている。腕も下ろしたまま、構えもしない。
ゲンシグラードンが吠え、脚を持ち上げる。
――上がらない。
もう一度、大地を踏み抜こうと力を込める。足元の岩盤が潰れ、亀裂から溶岩が噴き上がる。それでも脚は地面を離れず、さらに力を込めるたび巨体だけが軋んでいく。
「……は?」
海でゲンシカイオーガが身を反らす。
周囲の水が集まり、盛り上がる。
そこで止まった。
巨大な海の壁が、形を作りかけたまま動かない。カイオーガが鳴き、胸鰭が海面を砕くほど水を打っても、その身体は前へ出なかった。
ジガルデは何もしていない。
光もない。
音もない。
ただ立っている。
「何した?」
「……何も」
「何もって……じゃあ何で動かないんだよ!」
答えなどない。
グラードンの身体が沈んでいく。見えない何かへ上から押し込まれるように膝が大地へ近づき、海でもカイオーガの巨体が水面へ、さらにその下へと沈んでいった。
暴れるたびに海だけが荒れる。
それでも、身体は上がらない。
空も変わった。
白い晴天が止まり、押し広げられていた黒雲もその場所から先へ進まなくなる。
「観測値……」
「どうした!」
「止まった」
「何が!」
「広がってない……!」
大型画面に並ぶ数字を、誰もすぐには信じられない。さっきまで際限なく伸び続けていた異常域が、そこで動きを止めていた。
その中央。
ジガルデが、ゆっくりと胸を開く。
◇
小さな光が灯る。
緑。
青。
いくつもの色が重なり、胸の奥へ吸い込まれていく。
ゲンシグラードンが叫び、ゲンシカイオーガも身を捩る。
動けない。
光が膨らむ。
そして。
撃ち出された。
コアパニッシャー。
極光が大地を走り、ゲンシグラードンを真正面から呑み込んでその背後へ抜ける。赤い巨体が光の中で揺れ、焼けた大地へ長い光跡が残った。
光は止まらない。
折れる。
海へ走る。
ゲンシカイオーガを薙ぎ払い、荒れ狂う水面を真っ白に焼きながら、そのさらに先へ抜けていった。
一度、消える。
静寂。
「……終わり?」
誰かが言った。
その直後。
大地に残った光が輝く。
海にも。
グラードンを焼いた線とカイオーガを薙いだ線、その間を結ぶ光が夜の戦場へ浮かび上がっていく。
斜めに。
折れ。
また斜めへ。
巨大な。
Z。
「何だ……」
緑の文字が、一際強く瞬いた。
そして。
爆ぜた。
夜が消える。
大地も、海も、空も。
全てが白に呑まれた。
轟音は遅れてやってくる。対策本部の音声が一斉に潰れ、遥か離れた観測設備まで激しく震えた。
「映像!」
「真っ白です!」
「衛星!」
「待って、今――」
「早く!」
「出ます!」
大型画面に白い雲が映る。
誰も喋らない。
数秒。
さらに数秒。
やがて白が薄くなった。
最初に見えたのは、空だった。
黒雲が崩れている。巨大な渦の間へ夜空が覗き、雨音も少しずつ弱くなっていく。
赤く焼けていた大地も静かだった。新しい亀裂は走らず、溶岩も噴き上がらない。
「……海面、下がってます」
「地震は?」
「大きな揺れ……ありません」
「2体は!?」
カメラが動く。
赤い巨体が倒れていた。
ゲンシグラードン。
身体を満たしていた橙色の光がゆっくり消え、膨れ上がっていた輪郭が戻っていく。やがて元のグラードンの姿まで縮んだ身体は、そのまま大地に伏して動かなかった。
海には青い巨体が浮いている。ゲンシカイオーガだった姿から光が抜け落ち、波に揺られるカイオーガへ戻っていく。
動かない。
「……終わった?」
返事はない。
誰も信じない。
また起きる。もう一度吠える。大地が割れ、海が持ち上がる。
何度もそうなった。
だから待つ。
1分。
もう1分。
グラードンは立たない。カイオーガも浮かんだまま動かず、その間にも雲の切れ目だけが少しずつ広がっていった。
ジガルデは2体の間に立っている。
しばらくグラードンを見たあと、海へ顔を向ける。
カイオーガを見る。
そして。
黒と緑の身体から、小さな光が1つ離れた。
「……今度は何だ」
また1つ。
さらに。
緑の光が次々と身体からこぼれ落ちていく。
「分かれてるぞ!」
「数は!?」
「無理です、増え続けてます!」
「追えるか!」
「四方に散って――もうどれがどれだか!」
巨大な身体が崩れていく。緑の小さな影となって大地を走るもの、森へ消えるもの、海へ向かうもの、遥か遠くへ走り去るもの。
少しずつ、完全体だった姿が失われていった。
最後の緑が、夜の向こうへ消える。
後に残るのは、形を変えた大地と荒れた海。
倒れたグラードン。
波に浮かぶカイオーガ。
そして。
ぽつり。
雨が落ちる。
もう海を落とすような豪雨ではない。
ただの雨だった。
海と大地の争いは、そこでようやく終わった。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい