ポケモン現代入り   作:ささみ

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閑話 世界への余波

 

 

 

 

 太平洋の真ん中で、海が持ち上がった。

 

 風は弱く、近くに台風もない。空には雲があるだけで、水平線の向こうまで目立った異常は見えない。

 

 それなのに、海面だけがゆっくりと高くなる。

 

 観測ブイが大きく上下した。少しして戻り、今度は沈む。それからまた持ち上がった。

 

「……津波?」

 

「地震は?」

 

「ない」

 

「じゃあ何だこれ」

 

 モニターへ並ぶ数字は、どれも噛み合っていなかった。別の観測点、そのさらに先でも海面が揺れている。

 

 1ヶ所ではない。

 

 広い海のあちこちで、同じような異常が少しずつ現れ始めていた。

 

 誰かが日本周辺のデータを開く。

 

 そこだけ、数字が飛び抜けている。

 

 九州。

 

 昨夜、海と大地がぶつかった場所。

 

「……関係、あるのか?」

 

 誰もすぐには答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 

 遠く離れた港町で、船が一斉に軋んだ。

 

 係留された漁船が岸壁へ寄せられ、次の瞬間には大きく離れる。ロープが張り詰め、そのうち何本かが弾け飛んだ。

 

「水位上がってるぞ!」

 

「さっき下がったばっかりだろ!」

 

「また来てる!」

 

 防波堤の向こうでは、海面が普段とは違う高さにある。

 

 波が大きいわけではない。けれど潮が落ち着かず、引いたと思えば戻り、戻ったと思えばさらに押し寄せる。

 

 海水が低い岸壁を越え、港の一部へ流れ込んだ。

 

 少し離れた場所では、逆に水が大きく引いている。海底が一時的に露出し、取り残された魚が跳ねていた。

 

「避難させろ!」

 

「津波なのか!?」

 

「分からん! 分からんけど海から離せ!」

 

 サイレンが鳴り、住民が高い場所へ向かう。

 

 まだ誰も、日本で起きた戦いの余波だと断言できない。

 

 ただ、昨日までいつも通りだった海が、今日は違う。

 

 それだけで十分だった。

 

 

 

 

 

 

 空も、おかしかった。

 

 東アジアのある都市では、朝から雨の予報が出ていた。厚い雲もあり、湿った風も吹いている。

 

 ところが雨は降らない。

 

 雲が途中から千切れ、そのまま薄くなっていく。強い日差しが地面を焼き、気温が急激に上がった。

 

「予報と違いすぎる」

 

「モデル回し直した?」

 

「3回やってる」

 

「じゃあ何でこうなる」

 

「こっちが聞きたいよ」

 

 別の画面では、少し離れた地域が真逆になっていた。

 

 雲が急速に膨らみ、積乱雲がいくつも繋がって短時間で巨大な雨域へ変わる。赤や紫の危険域が、地図の上へ次々と増えていった。

 

「こっちは豪雨?」

 

「さっきまで晴れてただろ」

 

「雨雲が湧いてる!」

 

「どこから!?」

 

「分からない!」

 

 乾く場所。

 

 沈む場所。

 

 その間を吹き抜ける風は強くなり、予定されていた気圧配置を押し曲げていく。

 

 昨日作られた天気図が、もう役に立たない。

 

 

 

 

 

 

 

「そこ通せない!」

 

「30分前までは飛べてたぞ!」

 

「今は無理だ!」

 

 航空管制室でも声が飛び交っていた。

 

 太平洋上では、予定されていた航路の先へ巨大な雲の壁ができている。少し南へ避ければいいと判断した矢先、そちらにも乱気流の警告が出た。

 

「さらに南へ!」

 

「燃料が厳しい!」

 

「じゃあ目的地変更!」

 

「どこへ!」

 

「近いところ全部埋まってる!」

 

 モニター上を飛ぶ航空機の印が、次々と進路を変えていく。

 

 日本へ向かう便だけではない。太平洋を横断していた機体、東アジアを通る便、島国を結ぶ短距離路線まで、同じ空を使っていたものがまとめて押し出されていた。

 

 空港では出発案内が赤く染まっている。

 

 遅延。

 

 欠航。

 

 目的地変更。

 

 搭乗口前には人が溢れ、職員が説明を繰り返していた。

 

 その上空で、雲はまだ動いている。

 

 

 

 

 

 

 

 海では、船が止まっていた。

 

 大型コンテナ船。タンカー。貨物船。

 

 いつもなら決まった航路を進んでいる船が、広い海の上で速度を落とし、あるいは大きく迂回している。

 

「この海流、昨日と違わないか?」

 

「違うどころじゃない」

 

「こんなに流される?」

 

「補正入れても合わん」

 

 航海士が画面を睨む。予定された位置より、船がわずかにずれている。

 

 数字だけ見れば小さい。

 

 海の上では、その小さなずれが何十kmにもなる。

 

 別の海域では漁船が引き返していた。

 

 魚がいない。

 

 昨日までいた群れが、まるごと消えている。

 

「どこ行った?」

 

「沖じゃない?」

 

「こんな一気に?」

 

 海面近くにいた魚群は深い方へ、沿岸に寄っていた群れは別の海域へ。海鳥も、いつもの場所にいない。

 

 潮も、水温も、流れも。

 

 昨日までとは少しずつ違っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 人間より先に動いたものもいた。

 

 海岸近くに集まっていた水ポケモンが、夜のうちに沖へ移っている。浅瀬を泳いでいた群れが一斉に姿を消し、川へ入っていたものまで上流へ向かっていた。

 

 山では飛行ポケモンの群れが大きく進路を変える。渡りの途中だった鳥と混ざり、普段なら通らない谷へ流れていく。

 

 森では野生のポケモンが開けた場所から消え、木々の奥へ身を隠していた。

 

 風が違う。

 

 水が違う。

 

 空気が違う。

 

 それだけで、動くには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 世界中の観測施設へ、似たような数字が集まっていた。

 

 海面。海流。気圧。気温。降水。風。

 

 どれも単独なら珍しい異常で済むものもある。けれど同じ時間に、同じ海を跨ぎ、同じ空の下で、あまりにも多くの数字が狂っていた。

 

 大型画面に衛星画像が映る。

 

 日本。

 

 九州。

 

 そこを中心に、昨日まで存在しなかった巨大な雲の渦。

 

 そのすぐ隣には、不自然なほど雲の消えた空。

 

「これが……?」

 

「分からない」

 

「でも時間は合う」

 

「海も?」

 

「合う」

 

 沈黙が落ちる。

 

 画面の隅では、昨夜の映像が再生されていた。

 

 グラードン。

 

 カイオーガ。

 

 その間へ現れた、黒と緑の巨体。

 

 ジガルデ。

 

「日本は止めたのか?」

 

「違う」

 

「じゃあ誰が」

 

 誰も答えない。

 

 映像の中では、ジガルデが2体を押さえつけていた。

 

 人間は、ただ見ているだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 問い合わせが、日本へ殺到していた。

 

「また同じことが起きる可能性は?」

 

「カイオーガの現在位置は?」

 

「グラードンはどこへ向かっている?」

 

「ジガルデは日本政府の管理下にあるのか?」

 

「他にも同等の存在は確認されているのか?」

 

 最後の問いに、室内の空気が少しだけ変わる。

 

 机の上には、何度も開かれた資料がある。

 

 そこには、まだ現実では姿を見せていない名前がいくつも並んでいた。

 

「回答は保留」

 

「ですが――」

 

「保留だ」

 

 短い声で会話が切れる。

 

 電話はまた鳴った。

 

 次の国。

 

 次の機関。

 

 次の質問。

 

 誰も待ってくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 遠い森の中。

 

 朝露に濡れた草の間を、小さな緑色のものが進んでいた。

 

 誰も見ていない。

 

 鳥が一度だけ顔を向ける。

 

 それでも緑は止まらず、木の根元へ消えていった。

 

 別の場所では海岸。

 

 また別の場所では山。

 

 湿地。

 

 人の住まない荒野。

 

 小さな緑が、それぞれ別の方向へ散っていた。

 

 昨日九州から飛び散ったものなのか。

 

 もっと前からそこにいたのか。

 

 確かめる者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 太平洋の海面は、少しずつ元の高さへ戻り始めていた。昨日まで狂ったように上下していた港の水位も、波の周期も、ゆっくり落ち着いていく。

 

 空も同じだった。

 

 崩れていた雲がまとまり、乾ききっていた空へ湿気が戻る。逆に豪雨に沈んでいた地域では、雨脚が弱くなっていった。

 

 止まっていた船が進み始める。

 

 欠航していた便の一部が飛ぶ。

 

 港では切れたロープを交換し、岸壁へ流れ込んだ海水を掻き出していた。

 

 農地に残った水は消えない。

 

 壊れた道路も戻らない。

 

 流された船も、失われた作物も昨日のままだ。

 

 それでも。

 

 海は、海へ戻ろうとしている。

 

 空も。

 

 大地も。

 

 ゆっくりと。

 

 

 

 

 

 

 

 遠い国の海岸。

 

 昨夜の異常な潮で打ち上げられた木片が、砂浜に散らばっている。波はまだ少し高いが、雲の切れ目から朝日が差していた。

 

 その砂浜を、小さな緑が横切る。

 

 誰にも気づかれない。

 

 波打ち際を離れ、草むらへ入り、そのまま見えなくなった。

 

 海も、空も、大地も。

 

 少しずつ元の形へ戻っていく。

 

 ただ。

 

 昨日までと同じ世界なのかどうか。

 

 それだけは、まだ誰にも分からなかった。

今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜

  • 図鑑通りのサイズ
  • 図鑑よりかなりデカくしてもいい
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