ポケモン現代入り 作:ささみ
最初は、ただの警戒だった。
日本の南で何が起きているのか。海を越えて何が来るのか。それすら分からない以上、周辺国が航空機を上げ、海上の監視を強めるのは不自然なことではない。
中国東部でも、複数の基地から航空機が飛び立っていた。
「日本側の動きは?」
「九州方面がかなり増えています。救難と輸送、それに観測でしょうか。南西側は……普段より薄く見えます」
「米軍は?」
「今のところ、目立って増えた様子はありません。ただ、こちらも全部掴めているとは」
「まあ、そうだろうな」
卓上の地図には日本列島が映っている。その南、九州の周辺だけがいくつもの表示で埋め尽くされていた。
避難区域。
航空規制。
艦船の移動。
救助に向かった部隊。
日本が今どこへ力を使っているかは、隠しようもなかった。
「海警の方は?」
「動かせます」
「……尖閣周辺を見ておけ。異常海象もある。周辺船舶の確認ということにしておけばいい」
「少し寄せますか?」
「様子を見る程度でいい。今は、向こうがどう動くか分かればそれで十分だ」
別の者が航空部隊について確認すると、少し考えてから返事があった。
「警戒は続ける。ただ、余計なことはするな。今は何が起きるか読めない」
戦闘機が飛び立ち、海警船が進路を変える。
九州では海と大地がぶつかり合っている。
その少し離れた場所では、日本がどこまで手を伸ばせるのかが、静かに確かめられ始めていた。
「中国海警、また増えています」
「また?」
「2隻です。既存の船に寄せる動きに見えます。中国軍機も追加で上がりました」
「こっちに来てる?」
「今のところは向こう側です。ただ、普段より近いですね」
「……まあ、そう来るか」
日本側の指揮所では、九州だけを見ている余裕などとっくになくなっていた。
片方の画面には救助要請。もう片方には周辺国の航空・海上活動。その下では道路の寸断や避難所の不足、港湾被害が絶えず更新されている。
そこへ、また新しい報告が入った。
「北でも動きがあります。ロシア軍機、複数。日本海側へ出ています」
「南下してる?」
「少し。ただ、今のところ領域を越える感じではありません」
「海の方は?」
「艦艇にも動きがあります。演習なのか、こっちを見てるのか……まだ何とも」
「どっちでも嫌だな」
誰かが小さく吐き捨てる。
「空自、どれくらい残せる?」
「九州側にかなり回しています。海自も似たような状況です」
「海保も取られてるだろ」
「はい。沿岸対応がありますから」
聞かなくても分かっていた。
ただ、数字にして確認すると余計に嫌になる。
「北朝鮮側は?」
「部隊活動が少し増えています。発射準備とまでは言えませんが……いつもより落ち着いてはいません」
「今日に限って、全員よく動くな」
「今日だから、じゃないですか」
隣から返ってきた声に、誰も何も言わなかった。
否定できる材料がなかった。
「アメリカにも頼った方がいいんじゃないか」
誰かが口にした。
反対は出なかった。
「輸送だけでも入ってもらえると助かります」
「輸送だけじゃ足りないだろう。ヘリ、医療、救難……衛星情報も欲しい。北と南西の監視も、少し厚くしてもらえないか聞いてみよう」
「かなり頼むことになりますね」
「今さら遠慮してる場合でもないだろ」
九州には、まだ救助を待っている人間がいる。
そこから戦力を抜けば対応が遅れる。だからといって、周辺国の動きを放置するわけにもいかない。
「少なくとも、全部こっちだけで見るよりはましだ」
「米側も、この状況なら断りはしないと思います」
「だといいけどな」
その返事は、思っていたより早く戻ってきた。
「航空輸送はこちらでも出せます。回転翼機と医療支援も準備に入っています」
「助かります。こちら、九州からこれ以上大きく抜くのが厳しくて」
「でしょうね。周辺国の動きはこちらでも確認しています。共有できるものは順次回します」
机の上へ資料が置かれる。
中国。
ロシア。
北朝鮮。
それぞれの動きが並んでいる。
「南西と北については、こちらでも少し厚く見ます。日本側は、九州の対応を優先した方がいいでしょう」
「そうしてもらえるならありがたいです。正直、今は見てもらえる場所が一つ増えるだけでも違う」
「こちらも日本側が崩れる方が困りますから」
「それは、お互い様でしょうね」
わずかに空気が緩んだ。
細かな調整はあとでいい。
今は動かす方が先だった。
輸送機が飛び、ヘリが飛ぶ。米軍施設から物資が出ていく一方で、海と空では災害支援とは別の機体も動き始めた。
日本が九州へ向けていた視線の一部を、米国が拾い上げていく。
「米軍の活動、増えました」
中国側にも、その変化はすぐに見えていた。
「どの程度?」
「災害支援が中心でしょうが、警戒機も増えています。艦艇の動きも少し変わっています」
「日本側は?」
「九州への投入は維持しています。こちらへ戻した様子は、今のところありません」
「……なるほど」
画面の上では、日本の余力が減っていること自体は変わらない。
ただ、そのまま穴になったわけでもなかった。
「海警はそのままでいい」
「航空部隊も?」
「今の範囲なら。ただ、少し慎重に見た方がいいな。さっきとは条件が違う」
「これ以上は寄せませんか」
「今すぐ寄せる理由もないだろう」
それで話は終わった。
圧力を引くほどではない。
だからといって、踏み込むほどでもない。
日本だけを見ていた時とは、確かに状況が変わっていた。
北でも、似たようなやり取りが続いていた。
ロシア軍機が近づき、日本側が追う。その後ろでは米軍の監視も強くなっている。
誰も撃たない。
境界も越えない。
けれど、だからといって平穏なわけではなかった。
どこまで寄れば日本が反応するのか。どれだけ戦力を割けるのか。米国がどの程度まで入ってくるのか。
答えを出すには、少し動いてみるだけで足りる。
戦いが終わったあと、日本政府へ届く問い合わせの中身も少しずつ変わっていった。
「中国側から、危険性の高いポケモンについて情報共有の申し入れが来ています。ロシアも似たような内容ですね」
「欧州は?」
「共同研究の打診がいくつか。韓国と豪州からは、既存の共有枠組みを広げられないかという問い合わせです」
「公開していない情報まで求められてる?」
「遠回しには。今のところ、こちらからは出していません」
「それでいいんじゃないか。こっちもまだ整理しきれてない」
最初はグラードンとカイオーガ、そしてジガルデについての質問がほとんどだった。
しかし、時間が経つにつれて別の名前が増えていく。
「技術関係も増えています」
机の上へ、別の資料が置かれた。
モンスターボール。
キズぐすり。
製造設備。
現在開発中のもの。
「やっぱり来たか」
「前から興味は持たれてましたからね。今回で見る目が変わったんでしょう」
「まあ、あれを見たあとならな」
人間の手に余る存在が実在する。
なら、それを扱うための技術にも目が向く。
それ自体は、誰にとっても自然な流れだった。
米国との協議だけは、他国より一段深いところまで進んでいた。
閉じられた会議室。
机の上には、一般には出していない資料も並んでいる。
「この収容技術についてなんですが」
アメリカの研究担当者がモンスターボールの資料へ指を置いた。
「こちらでもかなり見ています。ただ、分からない部分が多い。日本側では、原理まで把握できているんですか?」
「そこまでではありません。製造できている部分はありますが、説明しきれないところも多いです」
「作れるのに、分からない?」
「言い方は変ですが、そういう部分があります。手順は追えても、その中身まで全部理解できているわけじゃない」
「キズぐすりも?」
「似たようなものですね。わざマシンに関しては、まだそれ以前です」
アメリカの研究者が少し考え込む。
「……これ、十年二十年先という話でもなさそうですね」
「こちらも、近い感覚では見ていません」
「分野によっては、今の技術からどう繋がるのかすら分からない。少なくとも、我々の側ではそういう評価になっています」
「たぶん、こちらも大きくは変わりません」
モンスターボールひとつ取っても、それが何を意味しているのかはまだ分からない。
今ある産業へ、そのまま持ち込めるとも限らない。
ただ、理解できた時に何が起きるのか。
そこだけは、誰も小さく見積もっていなかった。
「できれば、共同研究を正式に進めたい」
その言葉に、日本側は少し間を置いた。
「こちらとしても、前向きに考えています」
「それなら――」
「ただ、少し厄介なところがありまして」
「企業との調整ですか?」
「それもあります。ただ、それだけでもないんです」
アメリカの担当者が続きを待つ。
「元になった情報の提供者がいます」
「提供者?」
「この技術の根っこにある情報を、日本側だけで最初から組み立てたわけではありません」
「研究者か何かですか?」
「そこが……分からないんですよ」
「所属も?」
「分かっていません。名前もです」
少し空気が変わる。
「直接、会ったことは?」
「こちらから接触したことはありません」
「では、どうやって?」
「向こうから送られてきます。今のところ、それだけです」
アメリカの担当者が、少しだけ困ったように眉を上げた。
「一方通行なんですが」
「はい。今までは、それでも特に困らなかったんですが」
「今は、そうでもない?」
「……少し、困り始めてますね」
◇
「米国との共同研究自体は、たぶん進めた方がいい」
協議が終わり、日本側だけになったあと。
話はまたそこへ戻っていた。
「向こうの研究力を使えるのは大きいし、今回みたいなことを考えると、情報をある程度共有していた方がこちらも楽だ」
「安全保障上も、その方が都合はいいでしょうね」
「問題は、どこまでこっちだけで決めていいのか、か」
「そうですね」
技術の提供者。
顔も知らない相手。
これまでは、それでも問題にならなかった。
「勝手に米国へ渡して、向こうが嫌がった場合……どうなると思う?」
「分かりません」
「だよな」
「気にしない可能性もありますし、嫌がる可能性もあります。そこが分からないのが一番面倒です」
「次から何も送ってこなくなる、という可能性も否定はできないか」
「そうなったら困りますね」
「代わりもいないしな」
「今のところは」
答えは淡々としていたが、内容は重かった。
「確認する方法は?」
「こちらからはありません」
「……今まで、それでよく回ってたな」
「国内で使う分には、そこまで困らなかったんです。向こうが送ってきたものを受け取って、その範囲で動けばよかったので」
「国外が絡むと、そうもいかないか」
「誰に何を見せていいのか、毎回こちらで想像することになりますからね」
その言葉に、何人かが黙る。
世界が広がった。
それだけだった。
国内のポケモン問題として扱えていた頃には表に出なかった不便が、今になって一つずつ顔を出している。
「一応、引き続き探すことは考える?」
「……今ですか?」
「案としては、だ」
「やるにしても、慎重にした方がいいでしょうね。匿名を続けているのに、こっちから探されたらどう思うか分からない」
「でも、安全保障上は気になるだろ」
「気にはなります。ただ、今まで敵対的なことをしていないのも事実ですし」
「九州の警告もあった」
「はい」
また少し沈黙する。
「無理に見つける必要まではないのかもな」
「少なくとも、今すぐは」
「こっちから話せるようになれば、それで大分違うんだけどな」
「そうですね。米国との共有について一言聞けるだけでも楽になります」
「向こうにその気があれば、ですけど」
「そこは……待つしかないでしょう」
それ以上は進まなかった。
進めようがなかった。
机の上には、まだ仕事が残っている。
九州の復旧。
国外からの問い合わせ。
中国。
ロシア。
北朝鮮。
米国との調整。
グラードンとカイオーガの継続監視。
ジガルデについては、どこにいるのかすら分からない。
「今日は、この辺で切るか」
「切って大丈夫ですかね」
「大丈夫じゃなくても、人間は寝るしかないんだがね」
「明日、減ってますかね」
「……増えてなきゃいいんじゃないか?」
「最近ずいぶん基準が低くなりましたね」
「こっちが下げたわけじゃないだろ」
疲れた笑いが少しだけ漏れる。
誰も、明日が静かだとは思っていなかった。
ひとつが終わる前に、次が来る。
最近は、それが当たり前になりつつあった。
日本だけではない。
世界中が、まだ昨日の出来事すら整理しきれていない。
それでも時間は止まらない。
人間の都合も。
国の都合も。
そして、ポケモンの都合など、最初から聞かれてはいなかった。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい