ポケモン現代入り 作:ささみ
7月1日。
朝からテレビをつけていれば、九州の話を見ない時間の方が少なかった。
グラードンとカイオーガが戦っていた地域では、今も救助と被害確認が続いている。2体そのものは戦場を離れたものの監視は継続中で、国外では戦いによって起きた海や大気の異常について調査が始まっていた。
そのうえ中国やロシアまで妙に動いているとなれば、政府がどんな状況なのかは想像したくもない。
「……今じゃないよなぁ」
ベッドに腰掛けたまま呟くと、机の上にいたポリゴンがこちらを向いた。
『ポリ?』
「政府に連絡する話。条件はだいたいまとまってるけど、今持っていっても向こうが困るだろ。急いでるわけでもないし、もう少し落ち着いてからでいい」
『ポリ』
これまで一方通行だった政府とのやり取りを、いずれ双方向にする。その時には、自分が誰なのかも明かすつもりだった。
ただ、九州があんなことになった直後に匿名の情報提供者まで名乗り出て、さらに仕事を増やす必要もない。
「問題は、その後なんだよな」
机の端へ置いていた紙を引き寄せる。
世間へ正体を公表しないこと。監視しないこと。こちらが望まない限り家族へ接触しないこと。強制的に呼び出さないこと。情報をどこまで渡すかはこちらで決めること。
町工場についても、今まで通り開発を続けてもらう。
日本政府との間だけなら、それで大きな問題はないと思っている。向こうだって、わざわざ自分との関係を壊して得をすることはないだろう。
ただし、日本以外まで同じとは限らない。
「俺が情報の出所だって分かったら、他の国も探すよな。日本政府が黙ってくれてても、それで全部終わりってわけじゃないし」
『ポリ』
「まあ、俺でも探すわ」
モンスターボールやキズぐすりだけでも、今までの技術とはかなり違う。わざマシンの製造まで進めば、なおさらだ。
それ以外にも、ポケモンの生態や進化、これから現れる地方、伝説のポケモンについてまで政府へかなりの量を渡している。
情報の出所を知りたがる国が出てきても、不思議ではなかった。
だからといって、明日にでも誰かが家へ押しかけてくると考えているわけではない。それでも、先のことを少しくらい考えておく必要はある。
「俺だけなら、まあどうとでもなるんだけどな」
ゲンガーもいる。リングマもいる。ニョロボンだっている。
人間を相手にする程度なら、むしろ加減の方を心配する戦力だ。
「家族だよなぁ」
窓から畑の方を見る。
父さんが作業している近くを、ポッポが飛んでいた。譲ってからそれなりに時間も経ち、今ではそこにいるのが自然な光景になっている。
父さんが移動すれば付いていき、畑の上を飛びながら周囲もよく見ている。
「あいつ、ちゃんと鍛えておいた方がいいな。どうせならピジョットまで行ってほしい」
『ポリ』
「父さんのポケモンだから、勝手にはやらんけどな。山で鍛える時に一緒にやっていいか聞けばいいだろ」
理由まで全部説明する必要はない。
ポケモンが増え続けている以上、持っているポケモンを強くしておいて損はない。それくらいなら不自然でもなかった。
家族には、まだ自分の正体を教えるつもりはない。
政府へ身元を明かしたとしても同じだ。世間にまで知られるようなことになれば話は別だが、それまでは余計な心配を増やしたくなかった。
「あとニドランもだな。あっちは母さんと一緒にいること多いし、ニドクインまで育てとけばかなり頼れるだろ」
管理は父さんへ任せたはずなのに、普段一緒にいる時間だけなら母さんの方が長い。もうほとんど母さんのポケモンみたいなものだった。
「ただ、強くするだけじゃ駄目か。人間相手に本気でやられたら、それはそれで困るし」
『ポリ』
「家族を優先して、危なかったら間に入る。できれば俺か他のポケモンに知らせる。それでも駄目なら止める……その辺は実際に訓練しながら考えるか」
戦うだけなら普段の育成でもできるが、護衛となれば少し話が違う。
それに、庭で本格的にやるような訓練でもない。
悠真は机に積んでいた別の資料へ視線を落とした。
山。
「まあ、そのためにちょうどいい場所もあるしな」
そして今日は7月1日。
ずっと待っていた日でもある。
◇
午前中のうちに、北海道各地から新しい報告が出始めた。
『ポリ、ポリ』
「来た?」
ポリゴンが開いた画面を覗き込む。
最初に映っていたのは、道路脇をちょこちょこと歩いていく茶色いポケモンだった。
「ビッパか。ちゃんといるな」
次の映像には、電線へ何羽も並んでいる小さな鳥ポケモンが映っている。
「ムックルもいる。予定通りだな」
場所はそれぞれ違った。
札幌近郊。道東。道北。
更新するたびに、新しい映像が増えていく。コリンクやカラナクシなど、昨日までは北海道で確認されていなかったポケモンたちも次々と姿を見せていた。
テレビでも間もなく速報が始まる。
政府から事前に7月1日以降、北海道で新たなポケモンが確認される可能性があるとして注意喚起が出されていたこともあり、以前のような完全な不意打ちではない。それでも実際に知らない生き物が近所へ現れれば、騒がしくなるのは当然だった。
「悠真ー。政府が言ってた今日から増えるってやつ、これ?」
階下から母さんの声がする。
「ああ、たぶんそれ。図鑑ももう更新され始めてるみたいだよ」
「危ないのはいないの?」
「そこは図鑑見ながら確認した方がいいんじゃない? 知らないの見つけても、とりあえず近づかないのは今までと一緒で」
「結局それなのね」
「それが一番安全だろ。全部のポケモン見たことあるわけじゃないんだし」
「まあ、それはそうね」
そこで会話は終わった。
悠真は画面へ戻り、北海道各地から上がってくる映像を眺める。
自分にとっては、待っていたシンオウの出現だった。
「よし。これで山の方もちゃんと動かせるな」
『ポリ?』
「リングマ連れて山側も見られるし、ポッポとニドランを鍛える場所にもできる。ロトムも探せるし、ダンバルも探したい。バンギラスのことも、やっと先に進められる」
山そのものの取得や最低限の準備は進めてきた。
ただ、本格的に活動を始めるのは今日からと決めていた。
もう待つ必要はない。
「長かったなぁ。いや、実際そんな長くないんだけど、最近色々ありすぎて妙に長く感じる」
『ポリ』
「明日にでも一回見に――」
そこで、ポリゴンがふいに窓の方へ身体を向けた。
『……ポリ』
「ん?」
妙な気配でもしたのかと思った。
それから外を見る。
庭にいたポケモンたちも、同じ方向を見上げていた。ポッポも、バタフリーも、スピアーも動きを止めている。少し遅れて、影からゲンガーまで姿を見せた。
「……何?」
窓を開ける。
空は晴れている。雲もある。特に暗くなったわけでもない。
ただ、空の一部に細い黒が走っていた。
「は?」
線は伸び、枝分かれしながら広がっていく。
亀裂。
青空そのものが、割れた。
「……いや、今日はそれじゃないだろ」
シンオウのポケモンが現れることは知っていた。
こんなものは聞いていない。
亀裂がさらに広がり、その黒い向こう側から巨大な何かが飛び出した。
一つではない。
少し離れてもう一つ。さらに別の方向へ。
いくつもの影が北海道の空へ散っていく。
「ちょ、待て」
そのうち一つが、雲の切れ間を横切った。
白い巨体。身体を横切る黒い線。そして緑色。
「……レジギガス?」
名前が出た瞬間、以前アルセウスから聞いた話が蘇る。
レジギガス。
レジロック。
レジアイス。
レジスチル。
レジエレキ。
レジドラゴ。
その全員を相手に、アルセウスが戦っていた。
「……終わったのか?」
巨大な影は、そのまま遠ざかっていく。
地面へ激突することはなく、山の向こうへ消えるものもあれば、雲の下へ入り、そのまま見えなくなるものもあった。
しばらくして、遠くから低い音が届く。足元も僅かに揺れたが、巨大なものがそのまま地表へ叩きつけられたような衝撃ではない。
「何したんだ、あいつ……」
「悠真!」
外から母さんに呼ばれる。
「今見てる!」
「ニュースでも空が割れたって言ってるんだけど、今日のやつと関係あるの!?」
「分からん! 少なくとも政府が言ってた新しいポケモンの話とは、明らかに別だろ!」
「じゃあまた何か起きたってこと?」
「たぶん! 俺も今調べてるから、テレビ見てて!」
家族との会話を切り上げ、部屋へ戻る。
「ポリゴン、何か出てる?」
『ポリ!』
検索はすでに始まっていた。
ただ、すぐに現地映像が出てくるわけではない。
北海道は広い。しかも巨大な影が消えたのは、どれも山地や人の少ない地域だった。
最初に見つかったのは、ポケモンそのものではなく、山の変化だった。
「……洞窟?」
遠距離から撮影された山肌に、大きな入口が開いている。
投稿者の話では、昨日までそんな穴はなかったらしい。
さらに別の地域でも、同じような報告が出ていた。山中に突然石造りの構造物が現れた、今まで入れなかった場所に巨大な空洞ができている、といったものだ。
巨大な影が消えた方向と照らし合わせる。
「適当に落ちたって感じじゃないな」
『ポリ』
「少なくとも、そのまま地面に突っ込んだわけじゃない。洞窟とか神殿みたいなところに入ったのか?」
それぞれの位置を確認する。
悠真の知識にある居場所と、妙に重なる部分がある。
偶然にしては出来すぎている。
「……アルセウスか?」
口にしてから、少し考える。
「いや、まだ分からんけど。あいつが戻したなら、場所まで合わせてもおかしくはないか」
空を横切ったレジギガスの姿を思い出す。
ほんの一瞬だったが、身体はかなり傷んでいた。
他の影も、自分から元気に飛んでいたようには見えない。
「戦い自体は終わったんだろうな」
どういう決着だったのかは分からない。
アルセウスが勝ったのか。
途中で何かあったのか。
そもそも、あれだけ傷んだレジギガスたちをどうして北海道へ送ったのか。
今の悠真には確かめる方法がなかった。
その間にも、政府は各地で突然現れた洞窟や構造物への接近を控えるよう発表し始めている。
「それでいいだろ。今あいつら刺激する理由ないし」
画面を眺めているうちに、一つの映像で手が止まった。
「……ん?」
雪の残る山地。
そこへ新しく現れた、大きな洞窟の入口。
その方向へ消えていった影を、別の映像で見ている。
青い身体。
氷でできたような姿。
「レジアイスか」
位置情報を確認し、山の資料を引っ張り出す。
自分が買った土地そのものではない。
少なくとも、今手元にある境界図だけを見る限りは外れている。
けれど。
「近いな」
山の奥側から、それほど離れていない。
しかも、レジアイスが消えた方向と、新しく確認された洞窟の位置もほぼ重なっている。
「……山の中、結構変わってるかもしれないな」
『ポリ』
「洞窟がこっちまで繋がってる、とかは流石にまだ考えすぎか。明日、自分の土地だけ見れば多少は分かるだろ」
もう一度、画面を見る。
「レジアイス……」
『ポリ?』
「欲しいな」
すぐにポリゴンがこちらを見る。
「いや、今行くとは言ってないって。アルセウスとやり合った直後だろ。しばらく放っとくよ」
弱っているところへ乗り込んで、そのまま捕まえるつもりもない。
もし本当に近くにいるなら、まずは休ませればいい。
その先のことは、その時考える。
「それより、足りないんだよな」
確認できた影を数える。
レジギガス。
レジロック。
レジアイス。
レジスチル。
「レジエレキとレジドラゴがいない」
『ポリ……』
検索結果にも、それらしい報告は出ていない。
「あの時は一緒にいたはずなんだけどな。別のところに行ったのか、それとも今回は来てないのか……今の情報じゃ分からんか」
考えても答えは出ない。
今分かっていることだけ政府へ送る。
「ポリゴン。レジギガス、レジロック、レジアイス、レジスチルの基本情報まとめて」
『ポリ』
「今回見えた4体はかなり消耗してるように見える。不用意に接触しない方がいいって付け足しといて。あとレジエレキとレジドラゴも同じ系列だけど、今のところ姿は確認できてない」
『ポリ』
「洞窟や建物については、4体が消えた方向と近いってだけでいい。何でそこにいるかまでは俺も知らん」
送信。
アルセウスとの戦いについては書かなかった。
あれは以前アルセウス本人から聞いただけで、政府へ話していない。
今わざわざ付け足す必要もないだろう。
それで今できることは終わりだった。
◇
夕方には、政府から新しい情報が公開されていた。
テレビでは昼間に現れた巨大なポケモンについて、公開図鑑へ追加された情報と合わせて報じられている。
「レジギガス、レジロック、レジアイス、レジスチル……っていうのね」
母さんが画面に表示された名前を読み上げる。
「図鑑にも追加されてるな」
「危険性が高い可能性があるから、近づかないでくださいって。山にいるんでしょう?」
「そうみたいだね。現場も封鎖してるらしいし、近づかなきゃいいんじゃない?」
「明日、あんた山行くんでしょう?」
そこへ繋げられた。
「俺の土地は封鎖されてないよ」
「そういう話じゃないの。今日になって知らない洞窟まで増えてるんでしょう? ニュースでも山に入る時は気をつけろって言ってるじゃない」
「だから、明日は普通に外側から様子見るだけだよ。変な洞窟見つけてもそのまま入ったりしないって」
「本当に?」
「わざわざ図鑑で危険かもしれないって書かれてるポケモンがいる方に突っ込むほど馬鹿じゃないよ」
母さんがしばらくこちらを見る。
「ならいいけど」
父さんが横からテレビを見ながら口を挟んだ。
「地形が変わってるなら、最初は道と境だけ見てこい。買った時と同じだと思って入る方が危ないぞ」
「そのつもり。リングマも連れていくし、何かおかしかったら戻るよ」
「なら無理するなよ。山は逃げないんだから」
「分かってるって」
母さんも父さんも、それ以上は言わなかった。
悠真も話を広げず、テレビへ視線を戻す。
公開された情報で説明できることは、それでいい。
自分が知っていることまで、家族へ話す必要はなかった。
◇
部屋へ戻り、もう一度山の資料を広げる。
朝までなら、見る場所はだいたい決まっていた。
道。
境界。
ポケモンの分布。
使えそうな場所。
今日になって、そこへ知らない地形が増えた可能性まで出てきた。
「買った時とは結構変わってそうだな」
『ポリ』
「まあ、シンオウが来たんだから多少変わるとは思ってたけど、洞窟まで増えるとは思ってなかった」
どこまで変わっているのかは分からない。
特に気になるのは、レジアイスが消えた方向だった。
自分の山から見れば奥側。
しかも、その近くで新しい洞窟まで確認されている。
ただの偶然かもしれない。
実際にはまったく繋がっていないかもしれない。
「……まあ、明日見ればいいか」
今の段階で、それ以上考えても仕方がない。
まず自分の土地がどう変わったのかを見る。
リングマも連れていく。
ポッポとニドランの育成も、そのうち始める。
ポッポは最終的にピジョットまで。
ニドランはニドクインまで。
家族にはまだ、何も話さない。
話さなくて済む間に、できる準備だけ進めておけばいい。
政府へ名乗り出るのも、もう少し先だ。
九州はまだ片付いていない。
北海道では今日から新しいポケモンが増え、そのうえレジギガスたちまで現れた。
「……ほんと、いつ落ち着くんだろうな」
『ポリ』
「まあいいか。こっちはこっちでやろう」
窓の外では、父さんのポッポが畑の上を飛んでいる。
少し離れた電線には、今日から北海道へ加わったムックルが数羽並んでいた。
待っていたシンオウは来た。
なら、山でやりたかったことも始められる。
悠真は地図を手元へ寄せ、レジアイスが消えた方向をもう一度だけ眺めた。
「……近いんだよなぁ」
気にはなる。
かなり。
それでも今は、ただ近いというだけだ。
「明日、まず山だな」
『ポリ!』
世界は相変わらず騒がしい。
だからといって、自分の予定まで全部止めておく理由はなかった。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい