ポケモン現代入り 作:ささみ
翌朝、昨日捕まえたポケモンたちのボールを机の上へ並べてみると、改めてその多さに少し笑ってしまった。
ビッパにビーダル、スボミー、ロゼリア。ラルトスが2匹。それから沢で捕まえたコダックとゴルダック。途中から数えるのをやめていたせいか、山から帰ってきた時より今の方が、随分捕まえたんだなという実感がある。
「……結構いったなぁ。まあ、あんだけ目の前にいたら捕まえるけどさ」
机の端からゲンガーがにゅっと顔を出し、楽しそうに笑う。
「何笑ってんだよ。昨日一番楽しそうだったのお前だろ。逃げる奴の前に出るたび、めちゃくちゃいい顔してたからな?」
「ゲンゲン」
「否定する気ないな、こいつ」
ゲンガーは悪びれもせず、そのまま机をすり抜けて反対側へ消えていった。
捕まえたこと自体は別に問題ない。元々そのつもりで大量にボールを持っていったし、こいつらにはいずれ山で暮らしてもらうつもりでもいる。
ただ、昨日捕まえて今日になったら山へ連れていき、そのまま好きに暮らせと放すのも何か違う。
性格もよく分からないし、俺や今いる手持ちをどう見ているのかも分からない。これから同じ山で顔を合わせるなら、せめて見ただけで逃げられるような関係ではなくなっておきたい。
「……でも、これ家でやるのは無理だよな」
庭へ全員出した光景を想像し、すぐに首を振る。
狭いわけではないが、ビーダルやゴルダックまで混ざれば流石に窮屈だ。そこへ元からいる連中まで加われば、落ち着いて様子を見るどころではない。
なら山でやればいい。
そう考えた直後、今度は餌や水、回復用品なんかを背負って毎回山へ入る自分が浮かんだ。
「……先に小屋作った方が楽だな、これ」
口にしてみると、妙にしっくりきた。
山の整備なんて、これからいくらでもやることが出てくる。道も電気も水も、そのうちどうにかしなければならないだろうが、最初から全部揃える必要はない。
今欲しいのは、荷物を置けて、雨が降れば逃げ込めて、餌や水を置いておける場所だ。
「プレハブでいいだろ。足りなくなったら、その時増やせばいいし」
家を建てるわけではない。
山へ通うための、最初の拠点が一つあれば十分だった。
◇
必要なものを揃えるのに、そう時間はかからなかった。
組み立て式のプレハブ小屋に、棚と作業机、折り畳みの椅子。照明や小型冷蔵庫を動かすための大容量ポータブルバッテリーと、小型の発電機も用意する。
電気を山まで引くのはまだ先でいい。普段はバッテリーを使って、足りなくなった時や工具を使う時だけ発電機を回せば、当面は困らないだろう。
水を入れる容器や燃料、工具、餌や世話道具なんかもまとめて揃えた。
「最初から全部置こうとするとキリないしな。使ってみて足りないもの増やせばいいか」
そうして数日後。
山の入口近くまで運んでもらった資材を前にして、俺は腰へ手を当てた。
ここから先は車では入れない。
小屋を置きたいのは、以前歩いた範囲より少し奥。人間だけなら、わざわざそこへ資材を運び込もうとは思わなかったかもしれない。
でも、今は俺一人ではない。
「リングマ、この辺の重いやつ頼める? 全部持たせる気はないから、そんな顔すんなって。バタフリーにも手伝ってもらうし、俺も持つからさ」
「グゥ……」
積まれた資材を見てから俺を見る。
露骨に気が進まなそうだった。
「まあ、そうなるよな。じゃあ今日の飯ちょっと増やすから。終わったら好きなだけ食っていいぞ」
「グゥ!」
「急に元気になるじゃん」
さっきまで落ちていた肩が目に見えて持ち上がり、思わず笑う。
俺も自分の荷物を背負い、バタフリーにはリングマが抱える部材の反対側を「ねんりき」で支えてもらうことにした。
「全部浮かせなくていいからな。リングマが持つ方に合わせて、こっちが地面につかないくらいで――うん、その辺。そのままで頼む」
「フリィ」
長い部材の端がふわりと持ち上がる。
重量そのものはリングマが受け持っているが、傾きがなくなるだけで随分歩きやすそうだった。
「これだけでも全然違うな。リングマ、大丈夫そう?」
「グゥ」
「よし。じゃあ行くか」
人間だけなら、まず道をどうするかから考えただろう。
車を入れられるようにして、場合によっては重機も必要になる。でもポケモンがいるだけで、その辺りの前提が簡単に崩れる。
「改めて考えると便利すぎるな、お前ら。いや、ちゃんと褒めてるからな?」
「フリ?」
「リングマも。飯増やすって約束も忘れてないから」
リングマが少し得意そうに鼻を鳴らす。
こういう時だけ妙に分かりやすい。
◇
道の途中で、昨日捕まえたポケモンたちも何匹か外へ出してみることにした。
何か手伝わせたいわけではない。ただ、俺たちと一緒に歩かせてみたかった。
最初に出したのはラルトスの2匹。
光が収まった瞬間、揃って身体を強張らせる。
「おはよう。……って言っても、昨日あんだけ追い回した相手に急に安心しろってのも無理だよな。今日は何もしないから、好きなとこ歩いてていいぞ」
「ラル……」
「ラルト……」
一匹は俺を見て、もう一匹は木材を抱えているリングマを見上げていた。
まあ怖いだろうな、とは思う。
無理に近づくのはやめて、そのまま先へ歩き始めた。
しばらくして振り返ると、2匹とも少し距離を空けながらついてきている。離れてはいるが、逃げようともしていない。
それだけで今は十分だった。
さらに進んだところでゴルダックも外へ出す。
「ゴル」
こっちはラルトスほど露骨には警戒しなかった。
俺を見たあと、リングマ、バタフリーへ視線を移し、最後にリザードをじっと見る。
「やっぱそこ気になるか。昨日やり合ったもんな」
「リザ」
リザードも真正面から見返した。
数秒、そのまま動かない。
「いや、今日はやらなくていいからな? せっかく一緒に歩かせてんのに、いきなり第2戦始められても困るから」
声をかけると、リザードが少しだけ不満そうに顔を逸らす。
ゴルダックもそれ以上は何もせず、俺たちから少し離れた位置を歩き始めた。
「……今ちょっと残念そうだったろ、お前」
「リザァ」
「その返事、全然否定になってないからな」
足元からゲンガーの笑い声がする。
「お前も面白がんなって」
そんなやり取りを、後ろからラルトスたちが見ていた。
リングマへ声をかける時も、バタフリーに「ねんりき」で位置を直してもらう時も、リザードと話している時も、片方のラルトスがよくこちらを見ている。
何を感じ取っているのかは分からない。
ただ、昔からいる連中が俺のそばで怯えていないことくらいは、たぶん伝わっている。
◇
小屋を置く場所は、前に山を歩いた時から目を付けていた。
入口からはある程度奥に入るものの、その先へ向かう時にも使いやすい。沢までも極端には遠くなく、少し高くなっているので水が増えてもここまで来ることはなさそうだった。
木々の間も比較的開けている。
何匹かポケモンを出しても窮屈にはならない。
「やっぱここだな。休むにも丁度いいし、この先に行く時も使いやすそうだ」
荷物を下ろしたリングマが、大きく息を吐いた。
「お疲れ。……って言いたいところだけど、まだ組み立て残ってるからな。そんな顔すんなって。ここまで運んだ時点で一番しんどいところは終わってるよ」
「グゥ……」
「たぶん」
余計な一言を足したせいで、じっと見られた。
「いや、本当にほぼ終わりだから」
建物を一から作るわけではない。
地面を軽く整えて、部材を合わせ、固定していくだけだ。
それでも人間一人なら面倒な作業なのは変わらない。
「リングマ、そっちもう少し右。バタフリーはそのまま支えててくれれば――あ、ごめん逆。俺から見て右だ!」
「グゥ!?」
「フリィ!」
壁材が傾きかけ、バタフリーの「ねんりき」で途中から持ち直す。
「危な……今のは完全に俺が悪い。ごめんって。リングマ、飯もう一段増やすから機嫌直してくれ」
「グゥ」
「許すの早いなぁ」
そんな調子で作業を続けているうちに、最初はただ面倒だった小屋作りも少しずつ楽しくなってきた。
バタフリーが部材を支え、リングマが位置を合わせ、俺が固定する。リザードは火を使われても困るので周囲を見てもらい、ゲンガーは時々どこからともなく顔を出しては覗き込み、最後まで手伝っているのか邪魔しているのかよく分からない。
少し離れた場所では、新入りたちがそんな俺たちを眺めていた。
昼をかなり回った頃、最後の固定を終える。
「……できたな」
数歩下がって眺める。
山の中にぽつんと建った、小さなプレハブ小屋。
立派なものではないし、景色に馴染んでいるとも言い難い。それでも朝まで何もなかった場所に、雨風を凌げる建物がちゃんと立っている。
「思ったよりちゃんとしてるな。お前らがいなかったら、こんな奥まで持ってこようとも思わなかったわ」
「フリィ!」
「グゥ!」
「はいはい。ちゃんと分かってるって。飯も忘れてないから」
揃って得意そうにする2匹を見ながら、小屋の扉を開けた。
中には新品特有の匂いが残っている。
まだ空っぽで、殺風景だった。
けれど、ここから物を置いていけばいい。
「うん。最初はこれで十分だな」
◇
棚や机を運び込み、餌や回復用品、水を置く。
壁際にはポータブルバッテリーを置いて、照明と小型冷蔵庫も繋いだ。スイッチを入れると、薄暗かった小屋の中が白く照らされる。
「おお、ちゃんと使える。これだけでもかなり違うな」
「ゲン」
「うわっ……お前、机の下から急に出てくるなよ。普通にびっくりするだろ」
笑っているゲンガーを押し退け、外へ出る。
発電機も一度だけ動かしてみた。
低いエンジン音が山の中へ響いた途端、周囲にいたポケモンたちが一斉にそちらを見る。
ラルトスの片方など、分かりやすく身体を縮めていた。
「……やっぱ山だとうるさいな。普段はバッテリーでいいか。こっちは本当に必要な時だけでいいや」
すぐに止める。
音が消えると、風に揺れる葉や遠くから聞こえる鳴き声が、ゆっくりと戻ってきた。
「俺もこっちの方が好きだわ」
静かになった山の中で息を吐く。
◇
一通り片付いた頃には、もう夕方が近かった。
小屋の前へ餌を入れた器を並べ、新入りたちも順番に外へ出す。
「今日は色々付き合わせたし、腹減ってるだろ。食いたい奴から好きに食っていいぞ。俺の近くまで来る必要もないからな」
真っ先に動いたのは、当然のように昔からいる連中だった。
リングマは自分の器を見たあと、確認するように俺を見る。
「増やしてあるって。今日かなり頑張ったし、そのくらいはいいよ」
「グゥ」
「満足そうだなぁ」
バタフリーも近くへ降り、リザードも自分の分を食べ始める。
新入りたちは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
ビーダルは餌より先に周囲を歩き回り、しきりに沢の方向を気にしている。ロゼリアは草の多い場所まで離れ、そこからこちらを見ていた。
コダックは少し離れたところで、いつも通り頭を抱えている。
「お前は場所変わってもあんまり変わらんな。まあ腹減ってるなら食っとけよ」
「コダ?」
「うん、気にしなくていい」
ゴルダックは餌を見ても、すぐには近づかなかった。
俺を見て、リザードを見る。
「別に取らないし、変なもんも入れてないよ。警戒するなとは言わないけど、腹減ってんなら食った方がいいぞ」
「ゴル……」
しばらく様子を見たあと、一番俺から離れた器へ近づいていく。
「まあ、最初はそんなもんか」
無理に距離を縮める必要はない。
その隣で、ラルトスの2匹はもっと分かりやすく迷っていた。
近づきたいらしい。
でも、俺が少し身体を動かすだけで足が止まる。
「……俺が動くと怖い?」
「ラル……」
「分かった。じゃあ座ってるから、食いたくなったら来ればいいよ」
折り畳み椅子へ腰を下ろす。
なるべくそちらを見ないようにして、リングマへ今日の働きを改めて褒めたり、横から餌を狙おうとするゲンガーを止めたりしているうちに、小さく草を踏む音がした。
横目だけで見る。
片方のラルトスが、さっきより近い。
まだ手を伸ばせる距離ではない。
でも昨日なら、俺から離れるために使っていた距離だった。
声をかけるのはやめた。
ラルトスはしばらく俺たちを見たあと、餌へ近づいて一つだけ取る。そのまま少し離れてから、ようやく口へ運んだ。
「……食ったな」
つい小声が漏れる。
「ゲンゲン」
「だからお前は静かにしてろって。せっかく来たのに逃げるだろ」
顔を出しかけたゲンガーを手で押し戻す。
先に食べた一匹を見ていたもう片方も、しばらくすると恐る恐る近づいてきた。
触らせてくれるわけではない。
懐いたと呼ぶにはまだ早い。
それでも昨日より、明らかにこちらへの警戒は薄くなっていた。
◇
食事が落ち着いたあとは、特に何をするでもなく小屋の前で過ごした。
捕まえたポケモンたちも、それぞれ好きな場所へ散っている。
これから何度かこうして一緒に過ごせば、性格も少しずつ見えてくるだろう。
何を好むのか。
どこで暮らしたがるのか。
他のポケモンとどう接するのか。
そういうものを見てから山へ放した方がいい。
ぼんやりそんなことを考えていると、少し離れたところにいたラルトスの片方が、不意に顔を上げた。
森の奥を見ている。
「どうした?」
「ラル……」
その視線は動かない。
少ししてから、遠くで甲高い鳴き声が響いた。続いて別の声が重なり、枝葉が揺れる音まで聞こえてくる。
「……また揉めてんのか」
そこで、ラルトスへ目を戻す。
音が聞こえるより前から、こいつは向こうを気にしていた。
「そうか。お前ら感情分かるんだもんな。今のも先に何か感じてたのか?」
「ラル?」
「まあ、聞いたって分からんか」
つい笑ってしまう。
けれど、森の奥を眺めているうちに、ふと別のことを考えた。
この山は広い。
今だって、あちこちでポケモン同士がぶつかっている。
いずれ住む場所が決まって多少は落ち着くだろうが、それで全部の争いがなくなるわけでもない。水場や餌場を巡って揉めることはあるだろうし、強い個体が周囲を追い回すことだってある。
その全部を俺が見て回るのは無理だ。
「だったら……こっちで強い奴育てて、それぞれの場所をある程度まとめてもらえばいいのか」
口に出してから、近くにいるゴルダックへ目を向ける。
こいつは昨日、沢を自分の場所にしようとしていた。
周囲のコダックより強く、簡単には退かない性格でもある。
「お前なんか、水場任せるにはかなり向いてそうなんだよな。まあ、その前にもう少し俺らに慣れてもらわないと困るけど」
「ゴル」
ゴルダックは何を思ったのか、少しだけ顔を逸らした。
他の場所にも同じような個体を置いていけばいい。
その場所を好んでいて、強くて、周囲から簡単には追い払われない奴。
ただ、それぞれが自分の場所だけ見て好き勝手にしていたら、結局どこかでまたぶつかる。
「……その辺までまとめて見られる奴がいると楽なんだけどな」
自然とラルトスへ視線が向いた。
森の奥を気にしていた個体が、俺に見られて首を傾げる。
「お前ら、そういうの結構向いてそうなんだよ。周りの感情が分かるなら、揉め事にも早く気づけるだろうし」
「ラル?」
「今言っても分かんないよな。でもまあ、まずは強くなってもらわないとな。何か起きてるって分かっても、お前まで追い払われたらどうしようもないし」
ラルトスはしばらく俺を見ていた。
何を感じ取ったのかは分からない。
ただ、その場から離れることはなかった。
俺は椅子へ深くもたれ、目の前の景色を眺める。
今日建てたばかりのプレハブ。
外にはポケモンたちがいて、棚には餌と水がある。電気はバッテリー頼みで、発電機を回せば山中に音が響く。
まだ足りないものなんて、いくらでもある。
それでも昨日までは、ここには何もなかった。
「まあ……最初はこんなもんでいいか」
小屋が一つあるだけなのに、昨日とは随分違って見える。
これから山へ放したポケモンたちも、ここを覚えてくれるかもしれない。
腹が減った時。
怪我をした時。
何となく顔を出したくなった時。
そんな時に戻ってくる場所になれば、それでいい。
草を踏む小さな音がして、横を見る。
さっきのラルトスが、いつの間にかもう一歩だけ近くへ来ていた。
目が合う。
「ラル」
「……ん?」
それ以上は近づかない。
俺も手は伸ばさなかった。
少しだけ笑って、そのまま前へ視線を戻す。
昨日よりは近い。
今は、それで十分だった。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい