ポケモン現代入り 作:ささみ
こうやって何話か投稿するといつも思うが、半分近く閑話なんだなぁ……メインの話は未だシンオウ、ぶっちゃけ今後の展開的にアローラが1番荒れる可能性高いですけども
数日ぶりに山へ入ると、前に来た時より少しだけ静かになったような気がした。
もちろん、本当に静かなわけじゃない。遠くでは何かが枝を揺らし、時折、鳴き声に混じって技らしい音も聞こえてくる。ただ、最初の日みたいに、どこを向いても何かしら揉めているような騒がしさは薄れていた。
「もう住むとこ決め始めてんのかなぁ」
そう口にしてから、いや、まだ数日しか経ってないかと思い直す。
とはいえ、ポケモンたちが人間と同じ感覚でのんびり新居を探すとも限らない。昨日まで落ち着かなかった場所に、今日は同じ種類が固まっている、なんてこともありそうだった。
そんなことを考えながら小屋までの道を歩く。
今日はいつもの連中に加えて、ラルトスが2匹とゴルダックも連れてきた。前回みたいな大量の資材はないので、先を歩くリングマの足取りもどことなく軽い。
「今日は木材ないから安心していいぞ。毎回来るたび荷物持たされると思ってた?」
「グゥ」
「……その顔は思ってたな。悪かったって、あれは小屋建てる時だけだから」
振り返ったリングマが、まだ少し疑わしそうに鼻を鳴らす。
根に持ってんなぁ。
笑いながら後ろを見ると、2匹のラルトスが少し離れて並んで歩いていた。
最初に捕まえた時と比べれば、これでも随分変わった。
俺に懐いた、というにはまだ早い。ただ、俺が振り返っただけで距離を取ったり、そのまま逃げようとしたりはしなくなった。
その2匹も、よく見ていると結構違う。
片方はずっと周囲を気にしていた。森の奥から鳴き声がすれば顔を上げるし、何も聞こえていないのに急に立ち止まって、木々の向こうを見ていることもある。
もう片方は、どちらかといえば俺たちの方が気になるらしい。
ゲンガーが影へ潜れば足元を覗き込み、バタフリーが頭上を横切れば首ごと動かして追いかける。俺と目が合うと一瞬だけ逸らすくせに、しばらくするとまた見ている。
「お前ら、同じラルトスなのに結構違うな。そっちは俺らばっか見てるし……お前はさっきから森ばっか見てるし」
「ラル?」
「いや、怒ってないって。見てたら分かりやすいなって思っただけ」
好奇心の強い方が首を傾げ、その横で、もう一匹はまた森の奥へ視線を向けていた。
前回来た時も、こいつだけ先に何かへ気づいていた。
偶然じゃなければ、やっぱり感情を拾っているんだろう。
そういうのを山の見回りに使えたら、かなり楽になる気はする。
……まあ、今の段階でそこまで考えるのは早いか。
「とりあえず今日は、お前らもちょっと戦ってみような。無理そうなら途中でやめればいいから」
「ラル……?」
当然ながら、きょとんとされた。
「まあ、今説明しても分かんないよな。行けばそのうち分かるって」
自分で言っておいて、雑だなと思う。
小屋へ着いて荷物を下ろし、一息ついてから再び山へ出た。
今日は捕まえるのが目的じゃない。
一応ボールは持ってきている。何か凄く気になる奴でも出てくれば話は別だが、昨日みたいに片っ端から捕まえるつもりはなかった。
まずはラルトスたち。
山で過ごしてもらうにしても、この辺にいる野生と出会うたび俺たちの後ろへ逃げ込んでいたら大変だ。
「別に絶対勝てって話じゃないからな。危なかったらこっち戻ってくればいいし、どうにもならなかったらリングマとかリザードに任せればいいから」
後ろを親指で示す。
「リザ」
「グゥ」
「ほら。この辺が後ろにいるうちは、そうそう酷いことにはならんだろ」
2匹のラルトスが振り返る。
好奇心の強い方はリングマを見てから、少しだけ肩の力を抜いたように見えた。
一方、もう片方は相変わらず周囲を気にしている。
近くにこれだけ強い味方がいても、気になるものは気になるらしい。
そのまま歩いていると、前方の草ががさりと揺れた。
出てきたのはビッパだった。
向こうも俺たちを見つけて足を止める。
「お」
すぐ逃げるかと思ったが、そうでもない。
こちらを見ながら鼻を鳴らし、少し腰を落としている。
「……もしかしてやる気?」
ビッパは答えない。当然だけど。
ただ逃げる様子もないなら、最初の相手にはちょうどよさそうだった。
「そっち、ちょっとやってみる?」
好奇心の強いラルトスへ声をかける。
「ラル?」
「あのビッパと。嫌なら別にいいけど……どうする?」
ラルトスは俺を見て、それからビッパを見る。
また俺を見る。
「いや、俺見ても答え出ないぞ」
思わず笑ってしまった。
それでも少し迷ったあと、ラルトスは自分から一歩前へ出た。
「お、行くんだ。じゃあやってみようか」
意外と度胸がある。
ビッパが短く鳴き、ラルトスも少し身構えた。
「そんな力入れなくていいって。まず相手見とけばいいから」
そう言っている間に、ビッパが先に地面を蹴った。
「来た、避けて!」
「ラル!」
ラルトスの姿がぶれる。
次の瞬間には同じ姿がいくつも並び、ビッパがその一つを突き抜けた。
「お、いいじゃん! そのまま、ねんりき!」
「ラルト!」
振り返ったビッパの身体がふわりと浮き、そのまま横へ押し飛ばされる。
地面を転がったビッパはすぐに起き上がった。
まだ逃げない。
ラルトスも、さっきまでより少し姿勢が前へ出ていた。
一度うまくいって、怖さより面白さが勝ったのかもしれない。
「……もしかして、お前こういうの結構好き?」
「ラル!」
「なんか急に元気になったなぁ」
もう一度向かってきたビッパをかわし、「ねんりき」で押し戻す。
何度か繰り返しているうちに、今度はビッパの方が嫌になったらしい。
少し距離を取ってこちらを見たあと、くるりと背を向けて森へ走っていった。
「あ、行った。……まあ十分か。お疲れ」
「ラル!」
「何その顔。勝ったって分かってんの?」
こちらへ戻ってくる足取りが、来る時より明らかに軽い。
ちょっと得意そうにも見える。
褒めているのが伝わったのかもしれない。
そう思ってもう一匹を見ると、こっちは随分様子が違った。
「……大丈夫か?」
「ラル……」
ビッパはもういないのに、さっき戦っていた場所をじっと見ている。
身体にもまだ少し力が入っていた。
「怖かった?」
答えは返ってこない。
でも、さっきのビッパが飛び出してきた時のことを思い返して、なんとなく引っかかった。
「あー……そういうことか?」
こいつは相手の感情を感じられる。
俺には、ビッパが走り出して初めて「あ、来るな」と分かった。
でもこいつには、そのもっと前から何か伝わっていたのかもしれない。
「向こうが怒ってんのとか、やる気なのとか……先に分かっちゃう?」
「ラル……」
「そりゃ怖いか」
便利そうだなとしか考えていなかったけど、本人からすれば話が違う。
相手が何もしていないうちから、自分へ向いている嫌な感情だけ先に届く。
それがどんな感じなのか、俺には想像するしかない。
「まあ、急がなくていいよ。今日ちょっとやって無理そうなら、また今度でもいいし」
頭へ手を伸ばしかけて、途中で止めた。
まだ撫でさせてもらえるほど近くはない。
誤魔化すように自分の頭を掻いて、そのまま歩き出す。
次に出会ったのはビーダルだった。
沢へ下りる途中、木の根元を嗅ぎ回っていた一匹がこちらへ気づき、ゆっくり顔を上げる。
さっきのビッパより身体も大きい。
こっちはちょっと強そうだ。
「……どうする? さっきより大きいけど、やってみる?」
慎重なラルトスへ声をかける。
すぐには動かなかった。
俺を見る。
ビーダルを見る。
また俺を見る。
「嫌ならやめとこう。別に今日絶対やらせたいわけじゃないし」
そう言うと、ラルトスはしばらく迷ったあと、恐る恐る一歩前へ出た。
「……行くか。じゃあ、無理だと思ったらすぐ戻ってこいよ」
ビーダルがこちらへ向き直る。
その瞬間、ラルトスの肩が跳ねた。
まだ動いてもいない。
「もう分かるんだな」
小さく呟く。
「大丈夫。来るって分かってるなら、ちょっと早めに動けばいいから。焦んなよ」
「ラル……」
こちらを見る目に、さっきより不安がある。
大丈夫と言ったところで、怖いものは怖いだろう。
それでもラルトスは前にいた。
次の瞬間、ビーダルが地面を蹴った。
「横!」
ラルトスも動く。
ただ、身体がついてこなかった。
「ラッ……!」
まともにぶつかられたわけではない。
それでも身体を掠められ、その勢いで地面へ転がる。
「おい、大丈夫!?」
ラルトスが慌てて起きる。
まだ動ける。
けれど、ビーダルがもう一度こちらへ向き直った途端、また身体が強張った。
「ラル……!」
次は迷わなかった。
くるりと背を向け、そのまま俺のところまで走ってくる。
「おっと……まだ無理か。おいで」
足元まで来たラルトスの前へリザードが出た。
「リザード、もういいよ。追い払うだけで頼む」
「リザ!」
リザードと睨み合ったビーダルは、しばらくその場に残っていたものの、やがて分が悪いと思ったらしい。少しずつ後退し、そのまま森の奥へ消えていった。
俺は足元へ視線を落とした。
ラルトスはまだ脚のすぐそばにいる。
「……痛いとこない?」
「ラル……」
「見せてみ」
しゃがんで少し身体を覗き込む。
目立った怪我はなさそうだ。
ほっと息を吐く。
「よかった。びっくりしたわ」
勝てなかったことより、そっちの方が気になっていた。
「別に逃げたっていいよ。俺も怖かったら逃げるし。まあ俺の場合、後ろにこいつらいたら結構強気になるかもしれんけど」
「リザ?」
「お前ら頼りにしてるって話」
リザードがちょっと嬉しそうに胸を張る。
その横から、好奇心の強いラルトスが近づいてきた。
「ラル?」
「ラル……」
逃げてきた相方の顔を覗き込み、小さく鳴き合う。
「何話してんだろうな」
分からない。
でも、さっきまで強張っていたラルトスの身体から少しずつ力が抜けていくのを見て、俺もようやく肩の力を抜いた。
そのまま続ける気にはならなかったので、沢の近くで一度休むことにした。
倒木へ腰を下ろして飲み物を開ける。
リングマは少し離れたところへ寝転がり、リザードは沢の水を覗き込んでいた。ゴルダックは水辺まで行くと、手を水へ入れたり流れの中を覗いたりして、妙に熱心に周囲を見ている。
やっぱ水辺好きなんだな。
そんな様子をぼんやり眺めていると、いつの間にか2匹のラルトスも近くへ来ていた。
好奇心の強い方はもう先ほどの戦いを気にしていないらしく、影から半分だけ身体を出したゲンガーを不思議そうに覗き込んでいる。
もう片方は、俺からそう離れていないところに座っていた。
「さっき怖かったな」
「ラル……」
「なんかさ、周りのこと分かるのって便利なだけじゃないんだな。俺、お前らのこと知ってるつもりだったけど、こういうのは実際見ないと分かんないわ」
ラルトスがこちらを見る。
「向こうが殴ってくるまで何考えてるか分からない方が、案外気楽なのかもな」
言ってから、少し考える。
「……いや、それはそれで怖いか」
自分で否定して、苦笑する。
結局どっちが楽なのかなんて俺には分からない。
ただ、今のラルトスには少し重い能力なのかもしれなかった。
「でもまあ、先に分かるなら避けるのにも使えるだろ。そのうち慣れたら、逆に有利になるんじゃない?」
断言するほどの自信はない。
けれど、そうなればいいとは思う。
俺が笑ったところで、ラルトスの視線が不意に外れた。
「ん?」
沢の下流を見ている。
さっきまでとは違う、何かを探るような顔だった。
「また何かいる?」
俺も同じ方向を見る。
特に何も見えない。
耳を澄ませても、沢の音と木々が揺れる音くらいしか聞こえなかった。
「……気のせい?」
ラルトスは視線を外さない。
少し待っていると、遠くから鳴き声が聞こえてきた。
続いてもう一つ。
さらに別の声も重なる。
「あ、本当にいた」
思わずラルトスを見る。
「お前、やっぱ先に分かってんの?」
「ラル……」
「すげぇな」
単純に感心した。
立ち上がって荷物を持つ。
「せっかくだし見に行ってみようか。嫌な感じだったら途中で止まればいいし」
沢沿いを少し下ると、水際に何匹かのポケモンが集まっていた。
ビッパとビーダル。それに少し離れた場所にはコダックもいる。
まとまって行動しているというより、水を飲みやすい場所や開けた場所にそれぞれ寄ってきて、結果的に近くなりすぎたように見えた。
「まだそこら中でやってるなぁ」
最初の日ほどではない。
それでも、条件のいい場所に何匹も集まれば揉めるらしい。
一匹のビーダルがビッパを追い払い、その先へまた別のビッパが入ってくる。少し離れたコダックは巻き込まれたくないのか、じりじりと距離を取っていた。
「これ毎回俺が間入るのは無理だよな……」
広さを考えれば、当たり前だ。
そもそも全部の喧嘩を止める必要があるのかも分からない。
野生同士なら、ある程度はこうやって決まっていくものなんだろう。
ただ、酷くなりそうなところだけでも何とかできれば、少しは違うかもしれない。
そこで隣のラルトスを見る。
「お前がこういうの先に見つけてくれるなら……結構助かるな」
「ラル?」
「まあ、何をどうするかはこれからだけど」
まだ何も出来上がっていない。
思いついただけだ。
ただ、その先を試すにはちょうどいい奴が近くにいる。
「ゴルダック」
「ゴル」
水際にいたゴルダックが振り返る。
「あそこ、ちょっと行ってみない? 無理に全部追い払わなくていいからさ。これ以上荒れないようにしてくれれば」
「ゴル……」
ゴルダックはすぐには動かなかった。
俺を見て、揉めている連中を見る。
少し考えるような間があった。
「……嫌ならいいけど」
言い終わる前に、ゴルダックが沢の方へ歩き出した。
「あ、行くんだ」
ちょっと嬉しい。
「頼むわ」
まだ俺にべったり懐いているわけじゃない。
餌を食べる時だって少し距離を取る。
それでも、こっちの頼みを聞くくらいにはなってくれたらしい。
ゴルダックが近づくと、揉めていた連中も流石に気づいた。
何匹かはその時点で距離を取る。
ただ、一匹のビーダルだけが退かなかった。
「ダルッ!」
身体を低くして、そのまま向かっていく。
「ゴル」
ゴルダックが片腕を動かした。
沢の水が大きく跳ねる。
向かってきたビーダルの足が止まり、そのまま数歩押し戻された。
ゴルダックは追わない。
ただそこに立ち、じっと相手を見る。
しばらく睨み合っていたビーダルが、先に視線を外した。
それを見ていた周囲の個体も、少しずつ距離を取り始める。
「おお……」
思っていた以上にあっさりだった。
「お前、そういうの上手いな」
「ゴル」
振り返ったゴルダックが短く鳴く。
「いや、マジで。全部殴り倒すかと思ってちょっと心配してたわ」
「ゴル……」
「何その顔。信用してなかったわけじゃないって」
ちょっとだけ信用してなかったけど。
沢の中に立つゴルダックを見ながら、なんとなく前に考えていたことが形になってきた気がした。
こういう奴が水場にいて、周りから一目置かれるようになれば、俺が毎回ここへ来なくてもいい。
別の場所には、また別のポケモン。
そして何か起きた時、それに早く気づける奴がいる。
「……もしかしたら、これで結構いけるのか?」
口にしてからラルトスを見る。
まだ小さい。
さっきビーダルから逃げて俺の足元へ戻ってきたばかりだ。
「まあ、お前に全部やれってのは流石にまだ無茶だよな」
「ラル?」
「こっちの話。まず自分のこと守れるようになってから考えよう」
そう言うと、ラルトスはしばらくこちらを見上げたあと、小さく鳴いた。
「ラル」
「うん。焦らなくていいよ」
帰り道では、もう戦わせるつもりはなかった。
今日は十分だろう。
慎重な方は怖い思いもしたし、無理に続けて戦うのが嫌になられても困る。
そう思いながら歩いていると、前方の茂みからロゼリアが姿を見せた。
「ロゼ」
「……またいる」
向こうもこちらへ気づいて足を止めた。
すぐ逃げる様子はない。
両腕を少し上げ、こちらを警戒している。
「今日はもう帰るつもりなんだけどなぁ」
リザードに任せて追い払おうかと思い、横を見る。
慎重なラルトスがロゼリアを見ていた。
身体は少し強張っている。
ただ、さっきみたいに俺へ寄ってくる様子はない。
「……どうする?」
「ラル……」
「いや、ほんとに無理しなくていいぞ。さっき一回やったんだし、今日はもう終わりでもいいから」
ラルトスが俺を見る。
しばらく目が合う。
それからロゼリアへ向き直った。
小さな身体が、一歩だけ前へ出る。
「……やるの?」
「ラル」
「そっか」
ちょっと驚いた。
それと同時に、妙に嬉しくもなる。
「じゃあやってみようか。ヤバそうなら今度こそすぐ戻ってこいよ」
ロゼリアが先に腕を振るった。
葉が飛ぶ。
「来るぞ!」
「ラル!」
ラルトスの姿がぶれ、いくつにも増える。
葉がその一つを貫き、消えた。
「よし、避けた! そのまま距離取れ!」
さっきとは違う。
身体に力は入っている。
でも止まってはいない。
ロゼリアが次の攻撃へ移る前に、ラルトスが横へ動く。
「今ならいける、サイケこうせん!」
「ラルト!」
光が走り、ロゼリアへ直撃した。
「よしっ」
思わず声が出る。
ロゼリアがよろめき、それでも踏みとどまった。
また両腕を持ち上げる。
「まだ来るぞ。焦んなよ、ちゃんと見てれば――」
言い切るより先に、ラルトスが動いた。
ロゼリアの攻撃を避けて位置を変える。
俺が次を言う前に、光が走った。
「……おっ」
2発目のサイケこうせんを受け、ロゼリアの足が止まる。
しばらくこちらを睨んでいたものの、それ以上は来なかった。
一歩下がる。
もう一歩。
やがて、そのまま木々の向こうへ消えていった。
ラルトスは追いかけず、姿が見えなくなるまでその場に立っていた。
「……やったな」
振り返る。
「ラル……」
「すげぇじゃん。さっき逃げたばっかなのに、今度はちゃんと最後までできたじゃん」
嬉しくなって、そのまま近づきかける。
でも途中で一度足を緩めた。
「いや、怖かっただろうけどさ。よくもう一回やろうと思ったな」
「ラル」
「うん。今のは本当に良かった」
自分でも思っていた以上に嬉しかった。
さっきまで、怖がらせすぎたかなとか、やっぱりまだ早かったかなとか、少し気にしていたのだ。
それを自分からもう一度やって、ちゃんと相手を退かせた。
「いやぁ、良かったわ。ほんと」
笑っていると、ラルトスがこちらを見上げた。
その瞬間。
身体から淡い光が滲んだ。
「……え?」
すぐに光が強くなる。
「お、おおっ!?」
分かる。
何が起きているのかは知っている。
でも知っているのと、目の前で見るのはやっぱり違った。
「進化じゃん!」
「ゲン?」
「リザァ!」
ゲンガーが俺の影から飛び出し、リザードも駆け寄ってくる。
もう一匹のラルトスは、その場で目を丸くしていた。
光の中で小さな身体の輪郭が変わっていく。
身体が伸び、姿が変わり、やがて眩しさがゆっくり薄れていった。
「キル……」
「……キルリアだ」
知っていた名前なのに、口に出すと妙に実感が湧く。
「うわ、ほんとに進化した」
思わず近づいて――途中で止まった。
「あ」
ちょっと勢いよく行きすぎた。
ついさっきまで、こいつは俺が近づくと少し身構えるラルトスだった。
「ごめん。ちょっと嬉しくて」
「キル……」
「いや、本当に。それだけだから」
そこで待つ。
キルリアが俺を見ている。
俺も見返す。
何を考えているのかは分からない。
向こうにはこっちの感情が多少分かってるんだろうけど、それはそれでなんかずるい。
そんなことを思っていると、キルリアが自分から一歩近づいた。
「……ん?」
もう一歩。
さっき俺が止まったところまで来る。
少し迷ってから、手を差し出してみた。
「触る? 嫌ならいいけど」
キルリアは俺の手を見る。
しばらくそのまま見てから、小さな手をそっと重ねてきた。
「……おお」
じわっと笑いが浮かぶ。
「なんか、進化したことよりこっちの方が嬉しいかもしれん」
「キル?」
「いや、進化も嬉しいよ。どっちも嬉しい」
言い直すと、キルリアが少し目を細めた。
多分こっちが喜んでいるのは、言葉にしなくても伝わっている。
「それ便利だけど、こっちがちょっと恥ずかしいな」
「キル」
「……今のも分かってたりする?」
答えの代わりに、どこか楽しそうな顔をされた。
「マジかぁ」
思わず笑う。
そこへ、もう一匹のラルトスがそろそろと寄ってきた。
「ラル?」
進化した相方を下から見上げている。
「気になるよな。さっきまで同じだったもんな」
「ラル」
「お前もそのうちだよ。別に急がなくていいから」
何となく頭へ手を伸ばす。
途中で、逃げるかなと思った。
けれど今回は動かない。
「……触っていい?」
「ラル……」
嫌そうではない。
そっと頭へ手を乗せる。
小さな身体が一瞬だけ固くなったものの、逃げることはなかった。
「おお……お前も今日はいいの?」
「ラル」
「そっか」
それだけのことなのに、なんだか妙に嬉しかった。
小屋へ戻る頃には、日がかなり傾いていた。
餌を用意すると、新入りたちも前より迷わず近づいてくる。
ゴルダックは相変わらず少し離れた場所を選んだ。それでも、俺が器を置いたあと長いこと様子を見ることはなくなっている。
ラルトスはキルリアの近く。
そのキルリアは、俺が座る椅子からそれほど離れていない場所で食べていた。
「……ほんと、ちょっとずつ変わるもんだな」
「ゲンゲン」
「お前は最初から距離感おかしかったから参考にならん」
椅子の背から逆さまに垂れてきたゲンガーの顔を片手で押し返す。
そのまま前を見ると、木々の向こうが夕日に染まり始めていた。
遠くからは、今もポケモンたちの鳴き声が聞こえる。
最初の日ほど滅茶苦茶ではなくなった。
それでも、この山全部が落ち着くにはまだしばらくかかるんだろう。
沢にはゴルダックみたいな奴がいて。
他の場所にも、その場所に合う強い奴がいて。
何かおかしなことが起きた時、それに気づける奴もいる。
そうなれば、俺があちこち走り回る必要は減りそうだ。
……とは思う。
「そんな上手くいくかは、やってみないと分かんないけどな」
「キル?」
キルリアが顔を上げた。
「ああ、いや。お前に全部押しつけようとか、そういう話じゃないぞ?」
なんとなく言い訳する。
「たださ、お前が今日みたいに先に気づいてくれたら、俺はかなり助かるなって。強くなったら、もっと色々できそうだし」
「キル」
「だから……まあ、期待はしてる」
言ってから、少し気恥ずかしくなる。
こっちの感情が分かる相手にこういうことを言うと、言葉以上に伝わっていそうで落ち着かない。
キルリアはしばらく俺を見てから、嬉しそうに目を細めた。
「ほら、やっぱ分かってるだろ」
「キル」
「これ、隠し事できないのちょっと嫌だなぁ」
そう言いながらも、嫌ではなかった。
椅子へ深く身体を預ける。
山をどうするかなんて、まだほとんど何も決まっていない。
今日思いついたやり方だって、これから上手くいかないところはいくらでも出てくるだろう。
それでも、小屋ができて。
捕まえた連中が少しずつ近くへ来るようになって。
そのうちの一匹が、今日はキルリアへ進化した。
「……まあ、ちょっとずつだな」
小さく呟く。
すぐ近くで、キルリアが静かに鳴いた。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい