ポケモン現代入り 作:ささみ
山へ通い始めてから、数日が経った。
最初の日こそ好きなだけ暴れていたリザードたちも、今では俺が細かく指示を出さなくても、それぞれ勝手に相手を見つけて動くようになっている。
リザードとリングマが向かい合っている日もあれば、ゲンガーがバタフリーやモルフォンを相手にしていることもある。ニョロボンは沢の近くを使い、スピアーは空を飛び回っていた。
もちろん、完全に好き放題やらせているわけでもない。
小屋の周りと、きのみやぼんぐりを植えた場所だけは壊さない。
今のところ守られているのは、そのくらいだった。
「また増えてるなぁ……」
少し離れた斜面を見る。
数日前までは普通に木が生えていたはずなのに、今では何本か倒れ、その向こうには新しい岩肌まで見えている。
「誰やった?」
「リザ」
「グマ」
リザードとリングマが揃って別方向を向く。
「同時に目逸らすなよ」
「リザ」
「グマ」
「まあいいけどさ」
そのために広く取った山だ。
人の土地へ被害を出すよりは、俺の山の木が何本か倒れる方がずっといい。ポケモンたちが動きやすい場所として、後から整えてしまえばいいくらいだった。
「ピジョン、もう1回行ける?」
「ピョー!」
返事と同時に、少し離れた木の枝に止まっていたピジョンが飛び立った。
元は父さんの肩に乗って、畑を歩き回っていたポッポだ。
山へ連れてくるようになってから重点的に育てていたこともあり、数日前にはポッポからピジョンへ進化している。
身体が大きくなった直後こそ飛び方が少し不安定だったものの、それもすぐに慣れた。
「バタフリー、付き合ってやって」
「フリー」
バタフリーも浮かび上がり、先に飛び出したピジョンを追うように高度を上げていく。
ただ速く飛ばせているわけではない。
父さんのそばに置いておくなら、喧嘩が強いだけでは困る。
周囲を見て、危ないものを見つけたら知らせる。逃げる必要があれば戦い続けずに離れる。そして父さんが一緒なら、何よりそっちを優先する。
最初は俺が細かく指示していたが、最近ではその辺りもだいぶ分かってきた。
「バタフリー、追って」
「フリー!」
上空でバタフリーが方向を変える。
ピジョンもすぐに反応し、そのまま真っ直ぐ逃げるのではなく、一度高度を落とした。木々の上を抜け、斜面へ沿うように進路を変える。
バタフリーも追う。
さすがに経験の差もあって少しずつ距離は縮まっているが、以前ほど簡単には追いつかれなくなっていた。
「そろそろ戻って!」
「ピョー!」
俺の声に反応したピジョンが大きく円を描き、こちらへ戻ってくる。
バタフリーもそこで追うのをやめた。
「いいじゃん」
飛んできたピジョンが俺の少し前へ降り、羽を広げたまま満足そうに胸を張る。
「父さんのところに戻っても、今までみたいに勝手に遠くまで行くなよ。あと、危ない奴が来ても何でも喧嘩売らなくていいからな」
「ピュロ」
「本当に分かってる?」
「ピョー!」
「……まあ、ポッポの時よりは信用するけど」
頭を撫でようと手を伸ばした、その直前だった。
「ん?」
ピジョンの身体を光が包む。
バタフリーが少し離れ、近くにいたニドリーナも振り返った。
「お、来た」
何度見ても分かりやすい。
光の中で輪郭が広がり、翼が伸びて、身体もさらに大きくなっていく。
頭から伸びた羽も長く鮮やかになり、広げられた翼が光を押し広げるように膨らんだ。
やがて光が消える。
「ピョォーッ!」
「でっか」
思わず見上げた。
ポッポだった頃とは比べ物にならない。
ピジョットは自分の身体を確かめるように一度翼を広げると、そのまま力強く羽ばたいた。
「うわっ、待て待て!」
正面から風がぶつかり、腕で顔を庇う。
落ち葉と土埃を大きく巻き上げながら、ピジョットは一気に空へ上がっていった。
「あー……速いな」
さっきまでとは明らかに違う。
山の上を大きく旋回した後、そのまま遠くへ行くこともなくこちらへ戻ってくる。
「これなら大丈夫そうだな」
少なくとも、ポッポだった頃よりはずっと安心できる。
父さんの近くで何か起きても、逃げるだけなら大抵の相手には追いつかれないだろう。戦える相手なら、そのまま追い返すこともできる。
「ピョォ!」
「はいはい。父さんに見せるのは帰ってからな」
地面へ降りてきたピジョットの胸を軽く叩く。
「ニド」
「ん?」
近くで見ていたニドリーナが、自分も忘れるなと言わんばかりに近寄ってきた。
「分かってるって。お前もかなり育ったよな」
元は実家にいたニドラン♀だ。
こっちもこの数日の間にニドリーナへ進化している。
頭を撫でると、少し嬉しそうに目を細めた。
「ニドクインにもしたいんだけどなぁ」
「ニド?」
「まだ必要な物がないんだよ」
ニドクインへの進化には、つきのいしがいる。
知識として何が必要なのかは分かっていても、現物まで都合よく持っているわけではない。
「だから、もうちょっとこのままな」
「ニド」
「そのうち見つけるから」
「ニド!」
「はいはい」
今すぐニドクインにできなくても、ニドラン♀だった頃に比べれば十分強くなっている。
実家で暮らしながら母さんの後ろをついて回っていた頃とは、身体つきからして違う。
まだ育てる余地もあるし、急いで進化させる理由もない。
「リザー!」
少し離れた場所から大きな声が響いた。
「ん?」
見ると、リザードがリングマと向かい合っている。
さっきまで普通にやり合っていたはずだが、まだ続けていたらしい。
リングマの腕を避けてリザードが横へ飛び、そのまま踏み込んで拳を振るう。リングマはそれを太い腕で受け止めた。
「まだやってたのか。そろそろ終わりにしろよ」
「リザ!」
「グマ!」
「元気だなぁ」
リングマが大きく腕を振る。
リザードは身体を沈めてそれを避けると、そのまま懐へ潜り込んだ。
動きは以前より明らかに良くなっている。
速さだけじゃない。
相手の動きを見ながら、一度引くか、そのまま踏み込むかを自分で選んでいる。リングマ相手でも、ただ真正面から力比べをすることは減っていた。
「かなり育ったよなぁ」
「ゲン」
いつの間にか隣まで来ていたゲンガーが、同じように2匹を眺めている。
「お前もだぞ」
「ゲン?」
「何で自分は関係ありませんみたいな顔してんだよ」
「ゲンゲン」
「褒めたのに」
リザードがリングマの脇を抜けて距離を取る。
リングマも追わず、その場で腕を下ろした。
どうやら向こうも終わる気になったらしい。
「今日はそこまで。何日も続けてんだから、ちゃんと休めよ」
「リザ」
「グマ」
今度は素直に離れる。
リザードは地面へ座り込むと、尻尾の炎を揺らしながら大きく息を吐いた。
ヒトカゲの頃から考えれば、こいつも随分強くなった。
ただ、まだ急ぐ必要はない。
進化する時は、そのうち来るだろう。
「ピョォー!」
上から鳴き声が響く。
見上げると、進化したばかりのピジョットがまだ楽しそうに飛び回っていた。
「お前は元気だな! あんまり遠く行くなよー!」
「ピョォ!」
返事だけはちゃんと返ってくる。
「……聞いてはいるんだよな」
「ゲン」
「お前よりはな」
「ゲン!?」
夕方になる頃には、今日の訓練も終わりにした。
全員を休ませ、きのみ等を植えた場所も軽く確認してから実家へ戻る。
車を降りると、ちょうど父さんが納屋から出てきた。
「父さん、ちょっと見て」
「ん?」
後ろへ視線を向ける。
「ピョォ」
大きな翼を畳んだピジョットが歩いてくると、父さんの足が止まった。
「……ポッポは?」
「この子」
「これが?」
「ピジョット。ちゃんと進化した」
父さんが黙って見上げる。
ピジョットはそんな反応を気にする様子もなく近づいて頭を下げ、父さんがいつものように手を伸ばすと、頭の羽を撫でられながら目を細めた。
「随分でかくなったな」
「これなら父さんのそばに置いてても、ある程度は安心できると思う」
「俺を守るために育てたのか?」
「それもあるよ。俺がまたどっか行く時もあるだろうし」
「そうか」
父さんはもう一度ピジョットを見上げる。
「ポッポの時みたいに肩には乗せられんな」
「やったら父さん潰れるよ」
「ピュロ」
「お前も乗ろうとすんなよ」
ピジョットが少し不満そうに鳴いた。
「ニド」
車の後ろから、今度はニドリーナが顔を出す。
「そっちも変わったのか」
「うん。ニドランからニドリーナ」
「ニド」
ちょうど玄関から出てきた母さんも、ニドリーナを見て足を止める。
「あら、大きくなったわね」
「ニド!」
ニドリーナはすぐに母さんのところへ行き、以前と変わらない様子で隣へ立った。
「まだもう1回進化するんでしょ?」
「するよ。でも今は必要な物がないから、しばらくこのまま」
「そうなの」
母さんは特に残念がる様子もなく、ニドリーナの頭へ手を伸ばした。
「じゃあ、しばらくよろしくね」
「ニド!」
姿が変わっても、この辺は何も変わらないらしい。
夕食を食べ、自分の部屋へ戻る頃にはすっかり暗くなっていた。
パソコンをつける。
「ポリゴン」
『ポリ』
呼ぶ前から画面の端にいたポリゴンが、中央へ移動してくる。
「前に頼んでたやつ、どう?」
『ポリ』
すぐに画面が切り替わった。
表示されたのは北海道の地図。
「お」
その上に、いくつもの印が現れる。
「結構あるじゃん」
最初に開かれたのは、機械関係の報告だった。
家電が勝手に動いた。
電源を切ったはずなのにまた付いた。
原因不明の故障が起きたのに、修理を頼んだ時には異常が消えていた。
防犯カメラが突然、誰も操作していない方向へ動いた。
「多いな」
『ポリ』
「まあ、全部ロトムなわけないか」
普通の故障もある。
勘違いだってあるだろう。
シンオウのポケモンが現れた直後なのだから、何でもポケモンと結びつけている投稿も多いはずだ。
ポリゴンがそれらを順番に消していく。
「そこまで見てるの?」
『ポリ』
「いつから?」
『ポリ』
「……頼んだ日からずっと?」
『ポリ』
「働きすぎじゃない?」
『ポリ?』
「何で不思議そうなんだよ」
最後に残った印は、一気に少なくなった。
「これが怪しいやつ?」
『ポリ』
横に発生日と時間が表示される。
「……あ」
古い順に見ていくと、場所が少しずつずれていた。
同じ場所で何度も機械が壊れているわけではない。
何かが移動しながら、その周辺にある機械へ触れているように見える。
「これ、いるんじゃない?」
『ポリ』
「ロトムっぽいなぁ」
次に表示が切り替わる。
今度は件数そのものが少なかった。
「ダンバルの方?」
『ポリ』
画像が数枚並ぶ。
どれも遠い。
山の斜面に青い何かが浮いている写真。
ドローンか何かだと思って撮影した動画。
金属みたいな物が自力で動いていたという書き込み。
「うーん……」
1枚を拡大する。
画質は悪い。
それでも、その形には見覚えがあった。
「ダンバル……だよなぁ、多分」
『ポリ』
「さすがに断定は無理か」
別の情報も見る。
投稿された場所は完全に同じではないが、ある程度まとまった範囲に集中していた。
「メタングっぽいのは?」
今度は別の候補が数件表示される。
「こっちはさらに分からんな」
『ポリ』
「まあ、狙うなら最初からダンバルって決めてるし」
地図へ戻す。
ロトムらしい報告と、ダンバルらしい報告。
どちらもまだ確定ではないが、北海道中を闇雲に探すよりは遥かにマシだった。
「ちゃんと見つかってきたな」
『ポリ』
「お前のおかげだけど」
『ポリ!』
「嬉しそうだなぁ」
椅子へ深く座る。
まだ情報は増えるだろう。
ロトムなら今もどこかの機械へ入り込んで動き回っているかもしれないし、ダンバルも同じ場所に留まっているとは限らない。
「もう少し追える?」
『ポリ』
「無理しなくていいからな。候補が絞れそうなら、そのまま頼む」
『ポリ!』
「……絶対止まらないやつだな、これ」
画面の中で、ポリゴンが早速新しい情報を探し始める。
しばらくその様子を見ているうちに、ふと思い出した。
「そういや、お前もそろそろだよな」
『ポリ?』
机の引き出しへ視線を落とす。
中には、前に用意しておいたものが入っている。
最初に出会った時から、こいつ自身も随分成長した。
戦闘だけじゃない。
情報を集め、整理して、俺の代わりに色々なことをやってきた。
今もこうして、北海道中からロトムとダンバルの手掛かりを探している。
「まあ、今やってるの終わってからでいいか」
『ポリ?』
「こっちの話」
ロトムとダンバルの情報をもう少し追ってもらう。
その間に、ポリゴン自身の方も進める準備をしておけばいい。
「とりあえず今日はここまで。ちゃんと休めよ」
『ポリ』
「その返事、信用していい?」
『ポリ』
「……まあいいか」
パソコンを閉じる前に、もう一度だけ地図を見る。
少しずつ絞られていく2つの候補。
その横では、ポリゴンがまだ新しい情報を拾い続けていた。
次にやることも、だいたい決まってきた。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい