ポケモン現代入り   作:ささみ

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第53話

 

 

 ロトムらしい機械異常を追い始めてから、さらに2日が経った。

 

 ポリゴン2はその間も情報を集め続けていたが、今朝になってようやく、実際に探しに行ってもいいと思えるところまで候補が絞れていた。

 

「この辺?」

 

『ポリ』

 

 パソコンには、シンオウのポケモンが現れてから更新された分布図と、その上にポリゴン2が集めた情報が重ねて表示されている。

 

 分布図だけで分かるのは、そのポケモンが生息している可能性が高い範囲までだ。原作での生息場所と、こっちの地形や環境を照らし合わせて予測したものだから、ロトムがいそうな地域そのものは最初からある程度絞れている。

 

 とはいえ、北海道での話だ。

 

 画面を引いて見れば一角にまとまっていても、拡大すれば候補は複数の市町村に跨っている。端から端まで車で移動するだけでも時間がかかる範囲で、その中に点々と機械異常が散らばっていた。

 

「分布だけならこの一帯。そこに実際の情報を重ねて、最近のだけ残すと……この辺りに寄ってきてるのか」

 

『ポリ』

 

 表示が切り替わる。

 

 深夜に勝手に動き出した自動販売機、突然おかしな表示を始めた電飾看板、誰も押していないのに何度も鳴ったインターホン。

 

 ほかにも大量の機械故障を拾っていたようだが、分布予測の外で起きたものや、以前から壊れていたもの、修理で原因が判明したもの、明らかな冗談や便乗投稿などは既に除外されている。

 

 残った情報を時間順に追っていくと、かなり大雑把ではあるものの、最近どの方面にいる可能性が高いのかは見えてきた。

 

「これなら行けなくはないけど……朝から回って何か所見られるかって感じだな。古いやつ全部見るのは無理だし、新しい情報を優先しよう」

 

『ポリ!』

 

「ダンバルの方は?」

 

 別の表示へ切り替わる。

 

 ダンバルも分布予測の上に目撃情報が重ねられているが、こちらは山間部に広く散らばったままだった。

 

 青い何かが浮いていた。金属みたいな物が山の中を飛んでいた。それらしい写真もいくつかあるものの、ロトム以上に範囲が広いうえ、道路から簡単に確認できる場所ばかりでもない。

 

「こっちはまだ無理だな。ダンバルはもう少し情報お願い。今日はロトム行ってみるか」

 

『ポリ!』

 

 

 

 

 必要な物をバッグへ詰めて家を出た。

 

 ついでに給油を済ませ、最初の候補地点へ向かう。

 

 朝のうちに出たものの、最初の場所へ着くまでに1時間以上かかった。

 

 そこは昨夜、自動販売機がおかしな動きをしたと投稿されていた場所だった。車を止められる場所を探し、少し歩いて目的の自動販売機を見つける。

 

「これか」

 

 投稿によれば、誰も触っていないのに購入ボタンが何度も光り、内部から妙な電子音まで鳴っていたらしい。

 

 しばらく近くで様子を見るが、今は何の変哲もない普通の自動販売機だった。

 

「何も起きないな。まあ昨日の夜の話だし、ロトムならとっくに別の機械へ移っててもおかしくないか」

 

『ポリ』

 

 少し待っても変化はない。

 

 

 

 次の候補はここからさらに離れている。

 

 車へ戻り、国道へ出た。

 

 地図の上では近い場所に印が並んでいても、実際にはそう簡単に横へ移れるわけではない。道路に沿って大きく回り、町を跨いで走っているうちに、次の地点へ着く頃にはかなり時間が経っていた。

 

 今度は店舗の電飾看板だ。

 

 現地へ着くと、確かに明かりが不規則に点滅している。

 

「お、これは――いや、まだ期待するの早いな」

 

『ポリ』

 

 少し離れて眺めていると、店から出てきた男性が看板を見上げてため息をつき、側面を軽く叩いた。一度明かりが戻ったものの、すぐにまた消える。

 

「……普通に壊れてるやつだな」

 

『ポリ』

 

「そんな残念そうにするなって。こういうのを消してくために来てるんだから」

 

 ネット上では奇妙な機械異常に見えても、現地へ来ればただの故障だったというものはいくらでもある。

 

 

 

 次の候補へ向かう頃には、もう昼が近かった。

 

 そちらも車でしばらく走る距離だったが、到着してみれば異音がするという自動販売機は単に冷却装置の音が大きいだけだった。さらに離れた場所にも怪しい情報はあったものの、今から向かえば往復だけでかなり時間を食う。

 

「古い情報追ってたら、1日何か所回れるんだこれ」

 

『ポリ』

 

「北海道で動く奴探すの、思ったよりきついなぁ」

 

 午前中から走り回ったわりに、ロトムらしいものは一度も見つからなかった。

 

 近くのコンビニで昼を買い、駐車場の隅に止めた車の中で食べながらスマホを見る。

 

 分布予測と実際の異常が重なっている以上、どこかにいる可能性は高い。ただ、ロトム自身が機械から機械へ動き回るなら、昨日や一昨日の情報を順番に追っているだけではいつまで経っても追いつけない。

 

「やっぱり新しい情報待ちだな。今までのは、いる範囲を絞る材料くらいに考えた方がよさそうだ」

 

『ポリ』

 

「今日出なかったら、一旦帰ってまた――」

 

 言い終わる前に、スマホの表示が変わった。

 

『ポリ!』

 

「ん? 何か出た?」

 

 数分前に投稿されたばかりの動画だった。

 

 自動販売機の購入ボタンが、誰も触っていないのに端から順番に光っている。撮影者自身は故障だと思っているようだが、今まで現地で見てきたものより明らかに動きがおかしい。

 

「これはかなり怪しいな。場所は……」

 

 地図を開く。

 

「うわ、そこか。ここからだと結構走るな」

 

『ポリ』

 

「でも今までで一番新しい。行くか。移動中に周辺で何か増えたら教えて」

 

『ポリ!』

 

 食べ終えたものを片づけ、すぐに車を出した。

 

 同じ候補域の中とはいえ、そこから目的地までは近所へ移動するような距離ではない。国道を走り、しばらくして別の道へ入り、さらに先へ進む。

 

 途中で何度かスマホを確認したが、新しい情報はまだ増えていなかった。

 

「頼むから着くまでその辺にいてくれよ……」

 

『ポリ』

 

「いや、ロトムに言ってる」

 

 投稿からかなり時間が経って、ようやく目的地のある町まで辿り着いた。

 

 そこからも投稿された自動販売機のすぐ横へ車を止められるわけではない。駐車できる場所を見つけて車を置き、残りは歩く。

 

「これだな」

 

 動画に映っていた自動販売機を見つける。

 

 今は何も起きていない。

 

「遅かったかな」

 

『ポリ』

 

「まあ、ここまで来るのに時間かかってるしな」

 

 周囲を確認しても、それらしいものは見えない。

 

 やっぱり移動したかと思いながらスマホへ目を戻した、その時だった。

 

 ピッ、と短い電子音が鳴った。

 

「ん?」

 

 振り返る。

 

 購入ボタンが一斉に光っている。

 

『ポリ!』

 

「おいおい、まだいたのか」

 

 ピッ、ピッ、と音が続き、光るボタンが端から順番に移っていく。

 

 今まで見てきた故障とは、明らかに動き方が違った。

 

「これなら当たりっぽいな」

 

 近づいた瞬間、すべての明かりが消えた。

 

「あ」

 

 直後、少し離れた店先の電飾看板が激しく点滅する。

 

「そっちか!」

 

 ここまで来て、ようやく移動範囲が徒歩で追える程度まで狭くなった。

 

 看板へ向かうと、近づく前に明かりが消え、今度は同じ通りの少し先にある自動販売機から電子音が鳴る。

 

「完全に移動してるな」

 

 足を速める。

 

 自動販売機へ着く直前、その側面からオレンジ色の小さな身体が飛び出した。

 

「ロト!」

 

「あっ、いた!」

 

 ロトムは宙を滑るように飛び、そのまま近くのコインランドリーへ入っていく。

 

「本当にロトムじゃん。追うぞ!」

 

『ポリ!』

 

 すぐに後を追った。

 

 店内には誰もいない。何台も並んだ洗濯機も、今のところ静かなままだ。

 

「どれ入った?」

 

『ポリ』

 

 ポリゴン2が奥へ向かう。

 

 その先にある洗濯機へ近づき、正面から覗き込む。

 

「ロトム、いるんだろ? 別に何もしないから出てこいって」

 

 返事はない。

 

 数秒待ったところで、突然洗濯機の表示が明るくなった。

 

「あ」

 

 丸い扉の向こうから、オレンジ色の顔がひょこっと覗く。

 

「ロト」

 

「いた」

 

 目が合う。

 

 ロトムはしばらくこちらを見ていたが、すぐに楽しそうに身体を揺らした。

 

「ロトッ!」

 

「あ、待て!」

 

 洗濯機から飛び出し、そのまま店の外へ抜けていく。

 

 今度は街灯へ入り、そこから自動販売機、さらに別の看板へと移動していった。

 

「速いな、お前!」

 

「ロト!」

 

 自動販売機から飛び出したロトムが、わざわざ俺の目の前を横切ってから次の機械へ入る。

 

 何度か追っているうちに、さすがに気づいた。

 

「……お前、別に怖くて逃げてるわけじゃないだろ」

 

『ポリ?』

 

 少し先の看板から、ロトムが身体を半分だけ出してこちらを見ている。

 

「遊んでるよな?」

 

「ロト!」

 

 すぐに引っ込んだ。

 

「やっぱりかよ」

 

 追いかけると、また飛び出して逃げる。こっちが遅れれば少し待ち、近づけばまた先へ行く。完全に追いかけっこのつもりらしい。

 

 途中からはポリゴン2まで楽しみ始めた。

 

 俺がロトムを見失えばポリゴン2が居場所を探し、その方向へ向かうと、ロトムはまた別の機械へ移る。

 

「今度はそっち?」

 

『ポリ!』

 

「分かった!」

 

 自動販売機の裏へ回ると、ちょうどロトムが飛び出してくる。

 

「ロト!」

 

「いた! って、また逃げるのかよ!」

 

 そんなことをしばらく繰り返していた途中で、ポリゴン2が突然動きを止めた。

 

「どうした?」

 

『ポリ』

 

 さっきロトムが入った自動販売機を見る。

 

 表示がちらちらと点滅している。

 

「まだそこにいるんだよな?」

 

『ポリ』

 

 その直後、道路の反対側にある看板も激しく点滅した。

 

「ん?」

 

 さらに少し離れた場所から、別の電子音まで聞こえてくる。

 

「待て待て。こっちにいるなら、向こうのは――」

 

 自動販売機の側面から、さっきまで追っていたロトムが顔を出した。

 

「ロト?」

 

「やっぱお前ここにいるよな」

 

「ロト!」

 

 道路の向こうでは、まだ看板が点滅している。

 

 その中から、一瞬だけ別のオレンジ色の影が飛び出した。

 

「あ」

 

『ポリ』

 

 別のロトムは俺たちの方へ来ることもなく、そのまま近くの機械へ消えていった。

 

「……やっぱり1匹じゃなかったのか。これまでの情報も、何匹か混ざってた可能性あるな」

 

『ポリ!』

 

「何匹いるんだろ。まあ、さすがにそこまでは分かんないか」

 

 別個体を追って確かめることもできる。

 

 ただ、その前に今まで一緒に遊んでいたロトムが、俺の周囲を不満そうに回り始めた。

 

「ロト!」

 

「はいはい、お前はまだ遊ぶんだろ? じゃあもう少しだけな」

 

「ロト!」

 

 今度は全力では追わず、歩いて後をついていく。

 

 するとロトムも遠くまで行かなくなった。自動販売機へ入ってすぐに出てきたり、街灯を一度だけ光らせて戻ってきたり、俺とポリゴン2の周囲を飛び回ったりしている。

 

 しばらくすると、とうとう機械へ入るのもやめて、ポリゴン2の隣へ浮かんだ。

 

「もう満足した?」

 

「ロト!」

 

「そりゃよかった。俺は朝から車乗って、着いてからお前に走らされて結構疲れたけどな」

 

 邪魔にならない場所で少し休む。

 

 ロトムは俺の顔を覗き込んだり、ポリゴン2の周囲を回ったりしている。もうこちらが近づいても逃げる様子はなかった。

 

「お前さ」

 

「ロト?」

 

 改めて目の前のロトムを見る。

 

 やっぱり欲しい。

 

 機械へ入り込めるというだけでも使い道は多いし、家電へ入ればフォルムチェンジもできる。

 

 中でも最初に試したいのはフロストロトムだった。

 

 冷蔵や冷凍は実家でも使うし、山の拠点で食料やきのみを保存する時にも便利だ。

 

「最初に試すなら冷蔵庫かな。普通の冷蔵庫でもフロストロトムになれるか分かんないけど」

 

「ロト?」

 

「お前の話だよ」

 

 1匹いれば、入る家電を変えることで色々試せる。

 

 ただ、同時に2つの機械へ入ってもらうことはできない。スマホにも欲しくなるだろうし、家電で別のことを頼みたい時も出てくる。

 

「……そのうち何匹か欲しくなりそうだな」

 

『ポリ?』

 

「今すぐ全員捕まえるって話じゃないよ。この辺に他にもいるのは分かったし、必要になったらまた探せばいい」

 

「ロト?」

 

「お前も気にするな」

 

 今はまず、目の前の1匹だ。

 

「なあ、ロトム」

 

「ロト?」

 

 バッグからモンスターボールを1つ取り出す。

 

 ロトムがそれを見て動きを止めたので、投げずに地面へ置いた。

 

「うち来る?」

 

「ロト?」

 

「今日みたいに遊べるし、機械もいっぱいあるぞ。パソコンも冷蔵庫も洗濯機もあるし、山の方にも色々置いてある。ただし、壊すのは禁止な。遊ぶなとは言わないけど、使えなくなるまでやるのは駄目」

 

「ロト……」

 

 ロトムが今度はポリゴン2を見る。

 

『ポリ』

 

 何を伝えたのかは分からない。

 

 少しの間ポリゴン2の周囲を飛んだあと、ロトムは地面に置かれたボールへ近づいた。

 

「嫌なら別にいいぞ」

 

「ロト」

 

 ボールを覗き込み、先端をつつく。

 

「ロト!」

 

 そのまま自分から触れた。

 

 赤い光が身体を包み、ロトムがボールへ吸い込まれる。

 

「あ」

 

 ボールが揺れる。

 

 もう1度揺れ、最後に小さな音が鳴った。

 

「……本当に入ったな」

 

『ポリ!』

 

 ボールを拾い上げる。

 

「よろしくな」

 

 手の中で、ボールがわずかに動いた。

 

 周囲を見ても、さっきの別個体はもう姿を見せない。

 

「この辺のロトム情報は残しといてくれる? いずれまた欲しくなると思うから。だからって今から全部探さなくていいぞ」

 

『ポリ』

 

「……その返事なら大丈夫か?」

 

 少し怪しい。

 

 時計を見ると、もう気軽にもう1か所寄っていこうと思える時間でもなかった。

 

 ここまで来た距離を、そのまま帰らなければならない。

 

「帰るか。家着く頃には結構遅くなりそうだな」

 

『ポリ』

 

 車へ戻り、来た道を引き返す。

 

 町を抜け、長い道を走り、途中で休憩も挟む。朝から何度も車を乗り降りしたうえに最後は走り回ったせいで、帰り道は行きより長く感じた。

 

 実家へ着いた時には、外はもう暗くなっていた。

 

「ただいまー」

 

 荷物を置いて自分の部屋へ向かい、新しく捕まえたロトムをボールから出す。

 

「ロト!」

 

「着いたぞ。とりあえず家の物を壊すのは禁止だからな。家電に入るのはいいけど、使えなくなるようなことはするなよ」

 

「ロト!」

 

「返事はいいな」

 

 ロトムは早くも部屋にある機械が気になるようで、パソコンやモニター、スマホへ次々と視線を向けている。

 

 そのままスマホへ近寄ったので、手を伸ばして止めた。

 

「それは後。スマホも試したいけど、まず冷蔵庫だな。普通のでフロストロトムになれるか確かめたい」

 

「ロト!」

 

「お、そっちはやる気あるんだ」

 

 今日は朝からずっと動いていた。

 

 ロトム本人はまだ元気そうだが、俺の方はもう新しい実験を始める気にならない。

 

「その辺は明日でいいか。今日は家の中見て回っていいけど、本当に壊すなよ」

 

「ロト!」

 

「……まあ、信用するか」

 

 ロトムはすぐにポリゴン2の周囲を飛び回り始めた。

 

 ポリゴン2もパソコンへ戻り、止めていた情報収集を再開する。

 

「仲良くしろよ。あとロトム、ポリゴン2の仕事の邪魔はするな」

 

「ロト!」

 

『ポリ』

 

「返事だけは2匹ともいいんだよなぁ」

 

 椅子へ座って画面を見ると、ダンバルの分布予測域には新しい目撃情報が1件追加されていた。

 

「お、新しいの?」

 

『ポリ』

 

 開いてみる。

 

 これまで集まっていた情報と同じ山域ではあるが、目撃地点が1つ増えた程度で、まだ現地へ行って探せるほど狭くはなっていない。

 

「こっちはもうちょいかかりそうだな。引き続き頼む」

 

『ポリ!』

 

 横では、ロトムがモニターの裏から顔を出してポリゴン2を覗き込んでいた。

 

『ポリ!』

 

「ロト!」

 

「だから邪魔すんなって」

 

 騒がしくなった部屋で、もう1度ダンバルの分布図へ目を戻した。

今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜

  • 図鑑通りのサイズ
  • 図鑑よりかなりデカくしてもいい
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