ポケモン現代入り 作:ささみ
しばらくホラー展開続きマース
札幌市内に建つ10階建ての雑居ビルは、翌月から建物本体の解体が始まる予定になっていた。
その前段階として進められているのが、内部に残った設備や建材の撤去だった。店が使っていた什器や看板を運び出し、天井や間仕切りを外し、配線や配管も順に撤去していく。今週から入っている坂本たちの班もその作業を担当しており、この日は朝から6階より上を中心に解体を進めていた。
営業を終えてから時間の経った建物に、一般の人間が出入りすることはもうない。昼間は複数の業者が各階を行き来しているものの、作業終了が近づけば人数も減っていく。出入口は1階にまとめられ、作業中の階には資材管理と防犯を兼ねた簡易の監視カメラも置かれていた。
この日も特に変わったことはなく、予定していた作業は順調に進んでいた。
午後4時を回った頃には、8階の西側に残っていた間仕切りもほとんどなくなっていた。
壁紙も石膏ボードも剥がされ、床には細かな破片と切断した軽量鉄骨が積まれている。かつて何の店が入っていたのか、もう知らなければ分からない。天井も半分ほど開けられ、剥き出しになった配線が垂れ下がっていた。
「宮田、そっち今日中に終わる?」
廊下側から顔を出した坂本に、宮田は手を止めずに答えた。
「あとこの一面だけです。田村さんに手伝ってもらえば終わりますよ」
「終わらせなくていいからな。暗くなって雑にやるくらいなら明日回せ」
「はいはい」
「返事が適当すぎな」
坂本が呆れた顔で去っていく。隣で廃材をまとめていた田村が笑った。
「怒られてんじゃん」
「坂本さん、毎日同じこと言ってるからな。もう挨拶みたいなもんだろ」
「聞こえてるぞ!」
廊下の向こうから声が飛んできて、2人とも笑った。
ビルの解体が始まってから、今日で6日目だった。
札幌市内の古い雑居ビルで、築年数はかなり経っている。何度もテナントが入れ替わった末に数年前から空室が増え、最後まで残っていた店も今年になって退去した。火事があっただの、人が落ちただの、昔から近所ではあまりいい話を聞かない建物だったらしい。
宮田も初日にそんな話を聞いたが、解体現場では古い建物について似たような噂はいくらでもあった。実際に中へ入ってみれば、古くて汚れているだけのビルである。
「田村さん、ちょっとこれ持って」
「ん?」
ボードの残りを外した宮田が手を止めた。
壁の奥に、灰色の石が見えていた。
「なんだこれ」
田村も近づいてくる。
最初はコンクリートの一部かと思った。しかし周囲を少し崩してみると、建物そのものとは別の石が壁の中へ埋め込まれているらしいことが分かった。
かなり大きい。
表面は荒れているが、中央には縦に深い亀裂が入り、その上には穴のような窪みが2つ並んでいた。
「……顔みたいだな」
「やめてくださいよ」
「いや、見えるだろ。目が2つあって、ここ口じゃん」
「そう言われると気持ち悪いな」
宮田は軍手についた粉を払い、スマートフォンを取り出した。
「坂本さんに送っとくか。これ明日どうします?」
「壁ごと落とすんじゃね?」
「こんなの入ってるって図面にあります?」
「俺が知るわけないだろ」
写真を2枚撮ったところで、田村が石の表面を軽く叩いた。
「重そうだな、これ」
「変に触らん方がいいんじゃないですか」
「明日壊す壁だぞ」
「だからですよ。落ちてきたら面倒でしょ」
「じゃあ坂本に見てもらって終わりにするか」
それ以上は触らなかった。
少しして坂本も上がってきたが、石を見ても首を傾げただけだった。
「こんなの図面にはなかったはずだけどな」
「前の改装で入れたんですかね」
「石を壁の中に?なんのためだよ」
「さあ」
坂本はしばらく眺めてから、石の周囲へ赤いスプレーで印をつけた。
「今日は触るな。明日、周りから開けて確認する。いきなり割って何か出ても困るから」
「何かって?」
「配線でも配管でも、知らんもんが入ってる時はそうすんの」
「石しか見えてないですけど」
「だったら明日、安心して石だったなって笑えばいいだけだ」
その話はそこで終わった。
◇
午後5時半を過ぎると、作業員が順番に引き上げ始めた。
昼間は各階から工具の音が響いていたビルも、人数が減るにつれて急に静かになる。
残ったのは坂本、宮田、田村、大西の4人だった。
明日の作業位置の確認と資材の移動だけ済ませて帰る予定で、遅くなるような仕事ではない。
宮田と田村が6階にいた時、腰につけた無線から大西の声がした。
『宮田、今そっち何人いる?』
「俺と田村さん」
『2人?』
「そうだけど」
少し間があった。
『……いや、ならいいわ』
「何ですか」
『さっき階段のとこから見えた時、3人いた気がしたから』
宮田が田村を見る。
田村もこちらを見返した。
「坂本さんじゃないですか?」
『坂本さん今1階。俺7階』
「じゃあ誰すか」
『知らんって。見間違いじゃない?』
田村が鼻で笑った。
「お前、疲れてんじゃねえの」
『かもな。早く終わらせようぜ』
無線が切れる。
宮田は何となく階段の方を見たが、当然誰もいなかった。
「まあ、柱と見間違えたとかでしょ」
「大西ならありそうな話だな」
それで話は終わった。
午後6時を過ぎる頃には外も暗くなり、ビルの中で点いている照明はさらに少なくなった。
解体が進んだ階では仮設照明しか使えない。白い光の届かない場所は、窓から入る街の明かりで形が分かる程度だった。
6階で資材をまとめていた宮田が、天井を見上げた。
何か音がした。
硬い物を床へ置いたような、小さな振動だった。
「田村さん」
「ん?」
「上、誰かいます?」
「大西じゃないの」
無線を取る。
「大西さん、今どこ?」
『5階。何?』
「……いや、なんか上で音したんで」
『坂本さんじゃね?』
「坂本さん今どこですか」
『1階だ』
すぐに返ってきた。
宮田はもう一度天井を見る。
しばらく待ったが、何も聞こえなかった。
「なんか落ちたんじゃね?」
田村がそう言った時、
コッ。
少し離れた場所から音がした。
続いて、
コッ、コッ。
一定の間隔で、天井の向こうを移動していく。
宮田と田村は黙ってその音を追った。
「……歩いてないすか、これ」
「そう聞こえるな」
音は2人の真上を通り過ぎ、そのまま廊下の方へ遠ざかっていった。
「見に行く?」
「一応な。誰か入ってたらそっちの方が面倒だぞ」
2人はライトを持って階段を上がった。
7階には誰もいなかった。
仮設照明を点けて奥まで確認する。壁の撤去が済んだフロアは見通しがよく、人が隠れられるような場所もほとんどない。
そのまま8階へ上がった。
昼間まで作業していた場所だ。
壁の中から見つかった石も、赤い印をつけられたまま残っている。
「誰もいないな」
「ですね」
宮田は石の横を通り過ぎ、フロアの奥までライトを向けた。
窓の外には札幌の街が広がっていた。道路を車が走り、向かいのマンションには明かりのついた部屋がいくつもある。
ほんの数十メートル先には普通に人が生活している。
それを見ていると、さっきの音を気にしていること自体が馬鹿らしく思えてきた。
「9階も見る?」
「ここまで来たし」
9階にも誰もいなかった。
「建物の音じゃないですかね」
「古いしな。昼にいじったとこが落ち着いたとか」
「そんな言い方します?」
「知らんけど、誰もいないんだからそういうことだろ」
2人が階段を下り始めた。
8階を通り過ぎ、7階へ向かおうとしたところで田村が足を止める。
「……聞こえる?」
宮田も止まった。
上から声がしていた。
小さい。
誰かが話している。
「大西さん?」
返事はない。
耳を澄ます。
1人ではなかった。
少なくとも2人。もう少しいるかもしれない。何を話しているのかは聞き取れないが、途切れることなく声が重なっている。
宮田は無線を取った。
「大西さん、上来ました?」
『いや。まだ5階』
「坂本さんは?」
『1階だ。さっきからどうした』
「8階に誰かいるみたいなんですよ」
『誰かって誰だよ』
「それが分かんないから聞いてるんです」
その間にも声は続いている。
さっきより増えていた。
複数の会話が同時に聞こえる。笑っているような声もあり、低い声も高い声も混ざっている。
田村が宮田を見る。
「もう1回だけ見るぞ」
「マジですか」
「不審者だったら放っとけないだろ」
2人は8階へ戻った。
階段を上がり切った瞬間、声が止んだ。
そこには何もなかった。
昼間と同じフロア。
仮設照明。
剥がされた壁。
赤い印。
そして、壁の中に埋まった石。
「……いないっすね」
「ああ」
田村が奥へ進もうとした時、宮田は無意識に石の方を見た。
昼間と変わっていない。
そう思った。
「帰ろうか」
田村もそれ以上確認しようとはしなかった。
2人が階段へ戻り、7階まで下りる。
その背後で、
また話し声が始まった。
今度は、さっきよりずっと多かった。
宮田は振り返らなかった。
「……帰りましょう」
「そうする」
◇
4人が1階へ集まったのは午後7時前だった。
大西も、最初は「見に行こう」と言っていたが、宮田と田村が2回確認したと聞くと黙った。
「今日は終わり。忘れ物だけ確認して帰るぞ」
坂本がそう言いながら作業表を畳む。
「明日の朝、上の階もう一回見ます?」
「当然見るぞ。不審者なら管理会社にも連絡する」
「警察は?」
「何も見てないのに何て言うんだよ。声がしましたって?」
もっともな話だった。
宮田も、明るい1階まで戻ってくると少し落ち着いていた。結局、誰かを見たわけではない。古い建物なら音くらいするだろうし、声だって外から響いた可能性はある。
「あ、そういや石」
大西が思い出したように言った。
「なんか写真来てましたよね」
「明日見るって言っただろ」
「いや、あれ何だったのかなって」
「石」
「それは見りゃ分かりますよ」
坂本が面倒そうに息を吐いた。
「帰るぞ。明日朝早いんだから――」
無線が鳴った。
『宮田さん』
全員が止まった。
宮田が腰の無線を見る。
「……はい?」
返事はない。
大西が眉を寄せた。
「誰?」
「俺じゃないですよ」
「そりゃ分かる」
坂本が自分の無線を確認する。
「外の誰か拾ってんじゃないか?」
もう一度、声が入った。
『宮田さん』
宮田の顔から表情が消えた。
自分の声だった。
録音した声を聞いているような違和感がある。それでも間違えるはずがなかった。
「……何これ」
田村が無線を手に取った。
「大西、お前なんかやってる?」
「やってないって」
『大西、お前なんかやってる?』
無線から田村の声が返ってきた。
4人とも黙った。
数秒、誰も動かなかった。
「やめろって」
大西が低い声で言った。
『やめろって』
今度は大西の声だった。
坂本がすぐに無線の電源を切った。
「全員切れ」
宮田たちも従う。
静かになった。
「もう帰る。上は明日だ」
「警察呼ばなくていいんですか」
「外出てから管理会社に連絡する。誰か入ってるなら勝手に探し回る必要ない」
坂本はそう言って事務所のモニターへ目を向けた。
「……一応カメラだけ見る」
誰も反対しなかった。
各階に残した監視カメラの映像を順番に切り替える。
5階。
誰もいない。
6階。
誰もいない。
7階。
何も映っていない。
8階。
「……待って」
大西が言った。
画面の奥に人がいた。
解体途中のフロア。その中央付近に、作業服を着た男が背中を向けて立っている。
「誰だ?」
坂本が画面へ顔を近づける。
宮田は何も言えなかった。
着ている作業服。
腰の工具袋。
ヘルメットの後ろについた擦り傷。
全部知っていた。
「……俺じゃん」
自分の声が妙に遠く聞こえた。
田村が宮田を見る。
本人は今、隣にいる。
画面の中の宮田は動かない。
「録画じゃないですよね」
「現在時刻出てるだろ」
「じゃあ、なんで……」
その時、画面の中の宮田がゆっくりと振り返った。
映像が大きく乱れた。
「うわっ」
数秒で戻る。
そこにはもう誰もいなかった。
「警察呼ぶぞ」
坂本がスマートフォンを取り出した。
誰も何も言わない。
その直後。
電源を切ったはずの無線から声がした。
『おい、早く来い』
大西の声だった。
大西は目の前にいる。
続けて、
『こっちいる』
宮田。
『何してんだ』
田村。
『全員上来い』
坂本。
4人全員の声が、切ったはずの無線から次々に流れてくる。
「出るぞ」
坂本がそう言った。
今度は誰も返事をせず、玄関へ向かった。
宮田も後について歩き出す。
数歩進んだところで、大西が立ち止まった。
「……待って」
「何だよ」
「いや」
大西が振り返り、モニターを見た。
8階。
宮田もつられて見る。
4人いた。
作業服を着た男が、横一列に並んでいる。
坂本。
田村。
大西。
宮田。
全員、背中を向けていた。
1階にも4人いる。
画面の中にも4人いる。
そして、その向こう。
赤い印をつけられた壁の前に、もう1人立っていた。
「……誰だ、あれ」
顔は見えない。
作業服でもない。
男なのか女なのかも分からない。
画面が荒く、黒い人影にしか見えなかった。
その影が、ゆっくりと右腕を上げた。
並んでいた4人も、同時に右腕を上げる。
「……なんだよ、これ」
宮田が呟いた。
机の上に置かれた無線から声が返った。
『なんだよ、これ』
宮田の声。
続いて、もう1人。
『なんだよ、これ』
また1人。
『なんだよ、これ』
声が重なっていく。
男。
女。
高い声。
低い声。
何十人いるのか分からない。
同じ言葉だけが、少しずつずれながら事務所の中へ溢れていく。
モニターの中では、誰も動いていなかった。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい