ポケモン現代入り   作:ささみ

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閑話 【108 その2】

 

 

 

 

 

 無線から返ってくる声は、しばらく止まらなかった。

 

 宮田が呟いた言葉を、男とも女ともつかない声が少しずつずらしながら繰り返している。高い声もあれば、掠れた低い声もあり、いくつ重なっているのかも分からない。それでも口にしている言葉だけは、どれも同じだった。

 

『なんだよ、これ』

 

『なんだよ、これ』

 

『なんだよ、これ』

 

 坂本はモニターから目を離すと、机の上に置いた無線を手に取った。電源は落としたはずで、表示も消えている。それでも小さなスピーカーから声だけが流れ続けていた。

 

 数秒それを見つめてから、無線を机へ戻す。

 

「もういい。出るぞ」

 

「上は……見なくていいんですか」

 

「見ねえよ」

 

 宮田が8階の映像へ視線を戻した。画面の中には自分たちと同じ姿をした4人が並び、その向こうには正体の分からない黒い人影が立っている。

 

「でも、あれが誰なのかくらいは――」

 

「宮田」

 

 強い口調ではなかったが、それだけで宮田は口を閉じた。

 

「分からん。分からんが、こういうことは稀にあんだよ。何だか分からんもんに余計な手ぇ出さず、外部に任せんのが一番だ。それに今の時代、ポケモンなんて不思議な生き物までいるんだぞ。何が起きたっておかしくねえ」

 

「こういうことって……前にもあったんですか?」

 

「こんなのはねえよ。だから出るんだ」

 

 坂本が言い切ると、田村も黙って自分の荷物を掴んだ。大西だけはまだモニターを気にしていたが、坂本に肩を叩かれると、それ以上何も言わず後へ続いた。

 

 4人で事務所を出る。誰も無線は持っていかなかった。

 

 エントランスへ向かう間、上階から声が追ってくることはなかった。階段にも人影はなく、暗い廊下の奥で何かが動く様子もない。

 

 玄関の扉を開けると、夜の空気が流れ込んできた。

 

 道路を車が走り、向かいのコンビニでは客が出入りしている。少し離れた飲食店からは笑い声まで聞こえ、交差点では信号が変わるたびに人が行き来していた。

 

 ほんの数分前まで自分たちがいた建物の中だけが、そこから切り離されているように思えた。

 

「……なんだったんすかね、あれ」

 

 宮田が振り返る。外から見れば、ただの解体途中の古いビルだった。仮囲いの向こうに暗い窓が並んでいるだけで、8階にも何かがいるようには見えない。

 

「知らん。明日は一旦作業止める。管理会社にも連絡して、確認してもらってからだな」

 

 坂本はスマートフォンを取り出しかけ、ふと顔を上げた。

 

「田村」

 

「います」

 

「宮田」

 

「はい」

 

 そこで止まった。

 

 宮田もすぐに気づいた。

 

「……大西さん?」

 

 返事はなかった。

 

 3人が周囲を見回す。

 

「大西!」

 

 田村がビルの入口へ向かって声を飛ばしたが、誰も出てこない。

 

「いや、さっきいたよな?」

 

「いましたよ。俺の後ろ歩いてたはずです」

 

「お前の後ろ?」

 

「え?」

 

 宮田が田村を見る。

 

「田村さんの後ろじゃなかったですか?」

 

「俺、お前の後ろだったぞ」

 

「じゃあ……」

 

 誰も続きを言わなかった。

 

 坂本がビルの入口へ視線を向ける。

 

「最後に大西見たのいつだ」

 

「事務所にはいましたよ。モニター見てた時」

 

「そこは俺も見てる。その後だ」

 

「……一緒に出たと思ってました」

 

「俺もだ」

 

 田村も首を振った。

 

 宮田は反射的に入口へ戻ろうとしたが、坂本がすぐに腕を掴んだ。

 

「待て」

 

「大西さん、中ですよ」

 

「分かってる」

 

「だったら探さないと――」

 

「今のを見たあとで、何の準備もなしに戻るな」

 

 宮田が言葉を詰まらせる。

 

「でも、すぐそこにいるかもしれないじゃないですか」

 

「いるかもしれん。だから警察呼ぶんだよ。大西探しに入って、お前まで戻ってこなかったらどうする。助けるつもりで入って、今度はお前を探す羽目になったら意味ねえだろ」

 

 宮田はビルの入口を見たまま動かなかった。

 

「まず大西に電話する。出なきゃ警察だ。俺らだけでは戻らん」

 

 坂本が電話をかける。

 

 何度か呼び出し音が鳴り、ビルの中からも微かに着信音が聞こえた。

 

 3人の視線が入口へ向く。

 

 もう一度。

 

 聞き間違いではなかった。

 

「……中だな」

 

 田村が呟く。

 

 坂本は電話を切り、入口の扉まで近づいた。中へは入らず、その場から暗いエントランスを覗き込む。

 

 床に何か落ちていた。

 

「あれ、大西さんのスマホじゃないですか」

 

「そうだな」

 

「取ってきます?」

 

「いい。そのままにしとけ」

 

「入口ですよ?」

 

「だからって今入る必要はねえだろ。警察来てからでいい」

 

 坂本が戻ってくると、田村はしばらくビルを見上げていた。

 

「……今日、あの石見つけてからだよな」

 

「8階の?」

 

「ああ」

 

「でも、ただ壁ん中に埋まってただけじゃないですか」

 

「だから分からんって言ってんだよ」

 

 田村は少し嫌そうに顔をしかめた。

 

「石のせいかもしれんし、全然関係ないかもしれん。どっちにしたって、分からんうちから触るもんじゃねえよ」

 

 

 

     ◇

 

 

 

 最初の警察車両が到着したのは、それから15分ほど後だった。

 

 行方不明になった作業員がいること。建物の中から自分たちと同じ声が聞こえたこと。監視カメラに、そこにいるはずのない自分たちの姿が映っていたこと。

 

 説明しているうちに、宮田自身も妙な話をしているという感覚が強くなっていった。

 

 警察官も初めは戸惑っていたが、1階に落ちていた大西のスマートフォンと監視映像を確認すると、それまでとは少し様子が変わった。

 

「この4人は皆さんで間違いないですか?」

 

「はい」

 

「この時間、皆さんは1階にいた?」

 

「4人ともいました」

 

 8階の録画映像には、確かに坂本たちと同じ姿をした4人が並んでいる。

 

「そのあと、大西さんがいなくなった」

 

「そうです」

 

 別の警察官が入口周辺の映像を確認していた。

 

「外側のカメラもあります?」

 

「あります」

 

 時間を合わせ、1階内部の映像を再生する。

 

 坂本、田村、宮田、大西。

 

 4人が玄関へ向かって歩いていた。

 

 次に外側の映像へ切り替える。

 

 坂本が出てくる。その後ろから田村、宮田と続き、扉が閉じた。

 

 大西は出てこなかった。

 

「……もう一回お願いします」

 

 巻き戻して再生する。

 

 結果は変わらない。

 

 内部のカメラでは、大西は確かに3人の後ろを歩いている。玄関へ向かい、そのまま画面の外へ消えている。

 

 ところが、数秒後の外側の映像には3人しか出てこない。

 

「間にもう1台ないですか?」

 

「エントランスはこの2台だけです」

 

「別の出口は?」

 

「裏口はありますけど、そこまで行くなら途中のカメラに映ります」

 

 警察官は何度か映像を往復させたあと、今度は8階の映像へ戻した。並んで立つ4人と、その奥にいる人影をしばらく見てから口を開く。

 

「……ゴーストタイプのポケモンかもしれませんね」

 

「ゴーストタイプ?」

 

「最近、全国で似た通報が増えてるんですよ。誰もいないところから声がしたり、物が勝手に動いたり、人の姿を真似されたり。調べたらゴーストタイプのいたずらだったっていう事例も結構あります」

 

 宮田は画面の中に立っている自分の姿を見た。

 

「じゃあ、これもポケモンが?」

 

「可能性はあります。ポケモンが出てきてから、前なら有り得ないで終わってたような話も実際に起きてますから」

 

「大西さんが消えたのも?」

 

「そこまでは分かりません」

 

 警察官はすぐに首を振った。

 

「声や映像はポケモンで説明できても、人が1人いなくなってるのまで同じとは限らない。中で事故に遭って動けなくなってる可能性もありますし、最初から全部ポケモンの仕業だと決めつけるのも危ないです」

 

 坂本が小さく頷いた。

 

「まあ、そうでしょうね」

 

「ポケモンが関わってる可能性もあるってことで応援を呼びます。中に入るのは、それからにしましょう」

 

 その判断に、坂本は少しだけ安心した。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 応援が到着してから、改めて捜索の準備が始まった。

 

 中へ入る警察官は6人。坂本は建物の案内役として同行する。

 

 連れてきたポケモンも1匹ではなかった。

 

 ガーディとグラエナは大西の捜索と周囲の警戒、ゴーリキーは救助や搬送。それに、ゴーストタイプが関係している可能性を考えてゴースも連れてこられていた。

 

 宮田が宙に浮かぶ紫色のポケモンを見上げた。

 

「ゴーストタイプに、ゴーストタイプですか」

 

 担当の警察官が頷く。

 

「相手もゴーストタイプなら、こいつの方が先に気づくこともあるかもしれませんからね。何が分かったのかまで聞けないのが困りもんですけど」

 

「そりゃそうですよね」

 

 宮田が苦笑したが、すぐにビルへ視線を戻した。

 

「坂本さん」

 

「何だ」

 

「気をつけてくださいね」

 

「分かってる。お前らはここにいろ」

 

 捜索班が建物へ入る。

 

 大西が使っていた手袋を差し出すと、ガーディとグラエナは順番に鼻を寄せ、念入りに匂いを嗅いだ。

 

 先に動き出したのはガーディだった。床へ鼻を近づけながら進み、その少し後ろをグラエナもついていく。時折それぞれ別の場所へ鼻先を向けることはあったが、進む方向はほとんど同じだった。

 

 2階では何も起きなかった。

 

 3階でも同じだった。ガーディとグラエナは時折足を止めながら大西の匂いを追い、ゴーリキーは警察官たちと一緒に歩いている。ゴースだけが一行の周囲を自由に漂っていた。

 

 変化があったのは、4階へ続く階段だった。

 

 それまで迷わず進んでいたガーディが、階段の途中でぴたりと止まった。

 

「ガーディ?」

 

 担当の警察官が声をかける。

 

 ガーディは階段の上を見ていた。

 

 立っていた耳が伏せ、尻尾が腹の下へ巻き込まれている。鼻先を上へ向けたまま一歩後退し、警察官の脚へ身体を押しつけるようにして小さく震え始めた。

 

「おい、どうした」

 

 警察官がしゃがんで首元を撫でる。

 

 ガーディは視線を階段から外さない。

 

「……怖がってますね」

 

 坂本が言った。

 

「ええ」

 

「さっきまでは普通だったんですよね」

 

「普通でした」

 

 警察官が様子を見るように一歩階段を上がると、ガーディはついていくどころかリードを逆方向へ引いた。

 

 進みたくないという意思は、見ているだけでも分かった。

 

「無理させない方がいいんじゃないですか」

 

「そうですね」

 

 警察官は立ち上がると周囲の者と短く相談し、腰につけていたボールを取り出した。

 

「ガーディ、戻ってろ」

 

 呼びかけると、ガーディは抵抗することなくボールへ戻った。

 

「捜索は?」

 

「続けます。人が中にいる以上、ここで終わりにはできません。ただ、ここから先は何かいる前提で動きます」

 

 残ったグラエナは一度ボールを見たあと、階段の上へ鼻を向けた。何度か匂いを嗅ぎ、低く身体を落とす。

 

 ガーディほど怯えてはいない。

 

 それでも、さっきまでの様子とは明らかに違っていた。

 

「グラエナ、追えるか」

 

 担当の警察官が大西の手袋をもう一度嗅がせる。

 

 グラエナは鼻を鳴らすと、階段の上へ顔を戻した。

 

「こっちはまだ追えそうですね」

 

「グラエナ」

 

「グルル……」

 

 呼ばれると警察官の横へつき、警戒しながら上へ進んだ。

 

 ゴーリキーも続く。

 

 最後にゴースが階段を上がろうとして――途中で止まった。

 

「ゴース?」

 

 担当の警察官が振り返る。

 

 ゴースは怯えているようには見えなかった。

 

 いつものような笑みも消えている。

 

 ただ、8階のある上方をじっと見ていた。

 

「どうした?」

 

 呼ばれても、すぐには反応しない。

 

 しばらくして、丸い身体の周囲に漂う紫色の霧が、ゆっくりと上へ伸び始めた。

 

「……おい」

 

 警察官が手を伸ばす。

 

 風はない。

 

 それなのに、ゴースの身体を包む霧だけが階段の上へ細く引かれていた。

 

「ゴース、戻れ」

 

 少し遅れて、ゴースがこちらを向いた。

 

 それに合わせるように、伸びていた霧も元の形へ戻っていく。

 

「今の何だ?」

 

「分かりません」

 

 担当の警察官も表情を曇らせた。

 

「でも、こいつまで何か感じてるみたいですね」

 

 坂本がゴースを見る。

 

「怖がってる感じじゃないな」

 

「ですね。むしろ……」

 

 警察官はそこで言葉を止めた。

 

 何に見えるのか、自分でもうまく言えないらしい。

 

「離れないようにします。ゴース、こっちにいろ」

 

「ゴー……」

 

 今度は反応した。

 

 捜索班は全員の位置を確認してから、さらに上へ進んだ。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 4階に大西はいなかった。

 

 グラエナは一通り廊下の匂いを確かめると、自分から階段へ戻った。

 

 5階でも同じだった。何度か立ち止まり、部屋の入口や床へ鼻を寄せることはあったが、大西の姿は見つからない。やがて再び階段へ戻り、そのまま上へ向かおうとする。

 

「まだ上みたいですね」

 

 坂本が言うと、担当の警察官も頷いた。

 

「そうみたいです」

 

 6階へ続く階段の前まで来たところで、グラエナがまた足を止めた。

 

 今度は怯えたわけではない。

 

 鼻先を床へ近づけて何度か匂いを嗅ぎ、それから6階へ顔を向けた。

 

「上か?」

 

 警察官が尋ねる。

 

 グラエナはそのまま階段へ一歩踏み出した。

 

 その直後だった。

 

『坂本さん』

 

 無線から声がした。

 

 坂本の足が止まる。

 

『坂本さん、聞こえます?』

 

 聞き慣れた声だった。

 

「……大西」

 

 ほとんど反射的に名前が出た。

 

「本人ですか?」

 

「声は」

 

『6階にいます』

 

 妙なくらい普通だった。

 

 息を切らしているわけでも、怯えているわけでもない。仕事中に無線で呼ばれる時とほとんど変わらない。

 

 警察官は返事をせず、別の無線を取った。

 

「1階、大西さんの無線機を確認できますか」

 

 少しして返事が来る。

 

『あります。事務所の机の上です。電源も切れたままです』

 

 その場の空気が変わった。

 

『坂本さん』

 

 また大西の声が入る。

 

『6階です』

 

 坂本が警察官を見る。

 

「……どうします?」

 

「6階は予定通り確認します。ただ、今の声は信用しないでください」

 

「分かりました」

 

 警察官はグラエナを見る。

 

「グラエナ、追ってくれ」

 

 グラエナが先へ進む。

 

 声のした無線を気にする様子はなく、床へ鼻を近づけたまま6階へ上がっていく。

 

 ゴースは動かなかった。

 

「ゴース?」

 

 担当の警察官が振り返る。

 

 ゴースも無線を見ていない。

 

 階段の上を見ていた。

 

 6階よりさらに上。

 

「……今の声、そっちじゃないぞ」

 

「ゴー……」

 

 呼びかけても、ゴースは上を見たままだった。

 

 坂本もそれに気づく。

 

「何見てるんですかね」

 

「分かりません。ただ、グラエナは匂いを追って6階に行こうとしてる。ゴースが見てるのは、それより上ですね」

 

「じゃあ、今の声は?」

 

「それもまだ分かりません。声は声、捜索は捜索で分けましょう」

 

 全員で6階へ上がる。

 

 グラエナは廊下へ出るとすぐに床の匂いを嗅ぎ、右ではなく左へ進み始めた。

 

 その直後、反対側の廊下から声がした。

 

「坂本さん」

 

 無線ではなかった。

 

 実際に廊下の向こうから聞こえている。

 

 坂本が思わずそちらへ身体を向ける。

 

「大西!」

 

 返事はない。

 

 数歩出ようとしたところで、隣の警察官が腕を出して止めた。

 

「待ってください」

 

 坂本もすぐに足を止める。

 

 警察官がグラエナを見る。

 

 グラエナは声のした方向へ一度顔を向けたものの、鼻を鳴らすとすぐに元へ戻り、そのまま反対側へ進もうとしていた。

 

「……匂いはこっちですね」

 

「じゃあ、今のは」

 

「追わないでください。グラエナについていきます」

 

 その直後、今度は背後の階段から同じ声がした。

 

「こっちです」

 

 さらに無線からも、

 

『こっち』

 

 坂本の表情が変わった。

 

「……全部、大西の声です」

 

「分かってます。声は無視してください」

 

 グラエナも落ち着かなくなっていた。声がするたびに耳を動かし、そちらへ顔を向ける。それでも匂いを確かめ直すと、声とは違う方向へ進んでいく。

 

 ゴースだけは最初からほとんど声へ反応していなかった。

 

 時折振り返っては、8階へ続く階段の方を見ている。

 

 捜索班は互いの位置を確認しながら、グラエナの後を進んだ。

 

 その間にも大西の声は聞こえた。

 

 右側の部屋から。

 

 背後の階段から。

 

 誰もいないはずの上階から。

 

 どこから呼ばれても、グラエナが追う匂いとは一致しない。

 

 やがて廊下の角を曲がったところで、グラエナが突然足を速めた。

 

「グラエナ?」

 

 数メートル先で止まり、床に横たわる人影へ鼻を近づける。

 

「……人が倒れてます」

 

 先頭の警察官が声を上げた。

 

 坂本は顔が見える距離まで近づくと、すぐに分かった。

 

「大西!」

 

 駆け寄ろうとする坂本を一度待たせ、警察官が周囲を確認する。グラエナは倒れている大西の身体を何度も嗅いでから、その傍を離れようとしなかった。

 

 警察官が近づき、大西の横へ膝をつく。

 

「大西さん。聞こえますか」

 

 反応はない。

 

 呼吸を確認し、脈を取る。

 

「生きてます。呼吸も脈もあります」

 

 その言葉を聞いてから坂本も横へしゃがみ込み、大西の肩へ手を置いた。

 

「おい、大西。起きろ」

 

 少し強めに揺すっても反応はなかった。目立った外傷は見当たらず、血が流れている様子もない。

 

「外へ運びます。ゴーリキー」

 

「ゴリッ」

 

 ゴーリキーが大西の身体を抱え上げる。

 

 グラエナはその足元について、もう一度大西の匂いを確かめた。

 

 その様子を見て、坂本はようやく少しだけ息を吐いた。

 

 何が起きているのかは分からない。

 

 それでも、大西は見つかった。

 

 生きてもいる。

 

 その事実に張り詰めていた力が僅かに抜けた時だった。

 

『坂本さん』

 

 無線から声がした。

 

 その場にいた全員が、ゴーリキーの腕の中にいる大西を見た。

 

 口は閉じている。

 

『助けてください』

 

 坂本の表情が固まった。

 

 誰も返事をしない。

 

 グラエナが大西と無線を交互に見たあと、低く身体を構えた。

 

 すると今度は、暗い廊下の奥から声がした。

 

「坂本さん」

 

 同じだった。

 

 坂本はゴーリキーに抱えられた大西を見る。

 

 胸が僅かに上下している。

 

 呼吸もしている。

 

 グラエナも間違いなく、この大西の匂いを追ってここまで来た。

 

 それなのに。

 

「助けてください」

 

 その大西とまったく同じ声が、廊下の向こうからもう一度聞こえた。

 

 その時、ゴースがゆっくり振り返った。

 

 声のした廊下ではない。

 

 8階へ続く階段へ。

 

 身体の周囲に漂う紫色の霧が、また細く上へ伸びていた。

 

「ゴース?」

 

 呼びかけても、すぐには振り返らない。

 

 警察官がボールへ手をかけた。

 

「……一旦出ます。大西さんの搬送を優先。全員まとまって戻ってください」

 

 誰も異論を挟まなかった。

 

 その場を離れ始めても、大西の声だけはしばらく廊下の奥から聞こえていた。

今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜

  • 図鑑通りのサイズ
  • 図鑑よりかなりデカくしてもいい
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