ポケモン現代入り 作:ささみ
間違えて投稿しちゃった、まいいや
大西を見つけたあと、捜索班はそれ以上上階を調べなかった。
ゴーリキーに抱えられた大西を中心に、来た時と同じように全員でまとまって階段を下りていく。グラエナは警察官の横につき、何度も背後を振り返っていた。担当の警察官はゴースをボールへ戻したままにしている。
大西の声は、6階を離れてからもしばらく聞こえていた。
「坂本さん」
「待ってください」
「置いてかないでください」
無線から聞こえることもあれば、誰もいない上の階から直接降ってくることもある。最初のうちは大西の声ばかりだったが、5階へ下りたあたりから、それ以外の声も混じり始めた。
「声は無視してください」
坂本が顔を上げる。
数秒前、先頭を歩く警察官が口にしたのとまったく同じ声だった。
続けて、
「全員まとまって」
今度は別の警察官の声が、上の階から返ってきた。
「……俺らの声まで増えてるな」
「返事しないでください。どこまで真似してるのか分からない。必要なこと以外は喋らない方がよさそうです」
「分かりました」
それ以降、誰も余計なことは口にしなかった。
声だけが時折、上の階から追ってきた。
◇
外へ出ると、入口近くには救急車が止まっていた。
大西はそのまま担架へ移され、救急隊員が状態を確認する。呼吸も脈もあり、目立った外傷も見当たらない。それでも呼びかけにも刺激にも反応せず、意識が戻る様子はなかった。
「搬送します。身元と既往歴、分かる方いますか?」
「俺が分かる範囲なら」
坂本が救急隊員の方へ向かおうとした時だった。
「坂本さん」
足が止まった。
声はビルの上から聞こえた。
救急隊員の1人もつられて顔を上げる。
「……今の」
坂本は担架を見る。大西は目を閉じたまま、ぴくりとも動いていない。
「本人の声です」
「いや、でも……」
「さっきから、ああなんです」
話を聞いていた時とは違い、実際に耳にした救急隊員は何も言えなくなったらしい。
もう一度、
「坂本さん」
今度は少し離れた窓の辺りから聞こえた。
警察官がすぐに建物へ視線を向ける。
「大西さんはそのまま搬送してください。ここには他の人を近づけないようにします」
救急隊員は頷き、担架を車内へ運び始めた。
捜索に同行したポケモンも、一度状態を確認することになった。
ガーディは既にボールへ戻されている。グラエナには今のところ目立った異常はなく、警察官の傍を離れようとはしないものの、呼びかけには反応していた。
ゴースだけは、さっき建物の中で見せた反応が気にかかった。
「ゴース、出てこい」
担当の警察官がボールを開く。
現れたゴースは、しばらくその場に浮かんでいた。
「大丈夫か?」
「ゴー……」
返事はした。
だが、すぐにビルの上へ顔を向ける。
8階。
その方向を見たまま動かなくなり、身体を包む紫色の霧がゆっくりと上へ伸び始めた。
「……またか」
警察官がすぐに近づく。
「ゴース、こっち来い」
反応が遅い。
霧はさらに細く伸び、ゴース自身もようやく異変に気づいたように身体を揺らした。
「ゴ、ゴース……!」
今度の声には、明らかに嫌がる響きがあった。
「戻れ!」
強く呼ばれて、ようやくゴースが振り返る。それに合わせて上へ伸びていた霧も戻ったが、担当の警察官はそのままボールを向けた。
「今日はもう出さない方がいいな」
「ですね。何が起きてるのか分からないですけど、近くに置いとくのはまずそうです」
ゴースがボールへ戻る。
坂本は8階を見上げた。
「ゴーストタイプでもああなるのか」
「同じタイプだから平気、って話ではなさそうですね」
それ以上のことは誰にも分からなかった。
◇
その頃には現場へ来ている警察車両も増えていた。
建物への再突入は止められ、入口周辺には規制線が張られる。ゴーストタイプのポケモンが関係している可能性が高いこと、大西が原因不明の意識不明状態になっていること、同行したポケモンにも異常な反応が出たことが共有され、消防にも連絡が回った。
管理会社の担当者まで到着すると、ビルの前は昼間より人が多くなっていた。
「車、もう少しそっち空けてください」
警察官が救急車の後ろにいる車へ声をかける。
数秒後。
「車、もう少しそっち空けてください」
同じ声が8階の方から返ってきた。
近くにいた者が一斉に顔を上げる。
「……今の俺ですよね」
「そうだな」
少し離れたところでは別の警察官が、
「規制線、もうちょっと向こうまでお願いします」
と声をかけていた。
やはり数秒遅れて、
「規制線、もうちょっと向こうまでお願いします」
今度は7階とも8階ともつかない場所から返ってくる。
消防隊員の1人が顔をしかめた。
「喋った端から真似してんのか?」
「さっきまでは、ここまでじゃなかったんですけどね」
坂本が答えると、田村がビルを見上げたまま口を開く。
「人増えてからじゃないか?」
「え?」
「俺ら4人だった時より、明らかに声が多いだろ」
誰もすぐには答えなかった。
偶然なのか、それとも本当に人数と関係しているのかは分からない。それでも、それ以降は必要のない会話を控える者が増えた。
◇
監視カメラの映像は、外に置かれた端末へ切り替えて確認することになった。
8階。
壁の中から出てきた石の周囲は、坂本たちが最後に見た時よりさらに崩れていた。石そのものが割れた様子はなく、周囲の石膏ボードや壁材だけが落ちて、灰色の石がほとんど露出している。
その中央の亀裂から、黒紫色のものが溢れていた。
「これ、さっきより増えてません?」
宮田が画面を覗き込む。
「増えてるな」
黒紫色のものは煙のように揺れていたが、天井へ上がって消えることはなかった。壁や床に沿うように広がり、画面の端まで続いている。
別のカメラへ切り替える。
そこにも同じものが映っていた。
さらに隣の区画。
そこにもある。
「……これ全部、同じやつか?」
「位置的には繋がってるはずです」
管理会社の担当者が簡単な平面図を開いた。
「このカメラとこっちで、これだけ離れてますよ」
「じゃあ、カメラの近くにいるから大きく見えてるわけじゃないな」
画面の中で黒紫色の塊が大きく揺れた。
その中に緑色の光が浮かぶ。
1つではない。
いくつもの顔のようなものが、黒紫色の身体の中をゆっくり回っている。
やがて、その中心に大きな顔が浮かび上がった。
目が赤く光っていた。
「……これ、ポケモンじゃないですか」
警察官の1人が端末を操作する。
少しして画像が表示された。
「ミカルゲ」
「これが?」
「石の形も、身体の特徴もかなり近いですね」
画面に表示された資料には、灰色の石から黒紫色の身体を伸ばすポケモンが載っていた。
宮田が監視映像と見比べる。
「……いや、でもデカくないですか」
「俺も今それ思った」
資料に載っているミカルゲと、画面の中のものでは明らかに縮尺が違う。
管理会社の担当者が図面と映像を交互に見る。
「この廊下幅がこれで、天井高が……」
黒紫色の本体は、天井までの高さを軽く越えていた。それだけではなく、壁の向こうにある別区画のカメラにも同じ身体が映っている。
「4メートルはあるな」
「もっとじゃないですか。これ、端まで見えてないですよ」
「……5メートル近いか?」
通常個体の資料と比較すれば、およそ5倍。
しかも単に巨大な身体が室内へ押し込まれているわけではない。黒紫色の部分は壁や天井を無視するように広がり、8階の複数の区画を跨いでいた。
外から確認していた警察官から無線が入る。
『8階の窓、何枚か中が同じ色になってます。9階側にも少し見えます』
端末の前にいた者たちが黙った。
宮田が資料へ視線を戻す。
「ミカルゲって、こんなになるんですか?」
「少なくとも、この資料にはないですね」
警察官が答えた。
その横から、別の警察官が画面を指す。
「あと、目」
「目?」
「赤くないですか」
資料画像を見る。
確かに違う。
「あれじゃないですか。色違いってやつ?」
宮田が言う。
「色違いって目だけ変わるのか?」
田村に聞かれ、宮田は首を傾げた。
「いや、知らないですけど……」
警察官の1人が赤い目を見たまま眉を寄せた。
「……これ、どっかで見たな」
「ミカルゲを?」
「いや、この目の方です。赤い目で、普通よりでかい個体」
端末を操作し、共有されている資料をいくつか開いていく。
「前から異様にでかい個体の報告はあったんですよ。最近、有識者が共通する特徴を整理して、呼び方まで決まったって資料が……あった」
新しい資料が開かれる。
「オヤブン個体」
「オヤブン?」
「通常より大型で、目が赤い。強さも普通の個体よりかなり上だと考えられてる……らしいです」
資料には、複数のポケモンの大型個体が載っていた。どれも通常より明らかに大きく、目が赤い。
「前からいたんですか?」
「報告自体は前からあります。ただ、この特徴を持つ大型個体をまとめてオヤブンって呼ぶようになったのが最近みたいですね」
監視映像へ戻る。
「じゃあ、あれもオヤブン?」
「特徴は合います」
「でも……」
資料を見ていた別の警察官が、画面と見比べて首を傾げた。
「オヤブンって、ここまで大きくなるんですか?」
「載ってる記録だと、大きくても通常の2倍から3倍くらいですね」
全員の視線が監視映像へ戻る。
5メートル近い黒紫色の本体が、8階の壁を跨いで蠢いている。
「……それでも全然足りないな」
「ですね」
オヤブンという言葉が分かっても、目の前の個体について分かったことはほとんど増えていなかった。
◇
ミカルゲの資料をさらに確認していた警察官が、途中で手を止めた。
「……108?」
「何かありました?」
「これです。ミカルゲは、108の魂が集まって生まれたポケモンだと書いてあります」
「魂?」
坂本も端末を覗き込む。
「はい。ただ、どういう状態で存在してるのかまでは、この資料には詳しく載ってません」
その時、監視映像の音声から声が聞こえた。
「坂本さん」
大西の声だった。
続いて、
「全員まとまって」
警察官。
「気をつけてくださいね」
宮田。
さらにその後ろから、聞き覚えのない女の声が重なる。男の声もあり、子供のような高い声まで混じっていた。
宮田が端末を見たまま口を開く。
「……これ、今聞こえてる声と関係あるんですかね」
「分かりません」
「でも大西さんの声も、俺らの声も混じってるんですよね」
「ええ」
坂本が眉を寄せる。
「元から108の魂がどうこうって話なら、俺らの声まで出てくるのは何なんだ?」
警察官は資料をもう一度確認したが、答えになるような記述は見つからなかった。
「少なくとも、ここには書いてないですね」
何十もの声だけが、監視映像の向こうで重なり続けていた。
その時だった。
少し離れた場所で、短い鳴き声が上がった。
振り返る。
先ほどまで捜索に参加していたグラエナが、ビルを見ていた。
「グラエナ?」
担当の警察官が呼ぶ。
グラエナは返事をしない。耳が伏せられ、身体が硬直している。
「おい、どうした」
警察官が近づこうとしたところで、前脚から力が抜けた。
そのまま地面へ崩れ落ちる。
「グラエナ!」
担当の警察官がすぐに駆け寄り、身体を抱き起こした。
呼吸はしている。
胸も動いている。
だが目を閉じたまま、呼びかけには反応しない。
「おい、グラエナ! 聞こえるか!」
別の警察官もしゃがみ込み、状態を確認する。
「呼吸あります。外傷も見えません」
坂本がその様子を見て、表情を変えた。
「……大西の時と似てないか」
「意識がないところは、かなり近いですね」
原因が同じなのかは分からない。
その場にいた誰も、まだそこまでは口にしなかった。
次の瞬間。
「グルル……」
低い鳴き声が聞こえた。
担当の警察官が動きを止める。
腕の中のグラエナは口を閉じていた。
「……今の、グラエナだよな?」
「聞こえました」
また、
「ガウッ!」
今度はビルの上から聞こえた。
警察官がゆっくり顔を上げる。
腕の中には、意識を失ったグラエナがいる。
さらに監視端末から、
「グルル……」
同じ鳴き声が流れた。
8階。
ミカルゲが映っている場所からだった。
担当の警察官がグラエナを抱く腕に力を込める。
「……戻す」
すぐにボールを向けた。
「グラエナ、戻れ」
光に包まれ、グラエナの身体がボールへ収まる。
現場を指揮していた警察官も状況を見て、すぐに声を上げた。
「今出てるポケモンは一旦全部戻してください。原因が分かるまで出さないで」
「了解!」
周囲で待機していたポケモンが次々とボールへ戻されていく。大西を運んだゴーリキーも既に役目を終えていたため、そのままボールへ戻された。
「ガーディも出すな。ゴースもそのままで」
「了解」
ポケモンに何が起きたのかはまだ分からない。
ただ、大西とよく似た状態で倒れたグラエナの鳴き声が、本人とは別の場所から聞こえた。
それだけで、十分に警戒する理由にはなった。
◇
「……あの石、壊せないんですか」
管理会社の担当者が監視映像を見ながら言った。
「全部あそこから出てるように見えますけど」
誰もすぐには答えなかった。
坂本が先に口を開く。
「やめた方がいい」
「でも、原因があれなら」
「原因かどうか分からんだろ」
坂本は画面の中の灰色の石を指した。
「あれが石から出てんのは見りゃ分かる。でも、石があれを出してんのか、あれを押さえてんのかは別だ。分からんもん壊して、もっと悪くなったら戻せねえぞ」
警察官がミカルゲの資料へ戻る。
「……かなめいし」
「何です?」
「この石の名前です。ミカルゲは、かなめいしに縛りつけられている、とあります」
管理会社の担当者が黙った。
「じゃあ、壊さない方がいいですね」
「少なくとも、今ここで試すことじゃないな」
その判断が出た直後、規制線の外側で声が上がった。
「……母さん?」
若い男が歩道の脇で立ち止まっていた。
近くの警察官がすぐに向かう。
「どうしました?」
「いや、今……」
男はビルとは違う方向を見ている。
「母親に呼ばれた気がして」
「お母さん、近くにいるんですか?」
「いないです。札幌にも住んでないし……」
言い終わる前に、少し離れた場所で別の女性が振り返った。
「え?」
その人も誰もいない方向を見ている。
「今、誰か呼びました?」
周囲の人間が顔を見合わせる。
そのさらに向こうでも、1人が足を止めた。
建物の中だけで起きていたはずの声が、規制線の外でも聞こえ始めていた。
現場を指揮していた警察官が無線を取る。
「規制範囲を広げる。周辺の人を一旦離してください。店舗にも協力要請を」
『了解』
「消防にも伝えて。今の範囲じゃ足りない」
警察官たちが動き始める。
その間にも、誰もいない場所へ振り返る人間が少しずつ増えていった。
◇
監視カメラの中では、ミカルゲが変わらず8階を覆っていた。
5メートル近い黒紫色の本体。
赤く光る目。
身体の中ではいくつもの緑色の顔が回り続けている。
端末の横には、開いたままの資料が2つ並んでいた。
1つにはミカルゲ。
そこには「108の魂」と書かれている。
もう1つには、最近になって名称と特徴が整理された「オヤブン個体」の資料。
目の前のものは、そのどちらにも当てはまっているように見える。
それでも、どちらを読んでも今起きていることを説明しきれなかった。
監視映像の音声から、大西の声が聞こえる。
続いて警察官。
坂本。
宮田。
知らない男。
知らない女。
グラエナ。
何十もの声が重なり合い、もう誰が何を言っているのか分からなくなっていく。
その頃、ビルから100メートルほど離れた交差点で、信号を待っていた女性がふと顔を上げた。
隣にいた友人が気づく。
「どうしたの?」
女性は返事をせず、暗い路地の方を見ていた。
しばらくして、小さな声で呟く。
「……今、お父さんに呼ばれた」
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい