ポケモン現代入り 作:ささみ
「……今、お父さんに呼ばれた」
信号を待っていた女性が、暗い路地の方を見たまま呟いた。
隣にいた友人が怪訝そうに顔を覗き込む。
「お父さん?」
「うん。でも、いるわけないんだけど……」
「札幌に来てるの?」
「来てない。今日も普通に家にいるはず」
女性はそう答えながらも、路地から目を離さなかった。
「美穂」
もう一度、声がした。
今度は友人にも、女性の肩が大きく跳ねたのが分かった。
「……ほら。今、呼んだでしょ」
「呼んでないよ」
「じゃあ、今の何?」
女性が一歩だけ路地の方へ進む。
友人がすぐに腕を掴んだ。
「ちょっと待って。お父さんいないんでしょ?」
「分かってるよ。分かってるけど……あれ、お父さんの声だよ」
理屈では分かっているらしい。
それでも、また呼ばれるのを待つように路地を見ている。
近くで交通整理をしていた警察官も2人の様子に気づき、すぐに近寄ってきた。
「どうしました?」
「この子が、誰かに呼ばれたって」
「誰か見えました?」
「いえ。父の声が……あっちから」
女性が路地を指す。
警察官はその方向を確認した。
照明の少ない細い道だった。少し先に室外機とごみ集積所が見えるだけで、人影はない。
「今、この辺りで誰もいない場所から声が聞こえたという話が出ています。確認しに行かないでください。一旦、この通りから離れましょう」
「他にもいるんですか?」
「詳しいことはまだ分かってません。知ってる人の声でも、今は追わないでください」
警察官が避難する方向を示す。
女性はまだ納得できない様子だったが、友人に腕を引かれて歩き始めた。
数歩進んだところで、
「美穂」
今度は背後から聞こえた。
女性が振り返る。
誰もいない。
そのまま歩き始めると、少し離れたビルの入口からもう一度。
「美穂」
同じ父親の声だった。
◇
似た訴えは、それから急速に増えていった。
「嫁の声がしたんですけど、今仕事中のはずなんですよ」
「後ろから息子に呼ばれて……振り向いたら誰もいなくて」
「自分の名前を呼ばれました。男の声だったと思います」
一方で、すぐ隣にいた人間が何も聞いていないこともある。
「いや、俺は何も」
「嘘だろ。すぐ横から聞こえたぞ」
「聞こえてないって」
同じ場所に立っていた2人が全く違う声を聞いていることもあった。
誰かが母親の声を聞いた場所で、隣の人間は知らない男の笑い声を聞いている。
警察官が話を聞いている最中にも、何人かが急に振り返った。
そのたびに視線の先を確認する。
誰もいない。
現場から100メートルほど離れた場所でも同じ訴えが確認された時点で、最初に張られていた規制線では足りなくなった。
「今の範囲じゃ駄目だ。もう1本外で止める」
「どこまで取ります?」
「確認されたところぎりぎりじゃ意味ない。余裕持って広げてくれ。今分かってるのがここまでってだけだからな」
無線で指示が飛び、周辺道路の規制が始まる。
消防も避難誘導へ回った。営業中だった店舗には一時的な閉店を要請し、規制区域内の住民にも外へ出るよう案内する。
人の多かった通りから、少しずつ人影が消えていった。
店の照明は点いたままなのに、中には誰もいない。
路上に停められていた自転車だけが残り、信号機はいつも通りの間隔で色を変えている。
その空いた道から、
「こっちです」
警察官の声がした。
近くに警察官はいなかった。
◇
「こちらです! このまま真っすぐ進んでください!」
別の場所では、実際に警察官が道路の先を示していた。
避難者たちが指示に従って歩き始める。
直後。
「こっちじゃない! 反対!」
同じ警察官の声が、横のビルの間から響いた。
列の前方にいた何人かが足を止める。
「え?」
「どっち?」
「今、反対って言ったよな?」
「違います! そのまま進んでください!」
警察官が声を張る。
すると今度は避難者たちの後ろから、
「そのまま進んでください!」
まったく同じ声が返ってきた。
避難者たちが一斉に振り返る。
誰もいない。
「声だけ聞かないでください! 近くにいる警察官を見て、その指示に従って!」
その言葉まで、少し遅れて道路脇の閉まった店舗の中から繰り返された。
「声だけ聞かないでください!」
別のビルの2階。
「近くにいる警察官を見て!」
さらに離れた路地。
今度は最後まで言わない。
同じ声なのに、途中で切れる。
「……まずいな」
消防隊員が顔をしかめる。
「声だけじゃ、どっちが本物か分からなくなるぞ」
ほどなくして避難方法が変えられた。
警察官と消防隊員は複数人で組み、避難者の近くまで直接行く。離れた場所から声だけで誘導するのはできる限り避け、指示を出す時には姿を確認してもらう。
「呼ばれても列から離れないでください。知っている人の声でも同じです。近くの警察官か消防隊員を直接確認してください」
何度も同じ説明が繰り返された。
しばらくすると、その説明まで周囲から聞こえるようになった。
誰も喋っていない時に。
空になった店舗の奥から。
閉じた窓の向こうから。
時には自分のすぐ後ろから。
◇
「……美咲?」
避難の列を歩いていた男性が、不意に足を止めた。
40代ほどの男だった。
近くにいた警察官が振り返る。
「どうしました?」
「いや……今、娘の声が」
男性は道路の向こう側を見ていた。
「娘さん、この辺りにいるんですか?」
「いえ。家にいるはずです」
そう答えてから、自分でもおかしいと思ったらしく眉を寄せる。
「聞き間違いかな……」
「お父さん」
もう一度。
男性の顔から、さっきまでの苦笑が消えた。
「……今の、聞こえました?」
「私は何も」
「ですよね……」
道路の向こうには誰もいない。
男性はしばらくそちらを見ていたが、やがてポケットからスマートフォンを取り出した。
「一応、電話だけ――」
言葉が止まった。
スマートフォンが手から滑り落ちる。
男性はそれを拾おうともしなかった。
「どうしました?」
警察官が顔を覗き込む。
男性の目は開いていた。
だが、何も見ていないようだった。
「……大丈夫ですか?」
次の瞬間、膝から力が抜けた。
「っ、危ない!」
警察官が咄嗟に抱き止める。
呼吸はしている。
脈もある。
目立った外傷はない。
何度名前を聞いても、肩を叩いても、もう反応しなかった。
救急隊員を呼ぶと同時に、現場本部へも連絡が入った。
『避難中の男性1名、突然意識を失いました。呼吸、脈あり。外傷は確認できません』
「倒れる前に何かあった?」
『娘さんの声が聞こえると言ってました。家にいるはずだから電話で確認しようとして、その直後です』
無線を聞いていた坂本が顔を上げる。
「……大西と似てないか」
「かなり近いですね」
原因まで同じとはまだ言えない。
だが、大西も目立った怪我がないまま意識を失っている。
そしてグラエナも同じだった。
『……美咲?』
現場からの無線に、別の声が混じった。
現場本部にいた者たちが黙る。
『今、娘の声が』
倒れた男性の声だった。
「本人は?」
『目の前にいます。意識ありません』
無線の向こうで、何かを確認するような物音がする。
『今の声、道路の反対側から聞こえました』
少しして、
『一応、電話だけ――』
また男性の声。
今度はすぐ近くからだったらしい。
『……これ、本人がさっき言ったやつです』
「大西さんと同じか」
『はい。本人はここにいるのに、声だけが別の場所にいます』
現場本部にいた者たちの視線が、監視映像へ向いた。
8階には、巨大なミカルゲがいる。
映像そのものに変化はない。
黒紫色の身体が壁や天井を跨ぎ、その中を緑色の顔がゆっくりと回っている。
ただ、スピーカーから聞こえる声の中に、さっきまではなかった男の声が混ざっていた。
「……美咲?」
画面の中のミカルゲが、笑っているように見えた。
◇
最初の男性だけでは終わらなかった。
数分後、別の方向から連絡が入る。
『こちらも1名倒れました。女性です』
「状態は?」
『呼吸あり。意識なし』
「倒れる前は?」
『誰かに名前を呼ばれたと言ってました』
さらに別方向からも報告が入る。
『声を聞いたという人が複数います。まだ倒れた人はいません』
地図の上に印が増えていった。
最初のビルから少し離れた歩道。
交差点。
店舗の前。
住宅街へ入る手前。
発生地点はきれいな円にはならない。
同じくらいの距離にいても、何も聞こえない人間がいる。一方で、さらに遠くから声を聞いたという通報も来ている。
「近いところの報告が多いのは確かですね」
「そりゃ元々あの辺に人が多かったからな。これだけじゃ距離のせいとも言い切れない」
「人数の方はどうなんです?」
「それも分からん。人が多ければ報告も増える」
そこで坂本が口を挟んだ。
「ただ、ビルの前で声そのものが増えたのは確かだぞ。俺らしかいなかった時は、あそこまで酷くなかった。警察来て、消防来て、救急来て、人が増えてから明らかに声の種類も増えた」
「それも、時間が経ってあのミカルゲが活発になっただけかもしれません」
「だから分からんって。人が増えたからなのか、時間が経ったからなのか、その両方なのか」
「今ある情報じゃ切り分けられないですね」
結論は出なかった。
その間にも、現場本部の外から声が聞こえてくる。
「今ある情報じゃ切り分けられないですね」
誰かが今言ったばかりの言葉だった。
一同が外を見る。
誰もいない。
数秒後、もっと遠くから、
「だから分からんって」
坂本自身の声が返ってきた。
坂本は口元を引きつらせる。
「……気持ち悪ぃな」
今度は返ってこなかった。
それが余計に気味が悪かった。
「避難はそのまま続けます。現場に残す人数も必要最低限で。本部も次の規制線の外まで下げましょう」
「了解」
人数が原因だと決まったわけではない。
何が起きるか分からない場所から、人を減らしているだけだった。
◇
被害は人間だけに出ているわけでもなかった。
「おい、あれ」
道路規制に当たっていた警察官の1人が、街路樹の上を指す。
数羽のムックルが枝に止まっていた。
さっきから落ち着かない様子で、何度も首を動かしている。
そのうちの1羽が突然翼を広げた。
飛び立つのかと思った。
だが、羽ばたかない。
身体だけが横へ傾き、そのまま枝から落ちた。
「ムックル?」
近くにいた警察官が駆け寄る。
直後、隣の建物の庇に止まっていたもう1羽も落ちた。
残ったムックルたちは一斉に飛び立った。
だが、そのうち1羽が数メートル進んだところで、羽ばたきを止めた。
まるで糸でも切れたように落ちてくる。
「車止めて!」
警察官が道路へ飛び出す。
最初に落ちたムックルを抱き上げると、呼吸はしていた。目立った傷もない。
目を閉じたまま、身体に力が入っていない。
「……これも同じか?」
「まだ分からない。とりあえず道路から退けるぞ」
甲高い鳥の鳴き声がした。
警察官が手元を見る。
腕の中のムックルは動いていない。
また鳴く。
今度は頭上。
顔を上げる。
電線にも街路樹にも、ムックルはいない。
もう一度。
道路の反対側にある建物の屋上から。
その次は、閉じた店舗の中から聞こえた。
「……本部、こちらで野生のムックルが3羽倒れました」
『状態は?』
「全部生きてます。外傷なし、反応なし。それと……倒れたあとから周囲でムックルの鳴き声が聞こえてます」
無線の向こうが一瞬静かになる。
『グラエナと似てるな』
「はい」
だが、その報告をしている間にも別の無線が重なった。
『こちらでも野生ポケモンが倒れてます。ポッポが2羽』
『路地でコラッタ1匹。呼吸あり、反応ありません』
『こっちはムックルと、別の小型ポケモンが1匹。どちらも外傷なし』
警察官が周囲を見回した。
さっきまで街路樹や電線、建物の陰には、いくつもの野生ポケモンがいた。
今は少ない。
逃げたのか。
それとも、見えない場所で倒れているのか。
『こっち、コラッタの鳴き声も聞こえます。本人は倒れたままです』
『ポッポも同じです。倒れた個体とは違う方向から鳴いてます』
さらに別の無線が入る。
『こちら、路地の奥で野生ポケモンが何匹か倒れてます。種類確認します』
その向こうで、小さな鳴き声が聞こえた。
『……今の、倒れてるやつじゃないよな?』
『違います。口、動いてません』
無線越しに聞こえていた鳴き声が、急に途切れた。
次の瞬間。
現場本部の近くから、同じ鳴き声がした。
その場にいた者たちが一斉に振り返る。
何もいない。
ビルからかなり離れている。
それでも声だけは来ていた。
◇
「避難誘導に出せるポケモンいませんか?」
消防側から聞かれた警察官が首を振った。
「必要がなければ出さないでください。グラエナだけじゃなく、野生のポケモンまで同じような状態で倒れてます」
「この辺にいるだけで危ないってことですか?」
「そこまでは分かりません。ただ、原因が分からない以上、わざわざ出しておく理由はないです」
「分かりました」
「緊急時まではボールの中で。どうしても使うなら、異常が出たらすぐ戻してください」
ゴースもガーディも、そのまま出されることはなかった。
普段なら人間より早く異変に気づき、力仕事も捜索も任せられるポケモンたちを、この現場ではボールの中へ入れておくしかない。
規制区域から人とポケモンが減っていく。
街は静かになっていった。
そのはずだった。
誰もいなくなった横断歩道の向こうから、女性の笑い声がする。
閉店したコンビニの中から、誰かが「すみません」と呼ぶ。
ビルの屋上では姿のない鳥ポケモンが鳴いている。
返事をする者はいなかった。
◇
危険な野生ポケモンが原因と見られる事案になったことで、ポケモンの駆除を請け負う業者にも応援要請が出されていた。
到着した担当者たちは、離れた位置から8階の監視映像を確認する。
「……これがミカルゲ?」
「そう見られてます」
「でかすぎるだろ」
「オヤブン個体らしいです。ただ、記録にあるオヤブンよりさらに大きい」
「ポケモンは出せない?」
「今は必要がなければ出さない方針です。警察のグラエナだけじゃなく、周辺の野生ポケモンにも被害が出てます」
「野生まで?」
「ムックル、ポッポ、コラッタ。他にも何種類か。倒れたあと、別の場所から鳴き声が聞こえてます」
駆除会社の男は監視映像を見る。
画面の中では、黒紫色の身体が変わらず8階を埋めていた。
緑色の顔が、浮かんでは沈む。
その中の1つが画面の正面を向いた。
「……こいつ、カメラ見てないか?」
「顔みたいなのがずっと動いてるんで、たまたまじゃないですか」
「そうかね」
数秒後。
別の緑色の顔も、ゆっくりこちらへ向いた。
さらにもう1つ。
男は黙った。
「遠くから仕掛けるにしても、あの石が怖いな」
「かなめいしです」
「壊したらどうなる?」
「分かりません。ミカルゲを縛りつけている石らしいので、今は手を出さないことになってます」
「なら下手に撃つのも怖いか」
「そういうことです」
戦える人間が増えても、すぐに攻撃するという話にはならなかった。
8階の黒紫色の本体は壁を跨ぎ、天井まで越えて広がっている。どこまでがまともな攻撃対象になるのかも分からない。
何より、ミカルゲはまだこちらへ技を撃つような攻撃をしていない。
それでも人とポケモンは倒れ続けている。
「今のところ、あいつ自体は8階から動いてないんですよね」
「確認できてる範囲では」
「石から離れられないとか?」
警察官が資料を確認し、少しして首を振る。
「いや。そういうわけではなさそうです」
「違う?」
「有識者からの資料ではミカルゲは普通に移動するみたいです。かなめいしごと動けるとも記載が」
男が監視映像を見る。
「じゃあ、こいつは?」
「分かりません」
画面の中では巨大なミカルゲが、変わらず同じ場所にいた。
「動けないんじゃなくて、動いてないだけか」
「今のところは、そうとしか言えませんね」
男はしばらく映像を見ていた。
赤い目がこちらを向いている。
その周囲を回っていた緑色の顔も、いつの間にかいくつかが同じ方向を向いていた。
「……面倒だな」
「ですね」
今は8階にいる。
それが、この先もそこにいるという保証はなかった。
◇
ミカルゲと判明したことで、共有されているポケモンの分布予測図も確認された。
「……ここ、候補に入ってるな」
「札幌の街中が?」
「かなり大雑把な予測ですけどね」
分布図には、地方ごとの地理や環境、これまで確認された出現地点などをもとに、ポケモンが現れる可能性のある地域が示されている。
今回のビルがある一帯も、ミカルゲの出現候補から完全には外れていなかった。
「ミカルゲって、山とか森とか、そういう環境だけで場所を予測できるって感じのポケモンでもなさそうだな」
「だからシンオウ側の地理も見た方がいいかもしれません」
別の資料を開く。
シンオウ地方。
現実の北海道とは地形も縮尺も完全には一致しないが、大まかに対応すると考えられている地域がある。
「この辺りを向こう側に当てはめると……」
画面を拡大すると、209番道路の途中に小さな塔の印があった。
「みたまのとう」
「何です、それ」
「ミカルゲに関係する場所みたいです」
資料を読み進める。
かなめいし。
みたまのとう。
ミカルゲ。
別々に調べていた情報が、そこで同じ場所へ集まった。
「厳密にこの住所ってわけじゃないですよ。地形も縮尺もそのまま一致してるわけじゃないので」
「でも、この一帯が向こうのみたまのとうに当たる可能性はある?」
「あります」
坂本が画面を見る。
「そこにかなめいしが出てきて、実際にミカルゲまでいるんだろ」
「……そうですね」
偶然だけで片付けるには、重なるものが多かった。
◇
管理会社から、ビルの過去の工事資料が集められた。
建築時の図面に改修履歴、テナント入れ替え時の写真。当然、8階の壁の中にかなめいしを入れたという記録はない。
それだけなら記録漏れという可能性も残る。
だが、以前同じ場所を改修した際の写真が残っていた。
「これ、何年前です?」
「4年前ですね」
「同じ壁?」
「同じです。位置もここ」
壁材を外した状態の写真だった。
配線や下地、柱まで写っている。
そこに大きな石はない。
現在の監視映像と並べると、今は同じ位置にかなめいしがある。
「……じゃあ後から入ったのか」
「少なくとも4年前にはありません」
「誰かが工事して入れた記録もない?」
「ないです。そもそも、これだけの石を壁の中に入れたら記録に残りますし、残します」
警察官が写真の日付を確認する。
4年前。
ポケモンが現れるより前だ。
坂本が写真と監視映像を見比べながら言った。
「シンオウが出た時、それ以外ないだろ。前にはなかった。今はある。それでシンオウ側じゃ、ここら辺がその塔の場所なんだろ?」
警察官も資料を見直してから頷く。
「そうですね。時期を考えても、かなめいしが現れたのはシンオウ出現時と見ていいでしょう」
「建物の壁ん中だろうが関係なかったってことか」
管理会社の担当者が、監視映像に映るかなめいしを見る。
シンオウのポケモンたちが現れた時、この場所には既にビルが建っていた。
それでも、そこに現れるはずだったものは既存の建物を避けなかった。
壁の中に。
下地や配線の間へ割り込むように。
かなめいしだけが、いつの間にかそこにあった。
「じゃあ問題は、あのミカルゲですね」
「何が?」
「かなめいしと一緒に最初から現れていたのか、それとも壁を開けたことで出てきたのか」
「それは分からんのか」
「今ある資料だけじゃ」
坂本は返事をせず、8階の映像を見た。
石を見つけたのは、その日の夕方だった。
誰も壊してはいない。
持ち上げてもいない。
ただ壁を剥がし、外へ露出させた。
その日の夜には、声が始まった。
「……もし最初からいたなら」
宮田が小さく言った。
「何?」
「俺らが壁剥がすまで、ずっとあそこにいたんですかね」
誰も答えなかった。
監視画面の向こうで、緑色の顔がゆっくりと回っていた。
◇
調査している間にも、地図上の印は増え続けていた。
『こちら、声を聞いたという通報が3件』
「場所は?」
報告を受け、地図へ新しい印をつける。
「……さっきの規制線より外だな」
「また広げます?」
「広げるしかない」
別の無線が入った。
『意識不明者1名です』
「位置送って」
さらに遠い。
そこへ別方向からも連絡が入る。
『こちら、野生ポケモンが複数倒れてます。ムックル2羽、ポッポ1羽』
「状態は?」
『全個体、呼吸あり。外傷なし。反応ありません』
『こっちはコラッタが1匹。それと別種の小型個体が1匹倒れてます』
地図に、人間とは別の印が追加される。
意識不明者。
声を聞いた人間。
倒れた野生ポケモン。
発生地点だけが、少しずつ外へ伸びていた。
「本体、動いてないですよね?」
「動いてない」
監視映像を確認する。
5メートル近い黒紫色の身体と、赤く光る目。
かなめいしのある8階から、位置は変わっていない。
なのに、声を聞いた地点も、人やポケモンが倒れた地点も外へ広がっている。
「……何なんだよ、これ」
宮田が地図を見ながら呟いた。
その直後。
「何なんだよ、これ」
監視端末のスピーカーから、宮田自身の声が返ってきた。
宮田が固まる。
数秒前まで、監視映像の音声にはもっと古い声ばかりが混じっていた。
坂本がゆっくり画面を見る。
「……聞いてんのか?」
誰も答えない。
無線が鳴った。
『こちらでも1名、意識を失いました』
「状態は?」
『呼吸、脈あります。外傷なし』
「場所は?」
答えを聞いた警察官が地図に印をつける。
今までで一番遠かった。
『それと……』
「何?」
向こうの警察官が少し言葉を止めた。
『倒れた人、今ここにいるんですけど……少し離れた建物の中から、その人の声が聞こえてます』
現場本部が静かになった。
監視端末のスピーカーから、何十もの声が重なっている。
大西の声。
警察官たちの声。
宮田の声。
知らない男女の声。
グラエナや野生ポケモンたちの鳴き声。
同じ言葉を何度も繰り返すものもあれば、何を言っているのか分からないほど重なっているものもある。
その中に、また聞いたことのない声が1つ混じった。
そして、少しずつ他の声に埋もれていった。
誰かが監視画面を見る。
巨大なミカルゲは、まだ8階から動いていない。
赤い目だけが、カメラの方を向いていた。
今後の展開として伝説ポケモンのサイズどうしよっかなって思ってるんですよね〜
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図鑑通りのサイズ
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図鑑よりかなりデカくしてもいい