ペイガンのおっさん、大聖堂の聖騎士になる。 作:PureFighter00
クルトー達を城外に帰し、俺はガストンに背負われながら隊舎に帰ろうとした。すると大聖堂から偉い坊さんが出てきてあれこれ口上を述べて──まぁ、最高の治療を是非とも大聖堂側で提供したいと。メニューは以下の通りだ。
由緒あるガレノス式体液理論による治療(瀉血などなど)
最高級の薬(宝石の粉末や大司教が聖別した犬のフンやら蜂蜜や聖水混合物)
大聖堂の坊さん総出で治癒の祈り
うん、善意7割政治判断3割なのは分かるんだ。特に騎士たるものの慈悲やら高潔さ、あと大聖堂に対する信心などがかなり先方にとっては
大体、傷として不味いのは左手の咬傷ぐらいでダメージの大半はケツの打撲や各部の筋肉痛だ。実家ではこんな時にレモンや果物を食べて、あと肉や魚、豆のスープを大量に食べた。何故かこうすると痛みが早く引く。まだ俺は痛みが直ぐにやって来るが親父殿などは筋肉痛が1日から2日後に来るという。そんな時親父殿は実家からそんなに遠くないトロワのローマ式風呂に向かっていたが……
【久々の中世ヨーロッパ警察】
風呂好きで定評があるローマ人はヨーロッパ各地にも風呂を作り、更に温泉なども整備している。体液理論や温寒湿乾理論では温泉治療は必ずしも勧められたものではないが、実際問題効くのである。
実は作中時間ぐらいだと入浴は割と庶民の間では人気なんだが、混浴だし酒やメシ食えて娼婦までいる「大人の社交場」であり、教会などでは風紀の問題から禁止に動いている。
飯を食い、蜂蜜塗ってベッドで横になる。時に少しだけ体を動かして豆スープと果物を食す。流石に若い頃程ではないが……体は急速に回復していった。案外大聖堂の皆様の祈祷が効いたのかもしれない。礼ぐらいは言うかと散歩がてらノートルダム寺院にミシェルと向かうと、坊さんたちが神の奇跡だなんだと囃し立てる。この辺は純粋な好意として丁寧に謝辞を述べたら……その日の午後にはノートルダムの祈りで街の守護者が大復活とマルシェで話題になっていた。
「んー、今この王都は微妙なバランスですからねぇ。テラ師匠は今その渦中に投げ入れられた剣なんですよ」
オフだからか、ミシェルは鮮やかな青い服に白いバルブ(髪や胸元を隠す布)を被った慎み深い服装をしている。最近慣れては来たが、流石に亜麻色の長い髪を晒して教会行くような非常識さはミシェルにはない。正直その格好でいてくれると個人的には親しみやすい。体のデカい村娘から大人の女性らしさが目立つ様になった! 喜ばしい話である!
朗らかに談笑しながらマルシェを見て回り、豆類を後払いで決済しようとしたら……断られた。
「だって王様、(お金に)お困りなんでしょう?」
「団費は割と潤沢に回りますので……」
「狼退治にピッチフォークで……」
「……武器も用意出来ない騎士団なんて……」
誰だ? イングランド派か。よくまぁ人払いしたスラムでの出来事見て言いふらしたな? ヒソヒソこちらに聞こえる様に言うのが癪に障る。仕方ないだろ、今大量に武器持ってたら島国側に余計ウザがられるわ!
困惑する俺たちの後ろから、派手な帽子を被った密輸商人、ピエールが現れて店のおばちゃんに語りかける。
「支払い滞る様なら俺に証文渡しな。騎士団の支払いは俺が保証する。
「まぁ、ピエールさんが言うなら……でも、支払いの時にいきなり値切られたって……」
「ブルゴーニュ派だからじゃねーの? まぁ安心しな、その辺俺が仕切るわ」
「ピエールの旦那、やけに羽ぶりがいいな?」俺は目を丸くして尋ねる。君、一介のスラム住み密輸商人では……?
「儲かってるみたいですね」
「あんたが推薦したんだろ。本気で驚いてる」
「利害の一致ですよ。私たちも貴方が街の……いや、商流の実権握って貰えると助かります。島国側に負けないぐらいやっちゃってくださいな」
ミシェルがなんか物騒なことを言い出したぞ(困惑) もっと俺に分かりやすく……
「まぁ、
「大聖堂の騎士って……俺は馬乗れないから……」
「街の方々の噂は自由ですわ」ミシェルは下から俺の顔を覗き込んで爽やかに笑った。「爵位よりどう見られているのかが大切ですの」
喋り方が変わったミシェル、なんか怖い……なにそのデスノとかデスワって???
◆
「ミシェル団長、祝賀会の予約してきました。全員参加で良かったんですか? 当直ぐらい……」
「あら? ジョセフ居残りしてくれるの? 大丈夫よ、従士はお酒厳禁にしますし……
「あ、悪い団長だ」
「
「……馬も乗れないのに?」
「ええ、馬も乗れないのに、よ。まだ秘密よ」
後から聞いた話だが、ジョセフの実家は貴金属鍛冶屋の顔役である。昔は王都の貴族相手に手広く商売をしていたらしいが、十数年前のペスト流行とブルゴーニュ派の寝返りで随分苦労したらしい。その後に来た島国野郎にはさらに苦労させられて怒り心頭に達していると言う。
その立ち位置をジョセフはよく理解していた。彼もある意味では実家と騎士団を繋ぐ連絡役なのだ──随分後まで俺は知らされていなかったんだが。全く!
狼退治したぐらいで騎士団が祝杯とは呑気なものだなと思いはしたが、恐らくこれはミシェルの策ではあるのだろう。島国の連中は思う筈だ。あの王直属の騎士団はその程度で浮かれている弱卒であると。
「──という想定なので、従士メンバーは美味しい料理を沢山食べて、騎士は飲み過ぎない程度に呑んでよし。お酒で醜態晒したり周りに迷惑掛けるのはダメだけど、楽しいお食事会にしましょう!」
「態と隙を見せたいって事か」
「テラ師範にもお願いが。適当な所で酔い潰れてください」
「なんで?」
「お酒が弱いって思わせたいので」
◆
さて、宴会当日1430年3月中旬過ぎ。俺は知らなかったが季節は四旬節の断食期間中。日中メシ抜きで身体を動かして日が暮れた後にちょっと豪華な飯を食う……そんな期間だった。腹ペコ騎士団が貸し切り予約のタヴァーン(居酒屋)に向かうと、そこにはクックショップ(惣菜屋だと思えばいい)からお取り寄せした多数の!……魚料理が。
【中世ヨーロッパ警察食堂】
現代日本だと余りイメージ湧かないがキリスト教にも断食はある。断食はイスラムの専売ではない。そして肉食に関する規則もあり、魚に分類されるものは食べても良しとされ、カモノハシは(当時の扱いは)魚だから食えたりした。
「魚かぁ。悪かぁ無いが脂分が欲しかったなぁ……」と皿を覗き込むと! なんと!
「くっ……
「教会の教えを守って美味しいもの食べるのはアリなんですよ、テラさん」満面の笑みを湛えてジョセフが説明する。「確かに僕たち育ち盛りは脂が欲しいっ! けど肉の脂はお坊さんがダメというっ! だからオリーブオイルや胡桃油、アーモンドミルクなどなど探しましたとも! 集めましたとも! 断食メシと侮って貰っては困りますねぇ」
そして、テラコッタの器で温められたワインが供されるが、なんか爽やかな? いや……刺激的な香りがする……これはもしや黄金にも匹敵するという……
「ブラックペッパーですよ。黄金と同じ価値だったのは随分昔の話です。今はちょっと高いけど手に入らないものでは無い……そんな感じですよ。今日はちょっと奮発してみました。よーし、みんな席着いて! 先ずはエールで乾杯よ!」
【中世ヨーロッパ警察食堂】
別に「とりあえずビール文化の起源は中世ヨーロッパ」という話では無い。割と近世までエールは「飲むパン」みたいな栄養ドリンクっぽいものなのだ。栄養価は実際高い。
まぁ、緩くてドロドロしてるが飲みまくれば酔うし腹にも溜まる。空きっ腹には効く飲み物だ。ガストンも木製ジョッキでグイグイ飲んでる。
「ジョセフぅ! お勧めの料理教えてー!」
ジョセフがパイを指差し語り始める。
「はーい、先ずはこれ! ウナギとカワカマスのパイ包み焼き! 脂が乗るのはお肉だけじゃありません! この時期脂の乗ったカワカマスとぶっとい鰻を胡桃油とハーブで炒め、これでもかとパイに詰め込んで焼き上げました! もうね、これね! 口の中だけ天国だからっ!
次にこれ、豆ポタージュ! 乳もチーズも食べられないこの時期のスープはやっぱり物足りないよねっ! そこで一計、アーモンドミルクは乳じゃない! お坊さんもニッコリな素材で乾燥えんどう豆とリーキ(西洋ネギ)を煮込んだら、濃厚で滋味溢れるポタージュになりました! 白パンで残さず食べてね!」
「俺にもパイくれ!」
「やるじゃん、お魚ちゃん……」
「ポタージュ大盛りで!」
「ポタージュは大盛り無理だよ!」
「白パンはそれだけで美味いのに、ポタージュで更に旨くするのは犯罪的」
「なら没収」
「しかし奪還!」
こんな従士達をニコニコと眺めながら、騎士達は優雅にホットワインを傾けている。春が近いとは言えまだ夜は底冷えする季節。温めたワインにシナモンや生姜、そして黒胡椒!
「初めて飲んだが、この辛み? 痛さ? 癖になるな……」
「ふふっ、喜んで頂けて良かった」頬を染めてミシェルが微笑む。「スープもお勧めですよ」
前髪弄りがまた前髪を弄りながら勝手に解説する。「
「あら流石、王都のオリヴィエ殿は酔っ払っても博識だわ」
「ほほぅ、これが……」
「今、貴族の間で静かなブームだと……」
ふぅん、と俺は椀ごと飲んでみた。何というか……慣れない味だな。悪くは無いが。
「やっぱり微妙な顔してますね、師匠の反応が普通ですよ。貴族の間では割と味より『金持ってるぞ』アピールが重要だったりするので……」ふと、俺の頭に疑問が浮かぶ「なんで王都のオリヴィエ殿はそれ分かったんだ?」
「彼、三男とは言え貴族ですから。
「心意気は確かに高貴なんだがなぁ……」ワインをグイッと煽ると俺の耳元でミシェルが囁いた「あの、酔い潰れ……」
さぁて、困った。実は俺、ジャン・テラは酩酊した事がない。割と底無しだ。毒が効きにくいとか有利な点も無くはないが、例のルー・ガルーの術に関連しているのである。あの術は家伝の秘薬で発動させているが、実は酒で酔っても似た事ができるというか、大昔は酒で発動させていた時期もあるらしい。しかし大酒飲むたびに肉体の限界を超えていては長生き出来ないし、何百年か掛けて秘薬を作り、その効果が短時間で薄まる様に内臓を鍛えて来たのだ。
うーん、確か最後に酔っ払っている奴見たのは……とりあえず上半身裸になる。
「えっ! ちょっとちょっと師匠!」ミシェルが顔を真っ赤にして手で顔を覆うが、指の間からしっかり俺の裸身を見つめている。
「お? なんだぁ?」
「テラさん酔ってるなぁ、俺も続くか!」
「ぉおーん!」俺は一声叫ぶとエールの酒盃を奪い取り、一気に飲み干した!
──たしか、こんな風──だった様な──
そしてとりあえず机に突っ伏した。これでいいですかミシェルさん?
「さて、皆さん聴いてください! さる高貴な──」
あんだって?
従士達の朝は早い。
ミシェルの騎士団では、基本的には従士とは騎士達の小間使いである。飯の支度や洗濯、馬の世話など様々な作業を代行し、警備や街の巡回など業務に付き従いながら騎士としての様々なことを見て学ぶのだ。まぁ、職人と同じ徒弟制度みたいなものだ。そして俺は剣術の訓練で大変残念なものを見た。
当然、1番強いミシェルが剣の扱い方を教えるのだが……基本が成っていない段階から、ミシェルは寸止めの対戦訓練にかなりの比重を置いている。これは良くない。基礎が足りない。
俺は剣術指南としてかなり型にこだわる方だ。ミシェルなんかにもかなり厳しく姿勢や動きを指導した筈だが、みんな重心の置き方や足の捌き方が疎かな内から剣を振る。ちゃんと基礎が出来ていない内から対練するので型が歪む。ありゃ木剣振り回しているだけで、剣術ではない。
午後、ミシェルがパーティーに着て行く服を用意しなければならないというので、ジョセフと王都を
「なんですの? この店は!」
「いやー、王都は凄いな! こんな鮮やかに染められた服がこんなに安い! これなんかデザインもいいぞ!」
「大変残念なことを申し上げますが、パーティーに招待されて古着着て行くのはオシャレの基礎がなっていません! 基礎ですよ基礎! 基礎がダメだと何やってもダメ!」
え? 俺も基礎がダメなのか?
【中世ヨーロッパ警察、お針子部】
今回はちょっと長い解説が必要になる。いわゆるナーロッパ作品やファンタジーの世界で散見されているが……現在のユニクロやハイブランドの既製服みたいに完成品が吊るされて展示されているのは「産業革命以降の話」である。
時代区分的には近世と呼ばれる時代まで、糸は手作業で糸紡ぎしなきゃいけない。布はその手で紡いだ糸を
で、もし服が服として販売されているとしたら、それは基本「古着屋」である。ただ、古着屋と言ってもそれはシモキタのオシャレ系ショップではなく、服の修繕や仕立て直し、染め直しなどもやる職人の店になる。
日本でも100年ぐらい前までは普通の家庭の奥さんが子供に服を縫うなんてのは割と良くある話。和裁(着物制作スキル)や洋裁(洋服制作スキル)は嫁入り修行基本コースに入っていたりする。今では珍しくなってしまった風景ではあるが、ファンタジーや中世ヨーロッパ風の話で既製服買ってる描写を見ると、私などは馬車の脇を佐川急便のトラックが走っているかの如き違和感を感じてしまう。
「服は仕立てるものですし、布は織るもの、糸は紡ぐもの。常識ですよねぇ? 村でもそうだったでしょ? 私も小さい頃糸紡ぎしましたよ? 糸車回してこー……」
「俺は、その……小さい頃から剣術ばかりで……」
「可哀想なお母様!」ミシェルは大仰に腕を大きく開いてくるくると回りながら天を仰いだ。「師匠のその服1着を仕上げるのに何日糸を紡ぎ、何日織機を踏み、ひと針ひと針幾夜を徹して縫ったのでしょうか!」
「あれ? ミシェルは針仕事出来るの?」
「出来ないのでお金で解決します(真顔)」
重厚な店の扉を開く。そこには幾つもの……本当に夜空の星の如く様々な布が木の棒に巻きつけられて行儀良く並んでいた。店の主人は先客に仕上がった服を手渡してジャケットの具合を見ている。
「あれ? ピエールの旦那じゃないか?」
「お久しぶりです。いい仕立てですね」
「ちょいと照れるぜ。初めて仕立てた服を注文してみたが、人間の格が上がった気がする」
「とんでもない、ピエールさん」主人は声を掛けた。その言葉にはお世辞ではなく心底そう思っている……信念の様に聞こえた。「貴方が変わったんじゃない。今までの服が貴方の格を落としていたんです。私は戻しただけですよ」
失礼かとは思ったが、俺はピエールの旦那の服を色々な角度から見た。主人がさりげなく「コタルディと言います」と教えてくれた。肩がそうであり、ウェストがそうである様に裁断され、丁寧に縫い上げられたコタルディはそれが少し前まで平らな布だったとは思わせぬ程立体的に仕上がっていた。腕を上げれば僅かに柔らかな皺が出来るが、元に戻せば皺は当然の様に消えて行く。1番良い姿勢の時にはウェストや脇の下にも皺は寄らない。袖口には控えめながら銀糸の刺繍が施されている。鮮やかな紺色のアウトラインはまるで彫刻の様にぴったりしている。オシャレ素人の俺が見ても見事な仕事だ。これが王都のテイラーか! 主人が丁寧に、この間ピエールが被っていた羽帽子を手渡して頭に乗せると、まるでピエールではない様な伊達男が現れた。
「まるでパリジャンだ」俺は半ば呆れた。
「馬鹿、俺は生粋の
「見違えましたわ!」
「素直にかっこいいわ。俺もこんなの欲しい」
「割と高いぞ」ピエールはいつものピエールに戻って親指と人差し指で輪を作った。
「必要なら、用立てるがね」
「確かに当店の服は高額ですが、割引はしますよ、お得意様の騎士団ですから──」
俺とミシェルは顔を綻ばせ、ピエールは少し渋い顔をここではしたんだが……
「しかし……体型が特徴的過ぎる。追加料金は必要でしょうな」
店の主人だけが微笑み、俺とミシェルは驚いて間抜けな顔をして、ピエールだけはクックックと笑いを堪えている。そりゃそうだ、俺の身体は肩周りと背中周りがかなり筋肉質なのだ。
「やり甲斐はありますし自信もあります。しかし布地の量や新しいデザインになるので時間も掛かるのです。それはご理解頂きたい。で、どの様な服がご入用ですか?」
ミシェルが注意深く答える。
「
「──さる、高貴な方ですか。なるほどねぇ……晩餐会だけですか?」
「恐らく朝から登城する事になるかと」
「騎士団制服含めて3着は必要ですな」
「さっ……3着ぅ?」
「解説が必要ですな」仕立て屋ギルドの長、店の主人は柔和に微笑んだ。
【中世ヨーロッパ警察、着倒れ担当】
今回の服飾に関しては細かく注釈を入れる必要があるので、行頭に【着倒れ】と書いてある場合は本官の解説である。デザイントレンドや歴史的文脈が違いすぎている為にきっと現代人の読者諸兄には奇妙に見える事だろう。バブル期のボディコンワンレグが奇妙に見えたり、ハイブランドのプレタポルテがダブダブで肩が笑えるほど尖っていたのと同じ様に……1430年の最先端は奇妙に見えるものなのだ。
「先ずは、プールポアンですな。これは王都でも見かけますから違和感はないでしょう。元々鎧の下に着るもので、肩の動きを阻害しないグラン・アシェット袖が特徴です」
「島国野郎はなんか胸とか詰め物して膨らませてない?」俺は日頃からの疑問を口にした。
「男らしい筋肉質な身体を見せつけて、腰を細く絞るのが流行りですからな。大聖堂の騎士殿の様な本当に鍛え上げられた身体を持った貴族は稀です。我が国でも大元帥ぐらいしか……下半身のショースが身体にフィットしているのも筋肉誇示の一環です。最近の若者は悪ぶってプールポアンの丈を短くして脚の筋肉見せたがりますが、あれは少々下品ですな」
【着倒れ】当時既にあったパリ大が割と魁すぎた男塾ノリでバンカラだった為、筋肉誇示して喧嘩とかしてた記録がある。
全体的に元々鎧下だから身体のラインに沿った細身のシルエット。「身体を隠す」から「身体を魅せる」に変わって行く過程が先のルネッサンスの息吹を感じさせる。
「次が……騎士殿は嫌がるでしょうが、ウップランドですね」
店の奥から丁稚が一枚の絵画を運んでくる。
「何ですかこれ? お化け? 袖口まで床に着きそうな……動きにくそう」
「そう、そこが重要です。動きにくくて一苦労。だからダガーを抜いてプスリなんて真似は出来ない。だから謁見には良いのです、私は無害ですよとアピール出来る」
【着倒れ】忠臣蔵で浅野内匠頭が
「確かに──」俺は顎に手を当て考える「こんな裾や袖じゃ剣振るのに邪魔だな」
「何を切るつもりだよ、流石に身分の高いお方の周りにゃ狼は出ないぞ」ピエールがおどけて肩をすくめて見せるが、ミシェルは冷静に返す。
「人の皮を被った狼はいるかもしれませんけどね。でも大丈夫。残り少なくなってはいますが、本物の騎士がいます」
「大聖堂の騎士殿だからこそ、不恰好に見えるかもしれませんが『余計に動き難い格好』をされた方が良いかと。お任せ頂ければこちらが流行りに合わせたデザインをしますし、何かこだわりがあれば──お聞かせください。やって見せましょう」
俺は素直にこの主人の事を好きになった。客がどの様なオーダーをしようとも、自分の技量でこなして見せる。これはマスター……いや、グランドマスタークラスだ。実力があるから自信があり、自信があるから余裕がある。俺がどの様な要求をしても彼はきちんとストロングポイントで受けて、くるりと剣を回して首先に剣を突きつけるだろう。そう言う意味では彼も違う戦場で戦う剣士なのだろう。
「参った。お任せするよ。俺はこの方面では基礎も分からない
「喜んで! 技術を凝らした
「たっ……大砲ぅ?」
「戦場でも宮廷でも流行りでしてね。最後は夜会用のローブかダブレットにマントですが……ダブレットがお似合いでしょうな。その身体をローブで隠すのは惜しい。鮮やかな赤いマントに黒いベルベットでその身体を目立たせる……如何ですか?」
主人が奥に目をやると鮮やかな赤い生地と如何にも高級そうな──俺でも判るくらい高級そうな──密で滑らかな黒い生地が運び込まれる。そこだけ宵闇が舞い降りた様な深い黒。絵の中では如何にも金持ってるぞーと自慢げな髭の貴族が、金銀の糸で刺繍されたダブレットでドヤ顔を決めていた。
「そりゃ、こんな服着てたらドヤ顔するわなぁ」ピエールは恐る恐る指先でベルベットを撫でる。俺は赤い布地に「派手過ぎないか」不安を隠せない。
「ドヤ顔をすれば良いのです」主人は微笑みながら応える。「この絵を描いた画家に愚痴られたのですが、この貴族様はポーズを決めるまで上機嫌で1時間ほど様々なポーズをしていたらしいですよ。初めてドレスを着た女児みたいに、と」
そして、採寸。縛って結び目を作った紐で各部を測り、丁稚達が寸法を羊皮紙に書き込んで行く。採寸は流れる様に進み、如何にも手慣れている。これは間違いなく達人だ。
そして、丁稚達が肩幅や上腕の太さを聞きピタリと手を止める。それに気付いた主人は「間違いではありませんよ。数字を見れば熊かよと言いたくなるのは分かりますが……お客様、ちょっと力瘤を作ってみて頂けますか?」
俺は言われるままに肘を深く曲げて力瘤を作る。丁稚達は数字を聞いて思わず振り返った。主人は喜色を隠さず丁稚達に語りかける。
「クックック、まるでハムだ! これは楽しい! 服が完成してグッと力瘤を作って頂いた際のぱつんぱつんな姿が目に浮かぶ様だ!」
その喜びようは強敵を前にした親父殿の様だ。自分の全力を試せる喜び、達人たちが見せる子供の様な笑顔!
俺は間違いなくカッコいい服ができる事を確信した。街には街の達人がいるのだ。
騎士団に於いて、俺は今客人扱いだ。成り行き的に「狼退治の専門家」という体で騎士団に入り込み、ミシェル団長の師匠という事でただ飯を喰らっている。クルトー戦後傷を癒す目的でまだただ飯を食んではいるが、穴が空いた左手はともかく尻や背中の痛みはかなり引いた。要するに暇なのである。
最初の頃は田舎から出てきたペイガンらしく、王都の中を1人散策してみたりもした。王都は広く見るべき場所も多い。多いが……王都が広いとは言え、歩けば30〜40分程度で端から端まで歩ける広さだ。ここに10万とも15万とも言われる住人がおり重なる様に生活している。まるでデカい蜂の巣だ! そして人間とは飯を食って排泄する生き物だ。当初は慣れなかったが来た当初はウンコだらけだしウンコの悪臭に辟易としたもんだ。でも人間は環境に慣れる生き物であり、なんと1週間もせずに慣れた。俺たちの身体はいい加減に出来ている。はれるや!
王都はセーヌ川に囲まれたシテ島と、川に分断された北側、南側に別れている。その街区を囲むのが100年ぐらい前に建造されたシャルル5世が作った城壁だ。更にその外にはポツリ、ポツリとスラムが身を寄せ合う様に形成されている。北門サン・ドニからシテ島に向かうグラン・ブールヴァールには島国野郎や裏切り者であるブルゴーニュ派が多く、正直いけすかない連中が多い。俺の顔を見てはひそひそと何か噂話をしてやがる。
俺らが住む騎士団施設は北側の
その「何でも揃っている」マルシェに何故かないのが、実は神様だ。そして「そんなに必要か?」と思える程にあるのが我らが優しきおっかさん、聖母マリアの像である。なんせ辻々におっかさんがいて、見上げれば建物2階の外壁から見下ろしていて、
さっきまで客に少し臭う魚を掴ませていた魚屋の親父が、祠の前でだけは殊勝に十字を切っていく。恐ろしい神様には怖くておねだりできないから、優しいおっかさんの袖を引いて『
それが町民たちだけならまだいいが、街の真ん中シテ島にもででーんと大きなおっかさんの家がある。ノートルダム大聖堂とサント・シャペルという名の礼拝堂。王都が蜂の巣だとしたら、
サント・シャペルに入ってみよう。色ガラスを複雑に切って貼って蜂蜜の様に光を透過する壁(ステンドグラス)に包まれた中、聖母マリアが俺たちを慈悲深く見下ろしている。まるで「仕方の無い子ですね」とでも言いたそうな顔だ。礼拝者達は悪戯を咎められた子供の様に、聖母マリアに「違うの、そんなつもりじゃ無かったの!」と言い訳を続けている。
これは俺がキリスト教に不案内だからかもしれないが、聖母マリアは崇拝してはいけないらしい。崇拝ではなく崇敬するんだとか。この崇拝と崇敬の違いが本当によく分からない。王都の常識人枠である従士ジョセフに聞いても要領を得ないし、大聖堂のキラキラ服坊さんに聞いてみたらたっぷり2時間ご説明を頂いたが全く理解が出来なかった。ジーザスは神だがマリアは人、だから格付け的に……みんなマリア様に祈ってない?
【中世ヨーロッパ警察サイバー課】
この崇拝と崇敬に関しては筆者のおっさんも理解できていない様なので、サイバー課のGeminiさん(人工知能)に聞いてみた。GeminiさんGeminiさん、私たち非キリスト教徒に分かりやすく説明して?
では、サイバー課のGeminiとして、筆者のおじさんと読者のみなさん、そして作中の主人公に向けて、この「崇拝と崇敬のややこしすぎる違い」を、現代日本のシステムに例えてめちゃくちゃ分かりやすく解説します!
Geminiさんのスッキリ解説:
これは「社長への直訴」と「秘書への根回し」の違いです。非キリスト教徒(特に日本人)が混乱するのは当然です。だって、どっちも「手を合わせて熱心に祈っている」ように見えますからね。
ですが、カトリックの公式ルール(神学)では、その「祈りの宛先と目的」が180度違います。
1. 【
対象: 神、イエス・キリスト、聖霊(三位一体の神様だけ)
意味: この世界を作った絶対的な存在に対する、100%の服従と礼拝。
例え: 会社の「社長」に直接、ハンコ(奇跡や救済)を求める公式な決裁申請。
2. 【
対象: 聖母マリア、その他大勢の聖人たち(全員、元は人間)
意味: 「神様のお気に入りである偉大な先輩」に対するリスペクト(尊敬)。
例え: 社長室の「敏腕秘書(マリア様)」のデスクに行って、「ねえマリアさん、今度出す僕の始末書、社長が怒らないように裏からうまく机に置いといてくれない?」と根回し(お願い)すること。
なぜ、こんな面倒くさい言い訳が必要なのか? キリスト教には、絶対的な大原則があります。
**「神以外のものを拝んではならない(偶像崇拝の禁止)」**
もし民衆がマリア様を「神様」として拝んでしまったら、それはキリスト教のルール違反(異端・一発アウト)になってしまいます。
でも、民衆は「厳格な神様(怖い社長)」に直接言うのはビビってしまう。だから、優しくて話を聞いてくれる「マリアおっかさん(最高権力を持つ秘書)」に縋り付きたい。
そこで教会(キラキラ服の坊さん)は、こう苦肉の策を編み出しました。
**「みんながマリア様に祈っているのは、マリア様を神として拝んでいる(崇拝)のではありません! 『神様への取り次ぎ』を頼んでいる(崇敬)だけだから、セーフです!!」**
作中の主人公ジャンの「みんなマリア様に祈ってない?」というツッコミは、現代の宗教学者でも「いや、実質そう(女神信仰のウラ返し)だよね」と認める人がいるレベルのド正論です。
建前上は「伝書鳩(秘書)」扱いなのに、現実のパリジャンたちはマリア様に涙を流して「助けて!」と全財産(蜜)を差し出している。この「教会の苦しい言い訳」と「民衆の生々しい依存心」のギャップこそが、中世の王都(蜂の巣)のリアルな熱気なんです。
俺は何処から聞こえてきた声に、心の中でこう告げた。うん、解らん!
マリア様だけ、通常とは異なるハイパードゥリアがある……だと……(大混乱)
良く島国野郎から言われる言葉だが、俺たちは良くカエルを食う。特に今この復活祭の前、断食時期には──
「今日の晩飯はカエルのニンニクソテー作るぞー」ジョセフが騎士団員に声を掛けるとあちこちから歓声が上がる。
「よっしゃ、今日はに……魚肉だな!」
「久々に食べるなぁ。もう冬眠明けのカエルが出回る時期かぁ」
そう、カエルは魚扱いで断食時期の食の戒律に抵触しないのである。島国の連中はそれ見て我々をフロッグイーターとバカにするのだが、奴らと同盟しているブルゴーニュ派の地元、ブルゴーニュがカエル大好き民なのは気付いていないらしい。
「ブルゴーニュ派のカエル売りの前で「カエルなんてキモいもんよー食べるダスな!」とか言ってる島国兵見ましたー」
「あーあ、また分断を招くような真似を」
実は、大陸西側ではカエルを食べない地域の方が少ない。というか、カエル食わないのは島国南部のいけすかない奴らだけで、島国北部の山岳民なんかもカエルを食うらしい。我が国と張り合ってばかりいるから我が国の国民をバカにした言葉に見えているだけで、実はあれ「島国支配層以外はみんな蛮族」とマウントを取っているだけなのである。
「ゲコさんすまぬ、美味しくなってね!」
従士達がカエルの解体を始め、俺はカエルの皮剥きを手伝う。
「まだ足動かしてる、元気だなぁ」
「そう言えばさ、なんかキリスト教では鱗無いサカナってダメじゃなかったっけ?」
俺の問いに前髪弄ってカエル解体を手伝わない自称副長が割り込んで答える。
「ノン、それはユダヤの話ですな。旧約聖書レビ記にその記載ありますが、主キリストの新約聖書では「口に入るものは人を汚さない」とイエス様直々にお許しが出ております。マタイによる福音書の15章に書いてあります」
ガストンも皮剥ぎしながらこう語る。「四旬節のきまりだと、温かい血を持つお肉がダメなだけで、お魚とか血が冷たいのは大丈夫なんだよね」
感心した顔で俺は皮剥いだカエル脚を容器に放る。「案外キリストさん話の分かる方なんだな?」
「ウィ、基本的にはジーザス・クライストは愛溢れる優しいお方ですよ。まぁ、隣の家のご主人みたいに馴れ馴れしく呼ばれるのは何か違う気もしますが、きっと子なる神様はお赦しになりますよ」
ジョセフが鉄鍋にオリーブ油を注ぎ、大量の刻みニンニクを油に投入。火元から離してゆっくりと香りを油に移す。
「テラさーん、パセリ刻んでー」
「よし来た、刃物は任せろ!」
「ガストーン! お皿ー」
「俺、皿じゃない(笑)」
立ち上るニンニクの空腹を刺激する香りに皆の顔が明るくなる。段々と西に沈む夕陽と迫る夜の闇。随分日も長くなり、断食の時間が少しずつ伸びていく。
若い従士達が食堂のシャンデリアに灯りを灯してチェーンを巻き上げると、いよいよ晩餐の時間だ。
団員たちがガヤガヤと席につき、ミシェル団長が自分の席に着くと、団員たちは一斉に胸の前で手を組み、頭を垂れる。しんと静まり返った中、ミシェルが良く通る声で食前の祈りを唱える。
「|Benedic, Domine, nos et haec tua dona《主よ、私たちと、あなたの恵みであるこれらの贈り物を祝福してください》...」
続いて俺を含めた全員が復唱する。
「「ベネディクス、ドミネ、ノス・エト・ヘク・トゥア・ドナ」」
正直俺に祈りの言葉の意味はよく分からない。が、村でも食前の祈りはあったし、内容的にも「神様、今日も食事できます、ありがとう」とそんなに意味は変わらないはずだ。祈る先がちょっと違うだけで俺たちだって感謝はしている。
「さぁ、頂きましょう」「「アメン」」
ミシェルの優しい声が響いてアメンの斉唱が終わると同時に、男の太く重厚な声が響く「「うーっす!」」
それぞれが手掴みで、ナイフで突き刺して、あちちと指先でカエル脚のソテーを自分の前に置かれた皿……の代わりのカチコチになった黒パンスライスの上に載せて、ハフハフ言いながらカエル脚を頬張る。淡白な鳥の手羽先と言った感のあるカエル肉は本当に美味い。これに油とニンニクとたんまりパセリ。実に空きっ腹に効く。自称副長だけ奇妙なピッチフォークのミニチュアみたいな物を左手に掴んで器用に動かしてるが、なんだありゃ?
【中世ヨーロッパ警察食堂】
作中時間(西暦1430年イースター前)だと、フォークはまだ流行り始めた段階で本当に最先端の食器である。肉などを切るナイフは個人所有のナイフを使い、基本は手掴みで食べる。そして手掴みで食べるからフィンガーボールという手洗い用の物が用意されているのだ(但し貴族に限る。騎士団員は食堂入る時に手を洗い、共用のタオルで拭いて、食事中はテーブルクロスで指を拭く)
皿代わりのパン(トランショワール)は肉汁や油を吸わせて柔らかくして食べたり、スープに浸して柔らかくしてから食べる。
面白いのはカエルの骨の処理だ。俺は大して気にせず藁が引かれた床にポンポン捨てていたが、ミシェル始め騎士連中はパンの端に骨を寄せて並べていた。これが【俺から見ると】かなり汚らしい。だってパンは後で食う物だろう? だからパンには口に入れるものだけ乗せる、これが俺の常識だ。従士達をみると、ガストンなんかは骨をしゃぶり尽くしてから床にぶん投げてるし、ジョセフなんかはテーブルクロスの上に積み上げてる。
なんだ、これは(困惑)改めて見ると、まるで常識ある大人はパンの上に骨を置き、子供やマナーの悪い奴は床やテーブルクロスの上に置く、みたいな?
田舎者の自覚が強い俺は、こんな時にいつも萎縮してしまう。何か間違えているのではないか、俺はまたやらかしてしまっているのではないか──隣のジョセフがこっそり教えてくれた。
「テラさんまだ騎士じゃないから何も言われませんよ。ミシェル団長も騎士なら常日頃からマナーには気を付けなさいとうるさいですが、従士なら放置です。今は大丈夫ですよ、
何だろう、この感覚。「今はね」の言葉が耳に飛び込んできた瞬間、ミシェルにジャンと名前を呼ばれた時のような──冷たい手が俺の心臓に触れた様な気持ちがした。
──仕立て屋で採寸してから3週間ほど経過した。その間服のサイズ確認やらボタン選定、銀糸の刺繍選びと中々にめんどくさい日々を過ごし、ラテン区の見回りの際にはまた学生などと
そんな毎日が続くのだろうと──朝、柳の枝を取り出して先を噛み潰し、房楊枝にして歯を磨いていた所……何やら騎馬した島国側の紋章官がやって来て、俺に異端の疑いありとの事で出頭命令が来た。
異端審問、だそうである。狼憑きや魔女ではないかと疑いをかけられてしまったらしい。
威風堂々と召喚状を読み上げる紋章官に対して、ミシェルはまるでイタズラが成功した小娘の様に微笑む。え? 何? 裁判掛けられるの俺なのに、何でミシェル悪そうな顔で微笑んでるの?
「ガストンとジョセフは仕立て屋に服を取りに行って。プールポアン1着でいいわ! 自称副長、ラテン区の連中との関係は?」
「ウィ、マスター。きちんと仰せの通りに」
「素晴らしい。後でテラ師範に服着せてあげて! 残りの従士はピエールさん探して「時は来ました」と伝令」
◆
「……勝った……」
プールポアンを着て後ろ髪を縛った俺を見て、ミシェルは天を仰いで拳を握り締めた。あのー、ミシェルさん? ご説明を……そんなミシェルを見て自称副長、王都のオリヴィエがめちゃくちゃ気取って前髪を弄りながら説明を始めた。
「島国の十八番でいつものパターン、邪魔な奴は異端審問で片付ける。しかし今回テラ殿の弁護をするのはこの私……王都のロランとオリヴィエが、島国の連中を衆人環視の中で痛快にバッサリやり込める……テラさんの格が更に上がると言うものです」
「あの……裁判負けたら?」
「手足縛ってセーヌにドボン。浮いて来たら魔女だ、浮いてこなかったら魔女じゃない、ですかねぇ?」
──両方バッドエンドじゃねぇか!
裁判の最初だけは書いておこう。昼の鐘がなると共にノートルダム大聖堂の中で裁判は始まった。フード付きのマントを着せられた俺が被告席に着く際にフード付きのマントを脱ぐと、凡そ俺とは思えないカッコいいプールポアンを着た俺が現れた。あのステンドグラス越しに様々な光が差すあの場で、仕立ての良い如何にも騎士らしい服装をした俺が現れたのだ。周りの聴衆がざわめき、聖堂の坊さんのいく人かは手に持つ何かを床に落とした程だ。いつも見ていた田舎のおっさんじみた「テラさん(色褪せたチュニックおじさん)」ではなく、「大聖堂の騎士(鮮やかな色に染められた、仕立ての良い流行の服を着たおじさん)」が降臨した。そんな感じ。
その後原告側と被告側が何やら言い争うのであるが、正直な話教会の言葉じゃ分からんのよ、俺。俺の分かる言葉でやってくれねぇかなぁ。
側から見てる限りはミシェルはニコニコしながら(多分)イヤミ言って煽ってるし、王都のオリヴィエ殿は気障ったらしく髪をかきあげ、エスプリ効かせた返しを言ってるらしい。パリ大学鉄板ネタなのか、傍聴?に来たパリ大の学生が吹き出したりヤジを飛ばしている。
正直な気持ち、今俺は屠殺場に引いて行かれる豚さんの気持ちだよ。俺の命かかってんのにみんな俺に分からない言葉でやいのやいの言ってるし。手持ち無沙汰な俺は聖母マリアだか大地母神に願った。「神様、何とかしてくんねぇかなぁ?」
この一言が大聖堂に響いちゃったもんだから辺りが紛糾した。マリア見て神様呼ばわりしたから異端だ! いやハイパードゥリアだからノーカンだ。だって神って言ったじゃん。マリア様を神扱いするなら女神って言うだろ! 無理があるだろゴラァ! 引っ込んでろコルァっ!
「皆さん」
何度か会った事のある服は豪華な大聖堂のお坊さんが一歩進み出た。俺の分かる言葉だ、やった!
「あくまでも参考意見として申し上げます。私はあの夜の後、何度か大聖堂の騎士と呼ばれるテラ氏と出会っております。氏は我々の祈祷のお陰で助かった。傷の治りも早い。神の恩寵であろうと跪き、熱心に祈っておられた……」
お坊様? 後半ワタクシの記憶に無いんですが?
「氏は仰りました。
ヤバい。お坊さんが吟遊詩人みたいな事言い始めたぞ! 周りも俺らの言葉で「アガペーぱねぇな」「あの坊さんいい事言うじゃん」「異端だ吊るせじゃ教化とか布教できねえしなぁ」と同調しは……なんだ? 人混みの奥でどっかで見た羽根帽子がちょこちょこ動いてんな?
「──聞けば、要するに酔っ払うと被告人が狼の本性を出す、出さないが原告側の主張の様ではないですか。なら神前でエールを呑ませて確認すれば良いのでは?まぁ、キリストの血(ワイン)でも良いですが……」
と言う訳で、今俺は島国側の代表(比較対象が必要との事、らしい)とワインの差し飲みをしている。4本目だ。流石大聖堂、いいワイン飲んでるねと最初は上機嫌だったが、断食中の空きっ腹にワインは割と効く。ゆっくり飲めば大丈夫だが、島国側は俺が余り酒を飲めないと思い込んでいるのかペースをやたら早めたがる。それが奴の自滅を招いた。ゆっくり飲めば俺は底なしに飲める。出来れば何かツマミが欲しいが断食中だしなぁ……と淡々とワインを楽しんでいたら、だんだん相手が酔っ払ってきた。何やら島国語で悪態ついてきたが、わかんねぇんだわ、俺。島国の言葉知らんの。
相手の言葉分からんから酔い潰れる寸前になってる島国の奴にもワインを注いでやり、ゆっくりちびちびと杯を空ける。
そして、俺は静かに勝利した。島国側は大酒に酔わないのは魔女だと最後の悪あがきをしたらしいが、ミシェルは冷静に「あら? ではお酒に酔って狼の本性を出したって何だったんでしょう?」と可愛らしく返し、大聖堂は判決の声がかき消される程の歓声で満たされた。とりあえずトイレ行きたい。
21話ドラフト完成。レビューして
人狼裁判から3日後、騎士団詰所に馬車がやって来た。聞いて驚け、4頭立ての馬車が2台だ。お馬が8頭。騎士団保有の馬と同じだぞ。
【中世ヨーロッパ交通機動隊の説明】
中世ヨーロッパに限らず、馬車の格は何頭の馬で引くかで格が決まる。
1頭なら旅商人や医者の往診用、2頭なら地方貴族や裕福な商人、4頭だと高位貴族や大司教、王族のプライベートな移動に使われて、6〜8頭ともなれば国王クラスのパレード用だ。
因みに日本だと天皇即位後のパレードでは8頭だて6頭引き(露払いの騎兵が2基、馬車は6頭で引く)、皇太子ご成婚パレードだと6頭だて4頭引き、外国の新任大使が東京駅から皇居まで送迎される際に乗るのが4頭だて4頭引きで、ウルトラ超厚遇だからみんな車ではなく馬車選択するらしい。
正直、騎士団メンバー全員顔が引き攣ってたし、近所の王都民が何事かと集まって来た。そして降りて来た男がまたいい服着た貴族っぽいの。両脇の従士は走って来たのかうっすら汗をかいているが厳しい顔で周囲を威圧中。明らかに見せびらかす用の従士だな。綺麗で走りやすい服装をしている。そんなん見たらそりゃぁ──みんなたまげる(ごいりょく)
「ブ……ブサック男爵!」
「久しいな、レディ・ミシェル。ランス以来か」
「え、あの……何でブサック男爵程のお方が?!」
「王都には狼が出ると聞いてな……もう倒された後のようだが。拍子抜けしたわ」
高慢な態度に見えるが、まぁ男爵ならな……ミシェルの知古らしいし、これまた「演出」か? 男爵とやらはやたら大きな声で周りの民衆にも聞こえる様に告げた。
「さる大変高貴な方が王都を襲った魔狼を退治した『大聖堂の騎士殿』に、臣民を救ってくれた礼を述べたいと私を派遣された! ご同行をお願いしたい!」
「……おい、『臣民』って……」
「そりゃまぁ、この馬車見たら……」
「もう、隠す気ないだろ……」
周りの聴衆がざわめく。そりゃそうだ、こんな馬車2台も寄越すなんてシャルル7世陛下しか考えられない。
ミシェル団長、ガストン、ジョセフを2番目の馬車に、1番目の馬車にはブサック男爵と俺たちと王都のオリビエ殿。何でも1番宮廷での振る舞い方に詳しいのが王都のオリさんらしい。
城門前まで来ると馬車が止まった。
「ジャン・ド・ロッセ殿! いや、今はブサック男爵であられたか!」
いつも大聖堂で会い、この間は勝手に弁護してくれた派手目のローブを着たお坊さんが何やら聖歌隊を率いて城門前に並んでいた。
「おお! ムッシュ、マイ参事会員殿ではないか! 元気にしておられたか!」
「中々に閑職でしてな。おかげで大聖堂の騎士殿と知遇を得ました。神のお導きですなぁ。これも何かの縁と、皆様の旅の安全を祈祷させて頂こうかと……」
「有難い! 十万の援軍を得たかの様だ!」
また演出か!(苦笑)
「演出は大切なんですよ!」王都のオリさんはご存知って……なんかすごいはなしにまきこまれてるきがする!
「全能にして慈悲深き主が、汝らを平和と繁栄の道へと導かんことを。
** **旅の守護天使ラファエルが汝らの道に同行し、平和と健康、そして喜びとともに、再び我が家へと帰り着かせんことを。
** **父と子と聖霊なる神の祝福が、汝らの上にありますように。アーメン」
「達者でな、ジャン」
え?!
「ご帰還をお待ちしてますよ、ジャン……同じ名を持つ者として」
へ?!
びっくりしている俺を見て、王都のオリさんが耳元で囁く「どうしたんです? お二人ともジャンがファーストネームなんですが?」
坊さんがこちらを見て悪い顔で微笑んだ「どうも、最近はこの名が特に神の恩寵篤い名前の様ですな」
そうですね、俺もジャン・テラですし(冷や汗)
聖歌隊の讃美歌に見送られて馬車はトコトコと動き出す。そして少しずつ速度を上げ、重厚なガタゴトという音に変わる。窓の外を眺めながら、ブサック男爵は話し出した。
「いやぁ、王都は狼だらけって聞いたんだが道中全然襲われ無かったぞ。肩透かしもいいところだ!」
そりゃそうだろ。馬車に並走し、時に先導するあの従士たちの筋肉を見ろ! まるでヘラクレスじゃねぇか! そんなん俺が狼でも「あれはやめとこう。商人の馬車の方が楽だ」って判断になるわ。
「ウィ、しかしブサック男爵殿、まだ商人を襲う狼はいる様です。恐らく皆様の武勇に怖気たのでありましょう」王都のオリさんの意見に俺もうなづく。そりゃまぁね、特に外の走る筋肉がね?
馬車が大きく揺れると、何かががっしり馬車を受け止めゆっくり戻した。ヘラクレスが1人で馬車受け止めてる!?
「失礼しました」
「注意しろよ?」
事もなげに交わされた会話を耳にして、こいつら襲わない狼の判断は間違ってないと思う俺だった。
◆
数日の後、俺たちの馬車はロワール川沿いを進み、オルレアンの街へと差し掛かった。窓の外に見える城塞を眺め、「もう一年か……」と感慨深げに呟いたブサック男爵に、王都のオリさんが問いかける。
「大変な戦いだったと聴いております……」
「ああ、大変だった。ミシェルも大変苦悩していた……ジャンヌのせいで」
「え? ジャンヌのおかげで大勝したのでは?」オリさんは身を乗り出して相槌を打つ。
「話を聞かないんだわ、あの乙女! 当時俺は一介の領主騎士で、ミシェルは配下たった4人で必死に伝令を走らせていた。だがミシェルがいくら軍令を伝えても、あの乙女は構わず『神はこう言いました!』で突撃よ。俺たちも『おいこら待てジャンヌ! 軍令を聞け! 待てジャンヌ!』ってキレながら追いかけたら……なぜか勝っていた。経験者としてはこう言わざるを得ない。それで後の軍功会議では『結果的に勝ったはいいが、ジャンヌにちゃんと軍令を伝えられないミシェルはやはり使い物にならん』って話に傾いてなぁ」
「ぅゎぁ」
「……テリブル」
「流石に俺も気の毒で口を出したよ。話を聞かないジャンヌが悪いと。ありゃ幕舎の中に縛って転がしとくか、ジル公爵の背中にでも縛り付けるしかないってな」
「「そんなか!」」
「だが、まさかこの俺も、あの冷徹なジル公爵がジャンヌの一番の信奉者になるとは思って無くてなぁ……」
民衆の熱狂の対象も、蓋を開ければこんなもの……現実って、凄い。
「まぁ、アレだ。俺も一年前は領主騎士。来年君たちが男爵になっているかもしれないし、死んでいるかもしれない。どちらにせよシャルル7世陛下は割とよく見ていらっしゃる。励んでくれよ、騎士団諸君!」
男爵の人生最大の読み違い話に俺たちが苦笑いしている間に、馬車はオルレアンを駆け抜け、いよいよ4月30日──シャルル7世陛下の待つ本陣へと到着したのだった。
シノンでも一際格式の高い宿屋、その軒先にある「ル・グラン・カホイ」の広場は、今や一つのメイポールを巡る巨大な建築現場と化していた。
「ほぅ、この辺でもメイポール立てるのかぁ。村でも今頃立ててるだろうなぁ」
俺は遠く離れた故郷の村を思い出していた。高いポールをたて、色とりどりのリボンを垂らす。春の訪れ、夏の始まり。変わりゆく季節を迎える為の行事だ──もちろん、
「いや、テラ師匠、それ……へっ!」
「しっ……おっ……!」
何が屁なのか塩なのか分からんが、ミシェルと男爵は固まっている。俺は気にせずポールからちょいと外れて右だ左だと指示を出しているおっさんに話しかけた。
「立派なメイポールですなぁ。田舎を思い出しますよ。この地方でも立てるんですなぁ」
「最近は田舎から傑物が多く出るのでね。明日も田舎から来た騎士が王都の狼退治したんで顔見せに来るんだよ」現場監督はちょいちょいと右手をクイクイ動かして垂直を指示している。
「俺じゃん」「君か!」
おっさんは振り返りバンバンと本当に嬉しそうに肩を叩く。
「思ったより早く会えた。いやぁ、ありがとうありがとう。国の守りの大天使ミカエルに代わり感謝するぞ!」
なんだ? このおっさん現場監督なのになんか馴れ馴れしいな? 普通はこの格好見たら驚くもんだが……あ、大工ギルドのお偉いさんなのかも知れない。なんか粗末な服なのに気品と迫力あるし。あれだ、王都の仕立て屋の主人のスケールアップ版だ。
「逆に私はよく知らんが、メイポールは夏の始まりを祝う物なんだろう? なら余が柱を立てなきゃなと思っておった!」
「へ? なんで貴方が?」
「これから我が国の冬を終わらせて夏を始めるんだ。余以外に適任者はいない」
「ど……どなた様で?」
「シャルル。シャルル7世である」
物凄い勢いでブサック男爵とミシェル団長が跪き、王都のオリさんまで前髪弄るのやめて跪いた。王とミシェル達を交互に見て俺は錯乱する。俺も跪く? いやなんか不自然だよなそれ。てかさっきまでのノリで話しかけるのも……いや、もう俺不敬真っ最中じゃん。助けを求めようとオリさん見ると、とりあえず座っとけのハンドサイン。俺はとりあえず膝を揃えて石畳に座った。オリさんはなんかしきりに右手を上に挙げてるが、え?なんか挙手するの?
「まぁ、立ってくれ大聖堂の騎士殿よ。君はまだ余の部下ではない。むしろ余が騎士殿に感謝すべき立場だ。本当にありがとう。助かった」
これもう不意打ちだろ。田舎者のこの俺に対してこのアプローチは罰ゲームだ。シャルル7世は止まっている馬車を見つけてご満悦だ。
「お、良い宿じゃないか。一杯奢ろう。卿らも来たまえ、ざっくばらんに話そうじゃないか」
──できるか、バカ。
「いや、城の中は意外と耳が多くてな。いつものテストだと言い張って今日から服だけ王様を椅子に座らせておる」
「まだあれやってるんですか、お……シャルル様」
「それ、絶対悪戯ですよね?」ミシェルもブサック男爵もやられたらしい。2人とも汗が凄いことになっている。
「服に跪くボンクラは要らん」お……いやシャルルさんは鷹揚に白ワインを店長に注がせている。
「端的に言おう。次の戦が決まった。ミシェルよ、騎士団呼んでおけ。従士は治安維持に専念させろ。今ならまだ間に合う。ブサック男爵はどうする? 騎士を呼んでも良いし、他の手勢とミシェルの隊の合同指揮に徹しても構わぬ。ラ・ピュセルの首輪だ、貴公らは」
「……くっ……首輪……」
「そうだ、正直あれはもう制御し切れん。貴族化で大人しくなると思ったら逆だった。昨年の余を全力でぶん殴ってやりたい気分である。全員に杯が渡ったな? かんぱーい」
なんとも重苦しい乾杯だ。ブサック男爵の話を聞いていなければラ・ピュセルと馬首並べて戦うのは部門の誉に見える事だろう。しかし現実は無理矢理ジャンヌを突撃させない様に押し留めるか、死を覚悟して突っ込むかの2択だ。
「我々はジャンヌに頼りすぎた。あそこまでカリスマ丸出しだと制御すら難しい。しかしそれだけではカリスマの声に乗せられて兵が死ぬ。死んでも構わないと思わせるカリスマは危険だ。
そこで今回の『別のカリスマ作戦』だったんだが……」
「──別の──カリスマとは?」
俺とジョセフとガストン以外全員が俺を指差し、それを見てジョセフが「ああ、なるほど」と理解した。
「王都のオリヴィエがご説明しましょう。テラ殿もジャンヌが大変危険な指揮官であるのはご理解できますね」
「ああ、馬車で聞いたしな」
「なので、やたら神の御許に行きたがるラ・ピュセル以外の、コントロール可能なカリスマが必要なんですよ」
「それが俺か?」
「ウィ。まさかテラ殿はやたらに自分から突っ込みはしませんよね?」
「そりゃまぁ……俺は猪でもないし」
「堅実な判断をしてやたら兵を死なせぬ人が必要なんです」
「国土と民がまず必要なのだ。更に王がいてそれをまとめ上げられたら良かったのだが、昨年余は決定的な判断ミスをした。ジャンヌを読み違えてしまったのだ。このままではたとえ勝てても被害が大き過ぎる」
「時間は──稼げませんか?」
「難しい。無理とは言わぬ。ただ、今ブルゴーニュ派をある程度叩かねば奴らを再度翻意させるには……因みにミシェルよ、この「王都のオリヴィエ」とやらは使えぬか?」
「口だけであれば」
「ふ、口だけでもオリヴィエですからな」
「危ういな。かなりポジティブで惜しい人材だ」
「お褒め頂き恐縮至極!」
「ローラン伝説は使えるぞミシェル、ブルゴーニュの連中の好物だ。考えておけ。ロラン役は……本来プランでは『大聖堂の騎士』を当てる予定だったが時間が無い。ブサック男爵、頼めるか?」
「すいません、何故俺以外にしようと?」
俺はふと疑問を口にする。ここまでの会話でなんとなく自分自身が政治利用されていたのは分かった。事態が急変してタイムスケジュール的に間に合わなくなったからお膳立てした計画を修正する羽目になったと。結果苦労するのはミシェル達だ。
「これは余の偽らざる本心だ」王は杯をグビリと煽り言葉を継いだ。
「貴殿には既に王都を救って貰った恩がある。あれは本来余が果たすべき仕事であった。心から感謝している。その借りを返す前に更なる願いを口にするべきでは無いと思う。余には人望が無い。王太子時代にどうすれば良いのか散々悩んだ──そして一つ決めたのだ、感謝を忘れた人間に付き従う人間などこの世におらん」
酔いもせず、真剣な目でシャルル7世は俺にこう告げた。多分この人物にカリスマが無いわけでは無いのだろう。ただ、輝きはジャンヌの方が強く、人を死なせかねないほど強かったのだ。そして王は人を死なせたく無い。
嗚呼、星の巡りが悪かったのだ!
「明日、褒美を取らす。大聖堂の騎士殿よ、希望を考えておいてくれ。出来るだけ叶えよう」
王は会計もせず帰って行った。
You must wake and call me early, call me early, mother dear;
Tomorrow 'll be the happiest time of all the glad New-year;
Of all the glad New-year, mother, the maddest merriest day;
For I 'm to be Queen o' the May, mother, I 'm to be Queen o' the May.
(早く起こしてね、お母さん、早く起こして!
明日は新しい1年の中で、一番幸せな時になるわ。
一番嬉しい1年の中で、お母さん、最高に陽気で賑やかな日。
だって私は五月の女王になるんだもの、お母さん、五月の女王に!)
──5月1日、朝。俺たちが馬車を用意してシャルル7世陛下の御前に向かおうとしていると、街の広場の向こうから花冠を被った5月の女王様とそれに従う少年少女の一団を見た。鼻高々に街を闊歩する「5月の女王」は俺たちを見掛けると如何にもな足取りで近付いてくる。
【中世ヨーロッパ警察儀仗隊】
しょうじ……女王陛下は俺の前で立ち止まり、そっと左手を差し出した。多少困惑しながら騎士のように手の甲にキスをすると周りのクソガ……近習どもは大喜びだ。キスをせがんだ女王様まで両頬を手で押さえてはにかみながら俺に申しつける。
「わらわのために、島国野郎をたおしてね!」
クスクス目を細めて眺めていたミシェルが声を上げる。
「騎士団整列! 女王陛下に対して抜刀! 剣礼!」
皆で大仰に整列。従士達は跪き、騎士達は眼前に剣を構える。
「ご下命承りました! 騎士団一丸となり鋭意遂行致します!」
女王様ご一行は本物の騎士達がゴッコ遊びに真面目に応じてくれた事を大層お慶びになりぴょんぴょん飛び跳ねると、居住まいを糺してなんとなく敬礼してワイワイと歩き去って行った。騎士団は互いに微笑み合い、王に謁見すべく馬車に乗り込んだ。
まぁ、そこからは忙しいもんだ。武器預けて着替えて綺麗的な謁見を中央貴族注視の中やり遂げて。人生で3番目くらいに気を遣った。その後待合室というか客間?でだらんとしてたらいきなり王がお忍びで入って来る。
それでね、シャルル7世陛下が昨日と違い王様らしい服を着るとこれまた威厳がパない。なんか紫色した煙みたいなのが見えるような気がした。
「ブルゴーニュ派からは──」
「──ならば、やはり乗るしか無いかと──」
「──やるしかない、か──」
何やら皆で作戦会議中の様であるが、同じ言葉を話しているのに全く理解できる気がしない。音が右耳から左耳に流れて行く──
「で、時に大聖堂の騎士殿よ。褒美は何にする? 余が帰るまでは肩身が狭かろうが、王都に家とか騎士団の剣術指南役就任ぐらいは手配できるぞ。王都落とす時はちょっと手を貸して欲しくはあるが──」
まぁ、白熱した議論の間のちょっとした休憩ぐらいの感じで尋ねたのだろう──? 剣術指南?
「ミシェルが2年前から切望していたからな。ん? ミシェル、打診して無かったのか?」
「
「なっ!」ミシェルは突然赤面した。
「許す。王都のオリヴィエ、仔細に報告せよ。首先に剣を突きつけて結婚か死かぐらい言って口説いたものかと……」
「ウィ、私もそうするのかなと思っておりましたが、どうにも島国野郎のロマンスが伝染したのか完全にロマンス脳になっております」
「ちっ違うんですテラ師範! 騎士団の外に家を構えてもらえればいつでも会いに行けるとか、むしろ夫婦で騎士団に通うとか……」
「いつもの計略脳でとっくに話しつけてるのかと──」
「恐れながら王様、発言しても宜しいでしょうか?」
「申せ」
「テラ師範のお父上は寧ろ息子を持って行ってくれというニュアンスが」
「ブルゴーニュの連中の話をしてる場合ではないな。どうだ、大聖堂の騎士殿よ、適当な男爵爵位にミシェル付けるから、それで王都の謝礼として構わないか?」
「いえ……」
室内の空気が固まった。ジョセフは完全に「空気を読めよおっさん!」と顔に書いてあるし、王都のオリさんは「ウィじゃないの?」とキョトンとしてるし、ミシェルに至っては目の光が消えている。
「違う違うそうじゃない! ミシェルとの話は後で2人でしますが、欲しいものが出来たんです。勘違いしないで下さい!」
「ほぅ──物欲は薄いと報告されていたのだがな。申してみよ、大聖堂の騎士よ」
「はい、今朝女王様からご下命頂きまして……騎士として、島国野郎を駆逐せよ、と」
「──じょおう?」
「5月の方です、王」
「──あれ、お祭り期間だけの話だぞ、いや寧ろ余としたら寧ろ嬉しい話だが……」
「約束や誓いは守れと、躾けられております。それに私の家系は元々別のシャルルなんとかに仕えていた家系ではあるのです」
「シャルルなんとかとは……」
シャルル7世は首を捻った。
「どんな事をしておられたのだ、ご先祖殿は?」
「戦士として王と共に旅をしたと」
「シャルル5世辺りか? 戦争もしたし王都の城壁整備もしてるな……ノートルダムの改修……む、使えるな、その話!」
「5世閣下と共に戦った勇士が帰ってきた、確かに話にはなりますなぁ」
「あの、いいんですか? 俺、馬にも乗れませんよ? 剣術と剣術指南なら結構自信はありますが……」
「乗れなきゃ練習すれば良いだろうに。ミシェル、これはプランAでまだ続けるという作戦計画変更になるが……」
「はい、全力で作戦遂行を目指します!」
「──しかし、何故だ? 私が把握する大聖堂の騎士殿は割と故郷に戻り違っているとあったぞ?」
「え?」
「余とてバカではない。明らかに私情が入り込んでいるミシェルの言葉を丸呑みにはせんぞ」
「ははっ、ミシェルはよく村で5月の女王してましたしね。彼女の願いなら聞いてあげたい──そんな事を思いました。ミシェルが陛下の治世を望むなら、私はミシェルの騎士として協力して支えて行こう、そう思ったんです」
「いかんなぁ、余の部下にも島国ロマンス病が蔓延してきたか。早めに奴らには島国にお帰り頂こう。一つだけお願いをするとすればだが──純潔の愛とかだけは島国野郎に持って帰らせろ。ミシェルが悲しむ」
さて、俺からの騎士叙勲要請で城内は物凄く慌ただしくなった! 元々予定されてはいたが昨夜別案に切り替えるかと話していたのに、昼にはまた初期案に切り替え。城内の皆様には散々ご苦労を掛けた。陳謝し皆様には感謝の言葉を表したい。そんなドタバタの中でシャルル7世が俺に尋ねる。
「さて、テラ卿よ。家名はどうする? 騎士ともなれば名だけという訳にも行くまい」
「あの……テラが家名でして……ウチの方では名前は明かさぬものなんです」
「聞いたことはある。ペイガンの俗習だな。で、名前は隠し通すか?」
「他ならぬ陛下には申し上げましょう。目上に名乗るのは禁忌ではございません。ジャン。ジャン・テラにございます」
「──そうか、またジャンか。ジャンヌといいお前といい、次々とジャンが出て来るな。我が子にも1人ジャンがいる──」
【中世ヨーロッパ名前警察】
当時は名前って聖人暦という聖人の日を示したカレンダーの中の名前から取るのが一般的で、その為ジャンやジャンヌ(ジャンという名の女性形)、ピエールだミシェルだと「似た名前」だらけになるのである。シャルル7世の次男もジャンだし、史実に於いては
「へぇ、王様もお盛んですなぁ」はっきり言うと、この頃俺は王様を俺と同じ33歳ぐらいだと考えてた。
「? 余はまだ28だが……」
「あの能天気な王都のオリさんのいっこ上?! 嘘でしょ貫禄あり過ぎ!」
「重荷が重過ぎると老け込むんだよ。あんなに気楽に生きられたら楽なんだろうなぁ……」これには俺も全力で同意した。
中央貴族が見守る中、赤いマントとビロードのダブレットを着て王の前に跪く。こそこそと「あんな中年が……」「今更叙勲……」というヒソヒソしてないひそひそ声が俺の耳にも届いている。奇遇だな、俺もそう思ってた。一応シャルル7世陛下が弁護してくれる。
「聞け! 諸侯よ! 今ここに騎士たらんと願い出たテラ卿はかつて我が父祖に仕えた者の末裔である! 彼は我々が守るべき臣民でありながら王国を守る為に進み出たのだ! 諸侯の叔父や兄妹はどうだ! 諦めてはいないか! 老骨に鞭打ち高貴なる責務を果たそうとしているか! 余はこの叙勲を喜ぶと共に少々残念にも思う。今、軍で活躍している若き戦士を見よ! ジャンヌを筆頭に
「陛下、一言宜しいでしょうか?」
「許す、申せ」
「確かに私は中年です。しかし剣術とその教導には些か自信があります。私は若さこそ枯れかけておりますが、まだ私の技を伝授する事が出来ます。戦場での働きが見込めないなら、自らが有用である方法を探すべきかと」
「
全員、奮起せよ! 町人も商人も農民も、貴族もだ!
大聖堂の騎士、Jテラよ! 余はお前に託された民衆からの名を祝福し、叙勲しよう!」
両肩をシャルル7世の剣が軽く叩く。ダビングって奴だ。シャルル陛下が右手を挙げるとミシェルが……拍車か! 綺麗な拍車を捧げ持ちそれを陛下が受け取りジョセフに渡す。右足、左足とブーツに拍車を取り付け革ベルトを締めると陛下は手を取り俺を立たせた。踵の拍車がかちゃかちゃと音を立てキラキラと輝く。これぞ騎馬兵たる騎士の証、黄金拍車!
ル・シュヴァリエ・ドゥ・ノストル・ダム──大聖堂の騎士。先程まではそれは王都市民の願いだった。これからは俺の名で、市民の希望を叶える俺の責務となった。
と、叙勲を済ませた後。走り寄って来る女性がいた。随分若く、周りが随分畏れている。この様な場だ。すぐに察しがつく。これがラ・ピュセル、かの有名なジャンヌ・ダルクか。
「はじめまして、大聖堂の騎士なんて素敵なお名前ですね! 私はジャンヌです。お名前は? まさかJの一文字ではありませんよね?」グイグイ来るなぁ。
「はぁ、その……気恥ずかしくて……」
「いけませんよ、
「あの……呪われても困るし……」
「何を
そして手を差し出すジャンヌの前に立ちはだかり、ジャンヌと俺の間に身体を滑り込ませてきた若い大男。明らかに俺に敵愾心を向けている。
「勘違い──するなよ──」
鋭い視線。明らかに戦場帰りの危険な匂い。敢えて俺は軽やかに無視をする。
「──さて? 何をですかな?」
「ちょっと王都で人気だからと奢らぬ事だ。我が国で1番の人気者は我らがジャンヌだ!」
突然トンチキ極まる発言を豪語され、貴族たちは半分くらい「はぁ?」と呆れた顔をして、半分くらいが腕を組みうんうんと賛意をしてしている。
ミシェルが耳打ちする。「あれがジル元帥。我が国最年少の元帥にして大貴族。付いた渾名が「親衛隊長」です……」
「え? 陛下の?」
「だったら良かったんですけど……」ミシェルの顔が曇る。
「ジャンヌの私的かつ非公式な親衛隊でして」
◆
「面食らっておったな。これが作戦をやらねばならぬ理由だ。ジャンヌのカリスマや人気は正直余を上回りつつある……」
俺たちは叙勲儀式の後、城の中庭にテーブルを出して歓談している風を装いつつ作戦会議を続けた。
「正直余がジャンヌと同じ『島国去るべし慈悲はない』という姿勢を貫く状態なら問題はなかろう。しかしもし政治や外交の都合で妥協をすればジャンヌの旗は敵に回る。なんとしてもブルゴーニュをこちらに抱き込み島国側から離反させねばならぬ」
「簡単ではないですか。ブルゴーニュ公はシャルル7世陛下のご血縁でしょう?」王都のオリヴィエは前髪を弄び気楽に言った。
「王都のオリヴィエ殿は物を知らんな。なんでブルゴーニュが敵に回ったと思う? 余が……正確に申せば余の手の者がブルゴーニュの前公爵を暗殺したからよ」
しんと、場が静まり返る。
「もしやり直せるなら、若き日のボンクラ王太子を余が直々にぶん殴ってやりたいが……もう時は流れた。今の条件で最良の道を探さねばなるまい」
なるほど、こんな事で悩むから年齢以上に老けるんだな。
「良いか、皆のもの良く聞け。この後の晩餐会が分水嶺だ。大聖堂の騎士殿を可能な限りブルゴーニュ派の目を引く高潔なる騎士に仕立て上げ、島国のロマンス貴族よりこっちの方が望ましいと思い込ませると同時に、ラ・ピュセル以上のブランドを立ち上げる──今夜が我らのルビコン川だ」
晩餐会。城の広間に真っ白なテーブルクロスが敷かれ、豪華なシャンデリアが煌々と室内を照らす。
ずらりとならんだミニチュアピッチフォークと肉切りナイフ。これ、銀か?
「まるで武器屋ですな」
「余もそう思う。こんなもの揃えるぐらいなら正直大砲を買いたい。が、王ともなればある程度は他者から求められる格を示さねばならんのが辛いところだ」
招待者が席に着くと、給仕がワインを注いで回り、なんか偉そうな男が乾杯の音頭を取る。
「王の為、国土の為、この国の山々と緑に輝く渓谷の為に!」「「乾杯!」」
長い。無駄に長い。キリスト教には暴飲暴食は悪って概念があるらしく、なんと今日も昼抜きだ。そして食器! シャルル陛下曰く「格付けの為に取り寄せた」長靴半島の銀食器がこれまたもう……(涙)
使い辛いし切れない! よーくローストされたお肉がね、ワゴンに乗ってやってきて……給仕の持つナイブでは良く切れるのに銀のナイフじゃ良く切れぬ。俺は普段から食事の際に使っている使い込まれたナイフを出した。当然周りはどよめく。彼らもピッチフォークのミニチュアなんて慣れておらず、王の配慮を無駄にしない様苦心しているのだ。そこに当時は当たり前とは言えマイナイフ。これはいけない。
「良い。騒ぐな。教会側も難色を示している様ではあるし、指とナイフで食しても良いではないか。古風ではあるが礼儀に適った作法だぞ。余も今宵は古風を試してみよう」
慌てて給仕がフィンガーボールを配膳する中、俺のマイナイフはお肉たち(めっちゃ美味い!)をスパスパ切り分ける。その切れ味をシャルル7世陛下が見つめていて、次第に周りの貴族達も注視し始める。
「大聖堂の騎士殿よ、ちょっとナイフを見せてくれぬか?」
好奇心からか陛下がナイフを見たがるので肉を切り分け終えた俺はテーブルクロスで刃を拭き、陛下に象牙の柄の部分を丁寧に差し出した。古臭いナイフで申し訳ない。
陛下は皆にも良く見える様に高々とナイフを掲げて仔細に見た。異国情緒溢れる反りのある
「これは……サラセンか?」うっすら浮き出た刃の波模様を指差してシャルル7世陛下が俺に問う。
「えぇ、先祖がサラセンから奪った物だとか」
周囲がざわめく。十字軍従軍経験アリの家系かと。しかし陛下の顔色は怪訝な表情のままだ。
「余は卿の事をシャルル5世に仕えた血脈と考えていたが、どうもこのナイフは古過ぎるし、シャルル5世は直接十字軍に参加しておらん筈だ。紋章官、この紋章は……」
「そりゃそうですよ。ウチの……いや、私の祖先が王と行ったのはスペインの筈です」
完全に、部屋の空気が凍った。
「もっ……紋章官、スペインで戦争したシャルルとは……」
「にっ……俄には信じられませんが……それはシャルルはシャルルでもシャルルマーニュ大帝では……」
「それだ! なんかただの王様じゃなかった記憶ありましたが、そうだシャルルマーニュだ! 俺の祖先はシャルルマーニュ大帝に付き従い、ロンスヴォーでバスク人に襲われて戦利品としてそのナイフや家伝の宝剣、「頑丈くん」だけ持ち帰れたちょっと残念な……」
「待て、残念ではない。お前の家系はローランやオリヴィエと同じ戦場を戦った……」
「え? そんな大規模な戦いじゃなかったって聞いてますし、ローランってサラセン人に襲われたんでは……?」
【中世ヨーロッパ吟遊詩人警察】
実際にはロンスヴォーでシャルルマーニュ大帝の後方を襲撃したのは同じキリスト教を信じるバスク人なんだが、教会的にはサマにならないのでサラセン人、つまりイスラム教徒に襲われたと改変されてローランの歌はジャンの時代に伝わっている。
晩餐会がガヤガヤと騒がしくなってきた。シャルル7世陛下チームの予定では俺をシャルル5世に紐付けて、100年の時を超えて古き兵士の血が再び7世の下に集ったというナラティブでプロモートする予定だったらしい。シャルル5世なら王都再整備してノートルダム大聖堂も整備してるから都合が良いと。その5世の部下なら丁度いい……後から王都のオリさんから聞いたが、うん、まぁ……うん。
ところが「俺はそんな昔だとは知らなかった」んだが、シャルルマーニュ大帝の時代って5〜600年前なんだね! びっくりびっくり。
「じ……Jテラ卿の佩剣を持って来い!」
慌てて侍従達が俺の剣を持ってきた。鞘なんかは作り直しているが、刀身やポメルは当時から変わっていない。実に古臭いロングソードだ。今でこそロングソードも細く長くなっているが、昔のロングソードは身幅が広く軽量化の為に血溝が彫られている。昔の剣は素材がダメなので、構造として頑丈なのだ。
「家伝ではスペイン行った時にサラセン人の鋼の剣を集めて鍛え直したものと聞いております。笑えるぐらい頑丈なので戦友の間でこの剣作るのが流行り、後には王様も欲しがったから一振り作って献上したらしいですよ?」
「ジュワユーズって……」
「献上したらニッコニコでそこらの石試し切りしてたって伺ってます」
【中世ヨーロッパ刀剣警察】
フランス王家に伝わるジョワユーズ、意味的には「陽気な、歓喜の剣」という意味だし、ローランの佩剣デュランダルはラテン語の「dūrus(硬い、永続する)」や、古フランス語の「dur(固い、頑丈な)」という言葉がベースになっていると言う説がある。「頑丈くん」と日本語訳しているが、中世ヨーロッパの当時の言葉で翻訳(意訳)すると『
「ほ……本物のデュランダル……だと?」
「はっはっは、ご冗談を。村の剣術道場の倅がローランの末裔な訳ないでしょ。俺の曾祖父さんの頃までは『でゅらんたん』って呼んでたらしいです。サラセン人から奪った鋼のロングソードシリーズはみんな「でゅらんたん」、中には不良で先っぽ折れた奴とかあるみたいです」
「島国のコルタナではないか!」
「10数本作られた流行りの剣がジョワユーズやコルタナみたいな神授の宝剣なわきゃないでしょ。俺の頑丈くんも兜を一刀両断出来る程度の実用的な剣ですし、剣術家としては無骨だけど折れず曲がらず、切れ味抜群なのが便利ってだけですね」