ある日。とある街で二つの奇妙な事件がほぼ同時に起こった。
一つは刀を持ったジャポンの着物姿の男がジャケットを着た長身痩躯の男を追いかけ回すという事件。この二人の男は、まるで人間とは思えない速さと身のこなしで街中を駆け巡り、着物姿の男は途中で車や障害物を手に持った刀で次々と真っ二つにしていったという、とても人間業とは思えない出来事が多数報告された。
もう一つは街に拠点を置いていたガルベス・ファミリーのボスであるガルベスと、裏でガルベス・ファミリーと繋がりがあると噂されていた貿易商のハンスが何者かに誘拐されたという事件。ガルベスとハンスは誘拐されてから数時間後、別の街の警察署の前にロープで拘束された姿でいつの間にか放置されており、しかも二人の側にはそれまで彼らが行なってきた悪事の証拠である書類もあって、これには警察署の警官達は二重の意味で驚くこととなった。
これ以上なく揃った証拠の数々に警察署の警官達はガルベスとハンスを逮捕し、それだけでなく裏で繋がっている証拠が見つかったガルベス・ファミリーの拠点がある街の警察署にも近々捜査を行うことを発表。これらの情報はテレビや新聞などのメディアによってすぐさま公表されたのだが、それと同時に人々の間で奇妙な噂が流れ始めた。
その噂の内容とは、警察署の前に放置されていたガルベスとハンスの周りには二人の悪事の証拠の他に、彼らを誘拐したと思われるグループが残した『脚が十二本ある蜘蛛』のカードが何枚も残されていたというものであった。そして残されていた全ての蜘蛛のカードには、次のような名前が書かれていたらしい。
幻影旅団、と……。
X ◇ X
「さて、最初とはだいぶ予定は違うが……ガルベスとハンスはめでたく刑務所行きとなったし、今回の仕事は成功したと思ってもいいだろう。というわけで、仕事が成功したことを祝って……乾杯」
『『カンパーイ!』』
ガルベスとハンスが隣町の警察署に捕まったというニュースが流れた日の夜。アジト代わりに使っている廃虚でクロロが右手に持っている缶ジュースを掲げて言うと、他のメンバー全員もそれぞれが持つ缶ジュースや缶ビールを掲げて乾杯をする。
ガルベスとハンスを拉致した後、警察署の前に放置していったのはクロロ達幻影旅団であり、今はそれの成功を祝う祝勝会みたいなものであったが、エックスは目の前に用意された大量の食べ物や飲み物を見て首を傾げる。
「そう言えばこの食べ物とかってどうしたんだ? 盗んできたのか?」
流石は無法地帯の流星街の出身というか、今更盗みや未成年の飲酒程度では驚かないエックスであったが、エックスの疑問をシャルナークが首を横に振って否定する。
「いいや、ちゃんとお金を出して買ったよ? あの峰不二子っていうお姉さんから『お駄賃』をもらったからね」
「……峰不二子、さん? いつあの人と会ったんだ? というかお駄賃って?」
確かにエックス達は先日、ハンスのビルに忍び込む際の下見で峰不二子がハンスの秘書として潜り込んでいたのを見た。たがそれがどうして峰不二子がシャルナーク達にお駄賃とやらを渡したのかに繋がらずにいると、シャルナークが説明をしてくれた。
「ほら、俺ってウボォーギンとノブナガとマチの四人でハンスを捕まえに行ったじゃないか? その時にハンスの秘密の金庫から金やらお宝を盗んでいる峰不二子と出会ってね。『貴方達のお陰で仕事がやりやすかったわ』って言ってきて、百万ジェニーくらいの札束をくれたんだ」
「……なるほど」
シャルナークの説明にエックスは思わず納得する。確かにハンスが誘拐されて大騒ぎになれば、峰不二子の方は盗みがやりやすくなるから百万ジェニーくらい「お駄賃」として渡してもいい気になるかもしれない。
ちなみにその時のエックスの方はと言うと、クロロとフィンクスとフェイタンの四人でガルベスを誘拐しに行っていたりする。
「そう言えばハンスの悪事の証拠……あれ、不二子が集めてルパンに渡したものらしいよ? 本人がそう言っていたし。後『お陰で色々とスッキリした』とかお礼も言っていたよ」
「ああ、そう言えばそんなことも言っていたな? ……だけどスッキリしたって、どういうことだ? ノブナガ、分かるか?」
「さあな」
不二子と出会った時のことをマチが思い出して言うとウボォーギンとノブナガも同意するが、その時の不二子の言葉の意味がよく分かっていないのか首を傾げる。
「………」
無言でマチとウボォーギンとノブナガの話を聞いていたエックスは、不二子がシャルナーク達に礼を言った気持ちが何となくだが分かった気がした。
多分だが、峰不二子は過去にクラム・オブ・ヘルメス関係のトラブルに巻き込まれて、仲間や恋人といった親しい人をガルベスかハンスの部下に殺されてしまったのだろう。クラム・オブ・ヘルメス程のお宝ならばそれを巡って裏で何人もの人が死んでもおかしくはないし、エックス達がガルベスとハンスを社会的に抹殺したことで一応の決着がついたと考えれば、不二子がシャルナーク達に礼を言うのも理解できた。