空を飛ぶ怪盗   作:兵庫人

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サイカイ × ト × ケッセイ(1)

 その日。十代前半くらいだがどこか年不相応な雰囲気を纏っている少年エックスは、泊まっていたビジネスホテルのチェックアウトを済ませるとホテルの近くにある適当なファストフード店で少し遅めの朝食を食べていた。

 

「うん? ………げっ?」

 

 ファストフード店に来るまでに買った新聞を見ながら朝食を食べていたエックスは、新聞に書かれているある記事を見つけると露骨に嫌そうな表情となる。記事の内容は昨日の夜に隣町の企業ビルに泥棒が入り大金を盗んでいったという内容で、新聞には盗みをした犯人が夜空を飛んでいる写真が載せられており、写真の隣には「空飛ぶ怪盗流星出現!」という文字が大きく書かれていたのだった。

 

 怪盗流星。

 

 三年前に突然現れた盗賊で、逃走の際には特殊な機械を使って空を飛んでいき、眩い光を放ちながら夜空を飛ぶ姿からいつの間にか世間から「流星」と呼ばれるようになっていた。

 

 主に盗むものは金品なのだが、盗みを行う先はマフィアとの繋がりがあると噂される企業のみで、盗みを行った際にはマフィアとの繋がりがある証拠も盗み出し、それらの証拠は全て後日警察に送っている。しかも盗んだ金品のほとんどは、逃走中に通行人が大勢いる場所の上空からばら撒いており、そんなパフォーマンスから市民では怪盗流星のことを「現代の義賊」と呼ぶ者も少なくはない。

 

 そんな怪盗流星の正体こそがここにいるエックスなのだが、彼は自分のことを義賊と呼んで褒め称える新聞の内容に不満があった。

 

 確かに盗みを行っているのはマフィア関係の企業ばかりだし、盗みを行う度に一般市民に盗んだ金のほとんど配っているようなものだから、新聞が自分のことを面白おかしく書くのも分かるし、一般市民から自分を義賊と呼ぶ者が出てくるのも理解できる。

 

 しかしエックスは自分のことを義賊だと思ったことは一度もないし、世直しをしようと思ったこともない。彼が盗みをやっている理由はその日生きる生活費が欲しいからだった。

 

 盗みをしたのは、流星街出身で個人情報がなくてまともな働き口がないため。

 

 盗み先をマフィアと繋がりがある企業のみにしたのは、後ろ暗いところだったら僅かに残った良心が痛まないため。

 

 金品と一緒にマフィアと繋がっている証拠を盗んだのは、それを使って警察の目を少しでも自分から盗んだ企業に逸らすため。

 

 盗んだ金品のほとんどをばら撒いて他の人達の手に渡るようにしたのは、残った金を使っても警察や周囲に怪しまれないようにするため。

 

 つまりエックスが怪盗流星としての行動は最初から最後まで自分のためだけのもので、こんな風に義賊と言われるのは居心地が悪かった。というかせっかく帰り道に盗み先の企業とマフィアが繋がっている証拠を警察に送ったのだから、自分ではなくそちらの方に注目してほしかったというのがエックスの本音であった。

 

(この国も、もう潮時かな?)

 

 朝食を食べながら新聞の怪盗流星の記事を見ながらエックスはぼんやりと考える。

 

 昨日の盗みを含めてエックスはこの国で五件の盗みを働いていて、今は警察も盗み先の企業とマフィアの繋がりを追うのに忙しいだろうが、そろそろ自分の方も本腰を入れて捕まえにくるかもしれない。そうなる前にこの国から離れるのが安全だと彼は考えていた。

 

(次はどこの国に行こうかな? いや、いっそのこと別の大陸に行ってみるか? でもそれだと旅費が少しな……?)

 

 別の大陸への逃亡も考えるエックスであったが、その場合の移動手段は飛行船か船になる。流星街の出身で個人情報のないエックスは普通、他国へ移動する飛行船や船に乗れず、乗れるとしたら密入国を請け負う裏ルートを使わなくてはならず、その場合はかなりの大金が必要だ。

 

 エックスは昨日企業から大金を盗んだが、そのほとんどは街中にばら撒いて手元に残っている金額は百万ジェニー弱。裏ルートを使って他の大陸に行くための料金としては若干の不安がある。

 

(……仕方がない。別の国で盗みをして、それでお金が貯まったら別の大陸へ行くか。そうと決まったら、今日中に別の国へ……)

 

「やあ」

 

「え?」

 

 考えがまとまったエックスが残りの朝食を食べようとした時、当然前方から声をかけられた。声がした方を見ると、いつの間にかテーブルを挟んだエックスの向こう側の椅子に彼と同じくらい年頃の少年が座っていて、少年はにこやかな笑顔を向けていた。

 

(な、何だコイツ? いつの間にかここにいたんだ?)

 

 エックスは内心ではかなり驚いていたが、それを表情に出すことなく目の前の少年を見る。

 

 周囲は敵だらけと言っても過言ではない流星街で生まれ育ったエックスは、常に周囲を警戒する習性が身体に染み付いており、新聞を読んだり朝食を食べている時だって警戒は一切緩めてはいまかった。それなのに目の前にいる少年は自分に気づかれることなくこの至近距離まで接近してきたという事実に、エックスは警戒心を最大に引き上げて最悪街中で念能力を使っても逃げ出す準備をする。

 

 するとそんなエックスの警戒に気付いたのか、目の前の少年は苦笑を浮かべる。

 

「まいったな……。驚かせたのは悪かったけどそんなに警戒しないでくれよ? ……というか俺のことを覚えていないのか?」

 

「何?」

 

 少年の言葉を聞いてエックスが少年の顔を見ると、確かにどこか見覚えがあるような気がした。それから少ししてエックスの脳裏に一人の幼馴染の顔が浮かび上がった。

 

「……お前、もしかしてクロロか?」

 

「ああ、良かった。覚えていてくれたんだな」

 

 エックスが聞くと目の前の少年クロロは嬉しそうな笑顔を浮かべて頷く。しかしその直後、クロロは仮面のような無表情となるとエックスに話しかける。

 

「エックス、話がある。俺についてきてくれ」

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