なんか主人公みてぇなシチュエーション……おいどんには無理にごわす 作:キュアチヒツ
ベッドの上でゴロゴロだらけていると、ふと前世の記憶を思い出した。
まぁ思い出したからなんやねん?って話ではあるのだけとも。
別にゴロゴロすることをやめたりはしないし、机に置かれた課題に手を付けるなんて以ての外だ。
というか、なまじ頭の出来がよかった分そこまで真面目に勉強した記憶も殆どないしね。
知らない知識の出処が気になってた時期もあったけど、結局途中から考えるのも面倒になったし。
……前世の記憶が由来ってことは即ち純度100%のわたし産だし、これからも気兼ねなく頼りにできるから嬉しい。
元からそういうの考えたことないけど。
そも、みんなわたしは怠けすぎだって言うけどさ、前世が
自分で言うのもなんだけど、過労で回らなくなった頭でボタン押したら、実はそれが死への片道切符でした〜わ酷いと思う。
もっと普段から整備ちゃんとしとけとは今だから言える感想だからね。死人に口なしだけど。
とにかく、固定金具が吹っ飛んだロード*1ローラーだッ!!が真近まで急接近してくるなんていう衝撃の恐怖体験を、*2無理やり味あわされたことを思えば、今のわたしの怠け具合じゃ全く割に合わない。
お釣りが万超えて億……ううん、きっと兆だって超えて余裕も出るレベルの筈。
この第二の人生はきっと、無価値な社畜の死を哀れんだ神様がくれたプレゼントの筈だから。
「あぁーお布団サイコー!」
このふかふか!お日様の香り!まさしく魅惑!
もうわたしはこの魅力から逃れられないよぉ〜!
軽やかな気分になりながら、鼻先を押し付け、すぅぅぅっと大きく息を吸い込む。
うん!やっぱりお日様のいい匂い!洗剤もアクセントになっててなおよし!
「まったく、いつもいつもゴロゴロして……」
むむ、我が安寧を脅かす母降臨。
まぁ、お母さんの言いたいことが分からなくもないわたしは理解を示すよ。
客観的に見たらかなりだらけた生活してるもんね、わたし。
でもあくまでも常人の範囲に収まってると思うんだけどなぁ。
「それ、周りの子を見ても言えるの?」
「ウッ」
い、痛いとこついてこないでよ……
あぁは言ったけど、自分でも多少怠けすぎなところがあるのは自覚してたりする。
で、でも!前世であんなに頑張ったんだから、ちょっとくらいは許されてしかるべきだと思うんだけど!?
「いつも言ってるじゃない。怠けるのはいいけど、少しは運動しなさいって」
うぅ……
唸るわたしを困ったように見つめるお母さん。
しかし、次の瞬間には、いたずらっぽい笑みをその整った顔に浮かべていた。
何その顔……
「でも、流石に今日は外出したいんじゃない?」
「……。なんで?」
外出したいって、なにかあったっけ…?
本気でわからず困惑していれば、流石のお母さんも呆れ顔。
「今日はあんなの誕生日でしょ?」
「誕生日?」
誕生日が何……あっ、あーなるほど。
「そういえば、誕生日にスマホ買いにいく約束してたっけ」
「……なんかテンション低いわね」
思ってた反応と違う…ボソりとそう漏らすお母さん。
いやごめんて。
でもしょうがないじゃん……別に今の今までなくてもそこまできにならなかったんだから。
前世だと触らずにはいられなかった相棒も、今世のぐうたら生活*3だとそこまで必要に駆られなかったんだもの。
「それよりもさぁ、ちょっと食べたいものがあって……」
手をスリスリさせながらお母さんににじり寄る。
やっぱり、やっぱり、誕生日といえばあれがないとダメだよねぇ…?
ほら、まだ買ってないんでしょ?ほらあれ、あれあれ…!
「ケーキでしょ?わかってるから」
「さっすが!お母さんはなまる大正解!」
「まったく、調子いいんだから」
そんなこと言ってぇ〜お母さんだって嬉しいくせに。
全力で甘えてくる娘が可愛いんでしょ?うりうり〜
「ん〜、確かに私の娘は可愛いけど。お母さん、そんな可愛い娘が将来苦労する未来は見たくないわねぇ」
ウッ、またグサッとくるお言葉……
まぁでも大丈夫だよ。心配しなくとも大人になる頃には戻ってるだろうから。
社畜に……
働いたこともないのになんでそう楽観的なのよ……などなど呆れられつつもケーキ屋へと足を運び、見事フルーツ*4たっぷりの五号ケーキを手に入れた。
前世だとそんな好きでもなかったんだけど、今世なんかブルーベリーがめっちゃ好物なんだよね。
臓器の移植でも趣味とか趣向が変わるって言うし、カラダ自体が変わったらその辺もダイレクトに行ったりするのかな?
でもあれたしか記憶転移とかなんとか……うーん
「まぁ、考えてもしょうがないって思っとこ」
単に、社畜からの開放感に頭アッパラパーになってる可能性だって否定できないもんね。
思考自体も全体的に幼くなってる感じはするし、案外、気付かぬ間にストレスで幼児退行してた可能性とかもあるのかも。
「ん?なにこれ」
おかしいな…?家出る時にはこんなのなかったんだけど。
というか、そもそもこんな綺麗なペンダント、うちにあったっけ?
首をかしげながら、勉強机に置かれた見知らぬペンダントを手に取る。
しげしげと見つめてみたけど、やっぱり見覚えがなくて眉間にシワがよる。
「お母さ――「ポチーっ!」」
部屋へと響き渡るふざけた声。
即座に声が聞こえた方向――クローゼットへと目を向けたわたしは……その場でぴしりと固まることとなった。
な、なんだこいつ!?
ていうかなんでクローゼットに!?
突如として出現したピンクの……クマ?え、本当になんなのこいつ???
全体的にピンクで、マスコットじみた見た目の謎生物。
どっからどう見てもUMAです本当にありがとうございました。
それにしても随分ファンシーな見た目してらっしゃる。
「なんか魔法少女ものに出てくる妖精みたい」
キュ○べえの系譜継いでたら嫌だな……あれは別枠として考えたい。
「妖精ポチ!」
はえー、見た目通りに妖精なんだ。
へぇー、ほー、ふーん……
「……本当に?」
「本当ポチ!」
むん!だとか、効果音がつきそうな勢いで食い気味に返してくる自称妖精。
現実的にありえない見た目してるし、信ぴょう性は結構高そうなんだけど……どうにもうさんくさい。
「って、こんなことしてる場合じゃないポチ!お願い、ポチタンに力を貸して欲しいポチ!」
「わっ」
バタバタと振られた腕が、わたしの腕からペンダントをひったくった。
一瞬なにすんだこいつってキレかけたけど、よくよく考えたらそれってわたしのじゃないし怒らずスルー。
……でもこいつ明らかわたしに向かって力を貸せとか言ってるんだよねぇ。
「力を貸すって、どうなふうに?具体的に教えてくれないとわかんないよ」
これで君は選ばれた存在だ!だからモンスターと戦ってくれ!、とか言われたら申し訳ないけど断る気しかない。
前世も今世もただの一般人、超人でもなんでもないわたしにできることなんてたかが知れてるもの。
「もっともポチ!それを今から説mッ―――ポチ!?」
あ、ちゃんと説明してくれるんで――えっ?
「光っ、てかなんで急に―――」
自称妖精の手元から離れ、誰の手も借りることなく、これみよがしと開かれたペンダント。
キラリと閃いた小さな光が、瞬く間に眩い光となり、硬直するわたしたちを覆い尽くす。
混乱と困惑に呑まれる間に、視界は白に染まった。