HXH世界を旅する少年王子のお話   作:azuazu000

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注意⚠️R-15
レオリオに女の子だと勘違いされたまま迫られてしまいます。


四次試験② 初めて

「動くな」

 

 レオリオは咄嗟にアズリルの肩を掴み、自分の後ろへ庇うように引き寄せた。

 

「毒蛇だ。噛まれたら無事じゃ済まねえ」

 

 アズリルは息を呑んだ。

 

「毒……蛇」

「ちっ」

 

 レオリオはアズリルを支えながら起き上がり、すぐさま周囲へ目を走らせた。

 

「罠を張ってやがったんだな。これじゃ出られねえ」

「どうしよう……」

 

 出口へ続く道は蛇に塞がれており、他に抜けられそうな場所も見当たらない。レオリオが険しい顔で洞窟内を見回す横で、アズリルは肩を落とした。

 

「すまない。巻き込んでしまって」

 

 レオリオは眉を寄せる。

 

「いいさ。俺が勝手についてきたんだ。お前のせいじゃねえよ」

 

 その時、外から声がした。

 

「レオリオ!」

 

 ゴンだった。

 

 レオリオはすぐに叫ぶ。

 

「入るな!! 罠だ!」

 

 外の気配が、ぴたりと止まる。

 

「罠!?」

 

 今度はクラピカの声だった。

 

「おそらく蛇使いのバーボンの罠だ! 中に毒蛇がいる! 入ったら出られねえ!」

 

 外で、ゴンとクラピカが何かを話し合う気配がした。やがて少しの間を置いて、クラピカの声が返ってくる。

 

「分かった。こちらで助ける方法を探す。無理に動くな」

 

「頼む!」

 

 二人の足音が遠ざかっていくと、洞窟の中にはまた静けさが戻った。

 

 レオリオとアズリルは壁際に並んで座っていた。時折、蛇の這う音だけが、薄暗い洞窟の中にかすかに響く。

 

 アズリルはちらりと横を見た。レオリオは片膝を立てて座り、出口の方を睨むように見ている。いつでも動けるように、片手は立てた膝の上に置かれていた。

 

 自分のせいで、申し訳ないことをした。

 

 そう思うと、黙っているのが余計につらくなる。アズリルはうまく働かない頭で、どうにか話題を探した。

 

「レオリオ」

「なんだ」

「レオリオは、医者になるためにハンターになりたいんだよね」

「ああ。まあな」

 

 レオリオは照れくさそうに鼻の下をこすった。

 

「医者になるにも、病院を作るにも金がいるからな」

「……すごいね」

 

 アズリルはゆっくりと視線を上げた。眠さや疲れのせいか、身体がやけに熱く、頬もほんのり赤い。アズリルは立てた膝に腕を重ね、そこへ頬を預けていた。眠たげに細めた目で、ぼんやりとレオリオを見上げている。

 

「立派だよ」

「そ、そうか?」

 

 レオリオの声が上ずった。

 

 先ほどまでの緊張が解けたせいか、今度は別の意味で落ち着かなくなってくる。少し前屈みになったアズリルの襟足がさらりと流れ、首筋からうなじへ続くなめらかな線が、洞窟の薄闇の中に覗いていた。

 

 レオリオは慌てて視線を逸らした。見ないようにすればするほど、かえってその光景が頭に残ってしまい、妙に喉が渇く。

 

「そんな立派な目標があったらなぁ」

 

 アズリルがぽつりと言った。

 

「自分には、何もないや」

 

 その言い方は小さく、寂しそうだった。

 

 レオリオははっとして、慌てて首を振る。

 

「そ、そんなことねえよ!」

 

 アズリルは小さく瞬きをして、腕に預けていた頬をゆっくりと上げた。

 

「十分立派だろ。ここまで残ってんだぞ。お前、ずっとすげえよ」

「そう……かな」

「そうだよ。いいハンターになれるさ」

 

 アズリルは照れたように笑った。

 

「ありがとう」

 

 その笑みを見た瞬間、レオリオは言葉に詰まった。

 

 アズリルはしばらくそのままレオリオを見上げていたが、やがて支えていた力がふっと抜けたように、横へ身を傾けた。

 

 こてん、と小さな重みが、レオリオの肩に乗る。

 

「……おい」

「ごめん。頭が重いんだ……ちょっと借りていい?」

 

 アズリルの言葉は、眠気でかすれていた。

 

 髪がレオリオの頬の近くに触れ、柔らかい香りが洞窟の湿った空気に混ざる。

 

「……あ、ああ」

 

 レオリオは喉を鳴らした。

 

 アズリルの呼吸が、布越しにかすかに伝わってくる。ゆっくり吸って、ゆっくり吐くたびに、その熱が肩口へじわりと染み込んでくるようだった。

 

 これは。

 

 もしかして。

 

 もしかして、脈ありってやつなのか。

 

 レオリオは、自分でも馬鹿なことを考えていると思った。こんな場所で、助けを待つしかない状況で、毒蛇もうじゃうじゃいるというのに、それでもアズリルはあまりにも隙だらけだった。

 

 レオリオはちらりと隣を盗み見て、それから確かめるように周囲へ視線を走らせる。洞窟の奥には、二人がもっと離れて座れるだけの広さがあった。わざわざこんな近くに腰を下ろす必要なんてない。

 

 それなのにアズリルは、レオリオのすぐ隣を選び、さらに身体を寄せるようにして預けている。

 

 偶然じゃない。

 

 そう思いたかった。

 

 これはきっと、そういう意味なのだ。

 

 そう自分に言い聞かせるほど、胸の奥で、押し込めていた欲がじわじわと形を持ちはじめる。

 

 恐る恐る、レオリオは手を伸ばした。

 

 指先がアズリルの髪に触れる。

 

 細くて、思ったより柔らかい。レオリオは躊躇いながら、ゆっくり髪を撫でた。

 

 アズリルは目を閉じたまま、息を吐く。

 

「……気持ちいい」

 

 その一言で、レオリオの耳まで一気に熱が上った。さっきまでの予感が、都合のいい確信に変わっていく。

 

「ア、アズリル」

「ん……?」

 

 アズリルはゆっくりとまぶたを上げた。焦点の合いきらない潤んだ眼差しが薄闇の中で揺れて、その頼りなさが、レオリオにはまるで自分を受け入れているように見えてしまった。

 

 レオリオは、髪を撫でていた手をそこで止めた。

 

 ここから先は、もうただの勘違いでは済まなくなる。

 

 ここまで踏み込まれても、アズリルは拒まなかった。警戒するどころか、安心しきったように力が抜けている。

 

 自分だけじゃない。

 

 そう思っていいはずだ。

 

 喉の奥で息を呑み、レオリオはその肩へ手を置いた。細い肩は、力を入れれば壊れてしまいそうで、自然と手つきが慎重になる。

 

 肩に置いた手へわずかに力を込めると、その身体がゆっくりとこちらを向いた。

 

「……?」

「アズリル」

 

 その一言は、自分でも驚くほど低く出た。

 

 返事はなかった。ただ、アズリルは力の抜けた身体をレオリオに預けたまま、浅く息をしている。

 

 レオリオはもう片方の手を伸ばし、アズリルの背中へ回した。

 

 抱き寄せる。

 

 ほとんど抵抗はなかった。

 

 そのぬくもりが腕の中に収まった瞬間、レオリオの腹の底で、認めたくない欲が脈打った。

 

 抱き寄せられたアズリルは、思いのほか高い体温に包まれ、意識をさらに深く沈ませていく。

 

「……どうしたの?」

 

 アズリルが囁くように尋ねる。

 

 その声が耳元に触れた瞬間、レオリオの肩がわずかに跳ねた。覚悟を決めるように、呼吸ひとつ分だけ身体を離すと、アズリルの顔がすぐそこにある。早まった吐息が、その鼻先をかすめた。

 

 アズリルの視線はレオリオではなく、どこか遠くを見ていた。けれど今のレオリオには、それに気づく余裕など残っていない。

 

 レオリオは喉の奥で息を呑み、聞こえるか聞こえないかくらいの低さで言った。

 

「……いいか?」

 

 返事はなかった。

 

 けれど、アズリルは彼の方を向いたまま、ゆっくり目を閉じていた。

 

 それを見た瞬間、レオリオの中で、かろうじて掛かっていた枷が音もなく外れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アズリルは、まだ夢と現実のあわいを漂っていた。

 

 誰かに呼ばれたような気もするし、ひどく温かいものに包まれているような気もする。身体は重く、意識は水底に沈んだまま浮かび上がれず、だから最初は、自分に何が起きているのか分からなかった。

 

 気づいた時には、唇がぬるい熱に塞がれていた。

 

 それは触れては離れ、また確かめるように重なった。離れるたびに生温い息が口元を掠め、ぼんやりした意識の底に、嫌な余韻だけが沈んでいく。

 

 何度か繰り返されるうちに、その触れ方は少しずつ強くなっていった。逃げ場を塞ぐような近さと重みに、沈みかけていた意識がようやく浮かび上がる。

 

 はっとした時には、唇を塞いでいた熱が、さらに奥へ踏み込もうとしていた。

 

 ぬるりとした弾力のものが、唇を割って口内へ滑り込んでくる。

 侵入してきた感触が、口の中を探るように動いていた。

 

 こんなものを受け入れたことは、一度もない。

 

 それが舌に触れ、絡め取られるように吸い上げられた瞬間、背筋が冷えた。

 

 そのあまりの生々しさに、沈んでいた意識は一瞬で覚める。

 

 遅れて、身体が拒絶するように強張った。

 

「っ、嫌……っ」

 

 自分でも思った以上に、はっきりと拒絶がこぼれた。

 

 逃れようとして、アズリルは必死に身体を捩る。

 

「っ!」

 

 レオリオは弾かれたように身を離した。

 

「わ、悪かった! すまねえ!」

 

 慌てて両手を離し、距離を取る。

 

「その、同意があるのかと……いや、違うな。本当に悪かった。俺、何やってんだ……!」

 

 アズリルは声を詰まらせたまま、何も言えなかった。何が起こったのか、自分でもまだうまく理解できていない。ただ、レオリオがひどく動揺していることだけは分かった。

 

 レオリオは、羞恥と後悔に押し潰されたように黙り込んでいた。

 

 アズリルは気まずそうに目を逸らした。

 

 同意があると思った。

 

 その言葉で、ようやく分かった。

 

 レオリオは、自分を女だと思っていたのだ。だから、あんなふうに触れた。

 

 そこまで理解した瞬間、自分が言い忘れていたことの重さが、遅れてのしかかってきた。

 

 言わないと。

 

 ここで黙ったら、もっとひどいことになる。

 

 アズリルは拳を握りしめ、震える息を吐いた。

 

「男なんだ」

 

 洞窟の中に沈黙が落ちた。水滴の落ちる音だけが、やけにはっきり響く。

 

 レオリオは固まった。

 

「……は?」

 

 それは返事というより、理解できなかった音に近かった。

 

「……僕、男なんだ」

 

 アズリルは、念を押すようにもう一度言った。

 

 レオリオは頭から足先までアズリルを見た。そして、みるみる青ざめていく。

 

「……男」

「レオリオ……ごめん」

 

 レオリオは何も言わなかった。

 

 ゆっくりと立ち上がり、洞窟の反対側へ移動すると、壁際に座り込む。膝に肘を置き、両腕で顔を覆ったまま、こちらを見ようともしない。

 

「レオリオ」

 

 返事はない。

 

「すまない。もっと早くに言うべきだった。本当に申し訳ないことをした」

 

 レオリオはぴくりとも動かない。

 

「レオリオ……」

 

 アズリルはしゅんと肩を落とし、膝の上で指を握った。

 

 レオリオを傷つけてしまった。それも、取り返しのつかない形で。

 

 そう思うと、どうしたらいいのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 どれくらい時間が経ったのか分からない。

 

 二人は一言も発さず、助けを待っていた。レオリオは相変わらず、アズリルから一番遠いところに座っている。膝の間に頭を抱え込むようにして、こちらを見ようともしない。

 

 アズリルは、あの出来事ですっかり眠気が飛んでしまっていた。

 

 残っているのは、罪悪感と、胸の奥にぽっかり空いたような喪失感だけだった。

 

 もっと早く気づくべきだった。

 最初から、ちゃんと言っておくべきだった。

 

 同じ後悔ばかりが頭の中を巡っていた、その時。

 

 アズリルは、長い間忘れていたものに気づいた。

 

 手首には、黒い革紐が巻かれている。

 

「……ノクト」

 

 あまりの慌ただしさに、一度も意識を向けていなかった。そのことに気づいた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。

 

 会いたい。

 

 今すぐ、会いたい。

 

 そう思っただけで、喉の奥がつかえ、目の奥が熱くなった。黒い革紐を握りしめる指先に力がこもり、ほんの少し呼吸が乱れる。

 

 その拍子に、さっきのことが否応なく脳裏に蘇った。

 

 口の中へ押し込まれた異物が、勝手に蠢くような感触が、まだはっきりと残っている。もう何も触れていないはずなのに、内側にぬるい気配だけがこびりついているようで、アズリルは思わず唇を引き結んだ。

 

 思い出しただけで背筋が冷え、目元に溜まりかけていた熱が、さらに強く滲みそうになる。

 

 自分が悪いのに。

 

 もっと早く言っていれば、あんな勘違いは起きなかった。

 

 レオリオの方が、きっとずっと傷ついているはずなのに。

 

 それなのに、この苦しさだけは消えてくれなかった。息をするたびに泣きたい気持ちばかりが込み上げてくる。

 

 アズリルは唇を噛み、膝の上で革紐を握ったまま、しばらくじっと俯いていた。

 

 すぐそばにはレオリオがいる。蛇も、まだそこにいる。

 今は泣いている場合ではない。

 

 アズリルは何度か浅く息を吸い、目元に溜まりかけたものを押し戻すように瞬きをしてから、ようやく小さく首を振った。

 

 そして、ちらりとレオリオを見る。

 

 そのすぐ近くで、蛇が音もなく身を滑らせていた。

 

「レオリオ」

 

 名前を呼んだつもりなのに、喉がかすれて、うまく響かなかった。

 

「悪かったから……せめて、もう少しだけこっちに寄ってくれないか。蛇が……」

 

 レオリオの肩が、びくりと跳ねた。けれど彼は振り向かず、まるで聞こえなかったふりをするように、その場から動こうとしなかった。

 

 アズリルは深く息を吐く。

 

 その時だった。

 

 天井近くの岩陰から、一匹の蛇が落ちた。

 

 黒い影が床に跳ね、するするとレオリオの方へ這っていく。

 

「……!」

 

 アズリルの血の気が引いた。

 

「レオリオ! 危ない!」

 

 気づいたら身体が動いていた。

 

 アズリルは蛇の行く手を阻むように、レオリオとの間へ咄嗟に足を突き出した。

 

 その瞬間、鋭い痛みが足首に走る。

 

 噛まれた。

 

「っ……!」

 

 アズリルは痛みを堪え、反射的に蛇を蹴り飛ばした。細長い胴が壁に叩きつけられ、ぺしゃりと嫌な音を立てる。そのまま蛇は岩陰へ落ち、暗がりの中へ消えた。

 

「アズリル!!」

 

 レオリオははっと我に返り、アズリルの元へ駆け寄った。

 

「噛まれたのか!?」

「大丈夫」

 

 アズリルは慌てて首を振った。

 

「思ったより、そんなに痛くないや」

 

 そう言って、何でもないことのように足を払おうとする。けれど、その顔は笑っているような、泣きそうなような、不自然な形に歪んでいた。

 

 レオリオの目つきが鋭くなる。

 

「馬鹿野郎!!!」

 

 怒鳴り声が洞窟に響いた。

 

「痛いとか痛くないとかの話じゃねえだろ! 毒蛇なんだぞ!!」

 

 アズリルの身体がびくりと跳ねた。

 

 今まで、自分にそんな剣幕を向けられたことがなかった。

 

 何か言おうとした。けれど、声より先に視界が滲んだ。頬を伝って、何かがぽたぽたと落ちる。

 

 涙だ。

 

 自分でも、泣いているのだと気づくのに遅れた。

 

 アズリルは慌てて袖で拭った。けれど、止まらない。

 

「……っ」

 

 レオリオはそれを見て、はっとしたように青ざめた。

 

「悪い」

 

 一気に勢いが削がれる。

 

「悪かった。怒鳴るつもりじゃなかった」

 

 レオリオは膝をつき、アズリルの前に身を屈めた。

 

「助けてくれたんだよな。俺が悪い。俺が動かなかったから……八つ当たりした。悪かった」

「違う」

 

 アズリルは首を振った。涙を拭いながら、何度も首を振る。

 

「僕が悪いんだ。ごめん。ごめん、レオリオ」

 

 何に対して謝っているのか、自分でも分からなかった。

 

 罪悪感も、痛みも、情けなさも、全部が混ざって、ただ謝ることしかできない。

 

 その謝罪はレオリオの胸を抉った。悪いのは俺だろ、なぜお前が謝る。そう叫びたいほどの自己嫌悪と罪悪感に、レオリオはきつく奥歯を噛みしめた。

 

「……いいから、今はそれより足を見せろ」

 

 アズリルを蛇のいる場所から離し、壁際に座らせる。それから、噛まれた足首をそっと取った。

 

 真新しい傷は、まだ大きく腫れてはいなかった。

 

 レオリオは持っていたアタッシュケースを開く。中から布や器具を取り出し、手早く処置を始めた。

 

「動かすな。できるだけじっとしてろ」

 

 アズリルは頷いた。

 

 だが数分もしないうちに、噛まれた箇所から激痛が走る。

 

「っ……!」

 

 足首から膝へ、焼けるような痛みが這い上がってくる。心臓の音に合わせるように、傷口がずきずきと脈打った。

 

 レオリオは包帯を巻き、噛まれた足が余計に動かないよう固定する。

 

 応急処置だった。

 

 それ以上のことはできない。解毒できるものがなければ、症状は悪くなる一方だ。

 

 クラピカたちは、まだ戻ってこない。

 

 時間だけが過ぎていく。

 

 最初は痛みだけだった。けれど、やがてアズリルの呼吸が浅くなり、額に汗が滲み始めた。一時間ほど経った頃には、もう自力で座っているのも難しくなっていた。

 

 身体が傾くと、レオリオは慌てて支えた。

 

「悪い」

 

 咄嗟に触れてしまったことへの謝罪だった。

 

 レオリオは上着を丸め、慎重にアズリルの頭の下へ差し込む。簡単な枕代わりだった。

 

 それからしばらく、アズリルはうなされるように浅い息を繰り返していた。そのたびに、レオリオは何度も謝った。

 

「本当に悪い。俺が意地張ってなきゃ、お前が噛まれることなんてなかった」

 

 アズリルは返事をしようとした。

 

 けれど、声がうまく出ない。

 

 やがて吐き気が込み上げ、何度もえずいた。そのたびに、レオリオはアズリルの頭を支えた。

 

 その手つきは怖いほど慎重で、触れるたびに謝るようだった。

 

 やがて洞窟の天井が滲み始める。

 

 レオリオの顔も、ぼやけていく。

 

 次の瞬間、目の前がふっと暗くなった。

 

「アズリル!」

 

 最後に聞こえたのは、レオリオの焦った呼びかけだった。

 

 それきり、意識が途切れた。

 

 

 

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