いざ、ゾルディック家へ
「何してるの!? ノクト!?」
皆から離れた場所まで引っ張っていくなり、アズリルは堪えきれずに声を上げた。
なぜここにいるのか。なぜ兄のふりをしているのか。そもそも、なぜあそこまで兄そっくりに振る舞えるのか。聞きたいことは一つではなかったのに、言葉はうまく形にならない。
けれど、目の前の男はアズリルの混乱などまるで気にしていないように、いつも通りの礼を取った。
「アズレイ殿下、改めてご挨拶を。急なご無礼をお許しください」
その声は、アズリルの知るノクトのものに戻っていた。
それなのに、表情も、立ち居振る舞いも、まだレオンハルトのままだった。柔らかく微笑む角度も、こちらを見下ろす時の穏やかな余裕も、聞き慣れたノクトの声とはまるで噛み合わない。
そのちぐはぐさが、余計に気味悪かった。
「説明して」
きつく言ったつもりだった。
けれど、本来の声で返事をされたせいで、先ほどの剣幕は少し削がれていた。目の前にいるのは、やはり間違いなくノクトなのだと思い知らされて、どうしてもまっすぐ顔を見ることができない。
「実は、レオンハルト様がご一緒される予定だったのですが、ある件が思った以上に長引いておりまして。代わりにアズレイ殿下を出迎えるよう、私が命じられました」
ノクトはそこで口を閉じた。
どうやら、それで説明は終わったつもりらしい。
「な……なんの説明にもなってないじゃないかっ!」
思った以上に声が大きくなった。
離れたところにいるレオリオたちがこちらを見る気配がして、アズリルは慌てて声を落とした。
「一体どうして、またそんな兄上みたいな……。変だよ、ノクト」
「ですから、レオンハルト様の代わりとして、殿下をお迎えするようにと」
「……」
アズリルは目を瞬かせた。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「代わり?」
「はい」
その迷いのない返事に、アズリルはようやく理解する。
そうだ。
この男は、こういうところがある男だった。
レオンハルトの騎士に任命されてからは、まるで人が変わったように隙を見せなくなった。アズリルの前でも、ずっとそうだった。
だから忘れていた。
ノクトは昔から、時々ひどく抜けている。
幼い頃、城下町の外れの森でアズリルが迷子になった時もそうだった。誰より早く見つけてくれたのに、最後の最後で肝心な段取りが抜けていて、結局二人で崖下の岩陰に身を寄せ合い、夜明けを待つ羽目になった。
アズリルは深く息を吐くと、無事な方の手で、背の高い男の肩をぽんと叩いた。
「あのね、ノクト」
「はい」
「兄上が言う“代わりに行ってこい”っていうのは、兄上のふりをしろって意味じゃないと思うんだ。ただ、代理として迎えに行けっていう意味なんじゃないかな」
ノクトは表情を変えないまま、アズリルを見下ろしていた。
少しして、ようやく納得したように片手を打つ。
「ああ」
その反応に、アズリルはさらに深いため息をついた。
けれど同時に、胸の奥に、忘れていた懐かしさのようなものがじわりと広がっていく。呆れているはずなのに、どこか照れくさくて、少しだけ嬉しかった。
「誤解はともかく、もうやってしまったことですし、私はこのままレオンハルト様の形を続けます」
「続けなくていいよ」
「いえ。今さら態度を変えると怪しまれます。それに、元々、ネテロ会長の言付けで、しばらくご一緒するようにとも言われておりますので」
その言葉に、アズリルは息を詰めた。
三日も保たん。
ネテロの声が、頭の奥に蘇る。
アズリルはごくりと唾を飲み込んだ。ノクトが護衛としてそばにいるのなら、少なくとも、すぐに死ぬ心配はない。そう考えた瞬間、胸の奥が軽くなってしまったことに、自分でも驚いた。
それに、ハンターライセンスもまだ受け取れていない今、父との約束を完全に果たせたわけではないのだろう。そう考えると、このまま一人で旅に出るのも、どこか違う気がした。
「……分かった」
渋々頷いてから、アズリルはもう一度ノクトを見上げる。
「全く。こんなおっちょこちょいを見るの、何年ぶりだろう」
ノクトは涼しい顔をしていた。
表情だけは、どうしても兄のように、わずかな笑みを浮かべた澄ました顔のままだ。
こんなにも顔の系統が違うのに、どうしてここまで似せられるのか。疑問は尽きなかったが、聞いたところでまともな答えが返ってくる気はしなかった。
「もういいや。どうにでもなれだ」
先が思いやられる気持ちで、アズリルは皆のもとへ戻った。
ちょうどその頃、建物の方からヒソカとイルミが出てくる。
「あ、ノクト」
イルミは目の前の男を見るなり、頭に浮かんだことをそのまま口にした。
アズリルの血の気が引いた。
「い、イルミ! こ、こちらは兄上です。お、覚えてるよね」
「何言ってるの、アズレ──」
イルミが名を言いかけた時には、もうノクトの手がイルミの肩に置かれていた。
強く掴んでいるようには見えない。表情も柔らかいままだ。けれど、それだけでイルミは声を止めた。
「イルミ、久しぶりだな。まさかあなたも試験を受けに来ていたとは、奇遇だ」
その声は、またレオンハルトのものになっていた。
イルミは何も言わなかった。
いや、言えなかったのだろう。
わずかに目を見開いたまま、ノクトを見ている。
「せっかく会えたところ申し訳ないが、あまり長く話している時間はないんだ。これからアズリルたちに同行する予定があってね。それに、君も色々と忙しい身だろう。元気そうでよかったよ。また今度、ゆっくり話そう」
丁寧で穏やかな、それでいて反論の余地を与えない口調で言い終えると、ノクトはイルミの肩から手を離した。
「じゃあ、行きましょうか」
何事もなかったように振り返るノクトの背中を、イルミはまだ見ていた。
何かを確かめるような目だった。
「……レオ?」
小さな呟きが落ちる。
ほとんど誰にも聞こえないほどの声だった。
その直後、音もなく何かが飛んだ。
カードのようなものが、ノクトの背中に突き立つ。
一瞬、誰も反応できなかった。
「へえ♦」
楽しげなヒソカの声が、遅れて耳に届く。
「その程度? ♠」
その言葉で、ようやく皆は何が起きたのかを理解した。
振り返ると、ヒソカは悪びれた様子もなく、不敵な笑みを浮かべている。
ノクトの背中から、細く血が流れていた。
それを見たレオリオ、クラピカ、ゴン、そしてハンゾーまでもが、反射的に前へ出る。
「どういうつもりだ」
クラピカの声は低かった。
ノクトは答えず、振り向きざまに背中のカードを抜く。
血の滲んだそれが視界に入った途端、アズリルの胸の奥から何かが込み上げた。
考えるより先に、身体が動いていた。
けれど、ヒソカに届くより早く、ふわりと足が浮く。
気づけば、ノクトに抱き上げられていた。
「アズリル、大丈夫だよ。落ち着いて」
落ち着けるはずがなかった。
アズリルはヒソカから目を逸らさずに睨みつける。怒っているのだと、自分でも分かる。けれどそれは、言葉にできるような形をしていなかった。ただ、あの笑顔を今すぐどうにかしなければならないという衝動だけが、胸の中で膨れ上がっていた。
ノクトはアズリルを抱えたまま、ヒソカへ向き直る。
そして、血のついたカードをヒソカの前へひらりと落とした。
「あまり彼をからかうのはやめてください。すぐ本気にしてしまうので」
「ボクが誘ってるのは、キミの方なんだけどね♣」
「私なんかと遊んでも、何も楽しくありませんよ」
ノクトはにこやかなまま、アズリルをそっと地面に下ろした。
アズリルはまだ、ヒソカから目を逸らさない。
ヒソカはその視線を受けても、愉快そうに笑っているだけだった。
ノクトはそれ以上相手にせず、アズリルの背に手を添える。
その手つきは穏やかだったが、もう立ち止まるつもりはないのだと分かるほど、はっきりしていた。
アズリルはまだ納得のいかない顔をしていたが、押し返すことはしなかった。
ゴンたちもようやく緊張を解き、互いに顔を見合わせる。イルミは黙ったままノクトを見ていた。ヒソカだけは、最後まで楽しげに口元を歪めている。
その空気を断ち切るように、ネテロがほっほと笑った。
「相変わらず、騒がしいのう」
「……ネテロ会長」
アズリルはまだ息を乱したまま、ネテロを見た。
「道中、せいぜい気をつけることじゃ。おぬしの試練は、まだ始まる前からなかなか賑やかそうじゃからの」
アズリルは小さく頷いた。
ノクトもまた、レオンハルトの顔で穏やかに会釈する。
「では、しばらくお預かりいたします」
「まあ、しばし頼んだぞ」
「はい」
そのやり取りを聞きながら、アズリルはネテロを見た。
次に会えるのは、いつになるのだろう。十年ぶりに顔を合わせたのに、昔話をする時間もなかった。そのことが、今さら少しだけ寂しかった。
「……行ってきます」
アズリルが小さく言うと、ネテロはほっほと笑った。
「うむ。気をつけて行くがよい」
アズリルは頷き、ゴンたちとともに歩き出した。
その後、しばらく歩いたところで、ハンゾーが足を止めた。
「あー……オレはこっちだ」
まだどこか落ち着かない空気を引きずったまま、ハンゾーは片手を上げた。
「じゃあな、アズリル。色々大変そうだが……まあ、元気でやれよ」
「……ハンゾーも。またいつか会えたら旅の話をしよう。その頃には僕ももう少し強くなってる、と思う」
ハンゾーは一瞬だけ照れくさそうに目を逸らし、誤魔化すように薄く笑った。
最後にゴンたちへも軽く手を振ると、ハンゾーはそのまま背を向けて歩き出した。
アズリルはその背中を見送ってから、ゴンたちの方へ向き直る。
キルアのもとへ向かうため、彼らもまた歩き出した。
しばらく進むうちに、アズリルとノクトは少し後ろで何か揉めはじめていた。
声までははっきり聞こえない。けれど、アズリルが何かを訴え、ノクトが涼しい顔で受け流していることだけは分かった。
「なあ、やっぱおかしいよな」
レオリオは二人に聞こえないよう、口元に手を当てて小声で言った。
「ああ。私もそう思っていたところだ」
クラピカも頷きながら、ちらりと後ろを見る。
「一体何者なんだ、あのノクトっていう兄貴は」
「堅気ではなさそうだな」
「それに、全然アズリルに似ても似つかねぇじゃねえか」
「だいぶ体格も違うな」
「それに、家族ぐるみであのイルミと知り合いって、一体どういう家だよ」
「同感だ」
「アズリルから何か聞いてねえのかよ」
「普段からあまり話したがらないだろ。事情は何も聞いていない」
「てか、アズリルがあんなに喋ってんのも見たことねえよ」
「ああ。あの男が来てから、ずっと騒ぎっぱなしだな」
ゴンは二人の会話を、不思議そうに黙って聞いていた。
やがて、レオリオとクラピカが溜まっていた疑問を吐き出し終えると、三人はほとんど同時に、もう一度後ろを振り向いた。
相変わらず、兄と名乗る男は愉快そうにアズリルの肩を抱き寄せている。
アズリルは嫌がっているようにも見えたし、どこか照れくさそうにも見えた。必死に押し返そうとしているのに、本気で離れようとしているわけではない。その曖昧な距離感が、余計に三人を困惑させた。
レオリオだけは、不快そうに眉を寄せていた。
[newpage]
ゴン、クラピカ、レオリオ、アズリル、そしてノクトの一行は、キルアの実家であるゾルディック家の屋敷へ向かっていた。
目的地は、パドキア共和国にあるククルーマウンテン。
飛行船を乗り継ぎ、ようやく山の麓へ向かう列車に乗った頃には、車窓の外に広がる景色も少しずつ様相を変えていた。人の気配はまばらになり、森は深く、遠くには黒々とした山の影が見える。
「あれが、暗殺一家の本拠地のようですね」
ノクトは列車の窓辺で、森の奥に聳える暗い山を見ていた。
「実際に見ると、いやーな雰囲気だな」
レオリオが顔をしかめる。
「まずは周辺で聞き込みをするべきだろうな」
クラピカは冷静に言った。
「どうやって潜り込むか、作戦を立てる?」
アズリルは身を乗り出した。
見慣れない土地へ来た高揚感と、暗殺一家の屋敷へ向かっているという状況が、妙に胸を騒がせていた。危険なことは分かっている。分かっているはずなのに、どこか物語の中へ入り込んだような、子供じみた期待が抑えきれない。
「大丈夫だよ」
そんな緊張をあっさり断ち切るように、ゴンが言った。
「友達に会いに来ただけなんだからさ」
あまりにも気楽な声だった。
アズリルは一瞬ぽかんとしたあと、なんだ、と肩の力を抜いた。
その横で、ノクトがくく、と小さく笑う。
「笑うなよ」
アズリルはむっとして、隣の男を肘で軽く小突いた。
この頃にはもう、ノクトの振る舞いがあまりにも揺らがないせいか、アズリルの中でも、彼を“兄上”として扱うことへの抵抗が薄れ始めていた。
その様子を見て、レオリオとクラピカは互いに目を合わせた。
ゴンもアズリルも、そしてノクトまでも、どこか気楽すぎる。
暗殺一家の屋敷に向かっているという自覚が、本当にあるのだろうか。
しばらくして、列車はククルーマウンテンの麓にある街へ到着した。
駅を出ると、観光地らしい土産物屋や屋台が並んでいる。想像していたよりも人通りは多く、空気も重苦しいどころか、どこかのんびりしていた。
最初に声をかけたのは、店先で青果を売っている中年の女だった。
「ククルーマウンテン? ゾルディック家の見物かい?」
女は慣れた様子で笑った。
「山景巡りの定期バスが、一日に一本出てるよ。ガイド付きでね。屋敷の方まで行きたい? あはは、いるんだよねえ、そういうお客さん」
あまりにも軽い調子だった。
暗殺一家のすぐそばで暮らしている人間とは思えないほど、女の声には恐れも緊張もない。
「まあ、とにかくバスに乗ってみな。みんな最初はそこからだよ」
一行は、女に言われた通り、ククルーマウンテン行きの観光バスに乗り込んだ。
車内では、ガイド役の若い女が明るい声で説明を続けている。
「皆さま、右手に見えますのが、悪名高い暗殺一家、ゾルディック家の住むククルーマウンテンでございます」
まるで名所旧跡を案内するような調子だった。
ガイドは続けて、山が死火山であること、そのどこかにゾルディック家の屋敷があること、さらには現在知られている家族構成まで、驚くほど細かく説明していく。
その話を聞きながら、レオリオはちらちらと車内を見渡していた。
「……おい、見ろよ」
隣のクラピカに、声を潜めて言う。
「普通の観光客に混じって、明らかに堅気じゃねえ奴らが乗ってるぜ」
言われてみれば、確かにそうだった。
観光客らしい者たちは、窓の外を指差したり、カメラを構えたり、ガイドの説明に楽しそうに耳を傾けている。けれど、その中に何人か、明らかに空気の違う者たちがいた。
大きな荷物を抱えた男。外の景色には一切目を向けず、じっと前だけを見ている男。
「……ああ」
クラピカは小さく頷いた。
「観光目的だけではなさそうだな」
一方で、ゴンとアズリルは相変わらず窓の外に釘付けだった。ゴンは山を見上げ、アズリルはガイドの説明を食い入るように聞いている。
「では、もう少しだけ山に近づいてみることにしましょう」
そう言って、バスはゆっくりと坂道を上っていく。
やがて、森の切れ間から巨大な石造りの門が姿を現した。
それは門というより、巨大な壁そのものだった。重々しい石壁の中央には大きな門扉があり、その中に、さらに別の扉が何枚も入れ子のように組み込まれている。凝った造りではあるのに、そこに人を迎え入れる気配はなく、その奥にあるものを外から完全に拒んでいるように見えた。
「こちらが、ゾルディック家の正門でございます。別名、“黄泉への扉”とも呼ばれております。入ったら最後、生きて戻れないと言われていることから、そう呼ばれるようになったそうです」
ガイドは相変わらず、恐ろしいことをにこにこと説明していた。
「なお、ここから先はゾルディック家の私有地となっておりますので、見学はできません」
「何ー!?」
その言葉に、レオリオが思わず声を上げた。
山はまだ、はるか遠くに見える。だというのに、ここから先に広がる樹海のすべてが、ゾルディック家の敷地だという。
レオリオも、ゴンも、クラピカも、しばらく口を開けたまま言葉を失っていた。
アズリルだけは、まるで冬城とは違う雰囲気の門に釘付けになっていた。
その隣で、ノクトがひっそりと耳打ちする。
「うちの門とは、だいぶ趣が違うな」
「イルミも、うちの門を見て同じようなことを言ってたね」
アズリルは、相変わらず兄上に返事をしているような気持ちでそう答えた。
そして彼もまた、周りに聞かれているわけでもないのに、兄のような振る舞いを崩さなかった。そのことに気づいて、アズリルは一瞬だけ横目でノクトを見たが、もう何かを言う気力はなかった。
すると、先ほどバスに乗っていた堅気ではなさそうな男たちが、ぞろぞろと前に出てきた。
「入ったら出られねえ? どうせハッタリだろ」
「噂だけが一人歩きして伝説になったってだけだ。実際は大したことねえってのがオチよ」
男たちはそう言いながら、門の脇にある守衛室へ向かっていく。
一人がいとも簡単に守衛の首根っこを掴み、鍵を奪い取る。
大きな門の横には、正門の扉とは比べ物にならない小さな扉があった。どうやら、そこからも敷地内へ入れるらしい。
男たちは奪った鍵でその扉を開けると、何のためらいもなく中へ入っていった。
扉が、ばたんと閉まる。
「あーあ」
守衛はやれやれと言いたげに頭をかいた。
「またミケが、エサ以外の肉を食べちゃうよ」
「え?」
ゴンとアズリルは、思わず顔を見合わせた。
次の瞬間だった。
先ほど閉まった扉が、内側からわずかに開く。
ぬっと、何かが顔を覗かせた。
それが、つい先ほど入っていった男たちの成れの果てだと気づくまでに、一拍遅れた。
骨だけになった身体が、力なく地面へ崩れ落ちる。
一瞬、静まり返った。
それから、悲鳴が上がり、観光客たちは一斉に騒ぎ出した。
アズリルはあまりにも予想外の光景に顔を歪め、反射的にノクトへ身を寄せた。
ノクトはその肩に手を置く。
「心配ないよ、アズリル」
声は穏やかで、目の前の惨状に対して、あまりにも落ち着きすぎていた。
「えー、ご覧いただけましたでしょうか。ひとたび中へ入れば、あの通り無惨な姿に──」
「いいからそんなこと!」
「早くバスを出してくれ!」
観光客たちは慌てふためき、ガイドの説明など聞いている余裕もないまま、次々とバスへ戻っていく。
やがて、バスはアズリルたちをその場に残したまま、逃げるように走り去っていった。