アズリルの三次試験までの総合評価と、ネテロが覚えた小さな違和感。
次はいよいよ四次試験。
静かな部屋に、椅子の軋む音だけが不規則に響いていた。
ネテロは背もたれに身を預けたまま、右へ、左へと椅子を揺らしている。その顔には、珍しく困ったような色が浮かんでいた。
先ほどまで行われていた試験官たちとの会議では、ここまでの受験者たちについて、総合的な評価が話し合われていた。一次試験、二次試験、三次試験、それぞれの結果に加え、身体能力値、精神能力値、それから印象値。そうした要素を照らし合わせ、現時点で誰がどの程度の資質を見せているのかが、ひと通り整理されたのである。
そして、その格付けの最上位に名前が置かれたのは──アズリルだった。
いや、正しくは。
アズレイ=オルロフ皇子。
そのあまりに重い肩書きまで思い出したところで、ネテロはまた椅子を半回転させた。
一次試験では、サトツの背中を見失うことなく、最後まで先頭集団に食らいついた。二次試験では、「スシ」という課題の正解に辿り着き、料理として成立する形にまで仕上げていた。結局、それを試験官に食べさせることはなかったが、発想と観察力は十分に評価された。
そして三次試験では、塔の中でも特に難度が高いとされていた「相棒の道」を、あの扱いづらいヒソカと組みながら、最速で突破している。
三次試験担当のリッポーは、アズリルを強く推した。
「あの少年は、見た目よりずっとしぶとい。危険な相棒を引いても、判断を誤らなかった。あの状況で最短通過したことは、十分評価に値します」
そう言われてしまえば、他の試験官たちにも異論はなかった。
中でもアズリルは、印象値でずば抜けて高い評価を受けていた。
最初に目にした時の印象は、頼りない、華奢な少年だった。実際、身体能力値だけで言えば、他の有力な受験者たちには及ばない。
それでも、周囲を見る目と、追い詰められてからの粘りは目立っていた。気づけば状況の隙間に入り込み、最後にはどうにか突破している。
その第一印象との落差が、試験官たちの記憶に強く残ったのである。
結果として、アズリルは現時点での総合評価一位となった。
それがなぜ、ネテロをここまで困らせているのか。理由はもちろん、ひとつしかない。
皇帝ヴィクトル=オルロフである。
ヴィクトルは、アズリルが不合格になることを前提にしていた。普段の息子の様子を見ていれば、そう判断するのも無理はない。そしてそれは、ネテロも同じだった。
少なくとも、二次試験や飛行船でアズリルを見かけた時、ネテロはあの少年に、ハンターとして目立った素質があるとは思わなかった。多少走れる。勘も悪くない。けれど、それだけだと思っていた。
だが、実際にはどうだ。
あの少年は、周囲の予想を大きく超え、ここまでの試験を突破している。
ネテロは椅子の回転を止めた。
「……ふむ」
才能のある者なら、見れば大体分かる。身体の使い方、目の動き、恐怖への反応、勝負どころでの踏み込み方。そういうものを見れば、その者がどこまで伸びるかは、ある程度読めるものだ。
だが、アズリルにはそれがない。
少なくとも、ネテロの知る“強者の芽”とは違っていた。では、何がアズリルをそこまで動かしているのか。それは本当に、あの少年自身の望みなのか。
ネテロには、分からなかった。
ふう、と小さく息を吐く。
ネテロは椅子をもう一度だけ回し、天井を見上げた。
「さて……ヴィクトルには、どう説明したものかのう」
──……✶……──
一番乗りでゴールしたヒソカとアズリルは、そのままゴール広場で三日近く過ごす羽目になった。
その間、アズリルはほとんどの時間を睡眠に費やしていた。たまにふらふらと起き上がり、用を足しに行く。食事が配られれば、半分眠ったような顔でもそもそと食べる。そして食べ終わる頃には、また横になり、すぐに眠りへ落ちた。
それは、ずっとヒソカの隣で繰り返されていた。
最初こそヒソカも珍しそうに眺めていたが、時間が経つにつれて慣れたのか、やがて見向きもしなくなった。
そして、制限時間の七十二時間が迫る頃、ようやくゴンたちが姿を現した。
こうして、三次試験は終わった。
残るは四次試験と、最終試験のみ。