スーパーロボット大戦 Re:Boot 作:戯龍
よもや月面でドンパチやってるとは思うまぃ。
…キコエマスカ。キコエテタラ、ダレカヘンジヲシテクダサイ。…
…オネガイシマス。アナタタチダケガ、サイゴノキボウナンデス。…
…オネガイ ノカタガタナラ。ワタシタチヲタスケテクレルコトヲシンジテ …
それは、誰かの悲痛な願い。本来ならば、虚空に消えていくはずの救助要請だった。
けれども。その切なる悲願を秘めた小さな願いは、遥けき距離を越えて、今。
「何だコレ?おっ。まさかこんな所に隠しクエストか?」
確かに誰かに届いていた。
…俺の胸の奥に燻る、気怠い曇天のような気持ちは、今日も晴れることはないだろう。
彼はふと歩みを止めて、伏せていた視線を上げてそれを見上げてみる。
沿岸にある彼の家からいつの間にか、隣町にある見覚えのあるソレに辿り着いていたようだ。
彼の目の前には、非日常の世界を多数抱えた巨大なアミューズメントパークがそそり立つ。
彼はその入口から、今日も各々が好きなゲームを楽しむ子供たちが遊ぶ日常を俯瞰する。
…どうしよう。入ろうかな。それともまた何もできないまま、このまま家に帰ろうか。…
彼はその非日常の世界と決別したわけではない。けれど。どうしても躊躇してしまう。
彼には忘れられない過去があった。いや、彼にとっては忘れてはならない悲しき「現実」が。
あの時の彼らの行動を恨む気持ちが無いわけではない。けれども彼らはその「事実」は知らないわけだし・・・
今日ここに来たのも、ふさぎ込んで家に籠りがちだった彼を心配した幼馴染が、
「たまには息抜きに行ってきたら?」と背中を押してくれたからこそ、ここまで来られたのだから。
手元には今も、あの時にも居合わせた『相棒』をより理想に近づけた物が眠りについたまま。
「息抜き・・・か。たまにはいいかな。」
彼は知らなかった。その決断が。彼にとっては小さな一歩でしかなかったはずの一歩が。
まさか虚構だと思っていたことのすべてが人類にとってのリアルになりえるという、
とある事象の『理』への一歩だったことを。
パークの入場料は要らない。復興しつつあるとはいえ人々には様々な娯楽が必要であり、
中で提供される飲料やお土産といった消耗品や、筐体を動かすための料金が必要なだけなのが有難い。
昔ながらのレースゲームの筐体や卓上型、UFOキャッチャーの横を通り過ぎて奥へ行く。
その空間で異彩を放っていたのは、従来のゲーム筐体とは完全に一線を画す、不気味なほどの金属の塊。
「完全潜入型VR」。全身没入型の触感、さらには長期ログインのための排泄処理機能まで網羅した
業務用仮想現実体験機だ。
あの「マクロス」からもたらされたOTM(Over Technology of Macross)は、
確かに人類に果てしない闘争を植え付けた。だが皮肉なことに、
その超技術の恩恵は今や日常生活の隅々にまで浸透し、奇妙な豊かさをもたらしている。
彼は使用料を電子決済すると『相棒』を備え付けの専用読み取り機にセットし、筐体へと潜り込む。
―ピピッ。『電脳オンライン・Gシステムへようこそ! これよりダイブシークエンスを開始します。』
最終確認用のシステムログやバイタルログ等が次々に彼の目前に表示され、消えていく。
視界がまばゆい光に包まれ、彼の意識はデジタルへと変換されていった。
次に目を開けたとき、視界に飛び込んできたのは見慣れた始まりの街の景色だった。
左右を様々な衣装を着飾った人々が行き交う。現在の彼の衣服は、人型用のタイトな未来スーツだ。
このゲーム、新規なら丸いペットロボット姿を強制される仕様だが、今の彼にはお呼びじゃない。
久しぶりのログインとはいえ、このままじゃ悪目立ち確定だ。
「さっさと対策するか……」彼は自キャラのインベントリから茶色いマントを引っ張り出して羽織ると、
急ぐ素振りも見せずごく自然な歩みで人混みの中へと紛れ込んでいった。
日常と非日常が交差する遊び場っていいですよね。外見はあえて伏せてますが、「彼」が入っていったのはあのアニメの某パークです。次話は閑話休題で月の場面に戻ります。