スーパーロボット大戦 Re:Boot 作:戯龍
アンジェラの状態はディンゴが当初思っていたよりも重症であった。
簡易医療キットでの診断結果は、『唯の風邪』に過ぎない。
だが、その唯の風邪が彼女のマテリアル・ボディ内で猛威を振るっていた。
本来なら有り得ない、失態。幾ら彼女が器たる身体を生成する手間を省いたとしてもだ。
長期に渡る冷凍睡眠からの目覚めた人々の身にも起こると言われるそれに似た、
悪意ある妨害工作の結果とも取れなくもない彼女の病状に彼は人知れず首を捻る。
彼がアンジェラから通信機兼情報端末を取り上げたのには理由がある。
位置情報の更新。身体の健康状態まではモニターはされてはいない様ではあるが、
一か所に留まったままというのは流石にディーヴァにバレたら不味いと思ったからだ。
無論、彼女が本来執り行っていたであろう調査報告の総てを肩代わりは出来ない。
報告書の文面なんぞは流石に身バレするだろうから、そこだけは彼女と話を擦り合わせている。
「風邪…?風って何よ?風ならそこら中に吹いてるじゃない。大体、私は風じゃないわよ」
最初に彼女に病状を告げた際の知識の偏りも酷いモノではあったが、
一応トップクラスの三等官である筈の彼女ですらこれである。
温室育ちにも程があるというかどれだけディーヴァの情緒教育が偏ってるかを物語っていた。
「他の連中も来るには来たんだけどさ。皆、暫くすると根を上げて帰っていっちゃうんだよね」
ディンゴがため息を付きながらスコップをテントの傍に立て掛ける。
「俺、死体処理係になった覚えは無いんだけどな。お宅ら煽り耐性低くね?」
他の捜査官達にも低俗な話題を振ってただろうと容易に予想出来るその回答に、
アンジェラも苦笑いするしかない。どんだけ低俗な事を言い散らかしたのか。
そもそもマテリアル・ボディには自壊機能が備わっている。埋葬は必要ない筈だ。
そう告げるとディンゴは顔を顰めならアンジェラに言った。
「あのなぁ。人体崩壊ショーは気分悪くなるんだよ。大体その機能は自分では使えないんだろ?」
「そうよ。だから早くその端末を私に返しないってば。でなきゃ私は…ゴホッゴホ。」
くそ真面目な事は判ったが重症でも紐付きな彼女に密かに同情するディンゴだった。
グレイス・オコーナーは、今日も観察日記のログを更新している。
実験条件を均一化するため、シェリルにはランカと同じ病気に罹らせた。
すなわち、V型感染症の意図的な感染である。
結果、両者から微弱なフォールド波の発生が観測された。
だが、ここまでは感染者全般に見られる共通の症例に過ぎない。
現段階では、二人の『歌姫』に個体差は無いに等しかった。
電脳貴族どもは『歌姫』を重用はするが、その実、ただの『ペット』扱いだ。
彼らは実体を伴わない電脳ネットワークだけで、地球圏へ到達できると確信している。
だからこそ、仮に今の『歌姫』が病で早死にしようが、彼らには知ったことではない。
月のアダム(A.D.A.M.)とて、地球圏内への侵入者を排する『関所』でしかなかった。
肉体を単なる『躯体』と切り捨てる彼らにとって、それは旧世紀の遺物だ。
過剰防衛システムという名のお飾りに、彼らが価値を見出すことはない。
(…バックアップ完了。タイプAはこのまま『仕事』を続行。タイプBは『興行』を…)
元々はどういう意図でもってソレらが配されたのかは『彼女』自身も知らないが利用しない手はないだろう。
「待たせたな。こちらの『仕込み』は完了した」
黒づくめのボディーガードがマネージャーとしての作業に没頭する『彼女』の元に現れた。
「早かったわね。こちらも抜かりなく『計画』は順調に進んでるわ」
顔を上げ、にこやかに笑う彼女は部屋の隅にあった何かの残骸の入った箱を指し示す。
「仕事ついでで悪いんだけど、その『ゴミ』を廃棄場に捨てて来てちょうだいな」
くくく。と邪悪に嗤うグレイスのその顔はまるで別人の様に冷徹な顔をしていた。
『ゴミ』の正体は一体何なのか。どうやら『グレイス』にも思う所はあるようで…
ユ「まぁ『彼女』の事じゃからな、それにも『仕込み』はされとんじゃろう事は察するが…」