スーパーロボット大戦 Re:Boot 作:戯龍
アンジュの初陣は、言わずもがなの結果に終わった。
ほうほうの体でアルゼナルへと帰還した彼女が真っ先に要求したのは、さらなる機体の調達。
無論、司令官であるジルに即座に却下されたのは言うまでもない。
「ふざけるな! 何で私があんな目に遭わなきゃいけないのよ!?」
自身の身勝手な行動で機体を大破させたにもかかわらず、未だに自分が置かれた状況を理解していない。
そう激昂して詰め寄るアンジュを、ジルは冷ややかな、どこか呆れた視線であしらった。
「ふざけているのはお前だ。最後まで私の話を聞かずに勝手に出撃し、墜ちた。すべてはお前の落ち度だ」
ドラゴンの返り血と海水に塗れ、悲惨極まりない姿の元皇女へ、ジルは淡々と事実を突きつける。
「そもそも、ここをどこだと思っている? アルゼナルの意味を履き違えるな」
ジルは椅子から立ち上がり、アンジュに影を落とすように一歩、足を踏み出した。
「お前が沈めたあのパラメイルだって『タダ』ではないのだぞ?
…ああ、確かに本来のパイロットに代わって乗れと命じたのは私だがな」
「だがな、アンジュ。ここは軍事要塞という名の屠殺場だ。
それはドラゴンにとってだけの意味ではない」ぐい、と顔をアンジュに近づける。
ジルの鋭い眼から、ひりつくような殺気が溢れ出た。
「ここにいる全員が、いつドラゴンに屠殺されても誰にも文句は言えぬ
『ノーマ』という名の『ゴミ』の捨て場に居るのだと身を持って知るがいい」
「この私とて、立場を失い、隻腕となり、この席に這い上がるまでに何度死にかけたか分からん」
圧倒的な威圧感に、アンジュの身体がすくむ。ジルは容赦なく言葉を重ねた。
「ここで生き残りたければ、己の力で稼ぐしかない。
今のお前は既に皇女ではない事を忘れるな。傭兵以下の、ただの消耗品だと思い知れ」
「…つまり、いくら司令官の私とて、ただで機体を支給することはできんという事だ」
ふう、とジルは此処で自嘲気味に息を吐き、義手となった己の右腕に視線を落とした。
「この私が義手でさえなければ、自ら最前線に出て稼ぐ所なんだがな…。人生とは、ままならなぬものよ」
最高権力者であるはずの司令官の権限をもってしても、これ以上のパラメイル手配は不可能。
ジルの言葉の裏にある冷徹な現実の一端を知り、アンジュはぐうの音も出ない。
悔しそうに拳を握りしめる元皇女を見下ろし、ジルはさらに突き放す。
「どうしてもパラメイルが欲しいと言うなら、廃棄場を漁って部品の状態から組み立てるか、
私の下で裏方の事務仕事でも泥臭く積み重ねて金を貯める事の二択しかない。」
「…果たして、お姫様気分が抜けないお前に、そんな泥水をすするような真似が耐えられるか?」
アンジュは悔しさに唇を噛み締めると、執室から激しく扉を閉めて飛び出していった。
その背中を見送るジルの口元に、微かな笑みが浮かぶ。
(さて。…これでお膳立ては整ったか)
(廃棄場の『アレ』を密かに整備している、整備班長のメイには悪いが…
ようやく『アレ』の再起動に立ち会う事ができそうだ)アンジュが向かう先を見越しながら、
ジルは義手の手のひらであるものを弄んでいた。
それは、彼女がアンジュから力ずくで取り上げたばかりの品。
執務室の照明の光を浴びて鈍く輝く、ミスルギ皇国の高貴な指輪だった。
ジルはかつて己の右腕と共にこの世から消え去った自らの指輪に思いを馳せる。
(『リベリタス』…か。若気の至りだったとはいえ代償は余りにも大きかった…)
彼女が抱える凄惨な過去の記憶は今も尚、彼女の心に大きな影を落としていた。
(だが、…だからこそ、あの様な『愚行』には私は二度と関わる事はすまい)
ジル指令もある意味経験者ですからねぇ。Dr.ヘルといい我が身を顧みる事例に事欠かない現状に何となく察する所があったという事で、ここは一つ。
ユ「まぁ、心境を変えざるを得ない情勢である事は確かではあるじゃろうけどもな」