あの爆破事件以降、ヴァルキューレが来て事情聴取されたりして、少しばかり時間を食ってしまったが、問題なく先生護衛依頼は滞りなく遂行できた。
今の体になってから、体に傷などを負った試しが無いために時々先生の脆さを忘れてしまいかねてしまう。シッテムの箱もとい、いちごミルクアロナちゃん様々である。
「では、これでボクの依頼は終了なので、今夜中には帰らせてもらいます。」
現在は連邦生徒会が所有する、警備の行き届いたホテルにいる。先程にチェックインをしたばかりだ。
"あー、それがねレイ…"
「はい?どうされましたか?」
"キヴォトスには初めて来たからさ、案内して欲しいなぁって"
「え?それなら、ボクよりも詳しい人なんか沢山…」
"護衛も兼ねてさっ!…ダメ…かな?"
「…」
断りたい気持ちはやまやまなのだが、ここで断ってしまったら先生は一人で観光してしまうのだろうか…いや、さすがに先生もそこまではしないとは思うけれど、ホテル内だけで一週間過ごせともいいずらい…ぐぬぬ
しかも、本来は一人でここに来る予定みたいだったから、まだ少し、いやだいぶ危機感が薄いように感じるし、もしかしたら一人で出歩くかもしれない…だけど、やっぱりボクはっ!
「ボク以外の生徒でも守り抜きながら観光とか出来ると思うのですが」
"君がいいんだ!"
「……………スゥー………ホテル…代は…出してくださいね…」
天然人たらしがっ!!くそう…断れない自分にも嫌気がさす、先生が言ったからなのか、人を助けると思っているからなのか、こうグイグイ言われると、どうしても断れない。
瞬く間に満面の笑みを浮かべる先生。改めてこの人を見るとボクが思った先生とはだいぶ違った印象を覚える。
ボクは先生はきっと男なのだろうと勝手に思っていたし、身長も高く、かなり見上げなければいけない、首がいてぇーですよ。ボクの身長が150届かないぐらいだから恐らくは170後半辺りだろうか。あと最初から思っていたのだが、なんですかね、前世男だったはずなのに非常に憎たらしく思えるその乳房。でっか過ぎんだろ。
「本当にっ!1週間だけですよ!先生!」
"わかったわかった"
くつくつと笑う先生に本当にわかってるのかなぁって思ってしまうが、とりあえずは護衛としての責務を果たすべきだろう。はぁ、ネームドキャラに出会わなければいいのだが…
「はぁ…」
"おや?お疲れのようですねレイさんや"
「誰のせいだと思ってるんですかっ!」
なんだが今日は疲れた。早いところ寝たいのだ。ボクは先生としばしの別れを告げて、各自部屋へと足を進める。部屋に着いたやいなや、直ぐにそのシングルサイズのベットに飛び込み身を預ける。
本当に良かったのだろうか、無理にでも断った方が良かったのでは?今までネームドキャラと出会うような依頼を断っていたというのに、なぜ承諾をしてしまったのだろう。メールの依頼と顔を合わせての口頭での依頼は印象が大きく変わってくるからなのか?
考えても考えても、不安が込み上げてくる。しっかりと守れるだろうか、ボクは物語に干渉してしまっているのだろうか、ボクはこの世界の異端児だ。本来生まれてはいけない存在。そんなボクは死ぬ勇気も死ねる身体も持ち合わせていない。だからここまでズルズル来てしまった。
ボクは本当に何なのだろうか、なぜ、ボクはここにいる?この世界に来てからずっと考え続けてきたが、未だに答えが出せずにいる。当然なのかもしれないが、でも思うのだ。なぜこのような現象が起こってしまったのか。ボクの存在意義はなんなのか、ボクは存在すること自体が罪なのかもしれない。本当にどうしてなのか。
あぁ、こんな依頼、受けなければよかった。ずっと頭にある言葉が反芻し続けるのだ、お前はここにいてはいけないと、ボクは何を思って、承諾してしまったのだろう。
もしかしたら…いや、やめよう。もう眠い…疲れすぎた。
「おはようございます。誰もいないけど」
疲れていたのもあってか、快眠だったようで、少し気分がいい。空中で前転してスーパーヒーロー着地するぐらい気分がいい。こんなに気分よく眠れたのは郊外に出る前以来だ。
というか、何故だが体のキレが良くなったような気もしなくもないし、快眠効果様々である。
「さてとさっさと支度をしなければ」
急ぎ早にシャワーや荷物の整頓をする。化粧などはしないというか出来ないので、普通の女の子より遥かに早く済ませられている。オシャレも無頓着なのでいつもとほとんど変わらないロングコートにシャツとズボンだ。周りからは服を買えと言われ続けていたが、また後でと言った具合に先延ばしにして今に至る。
「よし、こんなもんかな」
何も事件など起こらず、ただ観光だけできたらいいなという、叶わないであろう想いを込めて扉を開ける。
「先生、少しばかり早く来すぎなのでは?」
すぐに扉を閉めた。あっぶない、ネームドキャラクター七神リン。通称リンちゃんが先生と話をしていた。そりゃぁそうだ。ここは連邦生徒会の所有するホテルなのだ。いない訳がなかった。扉に耳を当て盗み聞きになってしまうが、会話が気になってしまったので聞いてみる。
"ごめんねリンちゃん、迷惑だったかな?"
「そんなことは無いのですが、ここは危険が付き物です。しばらくはホテルで過ごしてもらうことになりますよ?」
"それは大丈夫っ!信頼できる護衛さんが着いてきてくれるんだっ!リンちゃんびっくりするよ!"
「護衛…?ですが、いつ何時でももしもというものがあります。やはり外出というのは…」
どうやら先生の外出に渋っているようだ。当然だろう、ボクも正直なところ反対なのだ。まぁでも、ずっと部屋に娯楽もなしに籠るのもそれはそれで苦痛なため、渋々と言ったところなのだ。
"私はこのまま部屋にいるのもやぶさかでは無いんだけど、あの子にもっと広い世界を見せてあげたいんだ。あっ、これ内緒だよ?"
「その護衛の為…ですか?」
"ダメ…かな?"
「はぁ、わかりました。ただし条件があります。私が新たにもう二人ほど護衛をつけさせて頂きます。よろしいですか?」
"うんっ!もちろんだよ!ありがとう!リンちゃん!!"
「誰がリンちゃんですか!」
え?ボクの…ため?最初からこのために?どうして?なんの得が…?答えなんか出るはずもなく、ただ時間が過ぎてゆく…って、護衛二人って、ネームドキャラクターだったりする?えっ?それはそれでヤバいって!
"レイ?起きてる?"
やばいやばいやばいっ!ノックされちゃったぁ!!居留守…は流石に相手に悪いし、待たせるのも…く、ええい!ままよ!
「お、おはようございます!しぇんせい!」
焦りすぎたっ!噛んじゃった…落ち着け!慌てるとドジをしてしまうのは悪い癖だぞ白宮レイ!
"ふふ、おはよう、レイ"
「っ…うぅ、はい…おはようございます…」
頭を撫でないでくださいぃ!!子供をたしなめるかのような眼差しもやめてぇ!!ボクは成人済みなんだぞぉ!!いや体は子供なんだけどさぁ!
「せ、先生!早く行きますよ!観光…するんですよねっ!」
"それなんだけどさ、新しい護衛があと二人来るらしいんだよね。少しだけ待てるかな?"
あっ、そうだったぁ!!護衛さんがくるんだったァ!どうしよう…護衛二人に先生のことを任せてボクは早々に逃げてしまった方が…でもそれだと無責任にも程がある…あぁでも…
"やっぱり嫌だった?"
「え?あ、いえ…その……はい、すこし緊張してしまうというか…」
"大丈夫だよレイ、何があったとしても私が必ず守るからさ、不甲斐ないかもしれないけどお願いできないかな?"
貧弱先生が何言ってるんですか…本当に…はぁ、そんなに優しく抱きしめなくてもいいのに…不安だ、とにかく不安なのだ、ボクのせいで、物語にズレが生じるなんてあってはならない事なのだ、でも、あぁ、先生と生徒だからなのかは知らないが、とても落ち着く。
「……わかりました。ちょっとまっててください」
"…?…うん!"
ボクは踵を返し部屋へと戻っていく。あるものを取り出すためにだ。
「お待たせしました!先生!これならいいですっ!」
"そ、それはっ!"
そうこれは!爆破事件犯のヘルメットだっ!戦利品として一つくすねて来たのだ。悪いとは思ったが、先に襲ってきたのはあちらなので相殺されるものとする。
これならば、モブ生徒の一人として居れるし、尚且つネームドにあったとしてもただの不良というふうに映るだろうっ!我ながら天才的発想である。
"………まぁいいか"
「なんですか…先生?何か言いたいことでも?」
"いや…なんか…ぐらぐらしてるなぁって"
「聞かないでください」
なんかサイズがあって無さすぎて今にも取れてしまいそうなぐらいぐらぐらしてしまっている。くっ、もう少し身長の低い不良から取っておけば良かった!!
"ずっと抑えておくつもりなの?"
「片手は塞がりますが、もう片手があります。何とかしますよ!」
半ばヤケクソである。認知されたくないのと先生を守れないのを天秤にかけた結果なのだから。しばらくすると、コツコツと人が歩く音がこちらへ近寄ってきた。例の護衛二人だろうか。
「あんたが先生か?」
「わー!私と同じぐらいおっきい!」
"うん、そうだよ、今回はよろしくね"
ね、ネルとアスナ…!?ごりごりのネームドキャラクターではないかっ!よかった、ヘルメットあってよかった!!
美甘ネル、原作ストーリーは15年以上前に見た話なのでかなりうる覚えになってしまっているのだが、C&Cというメイド部のコールサイン00、ミレミアム最強と名高い彼女ならば先生を守ってくれるだろう。
そして一ノ瀬アスナ彼女もC&C所属のメイド部でブルアカを救った女と名高い美甘ネルに続くコールサイン01の称号を有している。彼女の特筆すべき点はそのカンの鋭さが特徴的な生徒だ
おや?というか、リンもアスナもネルも、まだ現段階では会わないはずでは?いや?会っていたか?ボクの記憶が本当にあやふやだ。これで干渉しないだとか修正だとかできるのだろうか。まぁでも、主な重要な場面は覚えているのだ、印象に残ったやつだとか、生徒の名前や特徴だとかは基本覚えているのだが…不安でいっぱいである。
「あたしの名前は美甘ネル、よろしくな」
「私は一ノ瀬アスナ!アスナって呼んでね!先生っ!」
「てか、そっちのやつはなんなんだ?不良生徒…って訳じゃなさそうだし」
"あぁ、この子は君たちと同じ護衛で名前はしろ「白柳 シロです!よろしくお願いします!」"
すみません先生。本名は伏せさせてください。これも、原作登場を防ぐ手段として貫き通すしかないっ!これで原作登場を防ぐことが可能なのかは分からないが、やらないよりかはきっとマシだ。
先生が少しびっくりした表情を見せるが、すぐにふわっと笑みを浮かべてくれる。どうやら付き合ってくれるらしい。ありがたやぁ…
「ふーん、あんたが噂の信頼できる護衛ねぇ」
ん?なんだか、周りの物音が何も…人もいなくなっている。どういうことだ?少し前まではかなり人集りも出来ていたというのに忽然と…
「…っ!?」
「へぇ!やるじゃねぇかっ!」
発砲!?なんでっ!?ボクは上半身を倒し躱し、すぐさま反撃ができるようにそのままバク転し武器を構える。片手は塞がれているため、双剣では無いが、致し方ないだろう。
「わりぃな、アンタを試すように言われてんだ。少し付き合ってくれ」
あぁなるほど七神リンか…そりゃぁ正体不明の護衛が果たしてその役割を果たせるに足る実力があるのか試すつもりなのだろう。なかなか手厚い歓迎会ではないか。
"ちょっ!ネ…わっ!"
「はーい、先生はこっちだよー」
先生はお姫様抱っこをされて柱の隅に誘拐される。流れ弾の阻止はアスナがするのだろう。なるほどだから二人か。腑に落ちたような落ちないような変な気持ちになりながらも戦闘に戻る。
「おいおい!そんなヘルメット付けながらこのアタシとまともにやり合えると思ってんのかぁ!?」
「っ…くっ、」
やはり強い、身体能力もさることながら、その弾に込められた神秘の量がそこら辺のチンピラとは天と地の差だ。ギリギリで躱し続けれてはいるが、当たればダメージは必至だろう。
「躱すだけかぁ…!?…っ!おっと!?」
「なわけないじゃないですかっ!」
「はは、ほんと変わった武器だ」
下から上にかけて斬撃を走らせたが、軽々と躱されてしまった。光線を放ちたい気持ちはやまやまなのだが、あれはすぐにオーバーヒートするし、すぐに燃料切れになってしまう。
この剣には二つのモードがあり、一つは以前見せた連射モードと全ての燃料を使い果たす一点集中モードがあるが、当てるのが非常に難しい、圧縮されて放つため通常より少しだが線が細く、タメがいる。だがその威力は絶大だ。使い時を見極めなければ。
ボクが何かを狙っていることを勘づかれたか、ネルはイノシシが如く突撃してくる。乱射しながらだ。その動きは三次元的であり、なおかつ俊敏なため懐への侵入を許してしまう。
超近距離戦、すなわち徒手格闘戦に持ち込まれてしまった。これでは片手両足しか使えないボクが圧倒的不利、だがボクも伊達に戦闘屋をやってはいない。
「アタシを徒手とはいえ完璧に封じ込めるとはやるじゃねぇか。なら!こんなのはどうだぁ!!」
ネルが半歩下がるのを確認し、すぐさま追撃をしようとしたのだが。
「…っ!ぐあっ!」
銃を投げ捨ててきた!?完全なる意識外からの攻撃に不意をつかれたと同時に回し後ろ蹴りを土手っ腹にもろに食らってしまった。ボクがまともにダメージを食らったのはこれが初めてだ。
「おい、アタシを舐めてるのか?そろそろ、そのだせぇヘルメットとっちまえよ」
「かっこいいの言い間違えでは?」
「はっ!言ってろ!」
地面に落ちている己の銃を拾うと同時に突っ込んでくる。真正面から堂々とだ。だがそれだけでは。
「さっきも見ましたよそれはっ!」
「だろーな」
足狙いで放たれた下段蹴りは跳躍で躱されてしまった。だが。
「ありがとうございます。飛んでくれて」
「んなっ!?」
だがそれはボクの狙い通りだった。飛んでさえくれれば狙いを外す訳もなく回避行動もまともに取れないだろう。ボクはネルが走り出した瞬間にはもう一点集中モードで光線を溜めていた。あとは引き金を引くだけだ。ボクは遠慮なしに至近距離でその光線を食らわせる。
「っ…がぁ!!」
「はぁっ!?」
なんと、くらいながら、そのまま前進してきたのだ。死にはしないのは分かってはいたが相当痛いはずだと言うのに関係もなしにその手に持っているサブマシンガンの引き金を引かれた。
「…っはぁ…」
「ぐ…あ…はぁ……はぁ…へぇ?綺麗な顔してるじゃねぇか」
「………それは…どうもっ!」
あの乱射でヘルメットが取れてしまった。なんだかもう、絶望と焦燥と焦りで逆にどうでも良くなってきた。ロングコートからもう一丁の刀剣を抜く。それを見るやいなや、あちらももう一丁のサブマシンガンを抜いてきた。あぁ、そうだ。美甘ネルはこういうキャラだった。
「あんたとあたし、案外似てるのかもな?」
「…?どこかですか?」
「性格とかは全く持って似てるとは思わないが、戦闘スタイルというか、戦い方があたしと似てるっていってんだ」
「というか分かってたんですね。ボクが二丁目持ってること」
「そりゃぁな、服の重心が片方に寄ってた、なにか隠し持ってるのは余程の馬鹿じゃなけりゃァわかる」
「ふーん、そうです…かっ!!」
瞬間足に力を込め、ネルに向けて走り出す。ネルは気丈に振舞っているが明らかにダメージを負っていたここで決める。
「…なっ!?」
どうやら反応できていなかったようで、いきなり目の前に現れたボクに目を見開きながら防御をしようとした瞬間にはもう遅い。そのまま切り上げようとした瞬間
「ストーーープ!!」
ネルの体に触れた瞬間に止めの呼び声を受ける。すぐに力を抜き流れるように納刀をする。
「もういいよね?」
「あぁ、そもそも中止の合図任せたのはあたしだかんな」
どうやらどちらかが倒れるまで続くという訳ではなかったようだ。
「それで、合格…ということでいいんですね?」
無言でこくりと頷かれる。はぁもう、なんでっ!こんな事になったんですかぁぁぁ!!!心の中で叫ぶ。顔バレるし、ヤケになっちゃって途中から全力になっちゃったし、ぁぁぁあ!もう!!いいですよ!!やってやりますよ!一週間!!!
ただ試すだけのつもりだった、アタシよりは弱くてもある程度戦えるなら合格をくれてやるつもりだったが、だが、その目算は大外れをかますことになる。なんだその格闘技術は?なんだあの体の硬さは?なんだその強さは?アタシが戦ってきたどの強敵にもいない、正しく異質の強さ。異端…と呼べるのかもしれない。
「なぁ、アスナ、あたしは負けてたか?」
「ん?どうだろう?なんだか止めなきななぁって思っただけだよ?」
「そうか…」
最後のあの一撃あたしは全く反応できていなかった、早すぎた、加速が1秒たりともなかった、文字通りの瞬間移動を垣間見えたかのような初速。あのままアスナのストップがなければやられていただろう。
「……」
負けかけたというのに、何故だが変わり映えのしない日常に新たなる日常が産声をあげたような感覚でどこか悪くない気分だった。いつかまたリベンジしよう。なにせあたしは負けず嫌いだからなっ。
曇りなき晴天を眺めながらその表情は晴れやかなものだった。