暑さで視界が歪む。
アビドスの真昼間は誰もが唸るであろうほどの暑さで日陰にいるというのにまるで意味をなしていない。
まだ湿気などが無いのがせめてもの救いだが、カラカラとしてる砂漠というのはどうにも精神が削られていく。
「…ふぅ、迷った。」
迷ったぁぁぁぁ!!!どぉぉしよぉぉ!!アビドスで待ち合わせをしたはいいのだが、待ち合わせになるようなランドマークがある所に行く前に、砂漠で右往左往していたらいつの間にか遭難してしまった。
ん?駅で待ち合わせとけばよかったんじゃないかって?……本当にそうだね。
ていうか奇跡だったんだって思った。あの時普通に狙撃ポイントまで移動して普通に駅に行けたこと。
飲み物を潤沢に持ってきたはずだと言うのに、この灼熱にはどうしても耐え難く水分となるものを全て飲み干し、挙句の果てには圏外と来た。
助けも呼べず、このまま干物になって死んでしまうのではなかろうか。
「嫌だァァ!!!死にたくは無いよぉぉ!!」
本当に死んでしまうというのに、どこか恐怖を感じない。一度前世死んだことがあるせいなのだろうか、最も恐怖を感じないだけでもちろん死にたくは無い。
立ち上がる気力もないのでそのまま横に倒れる、表面の砂は焼けたように熱いというのに少しかき分けたら冷たい砂の感触を感じる。
地面に耳を当ててるからなのか、遠くから人の走る音が聞こえる。かなり慌てているようで足音の鳴る感覚が一定ではない。
「はぁ…はぁ!だ、大丈夫!?」
ボクと同じぐらいの身長に膝下まで伸びた薄桃色の頭髪、特に印象的なのは言葉を失う程に綺麗なオレンジと水色のオッドアイ。
そんな特徴を持つ少女はただ一人しか思い当たらない、アビドス高等学校三年生小鳥遊ホシノだ。
「ほら、水飲ませてあげるから、口を開けて」
「あ、ありがとうございます…!」
頭をそっと持ち上げられ、ペットボトルの開け口をそっとボクの口へと運んで冷えた水を飲ませてくれた、数十分振りの水分が乾いていた身体を潤し始める。
その感覚に身震いしそうな程に…いや実際しながらゴクゴクと感謝をしながら大事に飲んでいく
「ふふ…そんな泣きながら飲む必要はないのに…わわっ!ほらそんなに口を近づかせて勢いよく飲んだらむせちゃうよ?」
「……っ!ごほっかはっ!」
「言わんこっちゃない、ほら息を整えてからゆっくり飲みな。」
手のかかる子供みたいな感じになっていて、居た堪れない気持ちになる。
なぜだか、ホシノさんの表情がすごく安堵したかのように満たされた顔をしているのは何故なのだろうか。
「ん、よく飲めました」
「…はい、えっと、本当にありがとうございました」
「よかったよかった。駅まで案内しようか?」
「えっと実はアビドスで待ち合わせしていて…」
「えぇ…!?なんも無い所でよく待ち合わせしようとしたねぇ」
「あはは…… あっ、自己紹介がまだでしたねっ!ボクの名前は白宮レイです。よろしくお願いします」
「……!へぇ、君が噂のレイちゃん……おじさんは小鳥遊ホシノこちらこそよろしく」
「噂……?」
「先生が楽しそうに話してたから覚えちゃったんだ〜」
先生…気恥ずかしさがあるので是非ともやめて頂きたいです。
先生に会ったら絶対文句を言ってやろうと心に誓い、重い腰を上げて立ち上がる。
「それでは、本当にありがとうございました。またいつかお礼をさせて下さいね。」
「もう回復したの?んーでも、また迷子になっちゃうかもだから、ついて行ってあげる」
「え?でも、悪いですよ…」
「いいからいいから、おじさんに任せて」
ふふんと胸を張るホシノさん、原作でもこういう人物だっけ?
表面上では穏やかな雰囲気だが、かなり深い警戒心を持っている人物だったはずだ。
ましてや初対面なボクに警戒心を抱かないはずがないと言うのに…いや、ボクが生徒だからか?大人にだけ警戒心を抱くんだったっけ?
「あの、ホシノさん……」
「さん付けはしなくていいよ?」
「え?ん〜じゃあ……ホシノちゃん?」
「…っ、」
「あっ!先輩相手にちゃん付けってダメですよねっ!すみません……」
「ううん、いいよ。それがいい。」
「え?わかり…ました。」
なんだ?急にしっとりとした雰囲気になったぞ?ふと頭に浮かんできたので冗談のつもりでホシノちゃんと言ってみたが、それだけでなんでこんな湿度が高くなる…!?
「あと、敬語もいらないよ」
「でも先輩ですし…」
「いらないよ?」
「え?」
「いらないよ?」
「……わかり、分かった」
「よろしい」
今何が起こってるんだァァァ!!え?初めて会ったんだよね?黒服見たく前から知ってるってわけじゃないんだもんね!?
ホシノさ…ホシノちゃんが先行し始めたので続いて歩き出す。何が起こっているのか訳が分からないままに。
茹だるような暑さ。
私はもう慣れきっていて、キヴォトスでもかなり暑さに強い方だと自負している。
今日はどうやら、レイと言う私たちを助けてくれた生徒が来るようだ、正直言って私はそいつを信頼していないし警戒している。
先生は数少ない信頼できる大人で生徒にはとことん甘い所がある故に誑かされているかもしれないと思ってしまっているからだ。
なぜなら、先生は最近であったばかりだと言っていたのにやけに心の底から信頼してるようだし、どこか先生と生徒という関係性には感じられなかったのだ。
「……見定めないと」
見定めないといけないのだ、その信頼に値する存在なのかどうか。
私の心を溶かしてくれた先生には本当に感謝している為、先生の人間関係にとやかく言いたくは無いのだが、最悪の場合私自身の手で……
「嫌だァァ!!!死にたくは無いよぉぉ!!」
突如として叫び声が聞こえてきた。
その時、茹だるような暑さだったはずなのに身体が一瞬にして冷えるような感覚に陥る。
すぐに声のした方向へと足を運ぶとそこにいたのは、滝のように汗をかいた一人の少女が目に映る。
どう見たって脱水症状だ、肌や唇を見るにほとんどの水分が抜けている、このままではまずい。
「はぁ…はぁ!だ、大丈夫!?」
すぐにペットボトル飲料水の蓋を外し彼女の口へと運ぶ
「ほら、水飲ませてあげるから、口を開けて」
「あ、ありがとうございます…!」
虚ろだった彼女の目が少しづつ潤い始めたのを確認する。
自分でも分かるほどに安堵した、本当に良かった……ユメ先輩のようにはならなかった。
改めて彼女のことを見る、ベースは白で黒のメッシュが入っている髪をしており、黒色の大きめのリボンを使ってサイドテールにしている。
黒のチョーカーに金色のシンプルなイヤリングと金縁の丸メガネをしていて、オシャレ好きなのだろうと思う。
そして特徴的なのは真っ白な瞳だ。今でも吸い込まれそうな程に澄み切ったその瞳はこちらを無条件に安堵をもたらすかのような、とても神秘的な目を持っている。
「ふふ…そんな泣きながら飲む必要はないのに…わわっ!ほらそんなに口を近づかせて勢いよく飲んだらむせちゃうよ?」
「……っ!ごほっかはっ!」
「言わんこっちゃない、ほら息を整えてからゆっくり飲みな。」
雰囲気…なのだろうか、ほんのちょっぴりユメ先輩のように感じた。
見てくれは何一つユメ先輩に重なるところはないのだが、少しおっちょこちょいで危機感が無いところが重なるような気がした。
こんな砂漠に一人で来るし、死にかけてるのにあんな大声出して騒ぎ立てる。
ふふ、本当に……手のかかる子だなぁ……んてっ、何考えてんだ私。
「ん、よく飲めました」
「…はい、えっと、本当にありがとうございました」
「よかったよかった。駅まで案内しようか?」
「えっと実はアビドスで待ち合わせしていて…」
「えぇ…!?なんも無い所でよく待ち合わせしようとしたねぇ」
「あはは……あっ、自己紹介がまだでしたねっ!ボクの名前は白宮レイです。よろしくお願いします」
白宮レイ?もしかして先生が言っていたのはこの子なのだろうか。
同名と言うだけかもしれないけれど、この子だって言う確信をもてる。
「……!へぇ、君が噂のレイちゃん……おじさんは小鳥遊ホシノこちらこそよろしく」
「噂……?」
「先生が楽しそうに話してたから覚えちゃったんだ〜」
ジト目になって目線を逸らし恥ずかしそうにモジモジする。
そんな姿がどこか愛おしく感じて、初めはかなり警戒心を持っていたというのにとっくの遠にその警戒心はなりを潜めていた。
「それでは、本当にありがとうございました。またいつかお礼をさせて下さいね。」
「もう回復したの?んーでも、また迷子になっちゃうかもだから、ついて行ってあげる」
「え?でも、悪いですよ…」
「いいからいいから、おじさんに任せて」
ここはスマホの電波が届かないし、ここら辺の地理もないはずなので十中八九また迷うだろう。
というか、ドジを踏みそうな雰囲気を醸し出してるアホの子感が否めない為着いていきたいのだ。
「あの、ホシノさん……」
「さん付けはしなくていいよ?」
「え?ん〜じゃあ……ホシノちゃん?」
「…っ、」
その名前を呼ばれた瞬間確信する。喋り方や性格…考え方も恐らくユメ先輩とは違うのだろうけど、根本が一緒なんだと。
「あっ!先輩相手にちゃん付けってダメですよねっ!すみません……」
「ううん、いいよ。それがいい。」
「えっと、わかり…ました。」
「あと、敬語もいらないよ」
「でも先輩ですし…」
「いらないよ?」
「え?」
「いらないよ?」
「……わかり、分かった」
「よろしい」
そう思えば思うほど、その敬語言葉も煩わしく感じてしまい半ば強引に敬語を辞めさせた。
本当に私はどうしてしまったのだろう、初対面なのに勝手にユメ先輩に重ねて勝手に安堵感を覚えて、あまつさえユメ先輩に近づけようとしているのだから、そんな自分に嫌悪する。
「ちなみにどこに行きたかったの?」
「えっと、ここなんだけど……」
「あ〜なるほど、だから迷ったのか」
分かりやすいランドマーク的な物は存在している場所だけど、ここに行くまでにほんの少しだけ砂漠道を通らなければいけない為、進んでいる方向がわからず迷ってしまったのだろう。
「大丈夫、おじさんに任せて!」
「本当!?ありがとう!ホシノちゃん!」
「言っちゃあなんなんだけどさ、そんなにすぐに信用していいのぉ?一応初めましてだけど」
「たしかに初対面かもだけど、ホシノちゃんはいい人だよ?」
甘ちゃんで不用心ですぐ人の事信じちゃいそうな人だなぁと思った。タメ口になった瞬間ユメ先輩の雰囲気にかなり近くなって行く。
面影を重ねては行けないと分かっているだが、それほどまでに雰囲気が似ていたのだ。
「全く……すぐ人のことは信用しちゃあダメだよ?」
「……ごめんなさい」
さっきから思っていたのだが、表情が百面相みたくころころ変わり続けている。
嬉しい時は本当に嬉しそうにするし、謝る時は本当に申し訳なさそうにするから、本当に素直な子なんだと思う。
「……似てるなぁ」
「んえ?……べぐっ……!?」
突然隣で歩いていたレイちゃんが何も無いところで砂にツマづいて砂に顔からダイブするように転ぶ。
その際に巻上がった砂粒達が私の身長より高く上がったので相当派手に転んだようだ。
「……っはははは!」
「わっ、え?なんで転んでっ……ち、違うんで…違うんだよぉ!」
よそ見をしていたのだろうが、その豪快なコケ方に柄にもなく大笑いをしてしまった。
すぐに起き上がったレイは目をぐるぐるさせて、必死に言い訳を取り繕っていたが転んだ事実が変わることもなく次第に項垂れるように肩を落としていた。
「ごめんごめん、ふぐ…だって、あ、あんなに派手に転ぶとは…」
「うぅ……」
「ほら、立てる?砂を払ってあげるからこっちにおいで」
少し拗ねているようであったが、よちよちとこちらに近づき座り頭のつむじを見せるように差し出してくる。
一旦サイドテールにしてあった髪を全て溶かしその後、手を頭に乗せてまるで撫でるかのようにして髪や服に着いた砂を丁寧に取り除いていく。
「綺麗な髪だね」
「そ、そうで…そうかな?」
「うん、跳ねっけはあるけどそこもまた可愛いと思うよ」
「…」
さらに恥ずかしそうにしたが、少しだけ嬉しそうにしてる事が目に見えてわかる。
母性なのだろうか、手がかかるほどに愛らしく感じてしまう、砂を払い終わった後、再びサイドテールにしてあげる
「ほら結べたよ」
「あ、ありがとう!ホシノちゃん!」
「じゃあ行こっか」
「うんっ!」
再び目的地に向かって歩き出す、というか本当に似ている。見た目も似ていないし、喋り方も性格も喋っていてわかったが似てはいるが明確な違いがあるように思える。
だと言うのに、私は似ていると思ってしまっている。
どういう事だろうか、私はまじまじとレイを観察してみたが、どこで何故似ていると思ったのか原因が見つからない。
「ん?どうしたの?」
じっと見つめすぎてしまっただろうか、その視線にレイが気づいてしまったようだ。
「なんでもない、それよりもうすぐだよ」
曲がり角を曲がり、そこにいたのはもちろん先生。
こちらの姿を確認できた瞬間、その暴力的な胸部を左右に揺らしながら、勢いよく駆け寄ってきた。
"レイっ!!大丈夫だった!?"
恐らくかなり心配していたのだろうと見て取れるほどの動揺を見せる先生に、はにかむ様な笑みで返すレイちゃん。
それを見た先生は本当に安心していた。
"ホシノがここまで連れてきてくれたんだね、遅れたけどありがとう"
「別にいいよ〜それに、この子の事がよく分かったからね〜」
"警戒心はなくなったみたいだね"
「うへぇ〜気づいてたんだ。さすが先生」
「え?」
目をまん丸にしながら、和かな笑顔とともに困惑したような表情でこちらを見つめてきたが、その頭を撫でてやる。
「…」
慣れていないのか、次第にへなへなになってしまった。
どうやら誤魔化しに成功したみたいだ、やはりチョロい。
"ふふっ、どうやら相当仲良くなったみたいだね"
「そ、そうですか?」
"うん、今のレイ、本当に楽しそう"
「否定は……しないですけど」
「へぇそんなこと思ってくれたんだ〜」
「あぁ!もうっ!それよりも早く行きましょ!」
耐えられなくなったレイが私と先生の間を通り抜け先導するような形になる。
からかいすぎたのか、少しばかり悶々とした雰囲気を醸し出している。
「ごめんってば〜」
"こうなったらしばらくは拗ねられちゃうからなぁ"
「拗ねてなんかいませんっ!」
"ほら拗ねてる"
「んね〜」
「ぐぎぎぎ……」
苦虫を噛み潰したよう珍妙な表情を見せるレイちゃんに対し私たちは終始笑顔だった。
レイちゃんは、ただでさえアビドスは荒廃しているので行き場所に困って結局途中から私たちと並んで歩くことになった。
"さっきから言いたかったんだけどさレイ"
「なんですか?」
"服似合ってるね"
「……嫌々ですよ」
「そうなの?その割には気に入ってるようだけど」
「……嫌々だよ」
"いつも同じような服装だったから、なんだか新鮮"
「何着たらいいかわかんないんですもん」
「じゃあ今度一緒に服屋にでも行こうか?見繕ってあげる」
"なら私も都合が合えば行こうかな"
「別にいいですよぉ……」
目的地に着くまで他愛もない話をしていた。
この時間がどうしようもなく楽しくて、心が和らぐような感覚、まるでユメ先輩やアビドスの後輩たちといる時のようであった。
「気になったんだけどさ、レイちゃんは銃とか持たないの?見当たらないけど」
「あ〜……えっと、これなんだけど」
指さされた方向を見ると黒と紫でペイントされた大きめのルービックキューブ型の代物が目に映った。
このルービックキューブでぶん殴るのだろうか?いや弾でも出る銃口的なものが備え付けられているのか?
"あれ?前使ってたやつは?"
「えっと……このルービックキューブに生まれ変わりました。」
"???"
先生大困惑である。最も私もだが、先生が前の武器と言っていたので以前はしっかりとした銃を持っていたはずだが、なぜ銃がルービックキューブに様変わりするのだろうか。
「今ってそのルービックキューブって使えたりする?」
「わ、笑わないですか?」
「……笑うも何も分からないからなぁ」
「……スッ…け、顕現せよノクティルカ」
『使用者確認、システム起動します』
そう言い終わると、何処からか機械音のようなものが聞こえ、そのルービックキューブが瞬く間に一振の禍々しい長剣へと変化した。
……剣!?いや変形にはもちろん驚いたのだが、このキヴォトスは銃社会、ましては日常的に弾を乱射しまくる輩が大半の世界だと言うのに剣というのはあまりにも不利なのではないか?
"か、かっこいいっ!!"
何故だが隣で先生は大興奮しているようだが、私は心配が先に来てしまう。
今からでもまともな武器を仕入れた方がレイちゃんのみのためなのではないか?
だが、何度も言うが初対面だ。武器を変えろなどというお節介はウザがられて然るべきで、それを認めることはないだろう。
ならどうやって認めさせるべきか、そんなものは一つしかないだろう。
「ねぇレイちゃん、私とその武器で勝負しない?」
「……え?」
レイちゃんは困惑していた。
ごめんねレイちゃんこれはただのお節介、剣は銃には勝てない、そう出来ている。
だから今のうちに変えさせるべきだ、手遅れになる前に