「俺、教師って聞いてたんだけど」
「お似合いですよ。用務員さんの格好」
「バカにしてんだろお前」
「まさか。ただ、スーツ姿であれば女子高生にモテモテでしたのに、残念ですねと思っただけです」
「女子高生にモテてどうすんだよ。犯罪者になる趣味はねぇぞ」
潜入当日。坊ちゃんのハーレム化を阻止するべく潜入することになった私たちだが、執事さんは用務員さんになるらしい。いつもは不良執事さんであろうともぴしっと着こなしているから、作業服のようなぴしっとしていない格好は正直……ほんとに顔良いなこの人。作業服でもカッコいいってチートだと思うんですが。本人には言わないけど。
私が教師で執事さんが用務員なのは、アプローチの仕方に幅を持たせるためだろう。どちらも教師だと、教師としてしか動けない。用務員さんの方が動きやすいし、そういった意図での旦那様の采配だろう。執事さん、変なところでいい格好しいだから、用務員さんで潜入してくださいって言われても頷かないでしょうし。ところでいい格好しいって本当に格好に言及する形で使うのが正しいんだったっけ。
「どう思います?」
「似合ってるぞ」
「……そう、ではなくて、いい格好しいの話です」
「いい格好しいの話は初耳だな……」
話を聞かない執事さんは放置して、教室に向かう。後ろから「ヘマするなよ」といつも通り憎まれ口を叩く執事さんに中指を立てて、体育館に向かう。
今日は懐かしの……まだ私は若いから懐かしいわけではないですが、体育館で開かれる朝礼にて私のお披露目を行い、そのまま一日を過ごす予定。私の立ち位置としては、全学年の勉学をサポートしつつ、メインはカウンセラー。心に寄り添える清らかな私にぴったりだ。なぜか執事さんはこのことを聞いた時に目をひん剥いてましたけど。大丈夫かな。
「
「新しい用務員さんは知り合いでしたので、少しお話を」
「あー、あのカッコいい人」
執事さんの目ん玉事情を心配しながら体育館の舞台側の入り口を潜り抜けると、少し焦った表情の……誰でしたっけ。坊ちゃんの担任だからとすぐに交流をしに行ったのに名前を忘れてしまった。多分自己紹介をされていないんだと思う。失礼な人だ。あと女性だから坊ちゃんのハーレムの一員かもしれないし。教師が高校生に恋なんてとんでもない。なんて人だ。
「へー! いいなぁ。今度紹介してくださいよ」
「同じ学校にいるんですし、ご自分で声をかけてもいいんじゃないですか? あの人は誰かを経由するよりも、直接来てくれる人の方が好みだと思いますよ」
「なるほど……ではそうしてみます!」
執事さんに興味を持っているということは、坊ちゃんのハーレムの一員ではないらしい。じゃあいい人だ。すみません、なんて人だとか言って。
坊ちゃんの担任の先生に連れられて、舞台袖に向かう。壇上では校長先生がお話をしているところだ。校長先生がお話をしているということはクライマックスなのかもしれない。なんでそんなタイミングで私は執事さんと話していたんだ。執事さんも教えてくれればいいのに……そういえば時間大丈夫なのかとか言ってたような気もしますけど、それを言われていたら私が悪いことになるから言われていないでしょうし。
『さて、先ほど言った通り、本日から我々教師のサポート兼、みなさんのカウンセリングを行っていただく方がいらっしゃいます。何か悩み事や相談事があるときは……と、私の口から言うよりも、ご本人から仰っていただいた方がいいですかね』
私の話だ。そう意識したと同時、校長先生と目が合う。ふっくらしていてかわいい校長先生と目が合うと、綺麗にウィンクをしてくれた。茶目っ気があってかわいいおじさんですね。坊ちゃんのハーレムの一員ではなさそうですし、いい人なのでしょう。
『それではどうぞ!』
そういえば担任の先生なのに私と一緒にいたっていうことは、めちゃくちゃ探してくれてたのかなと申し訳なさを今更抱きながら、舞台に出る。この私が出たというのに静かな生徒の方々は、しっかり教育されているのだろう。私の想像では「え、あの先生綺麗!」みたいな反応がくると思っていたから、ちょっと残念だ。この前メイド長から「己惚れるのはいい加減にしなさい」と言われたばっかりなのに恥ずかしい。
生徒の方々の方を向いて、マイクを握る。あまりにも人が多いから私の歌を聴きに来てくれたのかと一瞬勘違いしそうになったが、坊ちゃんの姿を見つけて思い直した。ちらほらと坊ちゃんのハーレムメンバーもいる。できればカウンセリングという名目で、あの子たちとお話したいところだけど……そのためには、ここで第一印象を良くしておく必要がある。
『みなさま、はじめまして。先ほど校長先生が仰られたように、先生方のサポートおよびみなさまの勉学のサポート、そしてカウンセリングを担当いたします、
百戦錬磨ってどういう意味でしたっけ……。と首を傾げる暇もなく、みなさまから拍手をいただく。それに一礼した後、校長先生に視線を送ってから舞台袖にはけた。掴みは上々。恋のお悩みと多感な時期の高校生は反応せざるを得ないワードもぶち込み、完璧と言うほかない挨拶だ。我ながら誇らしい。
舞台袖に行くと、まだ坊ちゃんの担任の先生が待ってくれていた。自分のクラスのことはいいのかなと思ったけど、みなさん行儀がよかったので問題ないのでしょう。だからこそ、悩みを誰にも話せず、いい子であろうとしている子もいそうな気はする。坊ちゃんのハーレムを阻止することが目的ではあるが、もちろん他の生徒をないがしろにするつもりはない。
「お疲れ様です、竜胆さん。今日はこの後私のクラスにいらっしゃってください。それと、年齢も近いですし、何か困ったことがあればなんでも言ってくださいね!」
「それでは、ハーレムを阻止するにはどうすればいいと思いますか?」
「え? え? なんて?」
最近、ラッスンゴレライが流行っているのだろうか。高校生と関わるのなら、流行は取り入れておくべきか……。
「竜胆さんの出身ってどこですか!」
「めっちゃ綺麗……」
「てかスタイル良っ」
「彼氏いますか! 立候補していいっスか!」
「みんな落ち着いて! 竜胆さんの耳は一つしかないんだから、困っちゃうでしょ!」
「お言葉ですが先生、私の耳は二つあります」
これこれ。こういうの。こういうのを求めていたんですよ。
朝礼を終えて坊ちゃんのクラスに行き、朝のホームルームの時間。先生と私が教室に入ると、私の姿を見た瞬間一気に質問攻め。先生は私の耳が一つだと勘違いする始末。ちっちゃくてかわいらしい先生ですが、慌てているところを見ると親しみやすく、やはりいい先生なのだろうと確信する。先生が坊ちゃんの担任の先生でよかった。
先生は「まったく!」とぷりぷり怒ってから苦笑して、私を見た。それを「このまま質問コーナーにしちゃっていいですか?」という意味だと受け取って頷くと、小さくぺこりと一礼。いちいち仕草が可愛い人ですね、羨ましい。私なんてこの前お庭ではしゃぎまわっていたら執事さんに「おい、猿」って言われたのに。一瞬豊太閤だと言われているのかと思って気分がよくなったけど、そうだとしたら執事さんが尾張の大うつけっていうことになるから、ただの猿にしても豊太閤にしても気分が悪いですし。ほんとに最低ですね、あの人。
「じゃあ今から竜胆さんに質問してもいいけど、困っちゃうようなことはダメだからね!」
「困っちゃうことってなんですか!」
「えーっと……竜胆さん、困っちゃうようなことってなんですか?」
「んー……これからみなさんの悩みを聞かせていただく立場だというのに、私がその質問はダメですというのも不義理なような気もしますので、よっぽどでなければなんでもいいですよ」
ちなみに、坊ちゃんが「なんでうちの学校に……!?」と聞きたそうにしているのはよっぽどな質問なのでNGです。あまり坊ちゃんの学校生活の邪魔をしたくないので、私が坊ちゃんのメイドであることは伏せておこうと決めていますし、帰ってから答えてあげることにしましょう。
「はい! じゃあ彼氏いますか! 立候補していいっスか!」
「彼氏はいません。立候補はご遠慮願います。私が犯罪者になってしまうので」
さっきと同じ質問を投げてくれた、いかにもムードメーカーな男子生徒に返してから「ちょっと冷たかったかな……」と反省していると、「じゃあ俺たちの間の壁は年齢だけってことっスね! 脈ありだ!」と喜んでいた。かわいい。
「はい! 放課後一緒に遊び行くのとかオッケーですか!」
「んー、何も予定がなければ構いませんよ。大人がいないとできないこともあるでしょうし、ぜひご一緒させてください」
「やた! あ、あとあと、瑠璃ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろんです。お好きなようにお呼びください」
明るく元気な女の子。かわいらしい。あの子は坊ちゃんの近くにいた記憶はないから、ハーレムの一員ではない……こともないかもしれない。通学路で一緒になっていないというだけで、学校では猛烈なアプローチをしている可能性もある。ひとまず、女生徒は全員ハーレムの一員の可能性があると見ていいだろう。その全員とカウンセリングするなら、私は豊太閤ではなく太子になった方がいいのかもしれない。
さて、そろそろ本来の目的に触れるとしよう。ありがたくも私に質問しようと手を挙げてくれている、黒髪ロングの凛とした女の子。あの子は、坊ちゃんの周りにいたことを覚えている。よく坊ちゃんの世話を焼いている子だ。確か、名前は……。
「じゃあ、そこの子。質問は?」
「はい。その、カウンセリングを行っていただくと伺いましたが、いつどの時間で等は決まっているのでしょうか」
「気分。その子が授業に出たくないとかでしたら授業時間であっても構いませんし、休み時間でも放課後でも朝のHR前でも。私の身が自由であれば、いつでもお受けいたします」
「なるほど……わかりました。ありがとうございます!」
礼儀正しく一礼したあの子の名前は忘れちゃったけど、いい子そうだ。坊ちゃんが嫌がってなさそうだったからある程度性格はいいんだろうなと思っていたけど、この目で見るまでは安心できなかったから。できれば、あの子がカウンセリングに来てくれると嬉しい。カウンセリングの時間を聞いてくれたってことは、ちょっとは期待してもいいのかもしれない。
それにしても、感触はよさそうだ。みなさんがいい子だというのもあるけど、やはり私の性格、そして品格の為せる業だろう。帰ったらメイド長に報告しなければ。私はすごいんですよって。
「はーい! じゃあ俺のこと犬って呼んでくれませんかー!」
「わかりました、犬」
先生にめちゃくちゃ怒られた。