坊ちゃんがハーレム主人公かもしれない   作:酉柄レイム

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第3話 メイド、カウンセリングをする

「なんで二人がうちの学校にきてるんだよ!!」

「それは坊ちゃんがハーレム主人公かもしれないからです」

「は?」

 

 どうやら坊ちゃんの学校ではラッスンゴレライは流行っていないらしい。今の若者は知らない……いや、私も若いですけど。

 初日を終えて屋敷に帰り、今日は働いたから屋敷の仕事はいいということにしてお庭の秘密基地で執事さんとダラダラしていると、坊ちゃんが突撃してきた。肩で息をしているところを見ると、どうやらここまで全力疾走してきたらしい。遠くの方で服装が乱れているメイドや執事も見える。そういえば私と執事さんが学校に行っていたから、坊ちゃんの送り迎えは別の人が担当しているんだったか。

 

 まぁ、坊ちゃんがお怒りになるお気持ちもわかる。身内ですし、気まずいったらありゃしないですもんね。それも坊ちゃんに内緒でいきなりともなれば無理もない。執事さんも同じ気持ちだったのか、坊ちゃんを落ち着かせるように背中を優しく叩いた。

 

「まぁ落ち着いてください。そこの並外れた思考の持ち主であるメイドは置いといて、どうやら旦那様が坊ちゃんを心配しているらしく。俺らが学校にいんのは嫌だとは思いますが、あと数年すりゃ立派な大人になりますし、今は堪えていただけると助かります」

「……別に、嫌だとは言っていない」

 

 きゅん。気軽に母性を擽らないでほしいですね。

 

「俺に黙っていきなりっていうのが気に食わなかっただけで、そりゃあ気まずいのはあるけど……」

「けど?」

「……なんか二人ともめっちゃ人気だから、面白くない」

 

 執事さんと顔を見合わせて、同時に天を仰ぐ。今日も我らが坊ちゃんが愛おしい。なるほど、確かにこんなに愛おしいのであれば世の少女は放っておかないでしょう。もしかしたら私が把握できていなかっただけで、小学校中学校でもハーレムをお築きになられていたかもしれない。

 坊ちゃんはご自分の失言に気づいたのか、「あ、えっと、いつも仕事しないくせに、できる感じを出してるのが面白くないって言ったんだ!」と慌てて誤魔化し始めた。そんなに慌てなくても、私たちは大人ですから。変につついたりしませんよ。

 

「へぇー。瑠璃が取られたみたいで嫌だったんですか」

「うるさい!! さっさと仕事しろお前ら!! 俺はもう行くからな!!」

 

 訂正。執事さんはガキでした。

 

 執事さんに煽られた坊ちゃんは顔を真っ赤になさって、屋敷の方へ姿を消した。もう高校生だというのに色あせない少年心が可愛らしい。執事さんがクソガキなのは死ぬほど憎たらしいのに、同じ子どもっぽさでもなぜこうも抱く感情が違うのだろうか。

 

「執事さん。失礼ですよ」

「別に、正常だと思うけどな。坊ちゃんにとってお前は姉みたいなもんだし、そりゃ心配だし面白くもねぇだろ」

「確かに私は坊ちゃんにとって可愛くて綺麗で優秀なお姉ちゃんみたいなものですが」

「厚かましい修飾語つけてんじゃねぇぞ」

 

 私は事実を述べただけなのですが……。ちゃんと靴ひもも結べますし、完璧と言うほかないでしょう。

 

「さて、本題に入りましょう」

「本題? ……あぁ、坊ちゃんがハーレム主人公かもっていうアレか」

 

 坊ちゃんがいなくなったからか、執事さんは懐からタバコを取り出して火をつけた。この人いつもタバコ吸ってるな……。そんなにいいものなのだろうか。ただ寿命を縮めて細胞を殺して体力を失うだけだと思いますけど。いいところと言えば、見た目がカッコいいことくらい。

 

「最初聞いたときはバカなこと言ってんなぁって思ったけど、案外バカにできねぇかもな」

「そうでしょう。私に対する非礼を詫びなさい」

「ワリ」

「謝罪は地面に這いつくばって相手の足を舐めながらするものですよ。どういう教育を受けてきたんですか?」

「俺がお前に聞きてぇよ」

 

 おかしいな……。メイド長から教えてもらった最上級の謝罪方法なのに。メイド長が間違えるはずがないから、執事さんが間違えているんですね。仕方がない、ここは大人である私が引き下がることにしましょう。

 

「まぁいいです。執事さんが足を舐めて興奮するタイプの変態である可能性もあるので、先ほどの謝罪で勘弁してあげます」

「お前ほどの美人が相手なら否定しづれぇな」

「……る、ルッキズムめ」

 

 もしかして執事さんもハーレム主人公か……? いや、こういうタイプは女性を侍らせるように見せかけて、心に誓った女性はただ一人というタイプだ。あとどう考えても主人公というタイプじゃない。あとなんか動揺しちゃいましたけど、普通に変態ですよね?

 執事さんが変態だと思ったら余裕が出てきた。でも変態だとしたら学校に入れるべきではないような気もしてきた。うーん、悩みどころ……。

 

 閑話休題。今は坊ちゃんについて話すときだ。

 

「それで、学校で何か見たんですか?」

「おう。つっても意識しなきゃわかんねぇくらいだったな。ふとした瞬間に坊ちゃんの周りに女の子がいた。あとは、坊ちゃんに対して向けられる女の子の視線の数が多い。授業とかがなかったし、学校は午前で終わったからまだなんとも言えねけぇど、この分だと移動教室の時に待ち伏せとかもありそうな温度感だったな」

「……執事さんって、バカにしつつもちゃんと見てくれますよね」

「自分の見えてる範囲でしかもの語らねぇやつなんざ、それこそバカだろ。よく考えりゃあ、お前が坊ちゃんのことに関して的外れなこと言うわけもねぇしな」

 

 ガキのくせにいい人だ。私は内心で執事さんに対する評価をこっそり上げた。

 

 大体は執事さんの言った通りだ。坊ちゃんの周りには大体女の子がいるし、坊ちゃんと話すときの女の子のトーンも他と比べて異なっていた。学校の教育がいいのか、無理を言って坊ちゃんと一緒にいるような子が誰一人いなかったことと、坊ちゃんが男の子とも普通に話していて、よくある妬みだとかそういうのはなかったことが救いでしょうか。

 とはいえ、私が普段よく目にしていた女の子以外も坊ちゃんに話しかけている、というのは新発見だった。もしかしたら坊ちゃんに好意を寄せているとかではなく学友の範囲かもしれないが、ハーレムのメンバーである可能性も考慮しておこう。

 

「つっても、坊ちゃんはうまくやってそうだったけどなぁ。全然危ない感じとかなかったぞ。流石は坊ちゃんだ」

「今はまだ、という枕詞がつくかもしれません。だからこそのカウンセリングです」

「思ったんだけど、そんな都合よくハーレムメンバーがカウンセリングにくるか?」

「当然です」

「なんで?」

「私はかわいいので」

「顔面の話はしてねぇだろ。納得できる理屈を寄越せ」

 

 おかしいですね……。広告などでも女性が映っていれば効果が増すと聞きますし、であれば私は容姿に優れているので、瞬く間にカウンセリングの予定で埋まると考えていたのですが……。

 

 執事さんはなぜだか呆れながら、ため息と一緒に煙を吐き出した。気づけばタバコの火は消えていて、かと思えば即座に次のタバコに火をつけている。マジシャンくらい手元が見えない。

 

「まず、お前自身に信用がないだろ。カウンセリングっつったってお前が誰かに言いふらさないって保証もない。まずは、カウンセリングにくるのを待つんじゃなくて、生徒との信頼関係を結ぶべきじゃねぇか?」

「確かに。ではそれはどのようにすればいいんですか?」

「休み時間に一緒に話すとか、昼飯一緒に食ってみるとか。まぁ普通にしてりゃ大丈夫だろ。見てくれはいいし面白れぇし、よっぽど相性が悪くなきゃお前を嫌うやつなんていねぇよ」

「……し、執事さんは、どう思ってますか」

「チョロい」

 

 金玉を思いきり蹴り上げた。「お、おま、お前が思って、るより、気軽にやっていいもんじゃねぇぞ……!!」と言いながら股間を抑え、それでも口からタバコを離さない執事さんを無視して、秘密基地を後にした。苦しめ!!!!

 

 

 

 

 

「す、好きな人が、いまして」

 

 めちゃくちゃ都合がよかった。

 

 翌日。登校して坊ちゃんのクラスを見て、他のクラスも見に行くかーと思って廊下を歩いていたところで声をかけられ、カウンセリング用の部屋として与えられたカウンセリング室に招き入れ、現在。

 私の前でもじもじしながら視線を彷徨わせ、もにょもにょ言っているのは、坊ちゃんと同じクラスの女の子。昨日カウンセリングについての質問をしてくれた子だ。名前は……四平(よつひら)純玲(すみれ)さんだ。黒い綺麗な髪をポニーテールにして、きりっとした大き目のおめめ、すらっとした鼻立ち。座る姿勢も綺麗で、いかにも優等生といった感じだ。

 

「ほう、好きな人ですか」

「は、はい……」

 

 恥ずかしいのか、どんどん縮こまっていく姿が可愛らしい。清楚で可憐な女の子の写真をくださいとAIに頼んだらすぐさま抽出されそうな子だ。坊ちゃんに相応しいかもしれない。

 

 ……と、結論を急ぎ過ぎるのはよくないですね。もしかしたら好きな人は坊ちゃんではないかもしれないし、ちゃんと相談に乗ってあげなければ。

 

「その人のどういうところが好きなんですか?」

「えっと……い、言わなきゃだめ、ですか?」

 

 もじもじしながら上目遣い。それを好きな人の前でやりなさい。多分イチコロだから。

 

「失礼しました。ちょっと恋バナというものをやってみたくてですね……。それで、どういった意図の相談ですか?」

「……実はその人のことを好きな人が、私以外にもたくさんいて」

 

 坊ちゃんであることが確定した。同じ学校に二人も三人もハーレム主人公がいてはたまったものではないですからね。

 しかし、なるほど。言い方は悪いですが、使えるかもしれません。四平さんは坊ちゃんと同じクラスであり、今言ったように坊ちゃんが多くの女の子に好意を寄せられているという現状を理解している。であれば、坊ちゃんに好意を寄せている女の子が誰か、という正確な情報を手に入れることができるかもしれない。

 

 仲良くするが吉ですね。

 

「ライバルが多いということですか。ということは、どのようにそのレースから抜き出ることができるか、とか?」

「そ、それ自体は、私の力で頑張りたいので! どうしても、というときは相談に乗ってもらうかもしれませんけど……えっと、自信がなくて」

「自信。こうしてちょっと話しただけですが、とても綺麗な心を持っていると思いましたが。もちろん可愛らしいですし、大人っぽさもあって素敵ですよ?」

「……あ、ありがとう、ございます」

 

 じゃなくて、と四平さんはもにょもにょしながら、

 

「その! 私の好きな人が、いいおうちで、釣り合いが取れるのか、とか。そういう意味で自信がないんです」

 

 更に坊ちゃんで確定した。いいおうちという領域において、坊ちゃんは他の追随を許しませんからね。

 

 釣り合いが取れるか……別に、そういうのは気にしないとは思いますが、私からそれを言ったところで納得はしないでしょう。いやぁ、盲点でした。確かにいいおうち過ぎて釣り合いを考えてしまうのも無理はない。ただ……。

 

「しゃらくさいですね」

「え?」

 

 坊ちゃんのハーレム化をなんとかする、というのであれば、ここで家柄を理由に恋をしない方向へ持っていくこともできる。でも、子どもはもっと自由でわがままで、無敵であるべきだ。

 

「相手はそんなことないと言ってくれるかもしれません。だとしても四平さんは心のどこかで釣り合いが取れるのかと思ってしまう。であれば、釣り合いが取れるような女になればいいんです。他でもないその人のために自分を磨けばいい。自信がないと嘆く時間を自分を磨く何かに使いましょう。そうして得た実力の証明は、好きな人を骨抜きにするために使う、というのはいかがでしょうか。そうすれば自信もつくかと思います」

「で、でも、家柄とか」

「聞こえませんでしたか? あなたは綺麗です、と言ったんです」

 

 うじうじする四平さんにムカついて席を立ち、隣にしゃがんで距離を近づける。

 

「そんな家柄だとか関係がないほどあなたは美しい。容姿だけではなく心もです。学生ならばもっとわがままに無邪気に恋をしてもいいのに、あなたは将来を考えられている。こんな美しい心を持っているあなたが、家柄が理由で断られるはずがありません。自信を持つための何かがほしいならさっき私が言ったように努力をすればいいです。それか、もっとわがままになってもいいんですよ。それをする権利があなたにはあるんです。もしそれで間違えちゃったら、間違えそうになっちゃったらいつでも頼ってください。わがままを言うのが子どもの仕事で、それによって発生し得るすべてをなんとかするのが私たち大人の仕事ですから」

「……竜胆さんに惚れちゃいそうです」

「であれば、それに関する相談も受け入れましょう」

「ふふ。じゃあまたお話聞いてもらいますね!」

 

 綺麗に笑う四平さんに、「笑った顔は可愛いですね」と言えば、「竜胆さんはカッコよくて綺麗です!」と嬉しいことを言ってくれた。めちゃくちゃいい子だ。坊ちゃんに相応しい。あまりにも相応しすぎて執事さんに『坊ちゃんに相応しい子を見つけました』とメッセージを送ったら、『俺も見つけたわ』と返ってきた。

 

 ……もしや、執事さんも誰かとお話を?

 

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