坊ちゃんがハーレム主人公かもしれない   作:酉柄レイム

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第4話 執事、見つける

 用務員の仕事は、学校設備の手入れが主。お屋敷でやらされてるのとほぼ同じで、俺はどこかの悪ガキが空けたフェンスの穴を修繕しに、校舎裏に向かった。

 

「あれー? せんぱぁい。どうしたんですか? さっきからちらちら私のこと見て……」

 

 向かったら、何やら生意気そうな女の子がいた。先輩って言ってるのにも関わらず、その場にはその子一人。もしかしたら俺には見えない誰かがいるのかと思ったけど、「ちょっといやらしすぎるかな……」と悩んでいるところを見るに、多分『先輩に話しかける練習』をしてるんだろう。なんだ、ただの可愛い女の子か。

 髪は明るい茶色のボブヘアー。背は小さめで、目はくりくりしていて鼻と口は小さく、小動物みたいだな、っていうのが第一印象。声は甘えた感じでコロコロしている。てかキモいな俺。女子高生をあんまり見るのもなんだし、瑠璃に知られると「やはり、あなたはロリコンだと思っていましたよ」って言いながら通報されるから、ちょっと離れるか。

 

「さっきの『先輩』の言い方も、バイクに乗ったら性格変わる人みたいな言い方だったし……」

 

 そう思ってその場を離れようとしたのに、その子の言ったことがちょっと面白かったから足を止めてしまった。声と見た目にセンスが合ってねぇ。こち亀知ってんのかよ。俺聞いたことねぇぞ、女子高生がこち亀の話してるところ。

 ……そういやあの子、どっかで見たことあるような……坊ちゃんのハーレムメンバーか? 先輩ってのは坊ちゃんのことか。瑠璃も「ハーレムメンバーのうちの一人である後輩ちゃんは、ライトノベルの後輩ヒロインのパブリックイメージみたいな子です」って言ってたし、さっきのを聞くと間違いなさそうに思える。それで判断するのめちゃくちゃ失礼だな。

 

 ってなると、もうちょっと見てた方がいいか……? 俺は納得してねぇけど、瑠璃はハーレムをどうにかするつもりで潜入してるしな……。別にほっといてもいいとは思うものの、ほっといたらほっといたでうるせぇから協力した方が安牌だ。

 

「というか先輩も悪いよね。なんで周りにあんなに女の子が集まるんだろ。小学生の頃に持ってたら王様扱いされた色鉛筆の色の数くらいいるし」

 

 あの24色だか48色だかあるやつな。あとあんま独り言で例え連発するやついねぇだろ。なんで伝える相手がいねぇのに例えてんだあの子。それも練習か? どっちなんだ。生意気な後輩キャラなのかお笑いキャラなのか。いや、どっちもか? 生意気なお笑い後輩キャラってどんな属性だよ。ちょっと面白そうだな。俺の身近にもいるし。

 

「でも、だったらちょっとでも印象持ってもらえるようにしないと。あと何回会えるかわかんないし」

 

 上京したやつが両親に抱く気持ちみたいに言うなよ。

 

「とはいっても、うまくいかなくてむしゃくしゃしてフェンスに穴空けちゃったのはダメだったな……」

 

 んでフェンスに穴空けたのお前かよ。「いやぁ、うちにもやんちゃしちゃう子たちがいるんですよ」って先生が言ってたからやんちゃ坊主を想像してたのに、まさか生意気お笑い後輩だとは思わなかった。あと多分フェンスに穴空けられるくらいには格闘センスがある。瑠璃みてぇだな、あの子。生意気の種類はちげぇけど。

 

 ……ってなると、話しかける種はできたか。

 

「フェンスの穴空けたの、君か」

「エッ!? あ、カッコいい」

 

 女の子の視界に入るよう陰から出ると、「やっば」と言いたげに目を逸らした後、さらっと容姿を褒めてきやがった。こいつ、練習してた割には内側に入り込むの自然にできそうだな。そんなやつが練習してるってんなら、それだけ本気ってことか。

 

「えと、用務員さん、ですか? そんなにカッコいいのに」

「まず全世界の用務員さんに謝れ。汗水流して学校の設備整えてくれてんだからカッケーだろうが」

「でもでも、おにーさんって感じの人は見たことないですよ?」

「イメージはおっさんだしな。まぁそれはわかる」

「でしょ!」

 

 無邪気に笑って、髪をふわりと揺らす。不自然に物理的な距離を縮めるわけではない。あー、なるほど。人懐っこいけどちゃんと弁えてるって感じか? あざとそうなイメージだったけど、人懐っこさが生意気方面に振れてるだけか。老人ホームとかに行ったらアイドルになりそうだな、この子。そもそもアイドルくらい可愛いし。

 

「んで? むしゃくしゃしてフェンスに穴空けたって、何があったんだ?」

「うっ、聞いちゃってました……?」

「せんぱぁい、のあたりから」

「えー!! 色鉛筆の例え伝わりました!?」

「そこじゃねぇだろ。何聞いてるんですかって怒れよ」

「? でも先輩のお屋敷の方ですよね。だったら別にいいかなーって」

「……なんだ、知ってんのか」

「あ、やっぱりそうなんですね」

「は?」

 

 こいつ、カマかけやがった……!? 舌ちろりしてウィンクしてんじゃねぇよ。女子高生にしてやられる成人男性の気持ち考えろ。「まぁ、瑠璃がうるせぇから協力してやるか」ってスタンスでお前に話しかけてんだよ。そんなやつがまんまと坊ちゃんの関係者だってことがバレてんのダサすぎんだろ。

 バレたところで、っていうのはある。坊ちゃんの邪魔になるから隠してるってだけで、この子にバレるなら別に問題ねぇか。

 

「そういう反応するってことはぁ、もしかして、隠してるんですかぁ?」

 

 訂正。こいつ揺すりにきやがった。問題しかねぇじゃねぇか。

 

「隠してる。坊ちゃんの邪魔になるからな」

「わ。坊ちゃんって呼んでるんですね。なんかかわいい」

「アー、君にとっちゃ先輩だもんな。坊ちゃんって感じではねぇか」

「んー。お坊ちゃんって感じではあるかも? 時々かわいいですし」

「お坊ちゃんって感じ? 品がいいとかか」

「そうです! 食べ方とか歩き方とか座り方とか、日常的な動作が品! って感じで!」

 

 うんうん。よくわかってるな。そうなんだよ。俺たちにとっちゃ弟みてぇでかわいらしい坊ちゃんは、ちゃんと坊ちゃんなんだよな。どこに出しても恥ずかしくない品格はある。瑠璃も「まかり間違って坊ちゃんがエスコートする状況になったら、世の少女はイチコロでしょうね」って危惧してたし、俺もそう思う。なんつーか、坊ちゃんは女性経験がないってだけで、基本的に隙がねぇんだよな。全部完璧にできるわけじゃないからこそ隙がねぇっていうか、親近感があるっていうか……。

 

「あ、違う違う! えっと、隠してるんだったら、言いふらされたら困りますよね?」

「言いふらしたら坊ちゃんにいい顔されねぇぞ」

「……大人げない」

 

 むすっとして上目遣い。俺にあざとくやる意味もねぇから、これが素か。坊ちゃんの周りにいる人間だからあざとくやる意味があるって思うやつもいるかもしんねぇけど、んな舐めた態度取ろうって子じゃないだろうしな。普通に大人げないって思ったから大人げないって言って態度で示してるだけだ。それはそれで舐めてんな。

 

「せっかく先輩のことで相談に乗ってもらおうと思ってたのに……」

「別に脅さなくても乗るって。フェンス直しながらでいいか?」

「え。いいんですか? 悪いので直すの手伝いますよ。裁縫得意ですし」

「フェンスが糸でできてるように見えんのか?」

「見えるわけないじゃないですか」

「見えるわけねぇのは知ってんだよ」

 

 フェンスは……多分蹴って開けたな。ちいせぇから尖った部分磨いてから上から網張るか。全部張替えなんつーめんどくせぇことにならなくてよかった。それならそれで将来有望な格闘家が見つかったってことだからいい気もする。

 

「で、相談ってのは」

「……その、男性として率直な意見を聞きたいんですけど」

「おう」

「私、全部ちっちゃいんですけど、魅力ありますか?」

「俺を殺してぇのか?」

「それなら誰かがいるところで聞きますよー!」

「明るく恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ」

 

 全部ちっちゃいってのは、まぁ、そういうことだろう。男子高校生相手にしてんなら当然の悩みか。男ってのは結局そういうことだからな。人によるが、結局デカいもんがうまそうに見えるバカな生き物だ。

 ただ、坊ちゃんはそうじゃない。そりゃあ人並みの美醜感覚はあるだろうが、ちっちゃいでっかいで判断はしない。って俺が言っても信用度ねぇか……? だからってまさかマジで率直に俺の意見を言うわけにもいかねぇし。セクハラだろ普通に。

 

「なんでってのもおかしな話だけど、なんで気にすんだ?」

「だって、年下扱いしてくるんですよ! 女の子ーってよりは妹みたいな……。だから、そういう対象じゃないのかなーって、思っちゃったり……」

「坊ちゃんの性格的な話をする。多分、坊ちゃんの周りにいる女の子と君が危ない目に遭ったとして、坊ちゃんは優先して君を助けるはずだ」

「な、なんでですか」

「ちゃんとしてるっつったらいいのか……ちゃんと年下を守る対象として見てるんだよ。だから、妹扱いってのは君にとっちゃ面白くねぇだろうけど、坊ちゃんにとったら正常だ。そういう対象じゃないってわけじゃねぇ。で、こっからは先の話。面白くねぇなら坊ちゃんに言ってもいいと思うぜ。心が広いし柔軟な方だからな。嫌だって言ったら受け止めてくれる」

「……めんどくさいって、思われないですか」

「君くらいかわいい女の子からのわがままなら、面倒なくらいでちょうどいいだろ。坊ちゃんは面倒なんて思わねぇだろうしな」

「……ルッキズムめ」

「最近同じこと言われたわ。省みるよ」

 

 マジでちょっと似てるな。絶対坊ちゃんと相性いいだろ。坊ちゃんは基本俺か瑠璃が構ってたから、退屈が嫌いだしな。この子なら坊ちゃんを引っ張ってくれそうだし、坊ちゃんもリードしようって気張る気がする。

 

「ま、甘えすぎんのも嫌だってのもわかるけどな。受け入れてくれるからなんでも言っていいってわけでもねぇし。でも、それがわかってるからめんどくさいって思われないか心配したんだろ? じゃあ大丈夫だ。君のわがままなら、好きになってほしいって努力の範疇だろ。その健気で可愛らしい努力を面倒だって言ったんなら、俺が坊ちゃんを教育しといてやるよ」

「用務員さんってモテます?」

「彼女はいねぇな」

「モテることは否定しないんだ。やらしー。……ね、お名前なんて言うんですか?」

 

 フェンスを修繕する手を止めて、振り返る。そこまで距離詰めてくるとは思わなかった。用務員と一生徒って立場は守ると思ってたんだけどな……。

 いや、俺を相談相手として確保する気か? 俺の無意識下で自分が優先順位高くなるように距離を詰めにきたのか。それか、単純に仲良くしようとしてくれてるだけか。多分後者で、結果的には前者もだろうな。この子はそういう子な気がする。話してて愛嬌が伝わるしな。年上に好かれそうだ。生意気っつっても適度だし。瑠璃が言ってたパブリックイメージの後輩って印象は、坊ちゃんに対するソレしか見たことなかったからだろうな。好きな相手と他じゃあそりゃ対応も違うだろ。

 

鷹司(たかつかさ)(れん)。君は?」

朝比奈(あさひな)(ひな)です! 相談、ありがとうございました! また声かけます!」

「おう。もうフェンスに穴空けんなよ」

「じゃあ空けさせないように相談乗ってください!」

 

 心なしかうきうきしながら、朝比奈は小走りで去って行った。なんか、友だちからひなひなって呼ばれてそうだな。

 

 

 

 

 

『ってことがあったんだよ』

「ひなひなさんは可愛らしく、それでいて大人びた雰囲気もある。外交的な意味では坊ちゃんに相応しいというのも頷けますね」

『お前がそう呼ぶのかよ』

「今のところ、どちらも妙な真似は起こさなさそうですが……。他のメンバーとも話す必要がありそうですね」

 

 ……やはり、執事さんはロリコンでしたか。というか執事さんの名前、鷹司蓮って言うんですね。

 

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