坊ちゃんがハーレム主人公かもしれない   作:酉柄レイム

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第5話 執事、敗北する

 最近、学校の居心地が悪い。理由は、瑠璃姉と蓮兄がいるからだ。それだけじゃない。あの二人は見た目がいい上に性格も……瑠璃姉はちょっとエキサイティングな気もするけど、悪い人じゃない。だからめちゃくちゃ人気で、瑠璃姉はいつ見ても周りに女子生徒がいて、蓮兄は用務員なのにみんなから話しかけられて。うちの学校では、突然現れた美男美女がブームになっている。

 俺としては主従関係なんてそんな感覚はないけど、あの二人はそのあたりきっちり守るから、俺の邪魔をするわけにはいかないって言って正体は明かしていない。そのせいか、なんか話しかけづらいし、目が合っても他の生徒と同じような対応されるから寂し……くはない。気に入らないってだけだ!!

 

「どうしたの? かわいい顔してるけど」

美優(みゆ)さん」

 

 昼休み。純玲が「瑠璃さんに会ってくる!」って言って教室を飛び出して、雛がわざわざ教室に「校舎裏行くので、きたかったらきてもいいですよ!」って言いに来て、久しぶりに男友だちとご飯を食べようとしたら、『どうすれば瑠璃姉によしよししてもらえるか』の会議を始めたから近寄りたくなくて一人でご飯を食べてたら、いつの間にそこにいたのか、俺がいる机の影からひょっこりと美優さんが顔を出した。

 美優さん。三年生で、前期生徒会長。背中まであるふわふわとした黒い髪、下がり気味の眉に、おっとりとした垂れ目。背は俺より少し低いくらいで、全身でおっとりを表現しておきながら、頭もいいし運動もできるっていう文武両道を地で行く尊敬できる人だ。名は体を表すって言ってもいいかも。美優さんは美しいっていうよりは可愛らしいイメージだけど。

 

 俺が名前を呼ぶと、「はーい」とおっとり返事をして、俺の隣の席の椅子を拝借して座り、俺の机にお弁当を置いた。

 

「純玲ちゃんと雛ちゃんは?」

「えーっと、純玲はカウンセラーの人に会いに行って、雛は校舎裏に行きました。ので、ちゃちゃっと食べて校舎裏に行こうかなって」

「あら、雛ちゃんのところに行っちゃうの?」

「? 美優さんも一緒に行きましょうよ」

「本当にかわいいよね、湊斗(みなと)くん」

「ありがとうございます!」

 

 かわいいって言われて内心ちょっともやってしつつ、お礼を言う。なんで俺の周りの人は俺のことをかわいいって言ってくるんだ……。自分で言うのもなんだけど、かわいいよりはカッコいい方だと思う。のに、カッコいいって言われたことはあんまりない。瑠璃姉も「坊ちゃんは可愛らしいですね」って言って頭を撫でてきてメイド長に怒られてるし、蓮兄も別れ際に犬を撫でるみたいに頭をぐしゃぐしゃにしてくるし。父さんは「経験を積めば自然とカッコよくなるもんさ」って言ってたけど普通に納得いかない。

 ……でも、母さんも父さんのことよく「かわいい」って言ってたっけ。血筋か。諦めた方がいいのかもしれない。

 

「それで、さっき何か悩んでるみたいだったけど、何かあった?」

「んー……。自分で解決というか、なんとかできると思うので今は大丈夫です。美優さんの力を借りたい時は助けてくださいって言いますね」

「そっか。いつでも助けてください! って言っていいからね」

「そういう風に育ててもらったので、助けを求めるのは得意です!」

「ふふ、知ってるよ。試験期間にいっつも助けて! って言ってくれるから」

「美優さん教えるの上手なので……」

 

 自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃできるってわけじゃないけど頭の出来は悪くない。自分で勉強して試験は乗り越えられる……って思いつつ、美優さんの教え方が上手でわかりやすくて、いつもお世話になっている。

 っていう理由以外に、父さんから、それに瑠璃姉と蓮兄からも「助けてって言えるような人間になれ」って教えられたからだ。一人でなんでもできる人はいるけど一握りで、ほとんどの人は誰かに助けてもらいながら生きてる。だから、助けてって言えば、助けてもらえるような人間になれって。最初の方は「じゃあいっぱい助けてもらおう!」って思ってなんでもかんでも助けてもらってたけど、蓮兄に「一人じゃ生きられねぇ人間になれってことじゃねぇぞ」ってちゃんと怒られて、「あ、人柄的な話だったんだ」ってそこで気づいた。小さい頃の俺はバカだった。

 

 助けてもらう理由はもう一つあって、場合によるけど助けを乞う時は相手が自分より能力のある人だってことだから、そこから学べっていうやつ。そういう意味では、勉強を教えてもらうのは知識的なことでもそうだし、教え方そのものも学べるからめちゃくちゃ助かってる。

 

「それにしても、あの二人が湊斗くんを優先しないなんて、珍しいね」

「そうですか? ……そうかも。いつも一緒にいるし」

「うん。雛ちゃんはわからないけど、純玲ちゃんはカウンセラー……竜胆さん? に懐いてるのかもね。私も一度お話してみようかなぁ」

「何か悩みあるんですか? よかったら聞きますよ」

「んー。じゃあ私も、湊斗くんの力を借りたい! って時に助けてもらおうかな」

「じゃあ俺も、いつでも助けて! って言っていいですよ。こう見えてできることは多いので!」

「ふふ、お願いね」

 

 美優さんが瑠璃姉と……ちょうどいい機会かもしれない。瑠璃姉はもうちょっと落ち着いた方が貰い手も増えるだろうし、美優さんからおっとりを学んだ方がいい。男子高校生からすれば年上の美人なお姉さんなんて恋をしてもおかしくないのに、早くも一部の生徒から「なんか瑠璃ちゃんってノリがいい母ちゃ……姉ちゃんみてーだよな」って言われてたし。気を遣われてたけど、多分本音は母ちゃんの方だ。

 

 ……そういえば俺、瑠璃姉と蓮兄の話題が自然と耳に入ってないか? 意識して聞いてるわけじゃないのに、これじゃあ俺があの二人のことが大好きみたいだ。いや、大好きだけどそれを意識するかどうかは別の話で……やめておこう。言い訳する相手もいないのに言い訳するのは空しいだけだ。

 

 美優さんと一緒にご飯を食べ終えて、手を合わせる。俺の方が先に食べてたのに食べ終わるタイミングが一緒なのは、美優さんのお弁当が小さかったからだ。いつも思うけど、そんなに小さくて足りるのかな……。俺なら腹の虫が鳴り続ける自信がある。

 

「それじゃ、行きましょっか。雛ちゃんまだいるかな」

「どうですかね……にしても、なんで校舎裏なんですかね」

「告白とか?」

「……なんかそれっぽかったらすみません。美優さんは離れてください」

「はーい。聞いちゃうのも悪いもんね」

 

 告白……告白か。雛が俺に……なんかむずむずするな。雛は誰がどう見てもかわいいし、いい子だし、面白いし、彼女になったら楽しそうだなとは思う。そうだったら素直に嬉しいな。

 

 教室を出て廊下を歩き、階段を下りて外に出る。グラウンドには昼食を食べ終えた生徒がサッカーをやっていたり、野球をやっていたり、思いきり遊んでいた。うちの校長の方針で、「体を動かせる時に動かした方がいい」と、遊ぶ道具が大量にある。体育館ではバスケをやっていたり、パネルを繋ぎ合わせて迷路を作ったり、うちの学校の昼休憩は賑やかだ。

 

「湊斗くんも遊びに行きたい?」

「うーん、俺の場合は怪我すると一部の人間が大慌てするので……。周りにも迷惑かかるし、できるだけ怪我しそうな遊びはしないようにしてるんです。でも、美優さんとお話するのもめちゃくちゃ楽しいので、今のところ遊べなくて残念だ! って感じではないですね」

 

 うちは俺を大事に大事にしたい派閥と、自由にやらせときゃいいんじゃね派閥がある。明確にあるっていうわけじゃないけど、何かあったら大変だからって過保護になる派閥と、何かあったら大変だけど、それはそれとして自由な方がいいよね派閥って言った方がいいか。瑠璃姉と蓮兄は後者の派閥のフリしつつ、俺の知らないところで過保護にやってくれてるんだろうなって思ってる。

 

 美優さんは嬉しそうな、でも悩んでいそうな複雑そうな表情をした後、名案を思い付いたとばかりに掌を打った。

 

「じゃあ、おうちの人と一緒にいれば、ある程度は思いきり遊べるってことだよね?」

「え? うーん、まぁ……。ていうか、そこまで厳格じゃないですよ? 大慌てするってだけで、怒られるってわけでもないので。遊ぼうと思えば遊べます」

「あ、そうなんだ。すごく厳しいのかと思って……」

「ありがとうございます。俺のこと考えてくれて」

「……いーえ! かわいい後輩のためですから」

 

 本当にいい人だな……。美優さんに何かあった時受け皿になれるよう、ちゃんと家を継ごう。精進しないとな。助けてもらってばかりだから、助けられるような人間にならないと。

 

 美優さんと話しつつ、おっとりほくほくしながら校舎裏に回る。最近蓮兄がきたからか、元々整っていた校庭がめちゃくちゃ綺麗になっている。あの人、サボる癖にかなり仕事できるからなぁ。仕事が早い上に正確で丁寧。蓮兄がサボるのも、「やることはやってるから」って言ってたし。「適度に抜かねぇとダメになんだよ」とも言ってたっけ。それに対して瑠璃姉が「坊ちゃんの前で下ネタはやめてください」って最低なこと言ってたなぁ……。早く彼氏作って安心させてほしい。すごく心配だ。

 

「さて、雛はいるかな……」

「えー!! 瑠璃ちゃんはメイドさんなんだ!」

「声デケェよ。一応隠してんだから静かにな」

 

 校舎裏を覗き込んで、見えた姿に反射的に身を隠す。首を傾げる美優さんに『静かに』とジェスチャーをすると、同じように唇に人差し指を当てて頷いた。かわいい。

 

 校舎裏にいたのは、雛と蓮兄。蓮兄が特定個人と仲良くなろうとするとは思えないから、雛が懐いてるのか? というか話の内容的に、蓮兄がうちの執事だって知ってて、つい今瑠璃姉がメイドだって知った、って感じか。雛は言いふらしたりしないから問題ない……じゃなくて、そういう秘密まで知ってるってことは結構仲がいい?

 ……まぁ、雛なら無理もないか。あの子、警戒心を和らげるのめちゃくちゃうまいし。本人にそのつもりはなくても、庇護欲というか守ってあげたくなる感を刺激してくるというか、年下に甘い蓮兄ならイチコロだ。瑠璃姉の暴挙を許してることからそれは確実。

 

「どうしたの?」

「雛と新しい用務員さんがいまして」

「それでなんで隠れるの?」

「……」

 

 俺が静かにとジェスチャーしたのを守って、囁き声で聞いてくれた美優さんに思わず黙り込む。そうだよな、隠れる意味ないもんな。どうしよう。俺は別に蓮兄と瑠璃姉がうちの執事とメイドだってバレてもいいけど、二人が俺のためにバレないようにしてくれてるならそれを尊重したいし……。

 ……いや、美優さんならいいか。美優さんも言いふらすような人じゃない。隠し事をするのも申し訳ないもんな。

 

「実は」

「あんなに綺麗な人がおうちにいたら、流石の先輩でもメロメロなんですかっ?」

「そんなわけないだろ!!!!!」

 

 あまりにも失礼なことを言われたから、美優さんに説明する前に飛び出してしまった。雛はびっくりして目を丸くして、蓮兄はにやにや笑いながら手をひらひら振っている。瑠璃姉が言っていた『年下の女の子をいたずらにたぶらかす仕草』だ。念のため美優さんを庇っておこう。

 

「せ、先輩!? いつからそこにいたんですか!」

「さっきここにきたばかり……というか、あー、その前にアレか。美優さんに説明しないと」

「え、えっと、多分新しい用務員さんと竜胆さんが、湊斗くんのおうちの方? なのかな?」

「頭良っ」

 

 少ない情報だけで正解導き出せるなんて、本当に頭いいんだな……。なんとしてでも瑠璃姉に見習わせよう。そうすればメイド長のストレスも軽減されるだろうし。

 

「どうも、執事の鷹司蓮です。一応隠してるから秘密にしてくれると助かる」

「ご丁寧にありがとうございます。西条(さいじょう)美優(みゆ)です。湊斗くんとは仲良くさせていただいていて、ものすごくいい子で大好きです」

「あー! さりげなく大好きって言ってる!」

「? 人に好意を示すことはおかしなことじゃないよ?」

「じゃあ私も……!!!!!! お、覚えててください!!」

 

 雛は俺を指さして口をパクパクさせた後、なぜか走り去っていった。効果音が聞こえるなら、ぴゅーって鳴ってそうだ。かわいい。

 

「で、何してたんだよ蓮兄」

「んー……」

 

 蓮兄は顎に手を添えて何かを悩んだ後、にやりと笑った。

 

「俺とあいつだけの秘密、だな」

「すみません。生徒会長をやっているのですが、今の発言は見過ごせません。先生方に報告させていただきます」

「冗談通じねぇタイプなら言っといてくれよ」

 

 その後、蓮兄は美優さんだけに何かを説明して事なきを得ていた。俺には話せないことなら、女の子特有の悩みってことか……? 

 

でもよかった。一瞬蓮兄がロリコンなのかと思った。

 

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