坊ちゃんがハーレム主人公かもしれない   作:酉柄レイム

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第6話 坊ちゃん、招く

「えー! 瑠璃さんって湊斗くんのおうちのメイドさんなんだ!」

「しーっ。一応隠してるから小さい声で」

「ちなみにちなみに、用務員の蓮さんは執事さんなんですよっ」

「えー! しらない……」

「ふふ……」

 

 胸を張って「私、こんなことも知ってるの!」アピールをした雛が撃沈して、それを見て美優さんがおしとやかに微笑んだ。雛が空回りしてる姿って可愛いですもんね。

 

 昼休み。中庭にある屋根付きのベンチでそれぞれのお弁当を広げて、久しぶりに四人で昼食を囲む。最近は雛が蓮兄と会ってたり、純玲が瑠璃姉と会ってたりしてたから本当に久しぶりだ。

 というわけで、純玲だけ瑠璃姉と蓮兄の正体を知らないのも不公平……というかかわいそうだから教えると、わかりやすいくらいにびっくりしてくれた。知らない人の正体を知ってもリアクションしてくれるから、やっぱり純玲はいい子だ。一緒にいて楽しい。それは雛も美優さんもそうだけど。

 

 純玲はたっぷりびっくりした後、「大事にしてもらってるんだねぇ」とにこにこし始めた。自覚はあるけど、他人から言われるのは何か恥ずかしくて、誤魔化すようにお茶を喉に流し込む。もし羞恥心で火照ってたなら、冷たいお茶を飲むのはちょうどいい。

 

「でも、ほんとーに瑠璃さんとは何もないんですか? あんなに綺麗なのに」

「だから何もないって言ってるだろ? 綺麗なのは否定しないけど、姉さんみたいなものだって」

「ふーん」

「雛ちゃん、なんでそれが気になるの?」

「そっ、それっ、はっ、あ、それっ」

「祭りみたいになってるよ。落ち着いて?」

 

 まぁ、色恋に敏感な年頃だもんな。焦って言葉が詰まった雛の背中を、純玲が優しく撫でる。それを見て美優さんがよりおしとやかに笑った。美優さん、かわいいの好きですもんね。

 

 ……それにしても、雛は俺と瑠璃姉の関係を気にしてるけど、俺も瑠璃姉と純玲、蓮兄と雛の関係性は気になっている。瑠璃姉はカウンセラーだから、純玲も何かを相談してるんだろうし、蓮兄に至っては職業的には用務員なのに、雛とちょくちょく話している。多分、蓮兄のことだから年下を甘やかして、雛がそれに懐いてるだけって感じもするけど、俺か美優さんじゃなくて瑠璃姉と蓮兄に話すのかって思ったら、ちょっともやってした。

 

 純玲の甲斐甲斐しい世話によって、雛が落ち着きを取り戻す。小さく深呼吸をしてから、さっきの弁明を始めた。

 

「やっぱり、気になるじゃないですかっ。仲良しの先輩の、その、恋愛、といいますか、なんというか……」

「ふふ。大好きな湊斗くんが取られないか心配なのよね?」

「だっ、そ、そんなんじゃないです!」

「そんなんじゃないのか」

「え……先輩は、そんなんの方がいいですか……?」

「そりゃあ取られてもいいって思われるよりは、取られたくないって思ってくれた方が嬉しいかな」

 

 何かを期待したような目で俺を見る雛に答えると、雛は口をぱくぱくさせて何かを言おうとして、すかさず純玲がお弁当を雛の口に運び、雛がもぐもぐ口を閉じてお行儀よく咀嚼する。本当に雛みたいだな。かわいい。

 

「美優さん。あんまり雛ちゃんをいじめないでください」

「ふふ、ごめんね? 雛ちゃんかわいいから、ついつっつきたくなっちゃうの」

「それはわかりますけど……。お行儀もいいし、いっぱい噛んでて偉いし」

「健康的でいいよな」

「んぐっ……でも、食べるの遅いのちょっとヤなんですよね……。周りの人を待たせちゃいますし」

「大丈夫よ。湊斗くん、いつも合わせてくれてるから」

「えっ、そうなんですか!?」

「うん。瑠璃姉と蓮兄からそうやって教え込まれたから」

 

 瑠璃姉からは「男の人に早く食べ終えられて食べる姿を見られると気にしちゃうものですよ」って教えられて、蓮兄からは「歩幅も飯食う速さも、寄り添ってこそ男として一流だ」って教えられた。確かに、俺も食べるのが遅い側で、先に食べ終えた人が待ってたら気まずいし、一緒に食べ終えられたらなんか嬉しいなって思って実践してる。ちなみに二人は食べるのがものすごく速い。休憩時間をご飯で使うのがもったいないからだそうだ。いつも休憩してるのに。

 

「それはそれで、申し訳ないと言いますか……」

「気にしなくていいよ。全然苦じゃないし、一緒に楽しくご飯食べたいし」

「……もしかしてさ、湊斗くんって瑠璃さんと蓮さん? に教育というか、お世話してもらうことが多かったの?」

「うん。なんだろ、”坊ちゃん”としては扱ってくれるけど、ちゃんと俺個人として接してくれるっていうか、本当に姉さんと兄さんみたいな感じだったから、自然とね」

「そうなのね。私はお二人に会ったことないけど、素晴らしい方々なんでしょうね」

「いい人たちだよ。ちょっと適当なところはあるけど、尊敬してる」

 

 二人はラフすぎるからそれで怒られることがあるみたいだけど、俺としてはラフな方が嬉しい。敬ってもらうのは慣れてないし、俺自身そんなできた人間じゃないから。その点、瑠璃姉と蓮兄は弟扱いしてくれるから居心地がいい。たまに過保護なところありつつも、それ自体も迷惑じゃなくて本当に大事にしてくれてるんだなぁって思えて嬉しいし。

 

 なんて二人のことを考えていると、純玲が俺の顔を覗き込んで口をもにょもにょさせていた。何かを言おうとしてるけど言いづらそうな、そんな表情。思わず「どうしたんだ?」と聞けば、遠慮がちに口を開いた。

 

「えっと……湊斗くんのおうちに行ってみたいなーって。瑠璃さんがどんな感じなのか見てみたい!」

「あ、私も! 執事やってる蓮さん見てみたいです!」

「それなら私もご挨拶に伺おうかな。もちろん、湊斗くんがいいならだけど」

「瑠璃姉と蓮兄がいいって言えばいいと思いますよ」

「ご両親とかじゃないの?」

「俺に一番近いのは瑠璃姉と蓮兄ですから。二人のお眼鏡にかなえば、うちの親も信用してくれます」

 

 とは言いつつ、父さんに友だちを家に連れてきてもいいかって聞いたらいいって言ってくれると思う。俺のことは信用してくれてるし、俺が連れてきたいって思ったなら連れてきていいって言ってくれるはずだ。瑠璃姉と蓮兄を間に挟むのは、万が一というか念のためというか、形式的にそうしておいた方が安全だからだ。

 ……でも、家での瑠璃姉と蓮兄か……。家だとサボり魔だから、幻滅されないかが気になる。純玲と雛はそんな子じゃないとは思いつつも、学校と家とのギャップがすごいから、ちょっとは幻滅される可能性があると思う。

 

 ……二人にしっかりしておくように言っておこうかな。一応。

 

 

 

 

 

「え!!!???? お三方がお屋敷にいらっしゃるですって!!?????」

「うるせぇよ!! ここがこち亀の世界だったら屋敷ぶっ壊れてんぞ!!」

「だとしたらどうせ直るのでよくないですか?」

「見ろ、坊ちゃんが耳抑えて蹲ってんだろうが。どこの世界に声で主人を圧倒する従者がいんだよ。ウボォーギンかテメェ」

 

 殺してはいないので、ウボォーギンではありませんね。

 

 坊ちゃんが帰宅なさって、秘密基地に足を運ばれて告げたのが、いつも一緒にいらっしゃるお三方がお屋敷にきたい、とのこと。もちろん大歓迎ではありますが、ハーレムメンバーがいらっしゃるということであれば、これは明確なイベント。普段はお優しく聡明な方々ではあっても、好きな人のおうちともなればタガが外れ、凶行に及ぶ可能性もなくはありません。あ、純玲さんはそんなことはないかと思いますが。いい子ですし。

 

「耳が痛い……。あー、で、二人とも。三人がくる日はしっかりしてて。純玲と雛に幻滅されるとダメだから」

「何をおっしゃいます。私たちはいつもしっかりしていますよ」

「そうだぜ坊ちゃん。まぁ流石にご学友がいらっしゃるならタバコは吸いませんが、それ以外は直すことなど何もありません」

「あの二人なら、いつもの瑠璃姉と蓮兄を見ても幻滅なんてしないだろうけど、瑠璃姉と蓮兄は学校にきてるんだから、尊敬できる大人でいないとダメだと思う」

「あまりにも正論です」

「耳が痛いな。物理的にじゃなくて慣用句的な意味で」

 

 確かにそうですね。執事さんはともかく、私はいつも品行方正清廉潔白ですが、尊敬できる大人でいるためには普段よりも品行方正清廉潔白を心掛けろ、坊ちゃんはそう言いたいということですね。であればメイドである私はそれに従わない理由などございません。

 

「じゃあ頼むよ。父さんにも俺からお願いするけど、二人からも言っておいて」

「もちろんでございます」

「おう。任せてください」

「うん。それじゃ」

 

 坊ちゃんは軽く手を挙げて、秘密基地から去って行った。坊ちゃんは日々研鑽なさっていて、確かこの後は武道のお稽古だったはず。所謂天才ではないですが、努力は欠かさない素晴らしいお方です。だからこそ無理をしないように私たちがガス抜きをせねば。そう考えると、秘密基地を作ってよかった。ヤニ臭いのがウィークポイントだけど。

 

「さて、執事さん。ご相談があります」

「なんだ?」

「お三方に合うサイズのメイド服は用意するべきですよね」

「は? なんで」

「なんで、とは?」

「なんではなんでだろ」

「なんでと申されましても、ハーレム主人公の実家がお屋敷であれば、当然ハーレムメンバーはメイド服を着るものでは?」

「俺は経緯が気になってんだよ。約束事か知らねぇけどなんでそうなるかって聞いてんの」

 

 なんでそうなるか……? そういうものだから、としか言いようがありません。困った。執事さんは頭がよろしくないようだ。ここは、私がひとりで動くしかない。なんとしてでもお三方の体のサイズを測り、メイド服を用意せねば。幸いストックはあるから、サイズさえわかれば体格に合わせて少し直すだけで着られるだろう。

 

「しかし、いくら坊ちゃんといえど可愛らしいお三方からご奉仕されるとなれば、骨抜きになるかもしれませんね」

「それが尊敬できる大人の言うことか?」

 

 いじわるなことを言われたので「もう、いじわる」とふざけて返してみたら、「悪い。お前がかわいいから、ついな」と返されて敗走した。こ、このすけこまし!

 

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