坊ちゃんがハーレム主人公かもしれない   作:酉柄レイム

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第7話 メイド、いきすぎる

「ようこそお越しくださいました。私、当屋敷のメイド、竜胆と申します」

「同じく、当屋敷の執事、鷹司と申します」

「わー! 瑠璃さん綺麗! かわいい!」

「ほ、ほんとに執事だ……カッコいい」

 

 お三方がお屋敷にいらっしゃる、その当日。

 

 車でお迎えに上がろうかと申し出たところ、「緊張しちゃいけないから」と坊ちゃんの素晴らしい心遣いにより断られ、まだかまだかとお待ちすること数時間。お屋敷にいらっしゃったお三方に完璧な一礼を見せ、反応は上々。というかみなさん本当にかわいらしい方々ですね。私には負けますが。

 

 純玲さんは言わずもがな、執事さんにカッコいいと言ったのは恐らく雛さん。髪は明るい茶色のボブヘアー。背は小さくてかわいらしく、目はくりくりしていて鼻と口は小さい。これでもかと庇護欲を刺激される。執事さんは「生意気で面白くてかわいいガキ」と仰っていましたが、なんとなく納得してしまいました。

 純玲さんと雛さんを微笑ましく見守っているのが美優さんだろう。背中まであるふわふわとした黒い髪、下がり気味の眉に、おっとりとした垂れ目。大和撫子選手権があれば優勝を搔っ攫うようなお淑やかな方。

 

 このお三方が修羅場になり、傷害事件を起こさないようにするのが私の役目。一見そうなるようには到底思えないが、最近はヤンデレだとかメンヘラだとかよくわからないものが流行っていると聞く。要注意ですね。

 

「私は朝比奈様と西条様とははじめましてですね」

「俺は純玲ちゃんとははじめましてか」

 

 使用人の分際で、坊ちゃんのご学友を下の名前で呼んだ不届きものを制裁するために足を踏もうとすると、軽く避けられた。ムカついて睨んだら、ウィンクして舌をちろりと出す。くっ、顔がいい……!! 許してあげましょう。別に顔がいいからとかじゃなくて、坊ちゃんとご学友の前でみっともない真似はできないからというだけだ。

 

「はい、はじめまして。西条美優と申します」

「四平純玲です」

「あ、朝比奈雛です! よろしくお願いします!」

「ご緊張なさらず。格式が高いように見えますが、ただのご友人の家だと思っていただいて構いません」

「割ったらマズい壺とか落としたらマズい絵画とかは片づけてる。万が一があった時に責任感じさせたら申し訳ねぇからな」

「執事さん、敬語」

「俺みたいなやつが敬語遣ってると、それこそ緊張させちまうだろ? 俺が形式守って緊張させるくらいなら、守らねぇ方がよっぽどいい」

 

 もっともらしいことを言って笑う執事さんには、執事長から見られていることを伝えないことにしようと決意した。坊ちゃんのご学友で、個人的な関係性があろうとお客様であることに変わりはない。その辺り頭の固いジジイ……執事長は気になさるでしょうし、これは後で大目玉ですね。

 未来の執事さんが磔にされてナイフを投げられて、人間ダーツにされているところを想像しながら坊ちゃんに目配せすると、坊ちゃんが「案内するよ」と言って先頭に立って歩き出す。お三方がそれに続くのを会釈して待ってから、私と執事さんが並んで後ろについた。

 

「坊ちゃん、緊張なさってますね」

「友だちを連れてくんのはじめてだからな」

「聞こえてるぞ!」

「否定はしないんだな」

「……緊張するだろ。はじめてっていうのは事実だし、楽しんでもらえるかなって」

 

 お三方がほんわかする空気を感じる。わかります。坊ちゃんかわいいですよね。

 

 ご自分で仰ったことが恥ずかしくなったのか、少し速足になってからすぐにペースを元に戻し、そのまま歩き続けると目の前に簡素な扉が見えてくる。執事さんが前に出て扉を空けに行こうとするのを手で制し、抗議の目を向けてくる執事さんに「坊ちゃんのお友だちですから」とアイコンタクト。主人が入られる扉を開けるのは正しい行為ですが、それは応接室や客室などの場合の話。お友だちを部屋に招くのであれば部屋の主が扉を開けるのが普通だ。緊張云々言っておいて、執事さんはその辺りをわかっていない。友だちいなかったんですかね?

 

「どうぞ、入って」

 

 少し固くなっている坊ちゃんを微笑ましく思いながら、お三方が口々に「おじゃまします」と言って入っていくのを頭を下げて見送って、扉が閉まる音を聞いてから頭を上げる。お見送り完了。

 

「さて、お茶菓子の準備でもするか」

「いえ、それは他のメイドに任せました。私たちはこちらへ」

「は?」

 

 執事さんの手を引いて、「情熱的だな」とからかわれてすぐに手を離し、ぱたぱたと顔を仰ぎながら少し離れたところにある部屋に入る。

 お屋敷にいくつかあるうちのフリールーム。使用人が好きに使うことができて、予約制でその時々によって好きな使い方ができる素晴らしい部屋。そこに、複数のモニターがずらりと並べられていて、そこには坊ちゃんの部屋が映し出されていた。

 

「よし、完璧ですね」

「確かに、犯罪の証拠としてはこれ以上のものはねぇな」

「はい。万が一が起きた時はこの映像が証拠になります」

「テメェだよ犯罪者。どういうことだこれ。流石にマズいだろ」

「坊ちゃんの身の安全を心配することの何がマズいんですか。執事さんには使用人の自覚が足りませんね」

 

 坊ちゃんがご学友と遊ぶところを、部屋に入って邪魔するのはよくない。であれば、坊ちゃんの部屋を監視すればいい。実に自然ですばらしいアイデア。ちなみに、坊ちゃんがお迎えに上がられている隙に設置した。これが知られたらメイド長に死ぬほど怒られるから、知っているのは私と執事さんだけだ。もしもの時は泣いて「し、執事さんがやれって……」と崩れ落ちれば擦り付けられる。完璧な計画過ぎて惚れ惚れしますね。

 

「こんなことするくらいなら部屋に入れてもらった方がいいだろ」

「坊ちゃんの邪魔をしていいとでも言うのですか?」

「邪魔しなきゃ何してもいいってわけじゃねぇだろ。モニター消すぞ」

「ま、待って!」

 

 モニターを消そうと動き出した執事さんの服の裾を握ると、執事さんがぴたっと止まった。あれ、待ってくれた。どうせ振り払って「黙れカス」くらい言われると思っていたのに。やはり執事さんも坊ちゃんが心配なんですね。よく考えれば執事さんは男性で、お三方は女性。のぞき見するようで悪いという気持ちが働いていたのでしょう。そこは私も配慮が足りなかった。反省しなければ。

 

「あのなぁ……坊ちゃんを信じてやろうぜ? 瑠璃が危惧してるようなことは起きねぇよ」

「確実にないと言い切れますか? 言い切れないでしょう。人間とはそういうものです」

「やめねぇと今すぐメイド長に告げ口する」

「流石にやりすぎだと思っていたんですよね。やはり執事さんに相談して正解でした」

 

 口封じにぶちのめすという選択肢もあったけど、密室殺人をするにはリスクが高い。私は泣く泣くモニターの電源を落とした。カメラ、高かったのに……。

 こうなったら、代わってもらった手前申し訳ないですが、お茶菓子を持っていく役を返してもらうしかない。そうしなければ坊ちゃんとお三方のご様子を伺えない。

 

「行きますよ、執事さん」

「お前は俺を振り回すのがうまいな」

「振り回されるのが好きなくせに」

「なんだそれ、かわいいな」

 

 いつもの仕返しにちょっとからかってやろうとしたら思いきりカウンターをくらって、全力ダッシュでその場から逃げ出した。あの執事、ムカつく!!

 走っているところをメイド長に見られるとマズいので、すぐに走るのをやめて歩き出し、「あとでお話があります」と言っているメイド長に頭を下げて震えながらキッチンへ向かう。怒られるのがわかってやめたのに、それを見られているなんて運が悪い。私の命日は決まった。

 

 途中で交代を頼んだ同僚に会い、かくかくしかじか。もちろん坊ちゃんの部屋にカメラを仕掛けたのは伏せて伝えると、自分勝手なお願いにも関わらず快く了承してくれた。メイド長が口うるさいことを除けば、本当にいい環境ですね。

 

 シェフからお茶菓子を受け取り、ティーワゴンに乗せて坊ちゃんの部屋へ向かう。その途中でメイド長が「あとでお話があります」となぜかもう一度伝えに来て私の恐怖を煽り、坊ちゃんの部屋の前まで行くと執事さんが待っていた。

 

「まさか、告げ口していませんよね」

「さっきメイド長と会って何か変なことしてなかったか聞かれたけど、してねぇよ」

「ならいいです」

 

 坊ちゃんの部屋の前に立ってノックする。中から「入っていいよ」と声が返ってきてから、「失礼いたします」と断りを入れて扉を開けた。

 

「ご歓談のところ失礼いたします。お茶菓子をお持ちいたしました」

「ありがとう。ごめん、わざわざ持ってきてくれて」

「いえいえ、メイドとして当然のことです」

 

 どうやら学生らしくお勉強中のようで、雛さんが美優さんにいじめられているところのようだ。雛さんはお勉強が苦手で、美優さんは得意。覚えました。

 それにしても、こういう時までお勉強とは。もう少し子どもらしく遊んでもいいでしょうにと思っていると、純玲さんが私をちらちら見ているのに気づく。何かを言いたいけど、気を遣って言えない、といったご様子。出過ぎた真似ではありますが、伺ってみましょう。

 

「純玲さん、どうかなさいましたか?」

「あ……い、いえ、その……」

 

 聞いてみても、まだ言いづらそうにもじもじしている。鼻毛が出ている、とかですかね? メイドたるもの、主人の格を下げるような真似はしないようにと普段から身だしなみには気を付けていますが……。

 

「瑠璃姉。純玲が一緒に遊びたいんだって」

「み、湊斗くん!」

「私と?」

「あ、は、はい……その、瑠璃さんともっと仲良くなりたくて……」

「かわいい」

「え?」

「いえ、私はメイドですから。光栄ですが、失礼ながらご遠慮いたします」

「……そう、ですよね」

「うそです」

 

 しゅんとして純玲さんを見てめちゃくちゃ申し訳なくなって、気づけば遠慮を撤回していた。でも、私悪くないと思うんですよ。年下の女の子からのかわいらしいお願いを無下にするなど、それこそメイドの名折れというもの。坊ちゃんのご学友には気分よく帰っていただかなければ。というかかわいすぎませんか? 私ともっと仲良くなりたい? なりましょう。なんなら私のことをお姉ちゃんと呼んでいただいても構いません。

 

「あ、それなら蓮さんもお願いします!」

「そうだね。せっかくだし蓮兄も一緒に」

「承知いたしました」

 

 それに、これで監視カメラなどではなくちゃんと坊ちゃんたちのご様子を観察……見守ることができる。私と執事さんがいることによっていつも通りとはいかなくなるでしょうが、それでも見守れないよりは断然いい。

 

 それに、美優さんともお話したいですしね。この中だと、美優さんだけ私も執事さんもしっかりお話したことがありませんから。

 

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