俺の幼馴染がTS転生聖女候補だそうで 作:デデデ
放課後。
決闘である。
わざわざ日を改めるようなものでもないし。
別に見せもんでもなんでもないから許可だけ取って体育館を使うことにした。
この学校では決闘はフリーにして良いことになっている。
ただし試合内容は二点のみ。
一つ。体育館内で、五分間だけ。
勝負がつかなかったら引き分け。
二つ。相手を殺してしまってもいい。
勝敗は好きにつけろ、とのこと。
なんでこんなガバガバルールなのかと言うと、五分だけなら体育館は時間を巻き戻せるからだ。
仮に生徒が死んだって問題ないのである。
原理は知らねぇ。
魔法ってそういうもんだし。
真剣で試合できるのは良いところだね。
「武器はどうする?」
「オメェに合わせるよ。同じモンよこせや」
そう言うと、壁に飾っている真剣を一本渡してきた。
半端な長さの両手剣。
バスタードソードってやつだな。
こいつやる気満々だな……。
普通、学生の勝負に得物使うか?
「ダーリン頑張って~~♥」
「お兄様、そんなチンピラなんかに負けちゃダメですよ!!」
「ど、どっちも頑張れ~~」
二階の観覧席にはダスティンの女二人とシェル。
それから話を聞きつけた観客がそこそこやってきてきた。
「レイモンドは魔法貴族の出だと言っていたな」
ダスティンが剣を構えながら聞いてくる。
魔法貴族────この魔法界において十二宗家とも呼ばれる名誉ある家々だ。
たとえばオレのギャランティ家などはその一家に当たる。
シェルの家なんかは代々うちの使用人だしな。
ま、距離感としては隣の家の幼馴染ぐらいのもんだが。
数世代前は魔法貴族と一般魔法師の間には、絶対的な上下関係にあったと聞く。
魔法教会なんかは今も色濃く身分差を気にしたり……。
もっともオレとシェルはそんな事を気にしたことはないが。
「ん? それがどうかしたのか?」
「身分差でいつもシェルフィットさんに言うことを聞かせているんだろうッ!!」
「はぁ!?」
そう言えばこいつ人間界出身だったか。
もはや一般の間じゃあ身分差なんて、ほとんど形骸化されていることなんてわからないか。だいたい、シェルが聖女になったら自由は無けれど、書類上は俺と同等以上の身分になるんだよな。
…………なるほどな。
ここらでいっちょガッツリ言ってやらないと、マジでシェルを聖女にしかねないなこいつ。
「テメェには関係ねぇだろ。だいたいシェルはオレの下にいるのが一番幸せなんだからな!!」
「なっ……!! シェルフィットさんに普段何をしてるんだ、貴様ッ!!」
何って……。
普通にゲームしたり。
勉強教わったり。
街に出かけたり、だ。
ちなみにめちゃくちゃ悔しいんだけど、シェルのやつは勉強だけは出来る。
小学校の頃から高校レベルの問題を解いていたような奴だ。
普段バカなのにな。
ふぅむ、なんて言ってやるか……。
こういう時、相手を怒らせるのがいいのか?
怒らせるってどうすればいいんだ? …………素直に打ち明けよう。まぁ、流石に二人でちょっとエッチな? ノベルゲー? 乙女ゲー? を一緒になってプレイしてるとかは言えないけど。
「ギャハハ!! テメェには到底言えないことだよ!!」
「なっ……!!」
「まぁ、安心しろよ。いつもヘラヘラ喜んでるぜ? 本当に楽しそうになぁ!」
「貴様ぁあああああああああああああ!!」
そのままダスティンが斬り掛かってきた。
なんだよ、今の会話で怒るところあったのかよ。
…………気に入ってる女が他の男と楽しく遊んでたらムカつくか。
これはオレの配慮が足りなかったな、うん。
ガギィン、と互いの剣が打ち合う。
おお、なかなかしっかり斬り込んでくるじゃねぇか。
もっとも、オレは実家の方針で剣技ぐらい覚えている。
人間界のトーシローが怒りに任せて振りかぶってくるぐらいじゃあ、到底倒せない。
「ハッ!! 庶民のいい子ちゃんは剣術なんて習ったことねぇだろ!!」
「くっ……!!」
「下半身ががら空きなんだよ!!」
ダスティンの腹部に膝蹴りを加えて、吹き飛ばす。
そのままゴロゴロと床を転がっていくダスティン。
一発強めのを入れすぎたか?
……いや、時間が巻き戻るんだから、ここは容赦なしだ。
怪我させるとか、そんな心配はしなくて良い。
立ち上がり、再び剣を構えるダスティン。
ここからが本番だな。
「ハァ……!! 本気を出すぞ、レイモンド」
「おぉ、来いよ」
そう言うと、ダスティンの体を強大な魔力が覆う。
流石はシェルいわく主人公様、というやつだ。
逆にオレの魔力量はそれほど多くない。
もちろんダスティンと比べて、の話だ。
学年じゃあ一応上位の魔力量にはなる。
オレも魔力を腕と剣に纏わせる。
────ガギィン、と再び剣が打ち合った。
チィ……太刀筋を見切るのは容易いが、普通に力が強いな。
このままだと押し負けそうだ。
「どうした、レイモンド。固有魔法を使わないのか?」
ニヤリ、とダスティンが笑う。
オレはコイツの固有魔法を知っている。
当然、向こうもだ。
オレの固有魔法は【無敵】。
光り輝くオーラを纏い、あらゆるモノを弾き飛ばす。
対して、ダスティンの固有魔法は【虚無】。
要するに────あらゆる魔法を消してしまうのだ。
あいつの【虚無】はオレが【無敵】を使わない限り、何の意味もない。
しかしあいつには一般魔法と強大な魔力がある。
つまるところ。
剣技以外は不利な戦いを強いられているのが、今のオレだ。
だけれども、消されるのなら消されるなりの使い道ってのがある。
「────────っ!?」
オレの膂力が強くなったことに気づき、ダスティンが後ろに下がった。
別に剣を【無敵】にしたわけじゃない。
「おまえの【虚無】、おまえの魔力が触れてないと使えないんだろ?」
「…………答える必要はない」
「そうだと仮定して、オレの剣を弾くように【無敵】化したってわけさ」
つまりオレの方を向いている刃、そこに当たるように空気を【無敵】化したのだ。
すると刀剣は前に弾かれる。
鍔迫り合っていた剣は、相手を押し飛ばす。
これで剣術の有利は取れたな。
「その程度の小細工で、勝ったつもりか?」
「あぁ?」
「そんなもの────こうすればいい!!」
ダスティンが突きの構えをとる。
さらにそのまま剣に分厚い魔力を纏わせた。
なるほど……防いだ剣の周囲ごと無力化しようってわけか。
さらにそもそも鍔迫り合いという余地をなくす。
徹頭徹尾、膂力でゴリ押ししてくる気だな。
だが…………。
「その構え、弱点があるぜ?」
「戯言を!!」
次の瞬間、オレは足元に【無敵】のオーラを集め、吹き飛んだ。
【無敵】は要は反発力。
オレ自身を弾くように使えば、こうした加速も可能ってあわけだ。
そしてダスティンの構えは────急に背後を取られても対処できない!!
「くっ────!!」
しかしダスティンはオレの予想以上に素早く背後を向いた。
なるほど、全体を強化しているから方向転換の速度もあるのか。
そのまま横薙ぎに一閃してきた、が────。
オレはそれをしゃがみこんで回避し、剣をそのまま【無敵】化させた。
あいつの魔力に当たれば【無敵】化は解除される。
だが、床にはその限りではない。
床を反発させ、えぐり取るように地面から切り上げる!!
「がぁっ────!?」
それはダスティンの胸から肩にかけてを縦一閃に切り捨てた。
ダスティンはそのまま血を吹き出しながら、地面に倒れた。
同時に時が戻っていく。
ダスティンの傷も、切り上げた床の傷も元のように修復された。
「勝負はオレの勝ちだな」
観客席で見ていた三人が降りていた。
ダスティンはないはずの痛みに悶えつつもなんとか立ち上がる。
それを心配して、ハーレムの二人が両肩を掴んだ。
「だ、ダスティン、大丈夫?」
「あ、ああ……」
最後の一撃が見えたのか、オロオロしながらダスティンの負傷を確認するシェル。
そこは勝ったオレのところに来てくれない?
寂しいんだが……。
まぁ、あんな負傷したやつに駆け寄ってしまうのはわかるけど。
時間逆行で元通りなんだし。
オレはちょっとムッとして、シェルの肩に手を回した。
「に゛ぇ゛っ゛!?」
「じゃ、二度とシェルに色目使うんじゃねぇぞ~~?」
行こうぜ、と声をかけてオレはシェルをそのまま引っ張っていく。
さすがにダスティンが気になるのか、オロオロと振り向くシェル。
「くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ダスティンはと言うと、なんか床を思いっきり叩いていた。
そんなにシェルを色目で見れないのが嫌なのかよ……!!
周りの女の子はここぞとばかりに「ダーリン、気にすることないよ」とか「お兄様には私たちがいますよ……」とか言っている。やはりムカつくやつらだな。
剣を置いて体育館を出ると、シェルがなにやら悩ましげに首を傾げていた。
「どうした?」
「このイベント……レイが負けるはずだったんだけどね……」
「おっ、未来を変えちまったか~~」
というかオレが負けるとわかってて、「どっちも頑張れ~」とかほざいてたのかコイツ。
本当にグズ子だな、まったく。
「オレがどう負ける予定だったんだよ」
「【無敵】に頼りすぎて、無効化されて負けるはずだったんだよ」
「無効化されるのがわかってるのに? バカじゃねぇの?」
そりゃあちゃんとクラスメイトのことも調べず、自分の力を慢心するようなカスだ。
第一、オレの【無敵】ってずっと続けちゃいられないんだよな……。
弾く威力によって魔力消費も大きくなるし。
何なら使わずに魔力で防いだほうがいいこともある。
「レイってなんか、原作以上に魔法使いこなしてない?」
「おまえが頻繁にダメだしするからだろ」
本当にこいつはちょくちょくダメ出ししてくるのだ。
一度、【無敵】の破り方があるとか言い出した時は、本当に破られた。
環境を利用したハメ殺しみたいなものだったが。
「…………じゃあぼくのせいで原作変わってない?」
「変わってるかもな」
「まずくない?」
え~~っと、今回オレがダスティンに負けていたら……。
まぁ、多分シェルがあいつのハーレム入りしていたんじゃなかろうか。
つまりゆくゆくは聖女にされ、その後はどうだがわからんが……。
「いいんじゃね?」
「いいかなぁ!?」
「いいんだよ」
ギャハハハハ、と笑いながらオレはシェルの肩をベシベシ叩いた。
周りからは気弱な美少女を抱き寄せて、学園内を闊歩するチンピラに見えたかもしれない。
実際、そうなので問題ない。
「しかし妙だね……」
「何が?」
「原作だとぼく、レイに本当に酷い目に合わせられてるはずというか……」
「え、なんで……?」
オレがシェルを酷い目に合わせる理由なんて無い。
いかにムカつこうが、親しい女を殴っちゃいけない。
オレは姉からそう教えられているからな。
もしかしてこの決闘までに既に闇落ちしているとか?
ありうる……。
くそっ、なんてやつらだ。魔族。
「具体的に、どう酷いんだよ」
「とても人に言えないことを二人きりで無理やりやらされてたような……」
「エロゲーを?」
オレたちが一緒にやってるのは未成年でもOKな乙女ゲーだが。
ま~~キスとか色々しているゲームだけど。
「……あ、ぼく原作だとちゃんと女の子だから、あんなんでもそりゃあ嫌か。あはは」
何いってんだこいつは、と思った。
オレがちゃんとした女の子にエロゲーなんてやらせるはずがない。
第一、アレを持ってきたのはコイツだし。
エロゲーじゃなくて乙女ゲーだし。
「────────ん?」
「どうした?」
「いや、今、ふと視線を感じたような……」
「まぁ、見られまくってるからな」
主に帰宅中の生徒に。
ヒソヒソなんか噂してるのもいるし。
でも仕方ない。
シェルはちょっと外見と中身が釣り合ってないからな。
ほうっておくと変な男にコロッと騙されてしまう。
こうして牽制しておかないとな。
学園一の不良の犬!!
それぐらいの肩書のほうが変な男が寄ってこないのだ。
……まぁ、オレが学園一の不良かは置いといて。
「…………う~~ん、気のせいかなぁ?」
などとぼやくシェル。
おまえはそんなことよりダスティンとの今後の付き合いを考えといたほうが良い気がする。
あの流れの後でまともに関わってくれるやつは勇者だぞ……。
【無敵】 レイモンドの固有魔法。光り輝くオーラを発揮し、それに触れるあらゆるモノを弾く。
【無効】 ダスティンの固有魔法。自身の魔力を浴びた魔法を無効化する。
【強化】 魔法師ならば誰でも使える基礎の基礎。魔力で肉体を纏い、強化する。
【逆行】 ????の固有魔法。場所と戻す時間をあらかじめ設定する必要がある。
【魔法界】 正確に区切りがあるわけではないが、魔法師たり得るものしか認知できない。
【人間界】 いわゆる現代。魔法界はその恩恵を一身に受けている。
【魔法貴族】十二宗家と呼ばれている。ギャランティ家もその一家である。
【魔法教会】聖女など魔法界の取り決めを行う教会。古の風習にとてもうるさい。
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