パソコンのアプリみたいな能力の魔法少女に懐かれる、先輩魔法少女の話 作:いくらシック
魔法少女は、その名前の通り魔法を使う。
使える魔法は千差万別、その固有の魔法こそが魔法少女の個性とも言える、んじゃない?
知らないけれど。
ともかく。
目の前には、可憐な魔法少女――カレイドスコープがいる。
火花を散らして、変身する派手な魔法少女。
攻撃するときも、火花が弾けていて。
きっと、それらしき魔法を持ってるんだと思ったんだけど。
……聞き間違いかな。魔法を聞いたはずなんだけど。
最近使ってるアプリでも聞いたか?
「…………えと、私の魔法はメモ帳を召喚することができるみたいです。こんな風に」
カレイドスコープが手のひらを開く。
「"ノートパッド"」
その手のひらの上に、メモ帳が出現した。
それを手にとって、ペラペラと真っ白な紙が捲られていく。本当に、メモ帳なんだね、これ。普通の紙っぽそうだなあ。
……さすがに、応用は効かないかもしれない。
いやいやいや、本当にメモ帳召喚するの?
なんで?
この世界の魔法少女って、そんな面白能力みたいな魔法の子全然いないよ?
だいたい、敵と戦うための力だよ?魔女っ子じゃないんだよ?
……うーん、これ大丈夫か?
とりあえず、無難に返すか。
「便利そう、だね?」
「あはは、変な魔法ですよね」
「……そう。まあ、頑張って?」
どう答えていいかわからなくて、首を傾けながらそう答えると、苦笑いを浮かべていたカレイドスコープは、真剣な顔付きになる。
「あ、あの。アイリスクォーツさん!」
「……何?」
ずいっ、と距離を詰めて目の前に来て、私の手を握った。勢いのせいで少し後ずさってしまうけど、私のせいじゃないからね。
「その、先輩って呼んでもいいですか!?」
「はあ、お好きにどうぞ?」
「はい、アイリスクォーツ先輩!」
……キラキラとした視線が眩しい。
やっぱり主役っぽい気がするな、この子。
けれど、このままペースを持っていかれるのは癪なので、少しだけやり返してやるか。
握られている手から、なんとか手を抜け出して。
指で、カレイドスコープの鼻先をつついた。
ぱちくり、と目を見開いている。
「――頑張りなさい、後輩」
少しだけ頬を緩めて、そう言ってやる。
「……はい」
呆けたように、カレイドスコープが頷いた。
まっ、ちょっとだけ活気づけたし。帰ろうかな。
この付近にいるなら、会えるでしょ。
……にしても、メモ帳魔法少女かあ。
せめて、名前と魔法の内容合わせなよ。
◇◇◇
「かっこよかったなあ……」
魔法少女カレイドスコープこと私――
子供が襲われそうで、咄嗟に飛び出して。
初めて魔法少女に変身したばかりで、どうしていいかわからなくて、必死に戦っていたのを助けてくれた人。
魔法少女アイリスクォーツさん、だっけ。
触れると消えてしまいそうなのに、芯は強そうに見えて、不思議な人だった。
まるで、現実味のないその雰囲気に飲まれてしまいそうになる。
――頑張りなさい、後輩
さっきの言葉がリフレインする。鼻をつつきながら浮かべた微笑も、脳裏に焼き付いていた。
……だって、あんなに綺麗な人に、至近距離で言われちゃったらびっくりしてしまう。
本当に、美人だった。アイドルとかやっててもおかしくないぐらい。
青みを帯びた銀糸のような髪に、雪にみたいに白い肌。
まるで、別の世界の人みたい。
変身を解く。どっと、疲労が溜まった気がした。
「おねえちゃん!」
私が助けた子供たちが駆け寄ってきた。二人とも、無事かな?
怪我はなさそうに見える。よかった。
「二人とも無事?」
「うん!」
「ありがとう、おねえちゃん!」
「ううん。二人が無事でよかった。気を付けて帰ってね」
「「うん!」」
……目の前で変身したんだけど、これってバレてるのかな?
にしても、私も魔法少女になったんだ。
正直、魔法少女として活動するなんて、あんまり自信がないけど。
でも――
「あの人に会えるならやってもいいかな」
そんな私の言葉が、ただその場に吸い込まれていった。
……でも、魔法がメモ帳なのはどうしたらいいんだろ。
先輩、教えてくれるかな。
……さすがに、無理かな?
◇◇◇
うーん、メモ帳。メモ帳かあ。
翌日の通学路で、学校に向かっていた。
どうしたものかな、なんて後輩ちゃんの魔法のことを考えている。
メモ帳だけで戦っていけるわけないからね。
とはいっても、魔法少女の魔法って一つじゃない。
魔法には基本魔法と派生魔法があって、戦って強くなっていくごとにこれは増えていく。
あの子のメモ帳を出すのは基本魔法なんだけど。魔法少女を続けていくと、他の魔法もきっと使えるようになるはず。
派生魔法は、基本魔法から派生した魔法だね。だから、あのメモ帳にも別の使い道が用意されててもおかしくない。
……んだけど、基本魔法から逸脱しすぎたものは生まれてこない。だから、そっちはあんまり期待できないかな。
そもそも、メモ帳からどう派生するんだよって話だけれど。
ただ、ちょっと気がかりなのは魔法って、同じ系統で統一されるんだよね。
氷の魔法少女なら全部氷だから。
そうなると、カレイドスコープの魔法は全部メモ帳みたいなの召喚するかもしれない。
それだと、もうどうしていいかわかんないね。
うーん、あんなに主役っぽい子なのにな。あの火花散らしながら殴ってるのに。
なんで君はメモ帳なんて召喚してるんですか?
……あの子に聞いても仕方ないけど。
「えっ先輩……?」
視界の端に、肩まで切り揃えられたような黒髪の活発そうな子を見かけたような気がしたけど、きっと気のせい。
「せん、ぱい……だよね?」
続く声も、面倒なので無視しておいた。
「よっ、アリサ」
「おはよ」
教室に到着すると、すぐに声をかけられた。
派手めの見た目の私と比べると随分と一般的なんだけど、私がおかしいだけなのかも。
というか、私もその愛嬌が欲しかったな。くりくりとした目とか、かわいいじゃないですか。
私ってどうにも近寄りがたいらしいし。
そういう意味では、カレイドスコープも可愛らしい子だったな。演出は派手だったけど。
「昨日、帰りにスタフティと会ってね?」
「……大丈夫だったの?」
「うん。魔法少女に助けてもらったから。かっこいいよねー、魔法少女」
「あ、そう」
それはよかったね、と言うべきなのかはわからないけれど。
魔法少女はこの世界では日常的なものだから、こんな風に普通に会話に出てくる。
こっちからすると、日曜のアニメの話でもしてんのかってね。そういう違和感がある。
「アリサは推しおらん感じ?」
「えー……」
人気な魔法少女はファンが多い。それこそ、配信したりだとかしてるのもいるし。そのせいで、推しとかいう概念が魔法少女に通用するようになってしまったんだよね。
……当事者としては、別に生き残れればなんでもいいよ。
透子が話を続ける。
「私はやっぱり、アレキサンドライトさんとかかなあ」
「……ああ、あのキラキラした」
「キラキラって。魔法少女はだいたいそうでしょうが」
「まあね。他にはいるの?」
「んー、そだね。アイシクルエンジェライトさんとか?」
「名前ながっ」
困ったな、まあまあな魔法少女オタクだ。
私も知らないわけではないけど。アレキサンドライトは、キラキラしてファンサをよくしてるアイドルみたいなやつ。
で、アイシクルエンジェライトは……あんまり知らないや。
そんな風に呑気に聞いていると、次の一言でひっくり返りそうになった。
「あとはやっぱり――アイリスクォーツ様!」
「……ああ、アイリスクォーツか。んん……??」
……聞き間違いかな。
「あの、見た目麗しい容姿に、静かに敵を倒していく優雅さ。かっこいいよね……」
おい待って。何、うっとりしてるんだ。
私だぞ、それは!!
……静かに倒してるのは元気がないだけだから!
「そ、そうなんだ。でもあんまりメディアとかでは見ないよね」
「そう!そこもいいの!ミステリアスな感じがしてね」
おかしいな、たまに名乗ったこともあるけどそんなに知られてるの?
……誰か、私を助けてほしいな。
なぜか、自分自身の魅力を友人から語られる地獄はそのまま続いた。
「にしても、メモ帳か。すごい魔法だな!」
「うわ、テンションたかっ」
「そっちから話を振ってきたんじゃないか!?」
「そうだけど」
帰って家で、ヨーセイに昨日のことをなんとなく話していた。
っていうかさ、昨日お前も見てたんじゃなかったの?
まあ、いいけれど。
「そうなると、派生魔法が気になるな!不思議な紙を出したりとか」
「不思議な紙って、何?」
「……お札とかだろうか?」
「そーですか。ジャンルが違うじゃん」
巫女じゃないんだから。
「っていうか、それならメモ帳とかにならなくない?そもそもね、なに書き留めるんだってね」
ぺろり、と出したアイスを舐める。ひんやりとした冷たさが、ゆっくりと伝わってくる。
「名前とか書くんじゃないか?」
「戦ってる最中に?余裕すぎない?」
アイスって、久しぶりに食べたけど。
あんまり美味しくないかも。
「アイスってうまいのか?」
「普通」
「アリサは何が好きなんだ?」
「辛いものかな。味がするから」
「理由が適当すぎないか……?」
なんだよ、いいだろ別に。味のするものの方が、なんか食べてる気にでしょ。
じーん、と頭に響く痛みを感じながらアイスを完食した。
メモ帳魔法とかの話はもうちょい後です