アプリみたいな魔法使ってる後輩の魔法少女に懐かれた、先輩の私 作:いくらシック
朝起きて、体を伸ばす。
「おはよう、プイプイ」
「早いプイね!」
「最近はね」
私――水鏡涼花は中学三年生で、ちょっぴり秘密のあるだけの女の子。
そんな私の秘密は、魔法少女であること。
「"ノートパッド"」
紙が一枚だけ、その場に出現する。
「部分的に魔法を使う練習プイか?」
「そんな感じ」
でも、私の魔法はメモ帳を召喚するというだけのもので。
その派生の魔法も、一度見た文字を貼り付けるってものだし。
他に何か使い道がないかな、とたまに早く起きては試してる。
魔法少女って、いくつか魔法を使えるみたいだけど。経験を重ねていくうちに使える魔法が増えていく、みたいなものらしいんだよね。
「"コピー&ペースト"」
紙に文字が浮かび上がる。昨日勉強した時に見た文字列が、バーっと紙に書かれている。
なんか、便利かもしれないけど。そういうのが欲しいわけじゃないのに。
背筋に、ぞわりとした感覚が走る。スタフティがやってくる時の、魔法少女だけが感知できるものらしい。
「涼花、行くプイよ!」
「うん、プイプイ」
魔法少女になってから、非日常に足を踏み入れた気がしてたけど。思ったよりも普通っぽい。
危険なことはあるけど、先輩もいるし。
それにしても、魔法少女になってから意外と知らないことがたくさんあることがわかった。
例えば、魔法少女協会っていう魔法少女をサポートする組織があるんだけど。
どうやって魔法少女を把握してるのかな?なんて思ってたら契約妖精から伝えられてるんだ、とかそういう話。
魔法少女協会って、結構色々なサポートをしてくれて。生活が厳しいような魔法少女の支援とか、そういうのもあるんだって。配信活動の支援っていうのは、それも協会がやることなのかはわからないけど。
魔法少女のイメージを悪くしないように、そういったことも必要なのかもしれないけどね。
そんなことをぼんやりと考えながら走っているときに――時空の割れ目みたいなところから、灰色の怪物が飛び出してくるのが見えた。
気持ちにスイッチを入れる。
グッと握ってから手のひらを開くと、そこに光の玉のようなものが出現する。
そして、それは火花を弾けさせて私の胸元まで移動した。
「マジカルスパークル――ブルームアップ」
光が私を包み込んで、変身する。
「魔法少女カレイドスコープ!」
名乗りは、正直いらないと思うけどあった方がいいかなと思って。
――グルルルルル
吠えるように声を上げて、スタフティが地面に降り立った。
口だけ異様に大きくて、目や鼻の見えない奇妙な顔はやっぱり不気味で、いつもこれと戦ってる他の魔法少女たちは、怖くないのかな。
先輩は、涼しい顔して倒してたけど。……そもそも、先輩はいつもそんな感じだからわからないや。
急にほっぺとか触ってくるし……。
っと、いけないいけない。集中しないと。
今日はやりたいことがあったから。
メモ帳に文字を書けるときから、考えていたことがあった。
――もしかしたら、魔法文字も書けるんじゃないかって。
「"ノートパッド"」
手のひらに、メモ帳を出現させる。
そして、その一枚だけをちぎった。
「"コピー&ペースト"」
この派生魔法は、予め何かしておく必要はないみたい。見た記憶のある文字をそこに貼り付けることができる。
その紙に、文字が浮かび上がる。椎名先輩の使ってた魔法文字を。
紙が宙に浮かんで、何か力が集まっていき……光線が発射される。
スタフティの頭部を正確に狙って撃ち抜いた。
「……すご」
こんな簡単に倒せるんだ。
いや、もしかしたら攻撃の魔法を持ってたらこんなものなのかも。
間近で見た魔法って先輩のしかないからわかんないけど。動画で見たことのある魔法少女の活躍シーンだと、魔法でさらっと倒してたからこんなもんなのかも。
――ぴぃぃぃん、と甲高い音が響いた。
「マジカルクリスタル――チェンジアップ」
それと、聞き覚えのある透き通るような声も。
どくん、と思わず鼓動が跳ねた。この場に、先輩がいるから。
「先輩……?」
と、振り返ろうとすると体を突き飛ばされる。
視界が急に揺れて、地面に軽くぶつかった。
いた……くはない。魔法少女の体は頑丈だから。
でもあれ、先輩に突き飛ばされたよね?
なんで?
そう思って、体を起こすと――向こうに吹き飛ばされるスタフティの姿が見えた。蹴り飛ばされてる。
一体じゃなかったんだ。助けられちゃった。
「カレイドスコープ、油断しすぎ」
青みを帯びた銀色の髪が揺れている。レースの手袋とブーツ……先輩――魔法少女アイリスクォーツがそこにいた。
振り返りながら、唇に人差し指を当ててる。こういうポーズをしても、様になっててずるい。
……これはもしかして、先輩って呼んじゃダメみたいなことかな?
「先輩っ」
「先輩じゃないでしょ」
不満そうに先輩の眉が下がる。
「だって、先輩じゃないですかっ」
「……もうそれでいいよ」
ぱちんっ、と先輩が指を弾いた。
「にしても、考えたね。魔法文字を貼り付けるとか。ずるいでしょ」
と言いながら、周囲にクリスタルを浮かせて、そこに文字が浮かび上がった。
そして、スタフティが起き上がってすぐにクリスタルが射撃する。
一瞬にして、スタフティがバラバラに砕けた。
……私が変なことしなくても、普通の魔法少女だとこれでさらっと攻撃できるんだから、別にずるくないと思うんだけどね。先輩の方がよっぽど強いよ。
にしても、やっぱり先輩はかっこいい。
初めて、私を助けてくれた時もそうだけど。こんな綺麗な人が、あっさりと敵を倒してしまってるから。本当に、漫画みたいで夢かと思っちゃったもん。
「カレイドスコープ、大丈夫?」
「はい、先輩っ」
先輩に駆け寄ると、スッと避けられた。
「なっ、なんで避けるんですかっ」
「猪みたいにぶつかってこようとするから」
「私、猪だと思われてます!?」
「冗談だよ。大型犬みたいだとは思うけれど」
くすり、と軽く笑みを浮かべる。……美人だから、ちょっと笑うだけでもすごい綺麗なのずるいと思う。
先輩は、もうちょっと美少女ってことを自覚してほしい。急にかわいいとか言ってくるし。
ぐいぐい近づいても、なんかさらっと受け止められてどうしていいかわからなくなる。
……出会ってまだ数日なのに、先輩に会えるだけでなんか気持ちがポカポカするんだけど、おかしいかな。
憧れた美人の、魔法少女の先輩がいるんだから、こうなってしまうのも仕方ないと思う。
そういえば、魔法少女アイリスクォーツのことを少し調べた。
あんまり人前には出ないみたいで、ひっそりとたまに話題になる魔法少女、みたいな扱いだった。
綺麗な澄まし顔をした、その雰囲気とかが一部に人気があるんだとか。そんな人と知り合ってるので少し優越感。
私との絡みも気になるとか、あるらしいけど。
魔法少女って、一つのコンテンツだから。その魔法少女同士の絡みとかも話題になるんだって。
確かに、有名人同士の関係とか気になるもんね。
「なにボーッとしてるの?」
「いひゃいっ」
急に、頬をつねられた。
「急に自分の世界に入らないで」
「……痛いです」
「ごめんね?」
「いえその……先輩、ありがとうございました。助かりましたっ」
「どういたしまして?」
なんで疑問系なの?
っていうよりも、いきなり頬をつねらないでほしい。びっくりするから。……先輩だからいいけど。
にしても、たまたま気を抜いているときに助けてくれたなんてやっぱり先輩は漫画のキャラみたいなことしてくる。
本当だったら、イケメンのヒーローとかそういうポジションでやってそうだけど。
……ふと思ったけど、先輩のことあんまり知らない。当たり前だけど。
だから、ちょっとだけ知りたくて。先輩に声をかけようとしたその時。
――急に、先輩がふらついた。
「先輩!?」
「……大丈夫だから」
ゆっくりと顔を上げた、先輩の顔が青白い。
変身が解けて、元の先輩に戻る。
「……ごめんね、もう帰る」
「は、はい」
弱弱しく歩いていく、先輩の後姿を。
私は眺めることしかできなかった。