アプリみたいな魔法使ってる後輩の魔法少女に懐かれた、先輩の私 作:いくらシック
体が寒い。ああ、涼花に冷たい言い方してしまったな。
でも、目眩がして。うまく動けなかったから。
せっかく、涼花がちゃんとした魔法の使い方をしてたのに。その話とかもできないまま、帰ってきてしまった。
「契約者!大丈夫か?」
「……うん」
「大丈夫じゃなさそうだな!?」
倒れ込むようにしてベッドに埋もれた。
うまく、体に力が入らない。……たまに、体が虚弱になる。
別に、健康的に問題とかないのに。なんでだろ。
「契約者、痛むところはあるか!?」
「……別に」
「しんどそうだな!?」
「うるさいよ、ヘンテコマスコット……」
「罵倒にも覇気がない……」
体がしんどい。この場所には私しか住んでないし、どうしよ。何も、できる気がしない……。
って言っても、こういうときはいつも寝込んでるだけだけれども。
「ねむい……」
「寝るのか、契約者。せめてもうちょっとちゃんと休んだ方がよくないか」
「体が重くて、もう動かないから」
目蓋が、ゆっくりと閉じていく。
「契約者、急に寝ないでくれないか!?」
「……無理」
「やはり、このときの契約者は魂が弱っているな」
気になることを、ヨーセイが言ってる。でも、それに触れることもできなかった。
私の意識は揺らめいて、それを手放した。
◇◇◇
虚弱になる日はこうやって、よく夢を見る。
ベッドに寝ている女の子の夢を。病弱で、外にも行けなくて。狭い病室でじっと外を見ている女の子。
――前世の私の夢を。
ずっと病弱で、みんなみたいに走り回るだとか。そういったことは何もできなくて、ただ無為に朽ちていくだけの人生を過ごしていた。体が元気になったら、何がしたいかなんて考えていたっけ。
結局、私の体がずっと元気にならないままで。無力をひたすら噛み締める生活をしていた。
やることもなく、じっとしていると腐っていきそうだったから、よく非現実的な想像をしていた。
自分が元気だったらってだけじゃなくて。例えば、そう――魔法少女だったらとか。
そして、理想の見た目になってたら、とか。
急に妖精が現れて、契約して魔法少女にならないかな、と妄想に耽っていた。
結局、目を覚ますと私はベッドに寝ているままでそんなこともなかったのだけれども。
そうして、そんな空想に揺蕩って。私の命はゆっくりと風の前の塵のように消えていった。
だからこうして今、椎名アリサとして生きていくのはまるで夢の中に生きているみたいで、あまり現実感がなくて。
ここは、私の想像の世界なんじゃないか、とたまに思う。
結局、空想みたいに魔法少女になったのに、主人公みたいに活躍しようと思うこともなく。無為に死んでしまうのが怖くて。
私は、ひっそりと魔法少女をしながら、ここまで来てしまった。
そのときにふと思い付いた生存戦略を実施して、涼花と出会ってしまったけれど。
「涼花……」
なんとなく、あの子の名前を呼んだ。
明るくて可愛くて。まるで、主役みたいな女の子。
私が、ああいう性格だったら。主役みたいに活躍してもよかったかな。
なんてね。
「呼びましたか?」
そんなことを思っていたら、急に誰かの声が聞こえた。
涼花の声……?
ゆっくりと、目を開いた。
覗き込むように、涼花がこちらを見てる。
「……なんでいるの?」
「なんででしょうねっ?」
くすり、と涼花が頬を緩めた。
「ここ、私の家なんだけど」
「知ってますよ?契約妖精さんに聞きました」
「……でも入れなくない?鍵掛けてたけど」
「開けてもらいましたよ?契約妖精さんに」
「あいつ……」
気がつけば、ちゃんと寝かされている。
もしかして、涼花がやってくれたんだろうか。
というよりも、寝かしつけられても起きなかった自分自身にびっくりする。そこまで寝坊助でもないし。
それだけ弱ってたってことだろうか。
だからって、勝手に他人を入れないでほしいけれど。しょうがないか。
ゆっくりと体を起こした。眺めているような涼花が少し離れる。
「先輩って、体が弱いんですか?」
「別に、そんなことはないよ。たまにこうなるだけ」
「……そんな状態で魔法少女を?」
「普段はこんなにひどくないの。だから気にしないで」
「気にしますって」
ムッと頬を膨らませている涼花に、誤魔化すようにその鼻先をつついた。
「生意気だよ、後輩」
ぽかん、と口を開けた後に少しだけ頬を紅潮させてる。
「……先輩って調子悪くてもそうなんですね」
「そうって、何?」
「なんでもないですっ」
ぷいっ、とそっぽ向いた。
「涼花をいじめるなプイ!」
「うわっ」
ぼんっ、と急に目の前に契約妖精が出現した。プイプイとか言ってたっけ。
「ちょっと、プイプイ!?」
「涼花、こいつ冷たいプイ!」
「いいからっ!」
「むぐぅ!?」
丸め込まれて、無理矢理鞄の中に突っ込まれていく。すごい強引にいれてるけど大丈夫なの?
まあいいか。疲れたし。
「にしても、涼花面白いことしてたね」
「えっ、なんの話ですっ?」
「魔法文字をメモ帳に貼りつけてるやつ」
「ああ、あれですか」
すぐに寝込んでて忘れてたけれど。面白い使い方だと思う。
でも、そういう使い方もありなんだな、とは思ったけれど。
「他人の魔法を使えるって点では、他の魔法少女にもできないし、意外とすごいんじゃない?」
「えっ、そうですか?でも、一度見ないといけないですしっ」
「そうだね。なんでもコピーできるわけじゃないし。魔法文字を使わない魔法だってあるし」
私の魔法がたまたまそうってだけで、魔法が全部魔法文字を使うわけじゃない。
魔法っていうのは曖昧なもので、発動条件は結構バラバラだったりもする。
現に、カレイドスコープの魔法には魔法文字なんてないものね。
「魔法陣とかだってありますもんね」
「あれはコピーできないの?」
「文字じゃないからたぶん無理ですよっ?」
そういえば、魔法陣を使う魔法少女もいたっけ。私はそういうのじゃないけれど。
魔法陣は、記号や文字らしきものが刻まれているけれど、あれが一種の模様のようになってるから無理なのかな。
「まあともかく、これで君もちゃんと戦えそうだからよかったね?」
「……まあ、そうですね」
とは言っても、課題はあるだろうけれど。
魔法文字をコピーして貼りつけて発動するだけだと、少し遅いし。改善の余地はあるのかも。
にしても。
「……涼花、迷惑かけたね」
「別に、いいですよ。先輩の家の場所知っちゃいましたし」
「そもそもどうやって知ったの、ここのこと」
「先輩の契約妖精が慌てた様子でやってきたので、たまたま近場を通りかかっていた私と出会ったって感じです」
心配してただけだから、ヨーセイのことは許してやるか。涼花に知られたぐらいなら、何か不都合もないし。
「にしても、先輩って一人暮らしなんですね?」
「魔法少女はわりとそんなもんらしいけれど」
「えっ、そうなんですか?」
この反応だと、たぶん涼花は実家なんだろうけれどもね。珍しいね。
「ふぁっ……ねむ」
不意に欠伸が出る。まだ、本調子じゃないみたいだ。
「先輩、寝ますか?」
「うん、ごめんね」
「何を謝ってるのかわかんないですけど、ちゃんと休んでくださいねっ」
ゆっくりと目蓋が閉じていく。何か、頭が撫でられているような気がした。
◇◇◇
……なんか、やらかした気がする。
調子が悪くて寝てただけだけれども。涼花に普段と違うところを見られてしまったし、なんかセンチメンタルになっていた気がする。
しゃっきりしないと。
と、家を出て学校に向かおうとしてる時だった。
「やあっ、ここにいる美しい少女」
なんか変なのに声をかけられた。金色の髪を、肩当たりで切り揃えている少しボーイッシュさを感じる少女だ。
面倒なので無視しようとしたとき――
「――君が、魔法少女アイリスクォーツで間違いないかい?」
無視できない一言が飛んできた。
……また、面倒なことが起こりそうで、私は大きくため息をついた。
投稿ペース上げれるかなと思ったのですが、風邪気味のため上がらず……