黄雷のガクトゥーン異聞 アインクラッドの破壊者 作:OLDTELLER
「ここか──」
俺は《ダイシー・カフェ》の無愛想な黒いドアに掛けられた無愛想な木札に書かれた【本日貸切】という無愛想な字を見ながら、誰言うとなくつぶやいた。
今日はアインクラッドで出会った《白い男》を覚えている者達が、彼に感謝するために集まったオフ会だ。
何故か《白い男》に関する記憶はSAOプレイヤーの大半が失ってしまっていた。
憶えていた者達も不思議に直接的な記憶はあいまいになっていっている。
それは不思議すぎるほど不思議で、一時はそのニュースにとびついたマスコミも、今ではそんなのは幻だった。
集団幻覚の一種だと言い出し、都市伝説になってしまっていた。
それというのも、SAOのデータが全てのコンピューター上から消え、茅場晶彦が逮捕された後も沈黙を守っているために、あの《白い男》の存在を証明するのは、俺達の記憶だけだからだ。
そして、その記憶さえも僅か数ヶ月前の事だというのに、徐々に薄れていっている。
確かにナーヴ・ギアには俺達の脳を焼く仕掛けがしてあったのに、死者が出なかったのも不思議なら、データ消失も不思議。
この事件は謎だらけで終わってしまった。
そして誰もが《白い男》の記憶を不自然に失っていく。
それなのに誰もそのことを気にもとめずにいる。
まるで、あの出来事が御伽噺かなにかだったように。
けれど──確かに俺達はあの《白い男》に救われた。
それを最初に忘れないようにしようといったのは、アスナ。
サークル《白い男研究会》の会長だ。
一時期乱立した《白い男》スレで知り合った女の子で、《白い男》の事を憶えていた俺達は、それに賛同した。
何故かは解らないけれど《白い男》の事を忘れてはならないのだと感じていたからだ。
あの
アスナもそれは同じで、そこから俺達は親しくなり、本名や個人情報を交換するようになっていた。
彼女の本名も
ネットでは何度も会話やチャットをした相手だが、まだ実際に顔を合わせたことはない。
そう。今日、俺達は初めて会うのだ。
柄にもなく緊張で強張った表情を緩め、ドアを開けようとした時。
「キリトくん?」
後ろで電話越しでも綺麗な声だと思ったアスナの声がして────
そうして俺達は出会った。