TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第一部 蒼き日々 第一章 入学 第4話 校内案内

「整列。」

 

十分後。

 

衛士科一年生は本校舎の前へ並んでいた。

 

板垣は腕時計を見て、一人ずつ顔を確認する。

 

「全員いるな。」

 

その一言で列が動き始めた。

 

「付いてこい。」

 

説明はそれだけだった。

 

迅たちは二列になり、校舎の中へ入る。

 

廊下はよく磨かれていた。

 

歩くたびに革靴の音が高く響く。

 

誰も話さない。

 

いや、話せない。

 

板垣の背中がそうさせていた。

 

「右が図書室。」

 

「左が戦術教室。」

 

「医務室。」

 

「以上。」

 

朝倉が小さく口を開く。

 

「説明、短くないか……。」

 

迅は肩を震わせた。

 

「聞こえるぞ。」

 

前を向いたまま、板垣が言った。

 

朝倉はぴたりと口を閉じる。

 

教室のあちこちで笑いをこらえる音がした。

 

本校舎を抜けると、中庭へ出た。

 

石畳の先には大きな池があり、その周囲を桜が囲んでいる。

 

風が吹くたび、水面へ花びらが落ちていた。

 

「きれいだな。」

 

結城が思わず足を止める。

 

「立ち止まるな。」

 

板垣は振り返らない。

 

「はい!」

 

結城は慌てて列へ戻った。

 

朝倉が小声で笑う。

 

「写真撮りたかったな。」

 

「まず没収される。」

 

真壁がぼそりと言う。

 

「だよな。」

 

二人のやり取りに、迅も少し笑った。

 

建物を一つ回ると、遠くから金属を打つ音が聞こえてきた。

 

カン。

 

カン。

 

カン。

 

規則正しい音だった。

 

「整備工場だ。」

 

板垣が初めて足を止める。

 

工場の大きなシャッターは開いていた。

 

中では整備科の学生たちが教官の指導を受けている。

 

「うわ……。」

 

朝倉が思わず声を漏らす。

 

壁一面に並ぶ工具。

 

作業台。

 

分解された戦術機の脚部。

 

迅も思わず見入ってしまう。

 

その時だった。

 

「あ。」

 

聞き覚えのある声がした。

 

工場の奥から神谷がこちらを見ていた。

 

帽子をかぶり、作業服姿になっている。

 

神谷は嬉しそうに手を振ろうとして――

 

「神谷。」

 

教官の低い声が飛ぶ。

 

「よそ見。」

 

「……はい。」

 

神谷はぴたりと動きを止めた。

 

その様子を見て、迅は思わず吹き出す。

 

神谷も困ったように笑うしかない。

 

「知り合いか。」

 

九条が小さく尋ねた。

 

「ああ。」

 

「今朝、校門で。」

 

「整備科なんだ。」

 

九条は神谷を見つめた。

 

「明るい奴だな。」

 

「たぶんな。」

 

迅は笑う。

 

「朝からあんな感じだった。」

 

整備工場を離れ、一行はさらに歩く。

 

やがて校舎が途切れ、目の前が大きく開けた。

 

そこには、巨大な建物が静かに佇んでいた。

 

誰も言葉を発しない。

 

朝倉でさえ口を閉じている。

 

鉄骨で組まれた高い壁。

 

何台もの大型車両が入れるほどの幅を持つシャッター。

 

建物全体から、圧倒されるような存在感が漂っていた。

 

迅は自然と見上げる。

 

(大きい……。)

 

板垣も格納庫を見上げた。

 

「実機格納庫。」

 

その一言だけだった。

 

朝倉がごくりと唾を飲む。

 

「中には……。」

 

誰も続きを言わない。

 

言わなくても分かる。

 

ここにあるのは、彼らが憧れる戦術機だ。

 

迅は無意識に一歩踏み出しかけた。

 

「止まれ。」

 

板垣の声だった。

 

足が止まる。

 

「一年生は立入禁止。」

 

静かな声だった。

 

怒鳴ってはいない。

 

だが、それ以上進もうと思う者は誰もいなかった。

 

「……行くぞ。」

 

板垣が歩き出す。

 

迅は最後にもう一度だけ格納庫を見上げた。

 

シャッターは閉ざされたまま。

 

中は何一つ見えない。

 

それでも、不思議だった。

 

いつかあの扉が開く。

 

その時、自分はここに立っている。

 

そんな確信にも似た気持ちが、胸の奥で静かに芽生えていた。

 

「武田。」

 

朝倉が小声で言う。

 

「何だ。」

 

「俺たち、あと二年我慢だな。」

 

迅は少し笑った。

 

「いや。」

 

「あと二年じゃない。」

 

「二年頑張れば、だ。」

 

朝倉は一瞬きょとんとしたあと、笑った。

 

「違いない。」

 

五人は板垣の背中を追いかける。

 

春の風が吹き抜け、桜の花びらが静かに格納庫の前を舞っていた。

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