TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
校内案内を終えた頃には、時計の針は正午を回っていた。
どこからともなく鐘の音が響く。
その音を聞いた瞬間だった。
「昼飯だ!」
朝倉が勢いよく声を上げた。
「やっと飯だ!」
「静かにしろ。」
真壁が呆れたように言う。
「だって腹減っただろ!」
「朝から緊張しっぱなしだったし!」
「それは否定しない。」
結城が苦笑した。
迅も正直なところ、かなり空腹だった。
校内を歩き回っただけなのに、思っていた以上に疲れている。
「付いてこい。」
板垣はそれだけ言って歩き始める。
新入生たちは食堂へ向かった。
食堂は想像以上に広かった。
天井は高く、窓から差し込む春の日差しが床を明るく照らしている。
長いテーブルが何列も並び、すでに上級生たちが昼食を取っていた。
迅は思わず周囲を見回した。
「すごいな……。」
「田舎の学校とは違うな。」
朝倉も感心している。
その時、カウンターの向こうから威勢のいい声が響いた。
「次!」
トレーを受け取り、列に並ぶ。
今日の献立は白飯、味噌汁、焼き魚、肉じゃが、それに小鉢が一つ。
派手ではない。
だが、湯気の立つ味噌汁の匂いだけで腹が鳴りそうだった。
朝倉は受け取るなり顔を輝かせる。
「うまそう!」
「まだ食ってないだろ。」
迅が笑う。
「見れば分かる!」
「お前は幸せな奴だな。」
「よく言われる!」
五人は空いている席へ腰を下ろした。
「いただきます。」
自然と声が揃う。
朝倉は真っ先に箸を動かした。
「うまっ!」
一口目で満面の笑みになる。
「やっぱ飯は最高だ!」
真壁がため息をつく。
「まだ一分も経ってないぞ。」
「うまいもんは、うまいうちに食う!」
「意味が分からん。」
結城が吹き出した。
九条も黙って食べていたが、小さく口元を緩めている。
迅はその様子を見て笑った。
「九条。」
「何だ。」
「笑うんだな。」
九条は箸を止めた。
「私を何だと思っている。」
「いや。」
迅は少し考える。
「もっと固い奴かと。」
「よく言われる。」
九条は真顔で答えた。
「実際は違うのか?」
「……自分では分からない。」
その返事に、今度は五人全員が笑った。
「武田!」
食堂の入り口から聞き覚えのある声が飛んできた。
神谷だった。
作業服姿のまま、トレーを片手にこちらへ歩いてくる。
「隣、空いてる?」
「いいぞ。」
迅が答えると、神谷は嬉しそうに腰を下ろした。
「衛士科はどうだった?」
朝倉が答える。
「歩いた。」
「歩いた。」
「また歩いた。」
神谷が笑う。
「こっちは工具の名前を覚えろってさ。」
「もう頭がいっぱい。」
「覚えられたのか?」
迅が聞く。
「半分。」
「いや、三分の一くらい。」
「正直だな。」
九条がぼそりと言う。
神谷は味噌汁を飲みながら肩をすくめた。
「でも教官が言ってた。」
「『工具の名前を覚える前に、一緒に働く仲間の名前を覚えろ』って。」
迅は箸を止めた。
「そんなことを?」
「うん。」
神谷は頷く。
「工具は棚を見ればある。でも、仲間は代わりがいないって。」
その言葉に、五人は少し黙った。
朝倉がぽつりと呟く。
「……いい教官だな。」
「だろ?」
神谷は少し誇らしげだった。
食堂には、学生たちの笑い声や食器の触れ合う音が響いている。
窓の外では桜が揺れ、柔らかな春の風が吹き抜けていた。
迅は茶碗を手にしながら思う。
朝は知らない者ばかりだった。
それが半日で、こうして同じテーブルを囲んで笑っている。
二年間という時間は、きっと長い。
でも、その始まりは案外こんなものなのかもしれない。
何気ない昼食。
何気ない会話。
その積み重ねが、いつか「仲間」と呼べる関係になっていく。
迅はもう一度、「いただきます」と心の中で呟き、温かい味噌汁を口へ運んだ。