TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
翌朝のホームルーム。
教室へ入ると、いつもとは少し違う空気が流れていた。
黒板には何も書かれていない。
板垣もまだ来ていない。
それなのに、誰も騒いでいなかった。
「何かあるな。」
朝倉が小声で言う。
「たぶん。」
迅も頷いた。
昨日の五キロ走が終わったばかりだ。
今日は何をやらされるのか、誰にも分からない。
ガラリ。
扉が開いた。
板垣は教壇へ立つと、出席簿を置き、黒板にゆっくりと四文字を書いた。
班編成
教室がわずかにざわつく。
「静かに。」
一言で空気が戻る。
板垣は出席簿を開いた。
「本日より、訓練の一部を班単位で実施する。」
「班は卒業まで変更しない。」
迅は思わず背筋を伸ばく。
卒業まで。
その言葉が思っていた以上に重く感じた。
「第一班。」
名前が読み上げられていく。
教室のあちこちで立ち上がる音がする。
「第二班。」
まだ呼ばれない。
朝倉が落ち着かなさそうに膝を揺らした。
「武田。」
「はい。」
「第三班。」
迅は立ち上がる。
「九条。」
「はい。」
「朝倉。」
「はい!」
「真壁。」
「……はい。」
「結城。」
「はい。」
五人が教壇の前へ並ぶ。
板垣は一人ひとりの顔を見たあと、九条へ視線を向けた。
「九条。」
「はい。」
「班長を命ずる。」
「了解しました。」
返事に迷いはなかった。
迅は小さく納得する。
やはり九条だった。
誰が見ても一番適任だ。
板垣は続ける。
「班長は命令するためにいるのではない。」
九条の表情が少しだけ引き締まる。
「班員を無事に帰すためにいる。」
「肝に銘じろ。」
「はい。」
板垣は五人を見回した。
「お前たちは今日から同じ班だ。」
「互いの長所を知れ。」
「短所も知れ。」
「それを隠すな。」
「補え。」
短い言葉だった。
しかし、その意味は誰にも分かった。
「席を移動。」
五人は教室の後ろへ机を寄せる。
しばらく沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは、やはり朝倉だった。
「班長。」
九条が顔を上げる。
「よろしく。」
「こちらこそ。」
「堅いなぁ。」
朝倉が笑う。
「もっと気楽でいいじゃん。」
九条は少し考え、
「努力する。」
と答えた。
その真面目さに、迅は思わず笑ってしまう。
「武田。」
「何だ。」
「笑ったな。」
「少しだけ。」
「失礼だ。」
九条はそう言ったが、口元は少しだけ緩んでいた。
「俺は朝倉健。」
朝倉は胸を叩く。
「体力だけは誰にも負けない。」
真壁がぼそりと呟く。
「三周でばてた。」
教室に笑いが広がる。
「それは忘れろ!」
朝倉が抗議する。
結城も笑いながら頭を下げた。
「結城隼です。」
「よろしくお願いします。」
真壁も短く続く。
「真壁翔。」
「以上。」
「短いな。」
朝倉が苦笑すると、
「必要なら、そのうち話す。」
真壁はそう答えた。
最後に視線が迅へ集まる。
「武田迅。」
「……よろしく。」
それだけだった。
少し物足りなかったのか、朝倉が笑う。
「お前も短いじゃん。」
「人のこと言えないだろ。」
「確かに。」
また笑いが起きる。
その様子を教壇から見ていた板垣は、何も言わなかった。
ただ一度だけ、小さく頷く。
その日の放課後。
五人は並んで寮への道を歩いていた。
会話は途切れたり続いたり。
沈黙になっても、不思議と気まずくはない。
まだ出会って数日。
互いのことなど、ほとんど知らない。
好きな食べ物も。
家族のことも。
夢も。
何一つ知らない。
それでも、この日から彼らは「第三班」になった。
卒業の日まで。
そして、その先の未来へ続く絆が、この春の日に静かに結ばれたことを、まだ誰も知らなかった。