TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第一部 蒼き日々 第二章 五人一組 第13話 初めての班行動

「第三班。」

 

翌朝、板垣の声が演習場に響いた。

 

「前へ。」

 

「はい。」

 

九条を先頭に、迅、朝倉、真壁、結城が一歩前へ出る。

 

春の日差しは柔らかい。

 

だが、朝の空気はまだ冷たく、頬を撫でる風が身を引き締めた。

 

板垣は五人を見渡す。

 

「今日から班単位で行動する。」

 

「班長。」

 

「はい。」

 

「前へ。」

 

九条が一歩進み出る。

 

「班長は命令を出す者ではない。」

 

板垣は静かな声で言った。

 

「班員が実力を発揮できるよう整える者だ。」

 

「覚えておけ。」

 

「はい。」

 

板垣は今度は四人へ目を向ける。

 

「班員。」

 

「はい。」

 

「班長を支えろ。」

 

「命令に従うだけでは足りん。」

 

「足りないところを補え。」

 

「以上。」

 

それだけ言うと、板垣は訓練区域の地図を九条へ渡した。

 

「演習場北側。」

 

「資材庫から訓練資材を受領し、指定場所まで運べ。」

 

「制限時間三十分。」

 

「始め。」

 

九条は地図を一度見てから顔を上げた。

 

「まず資材庫へ向かう。」

 

「急ぐが、走らない。」

 

四人が頷く。

 

まだぎこちない。

 

それでも五人は同じ歩幅で歩き始めた。

 

資材庫には木箱が十個積まれていた。

 

教官が紙を見ながら言う。

 

「第三班。」

 

「この六箱だ。」

 

朝倉が箱を持ち上げる。

 

「重っ!」

 

思わず声が漏れた。

 

「訓練用砂嚢だ。」

 

教官は表情を変えない。

 

「戦場ではもっと重い。」

 

朝倉は苦笑しながら箱を抱え直した。

 

「言われると思った。」

 

真壁は黙って二箱持ち上げる。

 

結城も一箱を抱えるが、少しふらついた。

 

迅はその様子を見て近寄る。

 

「持てるか。」

 

「だ、大丈夫。」

 

そう言ったものの、腕は震えている。

 

迅は何も言わず、自分の箱を地面へ置いた。

 

「一つ替わる。」

 

「でも……。」

 

「遠慮するな。」

 

結城は少し迷ってから頷いた。

 

「ありがとう。」

 

その様子を九条は黙って見ていた。

 

「武田。」

 

「何だ。」

 

「自分は大丈夫か。」

 

「平気。」

 

迅は笑う。

 

「それならいい。」

 

九条はそれ以上何も言わなかった。

 

目的地までは緩やかな坂道だった。

 

朝倉が先頭で歩く。

 

「このくらいなら余裕だな。」

 

言った直後だった。

 

足元の小石を踏み、体がぐらりと傾く。

 

「おっと!」

 

箱は落とさなかった。

 

だが、その拍子に帽子が転がっていく。

 

「朝倉。」

 

真壁が呆れたように言う。

 

「口を動かす前に足を見ろ。」

 

「面目ない。」

 

朝倉が帽子を拾いに走ろうとした瞬間、迅が先に拾い上げていた。

 

「ほら。」

 

「悪い。」

 

帽子を受け取りながら朝倉が笑う。

 

「借り一つだな。」

 

「昼飯のコロッケ二個で返せ。」

 

「また増えた!」

 

五人から笑いがこぼれた。

 

その空気を壊さないように、九条も小さく口元を緩める。

 

「武田。」

 

「ん?」

 

「資材を運び終えたら、帰りは隊形を変える。」

 

「朝倉を最後尾に。」

 

「聞こえてるぞ!」

 

朝倉が抗議する。

 

「信用ないなあ。」

 

「なくしたのは自分だ。」

 

真壁の一言に、また笑いが起こった。

 

演習場の隅で、その様子を板垣が見ていた。

 

隣にいた補助教官が口を開く。

 

「第三班、まだまとまりませんね。」

 

板垣は腕を組んだまま答える。

 

「当たり前だ。」

 

「昨日できた班だ。」

 

少し間を置いて続ける。

 

「だが。」

 

補助教官が板垣を見る。

 

「歩幅は合ってきた。」

 

第三班の五人は、それぞれの速さで歩いていた。

 

それでも、不思議と列は乱れない。

 

誰かが速ければ、誰かが少し歩幅を狭める。

 

誰かが遅れれば、誰かが速度を落とす。

 

まだ自覚はない。

 

だが、それこそが班になるということだった。

 

春風が吹く。

 

桜の花びらが、五人の肩へ静かに舞い降りた。

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