TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
午前の訓練を終え、第三班は資材庫へ道具を返却していた。
「終わったぁ……。」
朝倉が木箱を下ろし、大きく背伸びをする。
「肩がなくなった気がする。」
「最初からある。」
真壁が淡々と返す。
「そういう問題じゃない。」
迅は笑いながら木箱を積み直した。
その時だった。
「失礼します。」
澄んだ声が演習場に響いた。
自然と全員が声の方を見る。
五人の学生が、演習場へ入ってくる。
先頭に立つ女子学生は、姿勢が驚くほど美しかった。
制服に乱れはない。
歩幅は一定。
後ろを歩く四人も、寸分違わぬ間隔で続いている。
「第一班。」
九条が小さく呟いた。
迅も思わず見入ってしまう。
「すごいな……。」
「全然しゃべらない。」
朝倉まで声を潜めている。
第一班は板垣の前で止まると、一糸乱れぬ動きで敬礼した。
「第一班、集合しました。」
先頭の女子学生が言う。
落ち着いた、よく通る声だった。
「班長、一ノ瀬綾です。」
板垣は小さく頷く。
「遅れなし。」
「はい。」
「始めろ。」
「了解しました。」
それだけのやり取りだった。
しかし、第三班は誰も目を離せなかった。
一ノ瀬が振り返る。
「第一班。」
「開始。」
「了解。」
返事が揃う。
五人は迷いなく動き始めた。
荷物を運ぶ者。
周囲を確認する者。
時間を計る者。
誰一人として無駄な動きをしない。
「なんだ、あれ……。」
朝倉が思わず漏らす。
「機械みたいだ。」
結城も小さく頷いた。
「息がぴったり。」
九条は黙って第一班を見つめていた。
その目は驚きというより、観察する者の目だった。
「班長。」
迅が声を掛ける。
「どう思う。」
九条は少し考え、
「完成している。」
と答えた。
「完成?」
「いや。」
すぐに首を横へ振る。
「完成に近い。」
その違いを、迅はまだ理解できなかった。
資材運搬を終えた第一班が戻ってくる。
第三班の前を通り過ぎる、その時だった。
一ノ瀬の視線が九条で止まった。
ほんの一瞬。
「九条誠。」
突然名前を呼ばれ、九条が立ち止まる。
「はい。」
「班長ですね。」
「そうです。」
一ノ瀬は小さく敬礼した。
「第一班班長、一ノ瀬綾です。」
九条も敬礼を返す。
「第三班班長、九条誠です。」
短い挨拶だった。
それだけで終わるかと思った。
だが、一ノ瀬は第三班全員へ目を向けた。
迅。
朝倉。
真壁。
結城。
一人ずつ静かに見渡す。
最後に迅と目が合った。
「……。」
何も言わない。
すぐに視線を戻した。
「失礼します。」
第一班は、そのまま歩き去っていく。
朝倉が大きく息を吐いた。
「緊張した……。」
「俺、何もしてないのに。」
「威圧感があったな。」
結城も苦笑する。
迅は去っていく第一班の背中を見ていた。
確かに強そうだった。
けれど、それ以上に感じたことがある。
(たくさん練習したんだ。)
歩き方も。
敬礼も。
返事も。
あれは才能だけではできない。
毎日の積み重ねだ。
その時、板垣が第三班の横を通り過ぎる。
「見たか。」
「はい。」
九条が答える。
「憧れるな。」
五人は黙った。
板垣は静かに続ける。
「追いつけ。」
その一言だけ残し、歩いていく。
第三班の五人は、もう一度第一班の背中を見つめた。
その距離は、まだ遠い。
だが誰一人、「届かない」とは思わなかった。