TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
午後の課目は、班ごとの障害走だった。
演習場には丸太、土嚢、壕、木柵が並び、決められた順路を五人全員で突破する。
速さだけではない。
誰か一人でも取り残されれば減点。
班としての完成度が試される訓練だった。
「第三班。」
板垣が告げる。
「準備。」
九条が短く答える。
「隊形確認。」
五人が横一列に並ぶ。
「焦るな。」
九条が全員を見る。
「速さより確実に行く。」
「了解。」
返事が揃う。
少し前よりも自然だった。
その様子を、演習場の反対側から第一班も見ていた。
一ノ瀬は腕を組み、静かに第三班を見つめている。
「気になりますか。」
副班長の男子学生が尋ねた。
「……少し。」
一ノ瀬は視線を外さなかった。
「あの班。」
「まとまり始めています。」
副班長は少し驚いた顔をする。
「まだ昨日できた班ですよ。」
「だからです。」
一ノ瀬は小さく答えた。
「昨日より今日。」
「今日より明日。」
「そういう班は伸びます。」
「始め!」
号令が響いた。
第三班が一斉に駆け出す。
最初の丸太は問題なく越える。
土嚢も順調だ。
「朝倉、少し速い。」
九条が声を掛ける。
「悪い!」
朝倉が歩幅を合わせる。
その時だった。
結城の足が丸太に引っ掛かった。
「しまっ――」
転ぶ。
誰もがそう思った。
だが、その肩を迅が支えた。
「大丈夫か。」
「ご、ごめん。」
「前を見ろ。」
迅は結城を立たせる。
九条はすぐに判断した。
「速度維持。」
「そのまま行く。」
誰も止まらない。
誰も置いていかない。
五人で走る。
それが第三班だった。
訓練が終わると、板垣は記録表を見た。
「第三班。」
五人が整列する。
「順位。」
少し間があった。
「四位。」
朝倉が肩を落とす。
「また真ん中か……。」
「だが。」
板垣は記録表を閉じた。
「転倒者。」
「ゼロ。」
五人が顔を上げる。
「班が崩れた時間。」
「八秒。」
何のことか分からず、迅は九条を見る。
九条も首を傾げていた。
板垣は静かに言う。
「第一回は二十七秒だった。」
朝倉が目を丸くする。
「そんなに。」
「縮まった。」
板垣はそれだけ言うと、次の班を呼び始めた。
褒められたわけではない。
だが五人は自然と顔を見合わせる。
「……少し。」
結城が笑う。
「良くなってるんですね。」
「ああ。」
九条も静かに頷いた。
「少しずつだ。」
その頃。
第一班も訓練を終えていた。
「班長。」
副班長が記録表を見る。
「また一位です。」
一ノ瀬は答えない。
視線は、遠くで笑い合う第三班へ向いていた。
朝倉が何か失敗を話し、武田が笑い、真壁が呆れ、結城が笑顔を見せる。
九条も、その輪の中で小さく笑っていた。
「……。」
一ノ瀬はふと、自分の班を振り返る。
誰もが優秀だ。
誰もが規律正しい。
だが――。
(私たちは。)
その先は口にしなかった。
「班長?」
副班長が不思議そうに尋ねる。
一ノ瀬はいつもの表情に戻り、小さく首を振った。
「何でもありません。」
歩き出す。
だが胸の中には、小さな疑問が残っていた。
強い班とは、何だろう。
その答えを、一ノ瀬もまだ知らなかった。