TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
班対抗演習が終わると、一年生たちは整列した。
板垣は記録表を閉じる。
「本日の演習、終了。」
「解散。」
それだけ告げると、教官たちは演習場を離れていった。
第三班の五人だけが、その場に残っていた。
朝倉は帽子を脱ぎ、頭をかく。
「悔しいな。」
誰も返事をしない。
結城は俯いたまま、自分の靴を見つめていた。
ぬかるみで転びかけた時についた泥が、まだ残っている。
「……ごめん。」
小さな声だった。
「俺が転んだから。」
朝倉はすぐに首を振る。
「違うだろ。」
「でも。」
「違う。」
今度は真壁が言った。
「誰でも転ぶ。」
「俺だって転ぶ。」
結城は黙ったままだ。
迅はしゃがみ込み、結城の靴についた泥を指で払った。
「武田?」
「板垣教官、言ってただろ。」
迅は笑う。
「靴はちゃんと手入れしろって。」
結城も少しだけ笑った。
「そうでした。」
「あとで一緒に磨こう。」
「……はい。」
少しだけ空気が軽くなる。
その様子を見ていた九条は、黙って演習場を見つめていた。
「班長。」
迅が声を掛ける。
九条は振り返らない。
「何だ。」
「考え事か。」
「ああ。」
少し間が空く。
「私の判断が遅かった。」
迅は首を傾げる。
「ぬかるみのことか。」
「そうだ。」
九条は演習コースを見つめたまま続ける。
「あそこへ入る前に止めるべきだった。」
「地面を見ていなかった。」
朝倉が慌てて口を開く。
「いや、俺も気付かなかったぞ。」
「俺も。」
真壁も短く言う。
「全員だ。」
九条は小さく首を振る。
「だから班長がいる。」
その言葉に、四人は黙った。
「班長は。」
九条はゆっくりと言葉を選ぶ。
「班員が見落としたことに気付かなければならない。」
迅は少し考えてから言った。
「そんなの無理だ。」
九条が初めて迅を見る。
「全部は見られない。」
「俺も見落とす。」
「朝倉も。」
「真壁も。」
「結城も。」
迅は四人を見回した。
「だから五人なんじゃないのか。」
朝倉が大きく頷く。
「そうそう!」
「一人で全部やるなら班じゃない。」
真壁も静かに口を開いた。
「九条。」
「班長だから全部背負うな。」
結城も勇気を出して続ける。
「俺も、もっと周りを見ます。」
九条はしばらく何も言わなかった。
やがて、小さく息を吐く。
「……ありがとう。」
その一言だけだった。
しかし、四人には十分伝わった。
夕方。
寮へ戻る途中、五人は演習場の前を通った。
そこには、まだ板垣が一人で立っていた。
「教官。」
九条が敬礼する。
板垣は五人を見る。
「反省は終わったか。」
「はい。」
「何を学んだ。」
九条は一歩前へ出る。
「班長だけでは班は守れません。」
「班員全員で班を守ります。」
板垣は何も言わない。
次に迅を見る。
「武田。」
「はい。」
「お前は。」
迅は少し照れくさそうに頭をかいた。
「もっと周りを見ます。」
「……ただ。」
「助けるだけじゃなくて、危なくなる前に気付けるようになりたいです。」
板垣は静かに頷いた。
「それでいい。」
短い言葉だった。
だが、五人の胸には深く残った。
帰り道。
朝倉が空を見上げる。
「次は勝ちたいな。」
「勝とう。」
迅が答える。
九条も小さく頷いた。
「勝つ。」
その言葉には、今朝までとは違う重みがあった。
五人はもう、同じ方向を見始めていた。