TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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プロローグ 約束 第三話「出会い」

 

「一つ、よろしいでしょうか。」

 

静まり返った会議室に、その声は不思議なほどよく通った。

 

全員の視線が、部屋の後方へ向く。

 

白衣姿の若い女性が立っていた。

 

胸元には見慣れない身分証。

 

帝国軍のものではない。

 

共同研究員。

 

それだけが記されている。

 

「失礼しました。」

 

女性は軽く一礼した。

 

「私は、本日より共同研究に参加いたします、林雪華です。」

 

わずかに異国の響きを残す日本語。

 

しかし、その言葉遣いは驚くほど自然だった。

 

司会の技術将校が頷く。

 

「中国戦術機開発局より派遣された共同研究員です。」

 

部屋の空気が少しだけ変わる。

 

歓迎というよりは、様子を見るような空気だった。

 

林は武田へ視線を向けた。

 

「先ほどのお話ですが。」

 

「武田主任は、生還率を重視すべきだとお考えなのですね。」

 

武田は短く頷いた。

 

「そうです。」

 

「理由を、お聞きしても?」

 

会議室は再び静かになる。

 

武田は少しだけ考え、窓の外へ目を向けた。

 

滑走路では、一機の吹雪が着陸していた。

 

脚部から白い蒸気が立ち上る。

 

整備兵が駆け寄る。

 

その光景を見つめたまま、武田は言った。

 

「昨日、一機帰ってきました。」

 

誰も口を挟まない。

 

「機体は帰ってきた。」

 

「衛士は帰ってこなかった。」

 

その一言だけだった。

 

林は黙って聞いている。

 

「戦術機は兵器です。」

 

「敵を倒すためにあります。」

 

「それは間違っていません。」

 

武田はそこで言葉を切った。

 

「ですが。」

 

「その兵器に乗るのは、人です。」

 

会議室に沈黙が落ちる。

 

「人が帰れない兵器を、私は完成とは呼びたくありません。」

 

誰も反論しなかった。

 

できなかった。

 

それは技術論ではなく、一人の技術者の信念だったからだ。

 

林はゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

「武田主任。」

 

「私は、少し違います。」

 

武田が初めて彼女を正面から見た。

 

その瞳は穏やかだった。

 

だが、その奥には揺るがない意志がある。

 

「私は、生還率だけでは足りないと思います。」

 

部屋がざわめく。

 

林は続けた。

 

「帰ってきた衛士が。」

 

「もう一度、仲間を助けるために戦える。」

 

「私は、そんな戦術機を作りたい。」

 

武田は思わず目を細めた。

 

面白い。

 

そう思った。

 

生還率。

 

継戦能力。

 

どちらも「生きる」ための考え方だった。

 

ただ、見ている場所が少し違う。

 

司会が咳払いをする。

 

「議論はそのくらいに。」

 

「午後から共同研究の打ち合わせを――」

 

「失礼します。」

 

武田が席を立った。

 

「林さん。」

 

「時間がありますか。」

 

林は少し驚いたように瞬きをする。

 

「あります。」

 

「設計室へ来てください。」

 

「見せたいものがあります。」

 

そう言って武田は部屋を出て行った。

 

林は一瞬だけ迷い、静かにその背中を追う。

 

長い廊下を歩く。

 

窓の外では、戦術機が離陸していく。

 

轟音が建物を震わせた。

 

「日本へ来るのは初めてですか。」

 

歩きながら武田が尋ねる。

 

「はい。」

 

「思っていたより静かな基地ですね。」

 

武田は苦笑した。

 

「今日は特別です。」

 

それ以上は語らなかった。

 

林も聞かなかった。

 

やがて設計室の扉が開く。

 

部屋の中央には、大きな製図台。

 

壁一面には設計図。

 

戦術機の骨格。

 

関節構造。

 

跳躍ユニット。

 

無数の図面が貼られている。

 

その中で、一枚だけ。

 

真っ白な図面が製図台の中央に置かれていた。

 

林は首を傾げる。

 

「まだ何も描かれていませんね。」

 

武田は鉛筆を一本手に取る。

 

「ええ。」

 

「これから描きます。」

 

「次の戦術機を。」

 

林は真っ白な紙を見つめる。

 

武田は紙ではなく、その先を見ていた。

 

まだ誰も知らない戦術機。

 

まだ名前すらない機体。

 

その始まりは、一枚の白紙だった。

 

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