TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
夕食を終えた寮の談話室。
窓の外は夕闇に包まれ、校庭の街灯が静かに灯り始めていた。
第三班の五人は、誰に言われるでもなく一つの机を囲んでいた。
最初に口を開いたのは九条だった。
「今日の演習。」
「反省をしたい。」
四人は黙って頷く。
朝倉が腕を組んだ。
「俺は最初に飛ばし過ぎた。」
「もっと周りを見ればよかった。」
「そうだな。」
真壁が短く返す。
「焦っていた。」
「うん……。」
結城も俯く。
「俺は足元ばかり見ていました。」
「周りを見る余裕がありませんでした。」
「それは俺もだ。」
迅が苦笑する。
「結城を助けることしか考えてなかった。」
少し沈黙が流れる。
九条は机の上に置いた演習図を見つめていた。
赤鉛筆で引かれた進路。
ぬかるみの位置。
回り道をした場所。
何度見返しても、答えは同じだった。
「私の判断ミスだ。」
静かな声だった。
「班長。」
朝倉が顔を上げる。
「いや。」
九条は首を振った。
「もっと早く回り道を指示できた。」
「そうすれば勝てた。」
迅はしばらく九条を見つめていた。
やがて静かに口を開く。
「九条。」
「何だ。」
「一つ聞いていいか。」
「構わない。」
「もし俺が転んでいたら。」
九条は少し考える。
「助ける。」
「勝負より先に?」
「ああ。」
「迷わず?」
「当然だ。」
迅は笑った。
「じゃあ、今日の判断は間違ってない。」
九条が眉をひそめる。
「だが負けた。」
「勝ったら正解で、負けたら間違いなのか?」
九条は答えられなかった。
迅は続ける。
「俺はそう思わない。」
「俺たちは全員で帰ってきた。」
「それが一番大事なんじゃないか。」
朝倉が勢いよく頷く。
「そうそう!」
「俺、一人だけゴールして勝っても嬉しくない。」
真壁も腕を組んだまま言う。
「班だからな。」
結城は少し照れくさそうに笑う。
「俺も……。」
「みんなが待ってくれたから最後まで走れました。」
九条は四人の顔を順番に見た。
誰も責めていない。
誰も班長失格だとは思っていない。
責任を分け合おうとしている。
「……私は。」
九条は小さく笑った。
「一人で班長をやろうとしていたのかもしれない。」
「今さら気付いた。」
迅も笑う。
「遅い。」
「悪かった。」
「謝ることじゃない。」
朝倉が机を軽く叩く。
「これからだろ。」
「次は勝てばいい。」
「そのために反省してるんだから。」
その言葉に真壁も頷いた。
「役割を決めよう。」
「演習ごとに。」
「武田は周囲。」
「九条は全体。」
「俺は先頭。」
「朝倉は運搬。」
「結城は時間管理。」
結城が驚いた顔をする。
「俺が?」
「時計を見るのが一番正確だった。」
真壁は淡々と言う。
「演習中も見ていただろ。」
結城は思い返す。
確かに、何度も腕時計を確認していた。
「じゃあ……。」
「やってみます。」
九条は机の中央へ演習図を置いた。
「決まりだ。」
「次の演習は、この役割で行く。」
四人が頷く。
その時、談話室の時計が九時を告げた。
消灯まで、あと一時間。
迅は立ち上がる。
「明日も早い。」
「寝坊するなよ、朝倉。」
「もう一回くらい寝坊してみたい。」
「その願いだけは叶わない。」
結城が笑う。
談話室に小さな笑い声が広がった。
窓の外では春の夜風が木々を揺らしている。
第三班はまだ強くない。
まだ第一班には届かない。
それでも今日、五人は初めて「班長が引っ張る班」ではなく、「五人で支える班」への第一歩を踏み出した。
その小さな変化に気付いているのは、今はまだ彼らだけだった。