TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
朝礼を終えた一年生たちは、いつもの演習場ではなく校舎の北側へ整列していた。
そこは普段、学生の立ち入りが許されていない区域だった。
重厚なコンクリートの建物。
高い塀。
鉄条網。
入口には小銃を携えた衛兵が立っている。
「こんな場所、あったんだな……。」
朝倉が小さくつぶやく。
迅も周囲を見回した。
訓練学校の中に、こんな場所があることすら知らなかった。
板垣が前へ出る。
「本日より、戦術機教育を開始する。」
その一言だけで、空気が変わる。
誰も口を開かない。
胸の奥が自然と高鳴る。
板垣は衛兵へ頷いた。
重い駆動音が響き、巨大な格納庫の扉がゆっくりと開いていく。
冷たい空気が流れ出した。
学生たちは思わず息を呑む。
格納庫の中央。
白い巨人が静かに立っていた。
陽の光を受けた白銀の装甲。
肩に刻まれた斯衛軍の紋章。
腰には長刀。
その姿は兵器というより、一人の武人のようだった。
迅は言葉を失う。
教本や映像では何度も見てきた。
それでも実物はまるで違った。
圧倒的だった。
隣では結城が小さく口を開けたまま立ち尽くしている。
朝倉も珍しく何も言わない。
真壁は機体全体を静かに観察していた。
九条はまっすぐ武御雷を見つめ、背筋をさらに伸ばす。
少し離れた見学区画では、整備科の学生たちも同じように機体を見上げていた。
神谷の視線は装甲ではなく、関節や脚部へ向けられている。
衛士とは違う目だった。
板垣が静かに命じる。
「敬礼。」
格納庫に一斉に腕が上がる。
誰一人として声を発しない。
板垣は武御雷の前まで歩み、その白い装甲へ目を向けた。
「諸子。」
静かな声が格納庫へ響く。
「これが、帝国斯衛軍の象徴。」
「戦術機『武御雷』である。」
学生たちは瞬きすら忘れていた。
「この機体は、お前たちの憧れではない。」
「力でもない。」
「栄誉でもない。」
「国を守るための刃だ。」
板垣はゆっくり振り返る。
その視線は、一人ひとりの学生を貫くようだった。
「斯衛軍は最後の盾である。」
「敵の侵攻を許した時、最後に立つのはお前たちだ。」
格納庫が静まり返る。
「ゆえに。」
「近接戦闘を避けることはできない。」
迅は自然と拳を握った。
板垣は続ける。
「戦場では、五秒が生死を分ける。」
その言葉に、学生たちの表情が引き締まる。
板垣は一語一句、噛み締めるように言った。
「死の五秒を生き延び、六秒目を迎えた者だけが、初めて『衛士』と呼ばれる。」
誰も動かなかった。
誰も息をしなかった。
その言葉だけが、静かに胸へ刻まれていく。
「諸子よ。」
「恐怖に目を背けるな。」
「長刀を構え、眼前の絶望を断ち切れ。」
再び沈黙が訪れる。
格納庫には、空調の低い音だけが流れていた。
迅は白い武御雷を見上げる。
(いつか。)
(俺も、あの武御雷に乗る。)
その思いは、口には出さない。
九条も。
朝倉も。
真壁も。
結城も。
そして神谷も。
胸に抱いた願いは、きっと同じだった。
春の光を浴びた白い武御雷は、ただ静かにそこに立っていた。
未来の衛士たちを見つめるように。