TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第一部 蒼き日々 第三章 白き武御雷 第24話 初搭乗

翌朝。

 

第三班は再びシミュレーター棟へ集合していた。

 

昨日見上げた白い武御雷の姿が、まだ頭から離れない。

 

朝倉は大きく伸びをした。

 

「今日は乗れるんだよな。」

 

「たぶん。」

 

迅も期待を隠せない。

 

その横で九条は静かに制服の襟を正していた。

 

シミュレーター棟へ入ると、昨日とは別の部屋へ案内される。

 

そこには十数基のコックピットが並んでいた。

 

外装はない。

 

だが、座席も操縦桿も計器類も、すべて実機と同じ配置だった。

 

「指定された席へ。」

 

板垣の号令で学生たちが動く。

 

迅は「七番」と書かれたコックピットへ向かった。

 

梯子を上り、ゆっくりと座席へ腰を下ろす。

 

包み込まれるような感覚。

 

目の前には無数の計器。

 

操縦桿へ手を伸ばそうとした、その時だった。

 

「武田。」

 

板垣の声が飛ぶ。

 

「はい!」

 

「命令は出していない。」

 

迅は慌てて手を引っ込めた。

 

教室のあちこちから小さな笑いが漏れる。

 

朝倉も苦笑している。

 

どうやら同じことを考えていたらしい。

 

全員が着座すると、室内は静まり返った。

 

板垣はゆっくりと学生たちを見回す。

 

「諸子。」

 

「戦術機は、人一人の判断で動かしてよい兵器ではない。」

 

「命令があって初めて動く。」

 

「それが斯衛軍だ。」

 

誰も返事をしない。

 

「この十分間。」

 

「命令があるまで、一切触れるな。」

 

十分。

 

それだけのことだった。

 

だが、その十分が長い。

 

迅は正面を見つめる。

 

朝倉は身体を少し動かしたそうにしている。

 

結城は緊張で背筋が固まっていた。

 

九条は微動だにしない。

 

五分が過ぎた頃。

 

小さな電子音が鳴った。

 

「しまっ……。」

 

朝倉が顔をしかめる。

 

肘が非常停止スイッチへ触れてしまったのだ。

 

板垣は静かに言う。

 

「朝倉。」

 

「降りろ。」

 

「……はい。」

 

朝倉は黙ってコックピットを降りた。

 

怒鳴られない。

 

だからこそ、その静けさが痛かった。

 

板垣は学生たちを見渡す。

 

「衛士に必要なのは、優れた操縦技術ではない。」

 

「命令を守る心だ。」

 

「焦る者は、生き残れない。」

 

その言葉は、昨日の訓示よりも現実味を帯びて聞こえた。

 

板垣は朝倉を見た。

 

「朝倉。」

 

「はい。」

 

「失敗を恐れるな。」

 

朝倉が顔を上げる。

 

「同じ失敗を繰り返すな。」

 

「……はい!」

 

その返事は、昨日までより力強かった。

 

板垣は一度だけ頷く。

 

「全員、操縦桿を握れ。」

 

迅はゆっくり右手を伸ばす。

 

冷たいグリップが掌へ収まる。

 

同時に、計器が静かに灯り始めた。

 

《システム起動》

 

《訓練プログラム起動》

 

目の前のモニターへ演習場の映像が映し出される。

 

鼓動が速くなる。

 

武御雷は、もう夢ではない。

 

まだシミュレーターだ。

 

それでも、自分は確かにその入口へ立っていた。

 

「本日の課目は以上。」

 

板垣が告げる。

 

「今日は、機体を動かさない。」

 

学生たちが驚いた表情を浮かべる。

 

「覚えておけ。」

 

板垣は最後に静かに言った。

 

「機体を動かす前に、自分を律せ。」

 

「衛士として最初に鍛えるべきは、腕ではない。」

 

「心だ。」

 

迅は操縦桿から手を離した。

 

その言葉の意味は、まだすべて理解できない。

 

だが、いつか必ず分かる日が来る。

 

そんな気がした。

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